火花散る剣戟の少女達

楠富 つかさ

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#10 結歌VSひかり

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医務室に戻り、手持ちぶさたを解消するためにリハビリがてら柔軟運動をしたり、軽く素振りをしたりしていると結歌ちゃんがやってきた。

「もう訓練場は予約してありますので、さっそく行きましょう」

 研究棟にある訓練場まで三人で向かう。討伐者は基本的に対人戦をしない。軍人であるため、時には警備任務や暴徒鎮圧に従事することもあるが、それは割合でいえば一厘程度でごく稀にあるといった程度だ。そもそも、そういった任務には警察も担っており討伐者ほどの武力が投じられることはない。
 ところが、だからといって討伐者が対人戦で警察に劣るかと言われれば否だ。それはいつ現われるか分からない魔獣の討伐だけは不足する実戦経験や勝負勘の養成を、討伐者同士の模擬戦で行うからだ。剣道場より幾分広いフィールドを用い、一本勝負で行われる。

「双方、抜刀!」

 結歌ちゃんが正眼に、幸村少佐は八相に刀を構えた。即座に訓練場の空気が張り詰め、二人の呼吸が辛うじて聞こえる程度に静まりかえる。
 ……先にしかけるのはどちらか。結歌ちゃんは速攻を好むけれど、それは魔獣討伐の時。対人訓練では相手の動きを明確に見切るのが持ち味だ。そもそも幸村少佐がメイガスか否かも分からない。なんらかの能力を持っているなら、それを仕掛けてきてもおかしくない。

「せぃ!!」

 先に仕掛けたのは結歌ちゃん。切っ先をかすかに左に振ってからの横薙ぎ。鋭い一撃を幸村少佐は鎬で受け止める。魔鋼製の日本刀は玉鋼で出来た日本刀より刃こぼれしにくい性質がある。それは魔力を帯びているからという以上に、斬る相手が魔力によって形成されていると考えられている魔獣だからだ。
 とはいえ、魔鋼製日本刀で鍔迫り合いをしようものなら武器管理を担当してくれている後方の支援員さんにどやされること間違いなしだ。それゆえ、対人模擬戦の基礎は回避といっても過言ではない。だとしたら、敢えて丁寧に鎬で受けた幸村少佐には何かそうせざるを得ない理由でもなるのだろうか。

「ふふ、えぃ!!」

 好戦的な笑みを浮かべた少佐を警戒し、離れようとする結歌ちゃんの無防備な腹部に蹴りを突き込む少佐。

「うぅっぐ、その靴……魔鋼板が入っている戦闘靴ですか」
「そうよ。見た目は普通のローファーだけど、魔導産業の産物たる魔導人工皮革に魔鋼板、少し値は張るけれどいい代物よ」

 討伐者が用いる武器は魔力の通った素材から制作されるが、魔鋼の精製が安定化したこともあり刀剣類が多い。魔鋼製の鎧というものも、一時期作製されヨーロッパではそれこそ数百年ぶりに騎士が戦場に登場したものの、機動性の悪さにより廃れていった。魔導繊維産業の発展もあり、今日のような制服や軍服で戦う討伐者が主流となっていった。
 それと並行して武器の間合いより内側へ入ってしまった、小型の魔獣への対応というもものや、急所へのピンポイントの防御力向上が検討され開発されたのが魔鋼板を挟んだ靴や籠手、すね当てだ。剣道の防具と同程度の重量で、ある程度の防御力と打撃力を実現した。まだ量産がされていない分、確かに少佐が言ったように高値なのだが。

「さて、どう動くかしら?」
「ふぅ……」

 一呼吸おいて、結歌ちゃんの足が地面から離れる。重力操作によるレビテーション、この力があるから、小柄な結歌ちゃんでも中型、大型の魔獣とも難なく戦闘ができる。それを女性としては長身とはいえ、170センチ弱の少佐相手にどう仕掛けるのだろう。

「せい、はあ!! てい!!」

 横払い、刺突、振り下ろしと三連撃を繰り出す結歌ちゃん。しかも振り下ろしは重力操作で浮上してからの、かなり高高度からの一撃。だがそれを幸村少佐はすんでのところで回避し続ける。正確な回避からの性格な反撃、空中で受け止めることになった結歌ちゃんは踏ん張りが利かず急浮上。とはいえ、衝撃を全て逃がす形になりダメージを受けた様子はない。

「なるほど……」

 今度は上段に構えながら結歌ちゃんから視線を外さない幸村少佐。魔獣の中にはコウモリに似た小型種がおり、浮いている敵の討伐というのも討伐者にとっては必要なスキルだ。基本的には上段から、敵の攻撃の出端を制する形で振り下ろすことで討伐するのだが……。

「あれ?」

 幸村少佐が構えを上段にした途端に、結歌ちゃんがうっすら笑ったように見えた。私の求める無垢な笑顔ではなく、修羅場に生きる剣客の笑み。けれど、私はその意味を即座に理解した。この勝負、結歌ちゃんの勝ちだ。

「……ふっ!」
「ん? ……う!?」

 結歌ちゃんが魔力の操作をする。結歌ちゃんのメイガスとしての力は重力操作。その対象は自身と斬りつけた相手……すなわち、相手の刀も効果の範疇。少佐の構えた刀がすっと地面に吸い寄せられる。そしてガラ空きになった幸村少佐の中断に、腰のひねり――回転の力が上乗せされた結歌ちゃんの一刀が迫る。

「そこまで!!」

 ぴたりと添えられた刀身を引いて、結歌ちゃんが納刀する。次いで、一拍間を置いて幸村少佐も刀を納める。

「いや、参ったよ。流石に黒獅子種と交戦しただけあるよ。あれはもしや、私がトドメを刺すまでもなかったかな。……君は魔剣使いでもあるようだし」

 ちらりとこちらに視線をよこす少佐。私は首を横に振った。確かにあの時、グリーディ・メイデンの力で黒獅子種を討伐出来たかも知れないけれど、それ以上に私はあの時死を覚悟していた。相討ちでもいい、と。今も生きていられるのは、はっきり言って彼女のお陰である。

「ふぅむ、重力操作……強力だね。私はメイガスじゃないし、魔剣も適合しなかったから羨ましいよ。うん、いい経験をさせてもらったよ」
「こちらこそ、ありがとうございました」

 そう言って二人は握手を交す。そして……。

「露辺大尉もどうだい? 魔剣の力、見せてほしいわ。それに、復帰後いきなり実戦よりは幾分か模擬戦を経験した方がいいのでは?」
「……なるほど。分かりました」

 少佐の言い分も分かる。それに……幸村少佐に勝たねば結歌ちゃんに勝つのは夢のまた夢。いつまでもそんな私じゃ……自分を許せないから。
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