1 / 15
王国編
第1話 さよなら母国
しおりを挟む
「セレーナ。悪いが君をこの国にとどめておくのはもう無理だ」
瀟洒な宮殿の一室、その主である男が、私に向けてそう言い放った。突然の言葉に、私は思わず自分の耳を疑った。また二十にも満たない私が、耳が遠くなったはずがないのだと自分に言い聞かせ、失礼を承知で問いなおす。
「なんと仰いましたか、殿下」
私の目の前に座るのはこの国エフェタリア王国の第二王子、ローランス殿下だ。年は私より四つ上で二十二歳。五年前に元服を済ませて以来、皇太子たるエルフレッド殿下と共に国政を支えてきた殿下……。私の、愛しい婚約者さまが、どうして私を国から追放するのでしょうか。
「我が国も領土を広げ、ザブリッツ帝国と比肩する大国になった。領土が広がればそれだけ金がいる。それにこの国はもう、聖女に頼る弱小国じゃないんだ。聖女にかける税金は、民衆からの批判が殺到していてな……」
エフェタリア王国は私の先祖、初代聖女であるルナーラ様が魔の物を追い払ったことで建国した歴史がある。三百年前に異世界から現われた勇者一行によって魔王は倒され、この世界から魔物は消え去った。
それからは人間同士が争う戦乱の世になったが、今では七つの大国がほぼ大陸の覇権を握り、一次的ではあるが平和な国になった。その戦乱の中で生き延びてこられたのは、聖女の祈りがあってこそだったのではないのでしょうか……。
「元老院からも聖女への公費投入が莫大すぎると反感が高まっていてな、ヘタに君を擁護しようものなら……何らかの罪で君を処刑することになりかねん」
「え、えっと……その、公費について削減すればいい話ではないのでしょうか?」
「そうだろう。俺もそう思う。だがな、聖女の祈りというのは……はっきり言ってしまえば目に見えないんだ。魔物もいないこの世の中で、祈ったところで何になる」
……言われてしまえばそれまでだ。私は聖女だというのに治療に関する魔法が一切使えない。けれど語学には一家言ある。外交官としてそれなりに働いてきたという自負もある。そう殿下に陳情するが……。
「それについても心配ない。入れ」
「失礼します」
現われたのは金髪の女性。胸元が大きく開いた豪奢なドレスから覗く深い谷間は、私ですら羨むほどだ。……というか、誰?
「一昨年の戦役で功を上げ伯爵となったジゼル伯の令嬢、エレットだ。彼女こそ、俺の新しい婚約者だ」
……は?
「レペゼット王国にも留学に行っていたほどの才女でな、語学も上出来で魔法も達者だ。なにより、聖女以上に華がある」
華がある? 金髪で胸が大きいだけで華があるぅ? ……なるほど、王子といえども所詮は男、そういうわけか。
「分かりました。私はこの国を去ります」
「ふふ、さようなら。税金泥棒さん」
……名前すら覚えずにいきましょうか。金髪女の言葉を無視し、礼もせずに第二王子の執務室を後にする。
瀟洒な宮殿の一室、その主である男が、私に向けてそう言い放った。突然の言葉に、私は思わず自分の耳を疑った。また二十にも満たない私が、耳が遠くなったはずがないのだと自分に言い聞かせ、失礼を承知で問いなおす。
「なんと仰いましたか、殿下」
私の目の前に座るのはこの国エフェタリア王国の第二王子、ローランス殿下だ。年は私より四つ上で二十二歳。五年前に元服を済ませて以来、皇太子たるエルフレッド殿下と共に国政を支えてきた殿下……。私の、愛しい婚約者さまが、どうして私を国から追放するのでしょうか。
「我が国も領土を広げ、ザブリッツ帝国と比肩する大国になった。領土が広がればそれだけ金がいる。それにこの国はもう、聖女に頼る弱小国じゃないんだ。聖女にかける税金は、民衆からの批判が殺到していてな……」
エフェタリア王国は私の先祖、初代聖女であるルナーラ様が魔の物を追い払ったことで建国した歴史がある。三百年前に異世界から現われた勇者一行によって魔王は倒され、この世界から魔物は消え去った。
それからは人間同士が争う戦乱の世になったが、今では七つの大国がほぼ大陸の覇権を握り、一次的ではあるが平和な国になった。その戦乱の中で生き延びてこられたのは、聖女の祈りがあってこそだったのではないのでしょうか……。
「元老院からも聖女への公費投入が莫大すぎると反感が高まっていてな、ヘタに君を擁護しようものなら……何らかの罪で君を処刑することになりかねん」
「え、えっと……その、公費について削減すればいい話ではないのでしょうか?」
「そうだろう。俺もそう思う。だがな、聖女の祈りというのは……はっきり言ってしまえば目に見えないんだ。魔物もいないこの世の中で、祈ったところで何になる」
……言われてしまえばそれまでだ。私は聖女だというのに治療に関する魔法が一切使えない。けれど語学には一家言ある。外交官としてそれなりに働いてきたという自負もある。そう殿下に陳情するが……。
「それについても心配ない。入れ」
「失礼します」
現われたのは金髪の女性。胸元が大きく開いた豪奢なドレスから覗く深い谷間は、私ですら羨むほどだ。……というか、誰?
「一昨年の戦役で功を上げ伯爵となったジゼル伯の令嬢、エレットだ。彼女こそ、俺の新しい婚約者だ」
……は?
「レペゼット王国にも留学に行っていたほどの才女でな、語学も上出来で魔法も達者だ。なにより、聖女以上に華がある」
華がある? 金髪で胸が大きいだけで華があるぅ? ……なるほど、王子といえども所詮は男、そういうわけか。
「分かりました。私はこの国を去ります」
「ふふ、さようなら。税金泥棒さん」
……名前すら覚えずにいきましょうか。金髪女の言葉を無視し、礼もせずに第二王子の執務室を後にする。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。
實藤圭
ファンタジー
王太子妃候補として、真摯に王子リオネルを愛し、支えてきたクラリス。
だが、王太子妃となるための儀式、婚礼の儀の当日、リオネルと聖女ミラによって、突如断罪され、婚約を破棄されてしまう。
原因は、教会に古くから伝わる「神託」に書かれた“災いの象徴”とは、まさにクラリスのことを指している予言であるとして告発されたためであった。
地位も名誉も奪われ、クラリスは、一人辺境へと身を寄せ、心静かに暮らしていくのだが……
これは、すべてを失った王太子妃(仮)が、己の誇りと歩みを取り戻し、歪められた“真実”と向き合うため、立ち上がる物語。
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる