百合ランジェリーカフェにようこそ！

季節の短編

バレンタイン記念 チョコより甘いキャストたち

　バレンタイン当日の営業開始時間。
　店内には既に、ふわっと甘いチョコレートの香りが漂っている。クリスマスとはまた違う、特別な一日が始まる気配。

　店内はピンクや赤のリボンで飾られ、私たちキャストも今日は二の腕とか太ももに同系色のリボンを結わえている。さらに、カウンターにはシルキスト特製のショコラがずらりと並んでいる。今日はバレンタイン限定メニューとして、チョコレートラテやストロベリーショコラのケーキも用意されているらしい。

「おはよう、ランちゃん」

　振り向くと、サラさんが歩いてきた。ワインレッドのランジェリーに、透け感のあるシフォンのガウンをふわりとまとっている。高身長でスタイル抜群な彼女が着ると、普段以上に大人っぽくてドキッとする。

「サラさん、なんだか……今日の衣装、いつもより大胆ですね？」
「ふふ、バレンタインだからね。お客様にも“特別感”を楽しんでもらわないと」

　そう言いながら、私の頬にそっと指先を這わせるように触れる。

「ら、からかわないでください！」
「可愛い反応、ありがとう」

　いつも以上にいたずらっぽい笑顔に、なんだか悔しくなってしまう。

　開店すると、店内はすぐに賑わい始めた。
　バレンタイン限定のサービスとして、今日はキャスト全員が「チョコの手渡し」をすることになっている。サラさんくらいバストの大きなキャストともなると、胸の谷間に入れたチョコをお客さまに取ってもらうのだけど。……シルキストはあくまで健全なお店です。

「はい、私からのバレンタインチョコ。甘い気分になってくださいね♡」

　アミさんが上品な微笑みを浮かべながらチョコを手渡すと、お客様は「嬉しいです！」と喜びながら受け取っていた。

「特別なバレンタインをお楽しみください」

　ユラちゃんも優しく囁くように言いながら、小さな包みをそっと渡している。彼女の普段とはちょっと違う、控えめな仕草がギャップがあって魅力的に映る。

「ほらほら、もっとバレンタインらしく、ちゃんと“甘く”やらなきゃ」

　マカさんがそんなことを言いながら、ユラちゃんの頬にふわっとキスをした。

「ちょっ、マカさん！？」
「バレンタインだし、キスくらい普通でしょ？」
「普通じゃないです！」

　ユラちゃんが顔を真っ赤にして抗議するものの、マカさんはケロッとした顔。隣でアミさんが「そういうところですよ」とため息をついていたけれど、口元は微かに緩んでいる。

　一方、カウンターではモエちゃんとメグさんが作業中。

「ランちゃ～ん！ チョコあげる～！」

　モエちゃんがキッチンから飛び出してきて、私の手に小さな包みを押し付ける。

「え、私に？」
「うん！ もちろんメグからの分もあるよ！」

　満面の笑顔で言うモエちゃんに、後ろからメグさんが「モエ、仕事中に騒がない」と肩をポンと叩く。

「でもほら、バレンタインだし！」
「はいはい。あとで一緒に食べよう」

　なんだかんだでモエちゃんに甘いメグさんであった。そのやりとりを見て、私やお客様たちは思わずクスッと笑った。

　営業が終わり、スタッフだけのバレンタインお疲れ様会が始まる。
　今日は特別に、お店の奥でこっそり残しておいたチョコを食べながら、みんなで談笑していた。

「今年もバレンタイン、大成功だったね！」
「うん、でも……なんかチョコより甘い空気が漂ってた気がする……」

　私がそう漏らすと、みんながクスクスと笑った。

「それがシルキストのバレンタインってことでしょ？」

　そう言ってウインクするサラさん。その余裕たっぷりな微笑みに、私はまたドキドキしてしまうのだった。