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二学期といえば文化祭だよね

#46 文化祭に向けて(1)

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 新学期も始まり三週間が過ぎ、課題テストも全て返却され順位の書かれた成績表も渡された。ボクの成績はまた少し上がり総合7位。苦手な数学も30番台に抑えた。得意な英語では明音さんに勝つ大健闘。それに、麻琴も勉強の結果が出たのか、普段よりいい順位をマークしていた。実村先輩は高須部長とクラスが同じなため、ここ最近お茶会に参加しているらしい。ボクも何回か一緒にお茶をしているが、お互いに気まずさは一切感じない。そして目下の悩みは……。

「悠希、次の授業は体育だよ!」

 そう、夏休み明けの女子体育は柔道なのだ。ちなみに夏休み前は集団行動と球技だった。あ、あと体力テストもあったや。嫌な思い出しかないから忘れていたや。それで、柔道が嫌いとか、先生が嫌という訳ではない。ただ……。

「柔道って、女の子同士だと……凄くいかがわしいよね! 特に寝技!!」

 隣に居る変態淑女が非常にうるさい。ここで星鍵高校一年四組の時間割を確認しよう。

 
月 現代文 家庭基礎 英語文法 数学ⅠA 化学基礎 情報

火 数学ⅠA 古典 選択芸術 現代社会 情報 英語長文 保健

水 英語文法 体育 家庭基礎 化学基礎 現代文 数学ⅠA

木 体育 選択芸術 古典 現代社会 英語長文 数学ⅠA

金 家庭基礎 選択芸術 英語対話 現代文 数学ⅠA LHR


 こんな感じだ。毎日ある数学……担当が石川先生じゃなかったら辛かったな。あとは、女子校らしく、家庭基礎や選択芸術が多い。芸術は美術、音楽、書道から選択でき、ボクと麻琴ともなかちゃんは美術、初美さんと千歳ちゃんが書道、明音さんが音楽だ。

 さて、場所は変わって柔道場。赤と黄緑の畳が敷かれた体育館の一部だ。体育館一階の四分の一の面積を占める。他は剣道場と卓球場と器械体操のエリアになっている。

「悠希が白い帯を締めているって、変な感じするよね」
「まぁ、ボクは慣れたけどね」

 ボクは護身用に少林寺拳法を習っていたのだが、小学校三年で始めて中学二年の三月に二段になった。六年生の時に初段を取って黒帯になった上に、白帯でいる期間が短かったので、麻琴はボクが白帯をしていることに違和感を覚えるらしい。ちなみに、麻琴は少林寺拳法を習ってこそいなかったが、大会や昇級昇段審査は見に来てくれていたため、黒帯姿は比較的見慣れている。

「やっぱり黒帯の方がカッコいいよね」

 まぁ、そうこうしているうちに、体育担当の先生もきて、授業が始まる。

「はいじゃあ、二人組になって。今日から立ち技やるよ!」

 今日から立ち技ということで、麻琴のテンションが少し下がったように見えた。そんなに寝技がいいのか! というわけで、ボクと組むのは背の順の関係でもなかちゃんだ。ちなみに麻琴の相手は初美さんで、明音さんの相手は日下部さんという、やっぱり小柄な女の子だ。さて、先生の説明を聞きながら技の形を覚える。中学生の頃の感覚は残っていないので、一から覚え直しだ。

「終わったぁ。もう九月だけど、ああやって組み合うと汗かいちゃうね」

 授業が終わって更衣室。初美さんは武道だと巧く身体能力を活かせないらしく、技を綺麗にできなかったそうだ。

「組み合って汗をかくって、響きがやらしいよね」
「その発想はいい加減にいなさい!」

 初美さんの発言にピンク色の返しをした麻琴の背中をはたく。拗ねたように口を尖らせる麻琴と、それを笑う明音さん。いつもの光景だ。 

「ここの夏服、薄いのに透けないからすごいよねぇ」
「確かに。生地も厚くはないのに。ありがたいことね」

 明音さんと千歳ちゃんが制服を褒める。みんなボクの母がデザインしたことは知らないので、ボクも適当に頷いておく。別に秘密ってわけじゃないけど、なんとなく。 

「麻琴、教室に戻ろう。移動教室だから急がないと」

 家庭基礎の時間は三階にある東講義室へ行って授業を受けるので、教科書を取りに行く必要がある。……のだが、
 

「あぁ。あたしのと、悠希の教科書、持って来てあるよ」
「え? ロッカーに仕舞ってあるのに?」

 星鍵の廊下には、教科書や部活用具を入れられる据え付けロッカーがあるのだが、それはダイヤルロックができるようになっている。きちんと施錠したのに……。

「誕生日に合わせたら開いた」
「あ、そう。まぁいいわ。じゃ、行こうか」

 なんとも言えない感じを漂わせながら、ボクと麻琴は皆に先行して家庭科室へ向かった。そういえば文化祭まであと一ヶ月くらい。家庭科部は何をするんだろう? 顧問である家庭科の先生、三枝先生に聞いてみようっと。家庭科の三枝先生は、三十代の女性の先生なのだが、見た目はまだまだ若い。石川先生や高須部長と同じパターンの人だ。この学校の人達はどういう歳の取り方をしているんだか。

「先生、今年の文化祭って、何をするんですか?」

 前の時間の板書を消している先生に尋ねる。相変わらず服装から若々しいこと。しかもこの先生、既婚者だ。深く訊いたことはないが、先生の旦那さんは在宅でお仕事をしているそうなので、幼い子供がいても、教師の仕事ができるとか。とはいっても、家事をする必要はあるので、基本的には定時で帰る。まぁそういう訳で、あまり部活に顔を出すことはない先生だ。放任主義とも言う。

「それなら、高須さんに一任したわ。まぁ、喫茶店が恒例だけどね。和風か洋風か、それが問題ね。双美さんがいるから、和風かも知れないわね。でも、去年も和風なのよ」 

 それを聞いて麻琴が、メイド喫茶やらないかなぁと呟いたのをボクは聞き逃さなかった。それだけは……恥ずかしいかな。高須部長次第かぁ。今日の部活の時間に発表されるのかな。

 そして、午後の数国の連打に耐えて部活へ。

「はーい、聞いて! 今年の文化祭はメイド喫茶やりまーす!」

 ……あ、あれはフラグだったのか。そんなぁ。

「そして、メニューもざっくり決まったよ」
「先輩、メイド服って……どうするんですか?」

 二年生の九重先輩が部長に尋ねる。先輩は会計も担当しているから、やっぱり気になるところだろう。たしかに、部員は三年生が二人、二年生が五人、一年生が四人で、全員で十一人だ。接客班と調理班を分けるにしても、五着くらいは必要だろうし、それを買ったり作ったりなんてしたら、食材の予算をそうとう削らなきゃいけなくなる。それじゃ喫茶店をやる意味がなくて本末転倒だ。

「それなら、開店から二ヶ月で潰れたメイド喫茶から無料で未使用品十着を頂いたから平気! 一着というか、自分の分なら私でも作れるから大丈夫!!」

 あぁ、確か近くにメイド喫茶が出来たんだった。すぐに潰れたけど。やっぱりニーズと働き手がなかったのかなぁ。そこから十着、で部長はお手製で。これで十一着。ばっちり足りるのね……。

「じゃぁ、来週は衣装合わせするから、必ず来てね。じゃあ、今日の料理に取りかかろうね。今日はメイド喫茶のメニューにも使う予定のパンケーキを焼くよ!!」

 メイド喫茶かぁ……。恥ずかしいけど、文化祭が楽しみなのも事実。取り敢えず今はパンケーキ作りに集中しよう!
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