手が招く

五味

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一章

失踪した友人 4

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海斗は簡単だと、そうであればいいと考えていた調査が難航していることに、事務所で一人頭を抱えていた。

調査は簡単であった。
早速とばかり、街に出た海斗は繁華街で依頼人と同じ制服を着て、数人で連れ立っている学生を見かけ、声をかけてみた。
最初こそ警戒されてはいたが、少し話すうちに、天野の質問にも多少応えるようになった。
運が彼に味方したのだろう、その中に、依頼人の上沼と同じクラスの生徒がおり、そこからかなり話が早くなるかと思ったのだ。

天野はもらった写真を見せながら、この相手に見覚えは、そう聞いた。
その同じクラスの男子生徒は、上沼を指し、ああ、ちょっと暗い感じの。同じクラスにいるけど、隣は、知らない。
こいつが同性でも、誰かと遊んでるところなんて、ほとんど見たことないし。

そう答えたのだ。

海斗はでは別のクラスに所属しているのか、そう考える。
だがその期待も、すぐに裏切られる。

その男子生徒は、彼の友人らしき、一緒に行動している相手に、なぁ、こいつ、知ってるか。
そう聞くと、他の面々も興味深げに、海斗の形態を覗き込み、いや、見たことないな。
内の制服着てるけど、だれだ、こいつ。などと言い出した。

海斗は待ってくれ、そう声を挙げそうになるのを何とか堪えた。
依頼人であれば、言葉は悪いが、まだ理解できる。
内気な彼女は学校などでは目立たないだろう、それがこうして友人と仲良く遊べるような人間にとっては、まぁたまに声をかけるくらいで、特別な意識などしないだろう。
だが、失踪したとそう聞いている友人は、彼らと同じタイプの性格だろう。
あくまで依頼主の印象と、この写真だけを見るならば。
そうであるなら、この捜索対象は、クラスでも中心にいないまでも場を盛り上げる、そういった役割を行うタイプの人間であるはずだ、その人間が、記憶にない。そんなことがあるだろうか。
いない人間を探させる、それも金銭を払って。海斗が全てを取り上げていれば、その金額は学生にはかなり大きなものだ。依頼主は、そんな手の込んだいたずらをするような、いや、依頼主に限らず、いたずらにしては度が過ぎている。手が込みすぎている。
この写真にしても、どう見ても学校内でとられている。
それを、知らない。そんなことがあるだろうか。

男子学生たちは形態の写真を見ながら、あれこれと話している、そのうちに、一人がこんなことを言い出した。

「あれ。ここに写ってるのお前じゃね?」

その言葉に言われた一人は、考えるように写真をじっと見る。

「ほんとだ。俺じゃん。ってことはうちの教室か、これ撮ったの。」

その言葉に海斗はさらに不可解な印象を覚える。
写真がいつ取られたものか覚えていないのはいい。内気な少女の肩を抱くようにして、写真を撮る。相応に騒がしさの伴う行為だろう。なのになぜ、それが印象に残っていないのだろうか。

「あー。思い出した。あれ、なんで忘れてたんだろ。これ、うちのクラスの中村じゃん。
 あのちっこいのに賑やかな奴。ほら、お前らもちょいちょい話してたろ。」

そして、男子生徒の態度が急に変わる。
天野は当然調査対象の名前を彼らに伝えていない、それなのに突然目の前の男子学生が一人、思い出したように調査対象の名字を言い当てる。

「中村って、どの中村よ。」
「下の名前なんつったっけ、女子連中がよく名前呼びながらお菓子あげたりしてんじゃん。」
「あー、そういやいたな、そんなの。菜緒だったっけ。いや、あれ。
 あんな賑やかに騒いでるのに、なんで忘れてたんだろ。
 そういや、最近見ないな。風邪でも引いてんのかね。」

名前が一致した。
写真だけを見て、名前が出てきた。加えて同じ学校の物らしき制服。
間違いないだろう。彼らはこの調査対象を知っている。いや、思い出した。
ただ、彼らも疑問に思っているように、なぜ、思い出したのだろう。
海斗は少し、質問を行ってみることにした。

「最近、あったのはいつだろう。」

生徒たちの反応は、またも不可解なものだった。
お前覚えてるか、いや、わかんない、同じクラスなのに。
いや、おかしくね。お前だって覚えてないだろ。あんなに賑やかな奴、いなかったらわかるだろ。

学生たちは、頭をひねりながらワイワイと会話する。
そして、それぞれが携帯を取り出すと、あちこちに連絡を取っているのだろう。
さて、騒ぎになっても困ると、海斗は思う反面、いっそ騒ぎにして、警察を動かしたほうが早いのだろうかとも考えてしまう。突然、女子学生が消える。それもクラスメイトの記憶からも。
実にセンセーショナルで、いろんな人間の興味を引くだろう。探す人間の目も増えるだろう。
反面、そんなことが起これば、もし犯人がいるとすれば逆上して最悪の結果も考えるだろう。

そして、男子生徒の何人かは埒が明かないと判断したのだろう、電話をかけ、そしてすぐに口論になる。

「いや、だから中村だって。お前もよく持ってきたお菓子あげてたじゃん。
 同級で、ちっこい、賑やかなの。いただろ。ほら、2週間前くらいにも。
 いや、覚えてないって、そんなわけないじゃん。あんな賑やかな奴、忘れるなんてないだろ。
 何、そういうゲームでもやってんの。だっせーな。」

一人の男子生徒が、他の女子生徒だろうか、先ほどまで、自分も忘れていただろうに、感情的に相手と会話をしている。
そこには幾つか、海斗が欲しかった情報も紛れている。
2週間前に目撃はしている、いじめなどは、少なくとも男子からなかった。

「え。なんだよ急に。いや、今思い出したって。なんだそれ。
 いや、そういわれたら、俺だって変なおっさんに話しかけられて写真見て思い出したけどさ。
 いや、でそのおっさんが、中村、探してるみたいでさ。
 そうそう。最後いつ見た。あんだけ賑やかなら、覚えてんだろ。お前らだって学校終わりとか、遊んでんだろ。
 ああ、あの根暗そうな、で、この前の土日にそいつもつれて服買いにく予定だったって。
 いや、だったらなんで忘れてんだよ。、ああ、わるいわるい。ごめんって。
 で。ああ、で、集合場所を決めようとしてそっから連絡がないと。
 なんだろ、風邪でも引いたんじゃね?気になったら明日、ユナちゃんに聞いてみりゃいいじゃん。
 風邪なら連絡位来てるんじゃね。え、今聞く。なんでそんな急いでんの。」

ある男子生徒の会話に、海斗は耳をそばだてる。
他の数名も、似たような会話をしている部分もあれば、アプリでメッセージのやり取りでもしているのだろう、頭を掻いて、なんだ、何言ってんだこいつ。などと言ったりもしている。
海斗は共通項を、頭の中にしっかりとメモをする。この学生たちと別れたら後で改めて手帳に書きださなければいけないだろう。この、不気味な共通項を。

「なぁなぁ。おっさん。」

そんなことを考えているうちに、男子生徒が海斗に声をかける。

「なんかさ、マホがユナちゃんに今から聞くって電話切ったからさ。
 ユナちゃんってのが、内の担任なんだけど、もうちょっと待っててくんね?」

いわれて、海斗はわかった、ちょっと待っててくれと、その場を離れる。
その足でコンビニに行き、そのままレジに向かい、そこにあるホットスナックを適当に買う。
その用意が行われている間に、先ほど分かったことを改めてメモする。
いったい、これは何なのだろうか。
一人だけなら、まだ理解できる。イジメ、陰湿な無視が行われているというならわかる。
だが、クラスでも可愛がられているようだし、それもすぐに担任に確認しよう、そう思うほどに大事に思われている様子だ。
そんな人間が、何故忘れられている。一体、今、この調査対象に、いや、それに関連する人々に、何が起こっている。
海斗は、答えの見つからない疑問に、頭を悩ませていると、準備が終わったのか、店員から声がかかる。
すぐに支払いを済ませ、袋に詰められたそれをもって、男子生徒たちが未だに、端のほうによってはいるが、待っていう場所へと戻る。

「ほら。」

そういって、海斗はビニール袋を放り投げる。
それを、電話の返事を待っているらしい男子生徒が受け取る。

「付き合わせてるしな。俺も経験があるが、そのころなら、いくらで食えるだろ。寒いしな。お礼変わりだ。」
「お、おっさん話が分かるじゃん。」

そういって生徒は、まだ形態とにらめっこしたり、電話であれこれと話している他の友人だろう、その輪に戻り、早速とばかりに袋の中を物色する。
暗い中、寒空の下、突き合わせているのだ。まぁ、これくらいいいだろう。
受け取った依頼料、それを考えれば、赤字もいいところだが、海斗は、担任とやらから連絡が返ってくるのを待った。
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