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001 バイトを探そう!

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「うーん……時給が安いなぁ」

 大学一年の夏、私――下条藍は大学に置いてあるバイト雑誌とにらめっこをしていた。ちょうど四限の授業中ということもあって、学食にいる人はまばらだ。エアコンも効いていて冷えたお茶も飲み放題ということもあって、バイト雑誌を見るにはちょうどいい場所だった。

「ファミレス、ファストフード店……アパレル系は多少マシか」

 立成13年、この県の最低自給は749円。どこもキリよく750円の求人が多い。引っ越しとか工事現場は流石にもっと高いが、そもそもそんな仕事ができるほどガテン系でもない。

「おーい、らーん!!」

 バイト雑誌を置いてリュックからケータイを取り出そうとしたら、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。現れたのは軽音楽サークルの先輩。

「シンディ先輩、ちっす」
「おう、なんだバイト探してるのか?」

 新藤仁美先輩はシンディ先輩の愛称で親しまれているギターボーカリスト。黒い革っぽい素材のビスチェで谷間を強調し、デニムのジャケットと同じくデニムのミニスカでキメたカッコいい先輩だ。

「大学生活にも多少慣れてきたんで、そろそろバイトでもしようかと。下宿先でなんもしない時間、わりともったいないですし」

 中学高校と寮生活で、この春から一人暮らしでいろいろと不慣れな部分もあったけれど、最近ではすっかり慣れてきて家事も効率化できて時間的余裕もある。その分金銭的な余裕は少し減っているから、ここらでバイトを始めようと思うのだけれど、なかなかいいバイトが見つからない。

「んじゃあ、あたしがやってるバイトの後任になるか?」

 後任……なるほど、シンディ先輩も四年生、バイトを辞めるにも新人を連れてこないとなかなか辞められない職場なのだろう。

「え? シンディ先輩のバイト……ですか? そういえば詳しく知らないっすけど、なんかライブハウスとかですか?」
「あのなぁ、バンドやってるやつが全員ライブハウスでバイトしてたら人手過多だろ? カフェだよ。カフェ。ちょっと変わったやつだけどな」

 変わったカフェ……メイドカフェだろうか。ここ十年くらい、東京でめっちゃ流行り、東京から新幹線で二時間半とかかかるここでも、出店したり潰れたりって感じなのだが。バイト先が閉店してバイトがなくなるってのは困る。できれば夏休が終わっても続けたい。

「バイト先は繁盛してるんですか?」
「それなりにな。……うん、藍なら面接も大丈夫だろう」

 どうしてだろう……ちらっと胸を見られた気がするんだけど。シンディ先輩もデカいし、まさか……?

「え、やらしいバイトっすか?」
「いや? 別にそうでもないさ。なぁに、時給は900円だ」
「やります」

 時給につられ、ほいほいとついていってしまったことを後悔するのはもう少し先の話。
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