百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ

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季節の短編

エイプリルフール記念 百合ランジェリーの対義語って?

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 4月1日。今日はエイプリルフール。進級の節目でもあるけど厳密にはまだ春休み。そんな感じ。桜もほどほどに咲いていて、たまに寒い日もあるけれど暖かな陽気で過ごしやすい日々が続いている。……花粉さえなければ。

「ねぇラン、今日のシルキスト、どう思う?」

 キャストルームの鏡の前で、私は思わず息をのんだ。

「……これ、ほんとにやるんですか? シルキストっぽさはほぼないけど」
「もちろん!」

 満面の笑みでそう答えたのは、マカさんだった。

 ——今日のシルキストは、『男装カフェ』へと変貌を遂げていた。

 いつもは繊細なレースや可愛らしいリボンのついたランジェリー姿の私たち。だが今日は、シンプルなシャツにウエストを絞ったベスト、スラックスにゆるく結ばれたネクタイ——そんな“執事”や“王子様”を思わせるコーディネートになっている。ランジェリーの反対は男装を着こむことと見出したり、って感じか。

「これ、ちょっと恥ずかしい……」

 サラさんがそっと胸元を押さえる。ネクタイとベストでGカップのボリュームを隠してはいるものの、元が目立ちすぎるので、逆に強調されているような……。

「サラさん、それがいいんですよ!」

 マカさんは補正下着で胸のボリューム感を抑え込んで、女性らしさは残しつつも普段よりスレンダーでカッコいい雰囲気を醸し出している。ポニーテールがいい感じに少年っぽさを感じさせるのかもしれない。
 マカさんほどのサイズでもスレンダーに見せるシルキストの補正下着だが、サラさんには効果をあまり発揮できていないようだ。

「ランちゃんもカッコいいね」
「モエちゃんはやっぱり可愛いね」
「ふっふっふ、今日のモエはショタなんだよ」

 ……モエちゃんもわりと補正下着だけじゃ抑え込めてない気がするんだよなぁ。

「さぁ、開店するよ! 今日は『シルキスト・ボーイズデー』だからね!」

 メグさんの号令で、いよいよエイプリルフール営業が始まった。

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 店内に入ってきたお客様は、一瞬フリーズする。

「……え?」
「え??」
「なんか……いつもと雰囲気違いません?」
「えっ、今日ってそういうコンセプトなの!? やばい、好き……」

 最初こそ戸惑っていたお客様たちだったが、すぐに状況を理解し、むしろ楽しんでくれている様子。

「お嬢様、お飲み物は?」
「……ちょっと待って、ランちゃんがイケメン過ぎて無理……」
「ちょ、ユラちゃん、そのネクタイの感じ、ズルい……!」

 普段とは違う雰囲気の私たちに、お客様たちの反応は上々。
 中でも、サラさんは一部のお客様から熱視線を浴びていた。

「サラちゃん、ネクタイ直してあげるね?」
「え、えっと……ありがとう……」

 メグさんがサラさんのネクタイを整えると、黄色い歓喜とため息が聞こえた。

「今の、めっちゃ良かった!!」
「尊すぎる!!」
「エイプリルフールなのに、こっちが嘘みたいに幸せ……」

 いつも以上に盛り上がる店内。私はカウンターで、シェイカーを振りながら苦笑した。シンディ先輩がいたらもっと盛り上がってるんだろうなぁ。

(いや、これ、普通にアリなんじゃ……?)

 ランジェリーカフェなんて風俗すれすれな業態じゃなくても、ここのキャストのレベルだったらコンカフェとして成り立つよなぁと、そんなことを考えていると、後ろからそっと腕が回される。

「ねぇランちゃん……」
「ん?」

 振り向くと、サラが上目遣いでこちらを見つめていた。

「……今日だけ、君のことを『ダーリン』って呼んでもいい?」
「……」
「……」
「サラさん、それはさすがにやりすぎ」
「だ、だよねぇ~~!」

 サラさんの顔が真っ赤になりながら離れていく。

「あー!! でも、それ聞きたかったーー!!
「録音したかった……」
「ランちゃんのダーリン呼び、聞きたかった……!」

 お客様たちが一斉に悶える。

 ——こうして、シルキストのエイプリルフール営業は、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
 ちなみに、エイプリルフールで噓をついてもいいのは午前中だけなので、正午にいたお客様たちはキャストたちによるストリップショー(当然下着は残す)を見られて、その日は大変にチップが弾んだのでした。……下着を見られるより下着になる過程を見られる方が恥ずかしい気がするのは、なぜなんだろうね。
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