2 / 14
王国編
第2話 旅支度
しおりを挟む
エフェタリア王国、王都エフェドニアの東端に聖女たるセンティエラ家の屋敷がある。送迎する馬車の御者も、屋敷のメイドたちも何も言わない。だとしたら、聖女追放はまだ公にはされていないことなのだろう。そう判断して私室に入ると、若きメイド長ファリアが大慌てで駆け寄ってきた。
「あ、あの! 強面の騎士さまがやってきて、責任者に話があるって言うから聞けば聖女様、国を……出て、いかれるのですか!?」
憔悴しきった顔のファリアに、私はそうだと頷いた。
「どどどどどうされるおつもりで!?」
「落ち着け。伝令の騎士はいつまでに出て行くよう言ってらしたの?」
「……明朝までに、と。この屋敷はジゼル伯爵家の別宅になるとのことです」
「ふぅむ。ならこの屋敷で働いている者たちの雇用は守られるのね。それは少し安心したわ」
……聖女に多額の税金が使われているのは事実だ。広い屋敷の整備や、働いている者への給金。食事にも気を使って貰ってきた。チーフコックの食事が今夜で食べ納めと思うと少し切ない。
「夜の闇に紛れてエフェドニアを脱出するわ。明朝までに出て行けと言うのだから、門番たちにも何らかの伝達がされているでしょう」
……王都を出るのはいいとして、エフェタリアの貨幣を持っている以上は、国内で旅支度をしたい。行くあてなどないけれど……。
「他のメイドたちはそれでいいと思います。しかしですね、メイド長でありセレーナ様の愛玩奴隷たるこのファリアはですね、何があってもセレーナ様のお側に!」
「……貴女を愛玩奴隷として使った記憶は全くないのだけれどね」
昔から、思い込みの強い少女だと思っていたけれど……。
「その……セレーナ様、私の田舎へ来ませんか? きっと、質素な服と麦わら帽子姿のセレーナ様も素敵なはずです」
ファリアの実家はエフェタリア南部の穀倉地帯、バクルムス地方の村だったはず。確かにのどかだし、田舎ゆえに聖女の顔を知る者はそう多くはないだろう。全くいないとは思えないが。しかし、一つだけ気がかりな点がある。
「しかし南の小国が帝国に併合された今、バクルムスは川一つ挟んで帝国と対峙する対帝国の最前線なのではないかしら?」
「いや、まぁ……それはそうなんですけど。でも紛争とかないです……よ? ちゃんと毎年帰省しておりますけど、互いに穀倉地帯なので畑を潰して基地とか砦を作るなんてなったら、農民が大反発するでしょうから」
……ファリアの言葉にも一理ある。とはいえ、乗合馬車に乗るのも難しいであろう私が、どうやってバクルムスまで行くか、という問題があるな。
「ゆっくり歩いてでも逃げましょう。私がお供します。このままでは……セレーナ様の身が危険です」
「分かった。これからのことは必要になったら考えよう。少し地味な服と多少の金銭はこちらで見繕うから、保存の利く食糧と水の手配を頼めるかしら?」
「承知しました。……追放なんてあんまりですが、なんだかセレーナ様と駆け落ちするみたいで……お恥ずかしながら、胸が高鳴っております」
「そうか。……まあファリアがいれば退屈はしなさそうだ」
その明るい笑顔は、言葉にはしないが確かに暗い気持ちを晴らしてくれる。聖女より、よっぽど光を放っているじゃないか。柄にも無く、そんなことを思ってしまった。
「あ、あの! 強面の騎士さまがやってきて、責任者に話があるって言うから聞けば聖女様、国を……出て、いかれるのですか!?」
憔悴しきった顔のファリアに、私はそうだと頷いた。
「どどどどどうされるおつもりで!?」
「落ち着け。伝令の騎士はいつまでに出て行くよう言ってらしたの?」
「……明朝までに、と。この屋敷はジゼル伯爵家の別宅になるとのことです」
「ふぅむ。ならこの屋敷で働いている者たちの雇用は守られるのね。それは少し安心したわ」
……聖女に多額の税金が使われているのは事実だ。広い屋敷の整備や、働いている者への給金。食事にも気を使って貰ってきた。チーフコックの食事が今夜で食べ納めと思うと少し切ない。
「夜の闇に紛れてエフェドニアを脱出するわ。明朝までに出て行けと言うのだから、門番たちにも何らかの伝達がされているでしょう」
……王都を出るのはいいとして、エフェタリアの貨幣を持っている以上は、国内で旅支度をしたい。行くあてなどないけれど……。
「他のメイドたちはそれでいいと思います。しかしですね、メイド長でありセレーナ様の愛玩奴隷たるこのファリアはですね、何があってもセレーナ様のお側に!」
「……貴女を愛玩奴隷として使った記憶は全くないのだけれどね」
昔から、思い込みの強い少女だと思っていたけれど……。
「その……セレーナ様、私の田舎へ来ませんか? きっと、質素な服と麦わら帽子姿のセレーナ様も素敵なはずです」
ファリアの実家はエフェタリア南部の穀倉地帯、バクルムス地方の村だったはず。確かにのどかだし、田舎ゆえに聖女の顔を知る者はそう多くはないだろう。全くいないとは思えないが。しかし、一つだけ気がかりな点がある。
「しかし南の小国が帝国に併合された今、バクルムスは川一つ挟んで帝国と対峙する対帝国の最前線なのではないかしら?」
「いや、まぁ……それはそうなんですけど。でも紛争とかないです……よ? ちゃんと毎年帰省しておりますけど、互いに穀倉地帯なので畑を潰して基地とか砦を作るなんてなったら、農民が大反発するでしょうから」
……ファリアの言葉にも一理ある。とはいえ、乗合馬車に乗るのも難しいであろう私が、どうやってバクルムスまで行くか、という問題があるな。
「ゆっくり歩いてでも逃げましょう。私がお供します。このままでは……セレーナ様の身が危険です」
「分かった。これからのことは必要になったら考えよう。少し地味な服と多少の金銭はこちらで見繕うから、保存の利く食糧と水の手配を頼めるかしら?」
「承知しました。……追放なんてあんまりですが、なんだかセレーナ様と駆け落ちするみたいで……お恥ずかしながら、胸が高鳴っております」
「そうか。……まあファリアがいれば退屈はしなさそうだ」
その明るい笑顔は、言葉にはしないが確かに暗い気持ちを晴らしてくれる。聖女より、よっぽど光を放っているじゃないか。柄にも無く、そんなことを思ってしまった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる