ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
47 / 84

047 森を抜けて

しおりを挟む
 クイックリザードを討伐してから既に二日が経過している。もうじき森を抜けられそうだ。そしたらナランハ村はすぐなのだが……。
 パシーンッ! パシンッ! バシッ! 森に木霊する謎の音、木を叩いているかのようなその音は断続的に鳴り響いている。
 ナランハ村から木こりが来ているのだろうか。俺たちは顔を見合わせ、慎重に音源へと近づいていく。そして……俺たちの目の前に現れたのは、 一頭の鹿だった。いや、正確には鹿に似た魔物だ。だがその魔物の角は一本しかない。どうやらもう一本は折れてしまったようだ。
 鹿の魔物はこちらに気づく様子もなく、無心に木を叩き続けている。俺たちは、思わず立ち止まってしまった。

「なんだ……あれ?」
「ビッグホーンディアね。ルーセイド地方ではそう多くは無いのだけれど、珍しいわね」

 ビッグホーンで今度はディアか。あれ? 大きい角の鹿だろ……。

「セフィリアのブーツって」
「そうよ、あれの革からできているわ。柔らかくていいのよ」

 それにしてもあの魔物は何をしているんだろう。残った一本の角を木に向けてぶつける動作を繰り返している。木に八つ当たりでもしているのだろうか

「あれは一体どういう行動なんだ?」
「おそらく、縄張り争いに敗れて逃げてきたんだと思う。争っている時に角が片方折れてしまって、そのままじゃバランスが悪いからもう一本も折ろうとしているのかも。角は年に一回生え変わるの」

 セフィリアが説明を終えたその時、バキィっと大きな音がして、とうとう木の幹に穴が開いた。ビッグホーンディアはその穴に角を差し込むと、てこの原理が分かっているかのように角をポキっと折った。おお……なんか凄い光景だな。俺とマリーは息を呑む。
 ビッグホーンディアは満足そうに折れた角を眺めている。

「どうする? 狩る?」

 そう尋ねながらセフィリアは既に矢筒から矢を一本取り出している。

「手負いの獣って危なくないか?」
「ビッグホーンディアの等級っていくつですか?」
「そうねぇ。六級魔物に分類されているわ。角以外に注意しなければならないのは、蹴りね。側面から攻撃するのが定石」

 俺とマリーの質問にセフィリアが答える。六級魔物なら……まぁ、戦えるか。俺は盾を構えて前に出る。
 セフィリアが弓を引き絞ると、ビッグホーンディアがようやくこちらに気付いたようで威嚇の声を上げる。
  まだ距離があるというのに、ビリビリとした殺気のようなものを感じる。やっぱりまだ殺気立ってるじゃないか。俺は気合いを入れ直す。
 セフィリアが放った矢がビッグホーンディアの右目を貫く。ビッグホーンディアは怒り狂い、こちらに全力で突進してきた。巨体に似合わないスピードで迫るビッグホーンディアは、あっと言う間に俺との距離を詰めて、その長い脚を振り上げた。蹄による一撃を盾で抑えながら右手に構えた剣で斬りつける。

「マリー追撃!」
「はい!!」

 がら空きの側面をマリーが二度、三度と切り裂く。しかしそう容易くは倒れず、体当たりで俺たちを吹っ飛ばすビッグホーンディア。すかさずマリーが追いすがるが、ビッグホーンディアは素早く反転してマリーに後ろ足で強烈なキックを見舞った。マリーはなんとか直撃を避けたが、衝撃で吹っ飛び木に叩きつけられる。
 ビッグホーンディアは俺たちに背を向けたまま駆け出す。逃げ出すつもりだが、そうはいかない。セフィリアの二射目が後ろ足に刺さる。よろめいて動きがにぶったところに――

「水よ、集いて弾丸となれ――ウォーターバレット!!」

 俺の放った水弾が三つとも命中し、ビッグホーンディアは地に伏した。そんなことよりだ。

「大丈夫か、マリー」
「はい、なんとか。ちょっと……脇腹が痛むくらいです」
「肋骨とか折れてなければいいが……」

 マリーの防具はあくまで胸当て。腹部はほとんど守られてない。俺のマントよりマリーの防具をもっと充実させるべきだったんじゃないか。それに……

「マリーの剣、けっこう刃こぼれしてきたな」
「す、すみません」
「謝ることじゃない。……ナランハ村に着いたら手入れしてもらおう。良い物が見つかれば新調も考える」

 ひとまず倒したビッグホーンディアと折った角を収納に入れる。この角がひょっとしたらいい武器になったりして、なんてな。

「さて、森を抜けたら村はすぐなんだよな。今日くらい宿で泊まるか。食事が偏ってしょうがない。野菜が食べたいぞ」

 マイホームで出てくる食事は簡素で、サラダなんて出てこない。こっちの世界で生野菜を食べる習慣があるかは分からないけど、あると嬉しい。

「確かに、最近はお肉ばっかりでしたもんね。夕方までに着くといいのですが」
「流石に日の高いうちにつくわよ。寄り道さえしなければね」

 少しずつ木の生えている密度が下がっていく。森はもうじき終わりってことだな。けっこういろんな魔物を倒したし、買い取り……そこそこの額になるといいのだが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳
ファンタジー
異世界に転生した主人公。 テンプレのような転生に驚く。 そこで出会った神様にある加護をもらい、自由気ままに生きていくお話。 ※ストーリー等見切り発車な点御容赦ください。 ※感想・誤字訂正などお気軽にコメントください!

処理中です...