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高校二年生になってなおクラス替えで緊張するとは思わなかった。私、星野ゆきは前面に張られた席順に従ってクラス後方の席に着いた。なんだかこのクラス、キャラの濃い人が多そうな気がする。すごく背の高い人とか目つきの鋭いひととか、ピアスしている人とか。髪色明るい人もけっこういるし。私……大丈夫かな。
「おはようございます。私が二年一組を担当することになりました相馬ななえです。よろしくお願いしますね。では今日の流れですが、まずクラス委員を決め……あら、仲谷さんがいるのね。今年も頼めるかしら?」
「はい。分かりました」
相馬先生は三十代半ばの先生で去年は一年四組を担当していた。仲谷さんは去年もクラス委員長だった。去年の三組は私が委員をしていたから知っている。黒髪の綺麗な上品な人で、黒板にチョークで書いた字も綺麗だ。仲谷志保さん。彼女に熱い視線を送るクラスメイトが一人、仁井谷美夜さんだったかな。恋人らしい。そう、星花女子学園には女の子同士の恋愛が当たり前に存在している。私も……恋愛にはちょっと興味があるけど。地味だし勇気もないし、多分……縁がないんだろうなあ。
「本日の予定を整理します。この後整列して講堂にて始業式を行います。昼食を挟み、身体測定となりますので各自体操服に着替えておくように。以上です、では仲谷さん。列を作って講堂へ向かってください」
「はい。では一組、出席番号順に並んでください」
始業式が終わり教室に戻ると昼休みだ。先にお昼を食べる人もいれば先に着替える人もいる。女子校だからみんな平気で着替える。みんなスタイル良くてきらきらして見える。私も一応そそくさと着替えてからお弁当を持って外へ向かった。星花女子学園のある空の宮市は温暖で、もう桜はほとんど散ってしまっているけれど、葉桜も新緑が鮮やかで私は好きだ。星花女子の敷地は広く、ベンチも多いためちょっとした公園みたいに感じる時がある。ネコの鳴き声があちこちから聞こえる中、私はあまり人のこない旧校舎寄りのベンチに向かった。ごく稀にカップルが“寝ている”ので要警戒だが……。あぁ、今日も人が寝て……あれ、一人だ。その人は上に体操服、下は制服のスカート姿で、脱いだブレザーとブラウスを枕に寝ていた。
「あれ、この人……」
すごく豊かな膨らみの上で主張するゼッケン、そこには花井美月と書かれていた。クラスメイトだ。前の前の席の人。この人もすごく背が高い。別の所に行こうかとも思ったけど、ただ寝ているだけならいいかなと思い、近くのベンチに座る。すると、
「んぁ、星野、か?」
あまり物音を立てたつもりはなかったけれど、起こしてしまったらしい。謝ると、彼女はただ目を閉じていただけだから気にするなと言って身を起こした。ダークブラウンの髪が所々跳ねていてなんだか野性味ある感じが彼女によく似合っていた。
「お昼はもう食べたんですか?」
「いや、家に置いて来ちまった。教室にいると飯の匂いに耐えられそうになくてよ、静かなところに来たわけさ」
それなら、と思い私は持ってきたパンを並べる。今朝ニアマートで買ったものだ。春のキャンペーンでお皿と交換出来るシールを集めたくて普段より多く買ってしまったのだ。そんな説明をしながら、カレーパン、あんパン、メロンパン、焼きそばパンを並べる。
「んじゃ焼きそばパン貰いっと。だがよぉ星野、普段からこんな食事だと身体悪くすっぞ」
真っ当な注意をされてしまった。思ったより優しい人なのかも、花井さん。取り敢えず春だけだと言い訳をしておく。あんパンをおやつに取っておこう。
「お弁当は忘れたのに体操服は忘れなかったんですね」
雑談がてら、彼女の不思議な格好について訊ねた。すると彼女はぺらりとスカートをまくって見せた。一瞬驚いたけど、普通にショートパンツを穿いていた。体操服を着込んでいたから忘れなかったと言いたいのだろう。焼きそばパンをもぐもぐしながら花井さんは笑ってみせた。
「忘れ物が多くて自分でもやっきりするよ。てか今日、健康診断だからってどいつもこいつも飯軽くしたり抜いたりするから分けてくれとか言えないし、財布も忘れたから学食も行けないしさ。ほんと、助かったよ」
そう言うと花井さんは立ち上がりブレザーを颯爽と肩にかけると。
「サンキューな、ゆき」
私の名前を呼んで去って行った。なんだか映画みたいに格好良くて、ちょっと気恥ずかしくなった私は健康診断の間ついつい彼女を目で追ってしまったのだった。
「おはようございます。私が二年一組を担当することになりました相馬ななえです。よろしくお願いしますね。では今日の流れですが、まずクラス委員を決め……あら、仲谷さんがいるのね。今年も頼めるかしら?」
「はい。分かりました」
相馬先生は三十代半ばの先生で去年は一年四組を担当していた。仲谷さんは去年もクラス委員長だった。去年の三組は私が委員をしていたから知っている。黒髪の綺麗な上品な人で、黒板にチョークで書いた字も綺麗だ。仲谷志保さん。彼女に熱い視線を送るクラスメイトが一人、仁井谷美夜さんだったかな。恋人らしい。そう、星花女子学園には女の子同士の恋愛が当たり前に存在している。私も……恋愛にはちょっと興味があるけど。地味だし勇気もないし、多分……縁がないんだろうなあ。
「本日の予定を整理します。この後整列して講堂にて始業式を行います。昼食を挟み、身体測定となりますので各自体操服に着替えておくように。以上です、では仲谷さん。列を作って講堂へ向かってください」
「はい。では一組、出席番号順に並んでください」
始業式が終わり教室に戻ると昼休みだ。先にお昼を食べる人もいれば先に着替える人もいる。女子校だからみんな平気で着替える。みんなスタイル良くてきらきらして見える。私も一応そそくさと着替えてからお弁当を持って外へ向かった。星花女子学園のある空の宮市は温暖で、もう桜はほとんど散ってしまっているけれど、葉桜も新緑が鮮やかで私は好きだ。星花女子の敷地は広く、ベンチも多いためちょっとした公園みたいに感じる時がある。ネコの鳴き声があちこちから聞こえる中、私はあまり人のこない旧校舎寄りのベンチに向かった。ごく稀にカップルが“寝ている”ので要警戒だが……。あぁ、今日も人が寝て……あれ、一人だ。その人は上に体操服、下は制服のスカート姿で、脱いだブレザーとブラウスを枕に寝ていた。
「あれ、この人……」
すごく豊かな膨らみの上で主張するゼッケン、そこには花井美月と書かれていた。クラスメイトだ。前の前の席の人。この人もすごく背が高い。別の所に行こうかとも思ったけど、ただ寝ているだけならいいかなと思い、近くのベンチに座る。すると、
「んぁ、星野、か?」
あまり物音を立てたつもりはなかったけれど、起こしてしまったらしい。謝ると、彼女はただ目を閉じていただけだから気にするなと言って身を起こした。ダークブラウンの髪が所々跳ねていてなんだか野性味ある感じが彼女によく似合っていた。
「お昼はもう食べたんですか?」
「いや、家に置いて来ちまった。教室にいると飯の匂いに耐えられそうになくてよ、静かなところに来たわけさ」
それなら、と思い私は持ってきたパンを並べる。今朝ニアマートで買ったものだ。春のキャンペーンでお皿と交換出来るシールを集めたくて普段より多く買ってしまったのだ。そんな説明をしながら、カレーパン、あんパン、メロンパン、焼きそばパンを並べる。
「んじゃ焼きそばパン貰いっと。だがよぉ星野、普段からこんな食事だと身体悪くすっぞ」
真っ当な注意をされてしまった。思ったより優しい人なのかも、花井さん。取り敢えず春だけだと言い訳をしておく。あんパンをおやつに取っておこう。
「お弁当は忘れたのに体操服は忘れなかったんですね」
雑談がてら、彼女の不思議な格好について訊ねた。すると彼女はぺらりとスカートをまくって見せた。一瞬驚いたけど、普通にショートパンツを穿いていた。体操服を着込んでいたから忘れなかったと言いたいのだろう。焼きそばパンをもぐもぐしながら花井さんは笑ってみせた。
「忘れ物が多くて自分でもやっきりするよ。てか今日、健康診断だからってどいつもこいつも飯軽くしたり抜いたりするから分けてくれとか言えないし、財布も忘れたから学食も行けないしさ。ほんと、助かったよ」
そう言うと花井さんは立ち上がりブレザーを颯爽と肩にかけると。
「サンキューな、ゆき」
私の名前を呼んで去って行った。なんだか映画みたいに格好良くて、ちょっと気恥ずかしくなった私は健康診断の間ついつい彼女を目で追ってしまったのだった。
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