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30 禁軍将軍との朝食(三)
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その若者のことで思い出すことがあった。
「なんだ?」
「厳つい男の人がそばにいないときに若い人の具合が悪くなったことがあるんです。私が慌てて枕許に駆けつけると……」
「駆けつけると?」
「あの……ヤルクタリシュブラヤガイズって意味分かります?」
冬籟は額に片手を当てて「はあ?」と大きく口を開ける。
「その若い人がうわごとを繰り返すんです。私とは董の言葉で話してたんですけど、そのときは熱に浮かされてたみたいで……多分、毅の言葉だと思います。琥の言葉は表音文字なので急いで聞こえたとおりに書き取りました。割と正確に音を記録していると思うんですが分かりますか?」
冬籟は首をひねったままだ。
「意識が混濁していて董と毅の言葉がごちゃまぜになってましたが、『故郷の人間に伝えて欲しい』という意味のことも口にしていました。だから、東に向かう隊商があれば言づけましたし、私自身もこうして暗記して、今、毅国の王子様にお話しているわけですが.。心当たりってありますか?」
冬籟は考え込む。
「後ろの方のブラヤガイズは……それだけ切り取れば『こちらに来い』という意味にとれなくもないが……。その前の言葉は誰かの名前かな。親類縁者を逃亡先に呼ぼうとしたか……」
そうか。混乱した状態でも何度も繰り返していたのは、親や兄弟、誰か会いたい人の名前だったからかもしれない。
「ヤルクタリシュ……それに近い人名がないか俺も考えてみる。後ろの方も発音が近い別の意味かもしれん」
その言葉を頭にしまい込んだ冬籟がぽつりと「毅の言葉か。思い出したのは随分と久しぶりだ。懐かしい……」とこぼした。
「近いうちに、俺も璋伶を連れて華都を離れて毅国に戻らなければならんな。彼に武功を立てさせてやらないと」
──冬籟が華都を離れる?
白蘭の胸の中に冷たい風が吹いた。周囲の音が耳から消え、飯庁にいる他の人の気配も遠く、冬籟の姿にしか意識が向かない。
「そんな急に?」と反射的に高い声を漏らしてしまい、白蘭はそんな自分に驚く。いつも自分の言動には慎重に慎重を重ねているのに、なぜ後先考えずにこんなことを口走ってしまったのか? まるで自分が自分でないかのようだ。
冬籟は毅の王子。兄の生死がどうであれ、いつかは正統な王家の一員として故国に帰る。白蘭の人生とはほんのひととき行き会わせただけの相手に過ぎない。そんなことは分かっていたはずなのに。それなのに、どうしてこんなに心が揺れるのか。
冬籟は白蘭が幼く見えてもその器量を評価して呼び名を「小娘」から「商人」に変えてくれた。春賢にも「独立独歩で男に媚びない女」と断言してくれた。一方で、白蘭に肩の力を抜けとも言う。それには同意しかねるけれど、彼が白蘭を何らかの形で思いやってくれているのは伝わってくる。
そんな冬籟と離れ離れになるのは……寂しい。それも、彼なしでは華都の賑わいも後宮の華やぎも虚ろなものにしか思えないほど強く。
白蘭の視線の先で、彼がふっと目を逸らせた。
「華都に長居をして心残りが増える前に故郷に帰ろう。璋伶のことはいい機会だ」
行かないで欲しいと口に出してしまいそうで、白蘭は唇をかみしめた。そんなこと他の男に嫁ぐのが決まっている自分が言えることではない。どうかしている。
白蘭はとにかく落ち着こうと、璋伶の名前が出たのに合わせて朱莉姫を話題に出した。
「そんなに急がなくても……。朱莉姫だって璋伶さんと遠く離れるのに心の準備が必要です。えっと、それに、蘇王が護符の件に絡んでいないかどうか念のため姫が探りを入れてくれることになったじゃないですか。当面その結果を待たないと……。北域討伐は後宮の謎が解けてからの話ではないですか?」
「それもそうだな」
「そ、そうですとも。私、姫を見直してるところなんです。今すぐ感情のままに駆け落ちするのは止めて、長期的な展望に立って行動しようとして……恋愛バカだけど、意外と見所もあるのかもって」
冬籟がじっと白蘭を見つめる。
「藍可についてもそうだったが、本当にあんたは恋愛感情を律するかどうかで人の評価を決めるんだな」
「母みたいな女が嫌いなもので」
冬籟がふと黙る。
「なんですか?」
「いや……あんた、食後の粽がまだだったな。今から運ばせよう」
粽は、珍しい穀物のモチモチした食感が不思議な食べ物だった。それ自体もほんのり甘いが、木の実の餡との組み合わせが絶妙だ。
冬籟が今すぐ董を去るわけでないのに安堵したのと、粽のおいしさとで白蘭の表情はよほどゆるんでいたらしい。冬籟がくすっと笑うので慌てて口元をひきしめたが、彼はますますおかしそうに笑い続ける。
白蘭がまじめな顔で「何か私にお話があるんじゃないんですか?」と問いかけても、「まあ、その前に粽をゆっくり楽しんで食え」と目を細めて見ているだけだった。
食べ終えた白蘭が粽を包んでいた葉をたたんでいると、彼がおもむろに話し始める。
「印って分かるか? 紙に押すハンコだ」
「はあ? そりゃ知ってますよ」
唐突ではあるが、しばらく話の切り出し方を迷っていたようなので何かの例え話が始まるんだろう。
「あんたが母親のように生きたくないのは分かった。もっともなことだ。だがな、人生の目的が『母のようにならない』だけでは、結局母親にとらわれているということになるんじゃないか?」
彼の顔も表情もとても真剣だ。白蘭の人生を本気で考えてくれているのが伝わる。
「印に彫った文字や形を紙に押すと、陰陽が逆転しただけで印影は印と同じ内容となるだろう?」
「……」
「母親が恋愛バカだったから娘の自分は誰も愛さないと決めつけるのは、結局母親に縛られたままなんじゃないかと思う。あんただって母親の印影で人生を終えたくはないはずだ」
「……」
「確かに人を愛するのは難しい。あんたの父親のように不実な人間の心は移ろいやすく、そしてそんな人間ほどかつて愛を誓った相手に誠意を尽くさず、面倒だとさっさと切り捨ててしまう。一方、あんたの母親のように嫉妬や見栄で相手にすがりつき、娘のことさえ省みない女もいるだろう。しかし、あんたはそのどちらとも全く違う生き方ができると思うがな」
「全く違う……」
「きちんと他人も自分も大切にすること──相手を尊重し、自分の品位を落とさず相手に愛情を向けること。男女の愛情を越えて人間同士として相手に誠実であるということ。難しいことだがあんたならできると思う」
白蘭はどう答えていいのか分からない。
「あんたには嫁ぎ先があるという。ろくでもない奴ならともかく、そうでないなら亭主に惚れてやれ。亭主も喜んであんたに惚れるだろう。相手に惚れて愛し愛される幸せを求めていいんじゃないか? 長く夫婦をやっていれば愛だの恋だの浮かれてばかりともいかんだろうが、あんたとあんたが惚れた男とならどんな局面を迎えてもそれなりに幸せにやっていけると思う。藍可と卓瑛のようにな」
「……それはないですよ」
冬籟は即座に「なぜ?」と問うものの、それでいながら続きは言い淀む。
「……その……なんだ……あんたはなかなか性格がいい。童顔なのは好みが分かれるかもしれんが、心はとても優しく美しい」
「わ、私は優しくなんかありません」
「冷徹な女商人を気取りたいか? 商売第一で金儲けしか考えていないと思われていたい? じゃあ、あんたはなんで雲雀の弟からただの陶片で手習いの教師を引き受けたんだ?」
冬籟が肩を震わせて笑っているのを見たときから、これには反論を用意してある。
「あれは将来の顧客開拓です! あの幼さで自分の一番大事な宝物を差し出してくれるんですから大人になったら気前の良い顧客となるでしょう。私は先行投資をしただけです!」
白蘭はできるだけ重々しくまじめに言ったつもりだが、冬籟の方は呵呵大笑する。
「分かった、分かった。そういうことにしておこう。ただ、俺の言ったことは心にとめておいてほしい。俺はフラれ男の役割しか担ったことしかないが、相手に惚れたことは後悔していない。俺には叶わなかったが、愛し愛されて生きる人生は幸福だろうと思う」
「……」
「皇太后様があんたに幸せになれとおっしゃったのも、他人に恋することを頑なに拒むことなく心豊かに生きて欲しいからじゃないかな。ご自分には叶わなかったが、その分、親族のあんたにはそうなって欲しいと……」
「皇太后様は……。夫の愛情がないとあざける者もいましたが、道理の分かった人間なら皇太后様の優秀さを評価します。だから十分幸せな人生だったと思います。私も男の寵愛とは関係のないところで幸せを探します。ええ、やってみせます!」
つい語気を荒げてしまった白蘭の剣幕に、冬籟は軽く驚いたように目を見開いてから、次に目を伏せて腰を浮かせた。
「粽も食ったし店を出ようか。この話題は俺がすることじゃないな。あんたの亭主があんたに惚れたら俺と同じことを言うだろう。しょせん俺は部外者だ」
「……」
店を出た冬籟は坊門を抜けて大路を北に進み次の角を西に曲がった。白蘭の宿も同じ方向だからその隣を歩いてついていく。沈黙は気まずいが何を話していいのか分からない。
人気の途切れた辺りで冬籟が妙なことを尋ねてきた。
「飯庁であんたが毅の二人連れの話を終えた後、しばらくして俺の背後に座っていた人間が立ち上がった。俺たちの話を聞いていたような気配がしたが、俺からは顔が見られなかった。あんた、そいつの顔を見たか?」
白蘭は自分の記憶や心の揺れに気を取られていて全く気が付かなかった。誰だろう? 雲雀が市で気にしていた誰かとは璋伶だと分かってそれは解決したのに、他にも自分をつけ狙う者がいるのだろうか。
冬籟はそれを聞いて答えた。
「必ずしも狙いがあんたとは限らない。俺だって一応要人だからつけ狙われることは度々あった。ああ、そんな心配そうな顔をしなくていい。俺は武人だから襲われたってやすやすと他人の手にかからんさ」
そして「あんただとしても、夜に雲雀の家に行くのには俺が送り迎えをしてやるから、安心していろ」とうけあってくれた。白蘭もこれには素直に「ありがとうございます」と頭を下げた。
「なんだ?」
「厳つい男の人がそばにいないときに若い人の具合が悪くなったことがあるんです。私が慌てて枕許に駆けつけると……」
「駆けつけると?」
「あの……ヤルクタリシュブラヤガイズって意味分かります?」
冬籟は額に片手を当てて「はあ?」と大きく口を開ける。
「その若い人がうわごとを繰り返すんです。私とは董の言葉で話してたんですけど、そのときは熱に浮かされてたみたいで……多分、毅の言葉だと思います。琥の言葉は表音文字なので急いで聞こえたとおりに書き取りました。割と正確に音を記録していると思うんですが分かりますか?」
冬籟は首をひねったままだ。
「意識が混濁していて董と毅の言葉がごちゃまぜになってましたが、『故郷の人間に伝えて欲しい』という意味のことも口にしていました。だから、東に向かう隊商があれば言づけましたし、私自身もこうして暗記して、今、毅国の王子様にお話しているわけですが.。心当たりってありますか?」
冬籟は考え込む。
「後ろの方のブラヤガイズは……それだけ切り取れば『こちらに来い』という意味にとれなくもないが……。その前の言葉は誰かの名前かな。親類縁者を逃亡先に呼ぼうとしたか……」
そうか。混乱した状態でも何度も繰り返していたのは、親や兄弟、誰か会いたい人の名前だったからかもしれない。
「ヤルクタリシュ……それに近い人名がないか俺も考えてみる。後ろの方も発音が近い別の意味かもしれん」
その言葉を頭にしまい込んだ冬籟がぽつりと「毅の言葉か。思い出したのは随分と久しぶりだ。懐かしい……」とこぼした。
「近いうちに、俺も璋伶を連れて華都を離れて毅国に戻らなければならんな。彼に武功を立てさせてやらないと」
──冬籟が華都を離れる?
白蘭の胸の中に冷たい風が吹いた。周囲の音が耳から消え、飯庁にいる他の人の気配も遠く、冬籟の姿にしか意識が向かない。
「そんな急に?」と反射的に高い声を漏らしてしまい、白蘭はそんな自分に驚く。いつも自分の言動には慎重に慎重を重ねているのに、なぜ後先考えずにこんなことを口走ってしまったのか? まるで自分が自分でないかのようだ。
冬籟は毅の王子。兄の生死がどうであれ、いつかは正統な王家の一員として故国に帰る。白蘭の人生とはほんのひととき行き会わせただけの相手に過ぎない。そんなことは分かっていたはずなのに。それなのに、どうしてこんなに心が揺れるのか。
冬籟は白蘭が幼く見えてもその器量を評価して呼び名を「小娘」から「商人」に変えてくれた。春賢にも「独立独歩で男に媚びない女」と断言してくれた。一方で、白蘭に肩の力を抜けとも言う。それには同意しかねるけれど、彼が白蘭を何らかの形で思いやってくれているのは伝わってくる。
そんな冬籟と離れ離れになるのは……寂しい。それも、彼なしでは華都の賑わいも後宮の華やぎも虚ろなものにしか思えないほど強く。
白蘭の視線の先で、彼がふっと目を逸らせた。
「華都に長居をして心残りが増える前に故郷に帰ろう。璋伶のことはいい機会だ」
行かないで欲しいと口に出してしまいそうで、白蘭は唇をかみしめた。そんなこと他の男に嫁ぐのが決まっている自分が言えることではない。どうかしている。
白蘭はとにかく落ち着こうと、璋伶の名前が出たのに合わせて朱莉姫を話題に出した。
「そんなに急がなくても……。朱莉姫だって璋伶さんと遠く離れるのに心の準備が必要です。えっと、それに、蘇王が護符の件に絡んでいないかどうか念のため姫が探りを入れてくれることになったじゃないですか。当面その結果を待たないと……。北域討伐は後宮の謎が解けてからの話ではないですか?」
「それもそうだな」
「そ、そうですとも。私、姫を見直してるところなんです。今すぐ感情のままに駆け落ちするのは止めて、長期的な展望に立って行動しようとして……恋愛バカだけど、意外と見所もあるのかもって」
冬籟がじっと白蘭を見つめる。
「藍可についてもそうだったが、本当にあんたは恋愛感情を律するかどうかで人の評価を決めるんだな」
「母みたいな女が嫌いなもので」
冬籟がふと黙る。
「なんですか?」
「いや……あんた、食後の粽がまだだったな。今から運ばせよう」
粽は、珍しい穀物のモチモチした食感が不思議な食べ物だった。それ自体もほんのり甘いが、木の実の餡との組み合わせが絶妙だ。
冬籟が今すぐ董を去るわけでないのに安堵したのと、粽のおいしさとで白蘭の表情はよほどゆるんでいたらしい。冬籟がくすっと笑うので慌てて口元をひきしめたが、彼はますますおかしそうに笑い続ける。
白蘭がまじめな顔で「何か私にお話があるんじゃないんですか?」と問いかけても、「まあ、その前に粽をゆっくり楽しんで食え」と目を細めて見ているだけだった。
食べ終えた白蘭が粽を包んでいた葉をたたんでいると、彼がおもむろに話し始める。
「印って分かるか? 紙に押すハンコだ」
「はあ? そりゃ知ってますよ」
唐突ではあるが、しばらく話の切り出し方を迷っていたようなので何かの例え話が始まるんだろう。
「あんたが母親のように生きたくないのは分かった。もっともなことだ。だがな、人生の目的が『母のようにならない』だけでは、結局母親にとらわれているということになるんじゃないか?」
彼の顔も表情もとても真剣だ。白蘭の人生を本気で考えてくれているのが伝わる。
「印に彫った文字や形を紙に押すと、陰陽が逆転しただけで印影は印と同じ内容となるだろう?」
「……」
「母親が恋愛バカだったから娘の自分は誰も愛さないと決めつけるのは、結局母親に縛られたままなんじゃないかと思う。あんただって母親の印影で人生を終えたくはないはずだ」
「……」
「確かに人を愛するのは難しい。あんたの父親のように不実な人間の心は移ろいやすく、そしてそんな人間ほどかつて愛を誓った相手に誠意を尽くさず、面倒だとさっさと切り捨ててしまう。一方、あんたの母親のように嫉妬や見栄で相手にすがりつき、娘のことさえ省みない女もいるだろう。しかし、あんたはそのどちらとも全く違う生き方ができると思うがな」
「全く違う……」
「きちんと他人も自分も大切にすること──相手を尊重し、自分の品位を落とさず相手に愛情を向けること。男女の愛情を越えて人間同士として相手に誠実であるということ。難しいことだがあんたならできると思う」
白蘭はどう答えていいのか分からない。
「あんたには嫁ぎ先があるという。ろくでもない奴ならともかく、そうでないなら亭主に惚れてやれ。亭主も喜んであんたに惚れるだろう。相手に惚れて愛し愛される幸せを求めていいんじゃないか? 長く夫婦をやっていれば愛だの恋だの浮かれてばかりともいかんだろうが、あんたとあんたが惚れた男とならどんな局面を迎えてもそれなりに幸せにやっていけると思う。藍可と卓瑛のようにな」
「……それはないですよ」
冬籟は即座に「なぜ?」と問うものの、それでいながら続きは言い淀む。
「……その……なんだ……あんたはなかなか性格がいい。童顔なのは好みが分かれるかもしれんが、心はとても優しく美しい」
「わ、私は優しくなんかありません」
「冷徹な女商人を気取りたいか? 商売第一で金儲けしか考えていないと思われていたい? じゃあ、あんたはなんで雲雀の弟からただの陶片で手習いの教師を引き受けたんだ?」
冬籟が肩を震わせて笑っているのを見たときから、これには反論を用意してある。
「あれは将来の顧客開拓です! あの幼さで自分の一番大事な宝物を差し出してくれるんですから大人になったら気前の良い顧客となるでしょう。私は先行投資をしただけです!」
白蘭はできるだけ重々しくまじめに言ったつもりだが、冬籟の方は呵呵大笑する。
「分かった、分かった。そういうことにしておこう。ただ、俺の言ったことは心にとめておいてほしい。俺はフラれ男の役割しか担ったことしかないが、相手に惚れたことは後悔していない。俺には叶わなかったが、愛し愛されて生きる人生は幸福だろうと思う」
「……」
「皇太后様があんたに幸せになれとおっしゃったのも、他人に恋することを頑なに拒むことなく心豊かに生きて欲しいからじゃないかな。ご自分には叶わなかったが、その分、親族のあんたにはそうなって欲しいと……」
「皇太后様は……。夫の愛情がないとあざける者もいましたが、道理の分かった人間なら皇太后様の優秀さを評価します。だから十分幸せな人生だったと思います。私も男の寵愛とは関係のないところで幸せを探します。ええ、やってみせます!」
つい語気を荒げてしまった白蘭の剣幕に、冬籟は軽く驚いたように目を見開いてから、次に目を伏せて腰を浮かせた。
「粽も食ったし店を出ようか。この話題は俺がすることじゃないな。あんたの亭主があんたに惚れたら俺と同じことを言うだろう。しょせん俺は部外者だ」
「……」
店を出た冬籟は坊門を抜けて大路を北に進み次の角を西に曲がった。白蘭の宿も同じ方向だからその隣を歩いてついていく。沈黙は気まずいが何を話していいのか分からない。
人気の途切れた辺りで冬籟が妙なことを尋ねてきた。
「飯庁であんたが毅の二人連れの話を終えた後、しばらくして俺の背後に座っていた人間が立ち上がった。俺たちの話を聞いていたような気配がしたが、俺からは顔が見られなかった。あんた、そいつの顔を見たか?」
白蘭は自分の記憶や心の揺れに気を取られていて全く気が付かなかった。誰だろう? 雲雀が市で気にしていた誰かとは璋伶だと分かってそれは解決したのに、他にも自分をつけ狙う者がいるのだろうか。
冬籟はそれを聞いて答えた。
「必ずしも狙いがあんたとは限らない。俺だって一応要人だからつけ狙われることは度々あった。ああ、そんな心配そうな顔をしなくていい。俺は武人だから襲われたってやすやすと他人の手にかからんさ」
そして「あんただとしても、夜に雲雀の家に行くのには俺が送り迎えをしてやるから、安心していろ」とうけあってくれた。白蘭もこれには素直に「ありがとうございます」と頭を下げた。
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