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36章 忙しなく過行く
疲弊と病
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寝台に縛り付けられてと言う事は無いのだが、そもそもそれをする必要すらない程度にはオユキは己の自由が利かない。ここまでになったのは、それこそ生前にしてもいよいよ己の寿命を全うする、そうした予感を得た日位であっただろうか。
緩やかに霞んでいく視界。混濁する記憶と、現実。
過去に己を追い込む目的で行われた鍛錬、それよりも鈍い物としてそうした時間を確かに得たのだ。そして、そうなるまでは、確かに己の足で歩き回っていたものだ。だというのに、こちらでは明らかに若々しい体を持っている、かつてにあったようなどうにもならぬような熱病に浮かされて等と言う事も無い。それでも、手足どころか、指先までも己の意志に反してやけに鈍くしか動いてはくれない。さらには上体を起こすという簡単な動作ですら息が上がるほどの労力を己に課してくるというものだ。
教会へとオユキが残したもの、本来であれば祈願祭の結果として得られたはずの礎。それが既にあるのだと、何かの切欠だけでもあれば手に入るのだとトモエに確認をされて否定しきれなかったこともある。今は、トモエがオユキの様子を見る役をセツナに預けて戦と武技の教会へ。
「不満を感じるなとは、妾も言わぬがな」
「セツナ様」
そして、己の代わりにオユキを見る役とでも言えばいいのだろうか。明確に種族の長として、オユキを幼子と扱う相手に預けて。
「妾たちは、どういえばいいのか。妾にとっては幼子の心情とでも言えば良いのか、そうした物はごく自然な物であると理解はしておるのじゃが」
「その」
「我が良人、そちらが連なる種族であったり、妾たちの中でもいくらかはというモノじゃからな。幼子は、妾たちの祖霊、連なる先へとなっていることもあるからのう」
「純度、と言う事でしょうか」
「その言葉を使うには、どうにも幼子は混ざりものが多いがの」
枕元に腰掛けて、オユキのどうにもならぬ不満を受け止めてくれようと。こちらにしても、はっきりと種族の年長とでも言えばいいのだろうか、そうした鷹揚さをもって。
生憎と、セツナにしても料理の類はそこまで得手ではないようで、寧ろ苦手としている様子で置いてある果物を手に取るような事は無い。これがトモエであれば、少しでもオユキの回復にとせっせと皮をむきオユキの口でも一口で飲み込める大きさに切り分けている。セツナのほうでは、寧ろ触れれば凍る、そうした意識が働いての事ではあるのだが。
「それにしても、己の伴侶にくらいはもう少し事前にあるべきと、妾も思うのじゃがな」
「トモエさんに、あまり話してしまいますと、どうしても面倒を」
「幼子の考えていることも分かる。しかし、妾もそれなりに長く生きておってな。妾の良人、そちらの種族との関係。それらも色々とあった上で、どうにも妾の考えだけでなく、相談する、妾はこのように考えていると良人の理解を常とするだけでなく」
「その、そうした時間を、夜に持つようにはしているのですが」
そう、確かにそうした時間を常々持とうと動いているのだ。己の身の周りを任せている者たち、一応は王妃から与えられている近衛たちにしても既に理解はしてくれている。だが、現実は、王都ではやはりなかなか難しい。
「その、特に私達で予定を話していると」
「ふむ。今も壁を一枚隔てた先に、幾人もおるが」
「はい、その方々の過剰な意識といいましょうか」
「確かに、夫婦の時間と考える時であるならば、無粋と思うものよな」
トモエには、どうしたところで口にしにくい不満。それをセツナが聞くためにと残ってくれているのだと、それくらいはオユキにも理解が有る。それこそ、体調が良ければ、今のような状態でなければ自制も効いたのだろうが、どうにもここ暫くの事もありそれも難しい。
「私の行いは、本当に正しかったのでしょうか。トモエさんの願いをかなえる、それだけを考えたときにより穏当な物というのもありました。しかし、時間制限がある、それを気が付いたこともあり明確な、移動自体を簡略化するための方法にどうしたところで心惹かれて。トモエさんも、かつてと今と。移動の困難に、思う所があるようでしたから」
オユキは、以前にリース伯爵が己の娘であるメイにかけていた言葉を思い出す。
己よりも上の立場がいる場では構わない、しかし、そうでない場では許されない。
つまりは、こちらに来るにあたって行動の指針をトモエに預けたとして。では、いかに実現するのか、それを考えるのがオユキの仕事であったのだ。トモエは、どうしたところで対外的な経験が少ない。そもそも、そうしたことを行うよりも、言葉で行うよりも権謀術数に頼るよりも、より信頼のおける手段があると己の腰から下げた物を選んでしまう。だからこそ、そうした部分ではオユキが殊更にとしているのだ。
己の伴侶が望んでいること、かつて己が語ったこと。省略した困難、それが改めて省略できるのだと示されたこともあり、ついつい飛びついてしまったと、確かな反省がある。
「その、正直な所を申し上げれば、これはカナリアさんを助けたところから始まり、それに尽きるといいましょうか。トモエさんにしても、彼の神からは思う所があるのです。私に至っては、いよいよ」
「炎熱の鳥、それの祖か。確かに妾たちにとっては、天敵としか言いようもない相手じゃからの」
「自覚はつい最近ではありますが、その、確認を最初に行えなかった、それに関しては作為があったのでしょうが」
ぼそぼそと、ようやく明確に声になり始めた声で。それが無いのだとしても、そもそもこちらの世界における恩恵。知識と魔、法と裁きの管轄する範囲であり、重要なのは発声ではなく意志なのだろうと。病床のオユキとしては、その様な事を考えてしまうのだが、それに甘える事は無く。甘えてしまえば、いよいよ神々の奇跡を使う事になり、対価を支払わなければならない。その様な事を行ってしまえば、さらに回復が遠のくと、それくらいの認識をオユキは持っている。
「妾たちの祖に対して、そちらには隔意が無いと分かるのじゃがな」
「その、こちらの神々に対して隔意があるかのように言われましても」
「隠しもしておらぬじゃろうに。炎熱の鳥の祖、妾たちの祖が更に連なる、辿ればそちらが祖となる月と安息にまで。他にも、その方が口にするいくらかの柱に対しても、少々硬さを妾は感じておるぞ」
「秘め事とまでは言いませんが」
「幼子が如何に隠そうとしたところで、それに気が付かぬ年長ではない、それくらいは幼子も理解が及ぶじゃろうに」
窘められている。体が弱っているから、心も弱っている。さらには、カナリアの手配か、トモエの手配か。
ここ暫くどころではない、明確に今回。オユキは、どうにも周囲を上手く探れない。己に向いている意識、それがこの部屋にいる相手、それだけだと感じてしまう。他に、いない訳が無いというのに。弱った己を放っておける、そのような人員など身の回りには存在していない。それを理解している。だというのに、今この時に感じる現実はどうだと首をかしげてしまう。
しかし、弱った心は、どうにもならず。
周囲に人がいない、そして、目の前には不思議と甘えても問題が無いと、あまりにもはっきりと己の上位だと感じる相手がいる。
これまで、立場に慮る事はあった。保護者に対して、庇護者に対して、それらを受ける物として振る舞う事もままあった。だが、目の前の相手は、取引相手と考えなければならぬというのに、オユキの内心とは全く異なる何かがやはり働くというモノ。
「その、セツナ様から見て、トモエさんは」
「妾たちの常とは言え、よい、尋ねてみよ」
そして、事ここに至って、オユキが気にすることなどどうしたところでそればかり。
「トモエさんに、負担を、その、望まぬことをとしてしまっています。ここ暫くは、特に」
「望まぬかどうかは、生憎と妾はその方の伴侶でない故分からぬが」
「本来であれば、こうした煩雑を、世の面倒を感じてほしく等は無いのです。ただ、かつて憧れていた世界を、私がトモエさんにこのような素晴らしい物があった、かつての世界ではありえなかった景観があったのだと伝えた場を」
「それが、その方らの間に確かにある繋がりとは思えぬが」
「ですが、トモエさんがこちらに来る動機には」
「それこそ、尋ねてみよと、そうとしか妾は言えぬが」
オユキが、どうしたところで恐れていることがある。
万が一、トモエが、オユキが今そうなっているように。
こちらの世界に失望してしまっていたら、どうしてくれようかと。
かつて己が語った言葉、それがどれほど虚しい物であるのか、それをトモエに言われたら、どうしようかと。
そんな事よりも、オユキに対して、かつてのオユキが憧れた形、それがこのような物であったのかと。改めて、これらを通して、己に対して失望が生まれてしまったら、最早生きてはいけぬと。
甘え方の形が違うからだろうか。万に一つでも、トモエにこうしたことを話してしまえば、オユキはそれこそ涙を滂沱の如くとしてとなるだろう。ただでさえ、こちらに来てからという物、己の体躯はあまりに以前とは違い。かつては、どうにか有利を得ていた部分ですら今となっては真逆。
トモエは、こちらに来て改めて己の道の先を求めているというのに、それに並ぶ道を歩くとかつて語った己の有様は果たしてどうなのかと。
「いっその事、そう考えてしまう己が、どうしようもなく」
オユキにとっては、そのように考える己こそ、情けなく、惨めで、怯懦を極めていると。
「それも選択肢の一つと、妾にしてもかつて言われた事はあるのじゃがな。妾たちは、それが出来るような素性ではあるまいよ。己の伴侶には、やはり妾たち自身の考える最善の己、器ばかりはどうにもならぬ事はあるのじゃが、心だけでもとそう考えるものであるからのう」
こうした、かつてから変わらず持っているオユキの精神性。
実際のところ、こちらに来てからという物、周囲の、かつて己と関係のあった者たちから、トラノスケのようなゲームの中だけでは無い者たちからの評価にしても、正鵠を得ているのだと感じている。確かに、かつてから己の内にあった物、それがこちらに来てからは随分と表に出てしまっているのだとそんな事を改めて自覚しながらも。
「尋ねてみるのは、その」
「うむ。妾もそれをせよとまではいわぬ。妾たちの伴侶にしても、妾たちが尋ねず、そうした最も深い部分を言葉にする事は無い。どうしたところで、妾たちが選ぶ相手というのは、そうした相手であるのじゃからな」
緩やかに霞んでいく視界。混濁する記憶と、現実。
過去に己を追い込む目的で行われた鍛錬、それよりも鈍い物としてそうした時間を確かに得たのだ。そして、そうなるまでは、確かに己の足で歩き回っていたものだ。だというのに、こちらでは明らかに若々しい体を持っている、かつてにあったようなどうにもならぬような熱病に浮かされて等と言う事も無い。それでも、手足どころか、指先までも己の意志に反してやけに鈍くしか動いてはくれない。さらには上体を起こすという簡単な動作ですら息が上がるほどの労力を己に課してくるというものだ。
教会へとオユキが残したもの、本来であれば祈願祭の結果として得られたはずの礎。それが既にあるのだと、何かの切欠だけでもあれば手に入るのだとトモエに確認をされて否定しきれなかったこともある。今は、トモエがオユキの様子を見る役をセツナに預けて戦と武技の教会へ。
「不満を感じるなとは、妾も言わぬがな」
「セツナ様」
そして、己の代わりにオユキを見る役とでも言えばいいのだろうか。明確に種族の長として、オユキを幼子と扱う相手に預けて。
「妾たちは、どういえばいいのか。妾にとっては幼子の心情とでも言えば良いのか、そうした物はごく自然な物であると理解はしておるのじゃが」
「その」
「我が良人、そちらが連なる種族であったり、妾たちの中でもいくらかはというモノじゃからな。幼子は、妾たちの祖霊、連なる先へとなっていることもあるからのう」
「純度、と言う事でしょうか」
「その言葉を使うには、どうにも幼子は混ざりものが多いがの」
枕元に腰掛けて、オユキのどうにもならぬ不満を受け止めてくれようと。こちらにしても、はっきりと種族の年長とでも言えばいいのだろうか、そうした鷹揚さをもって。
生憎と、セツナにしても料理の類はそこまで得手ではないようで、寧ろ苦手としている様子で置いてある果物を手に取るような事は無い。これがトモエであれば、少しでもオユキの回復にとせっせと皮をむきオユキの口でも一口で飲み込める大きさに切り分けている。セツナのほうでは、寧ろ触れれば凍る、そうした意識が働いての事ではあるのだが。
「それにしても、己の伴侶にくらいはもう少し事前にあるべきと、妾も思うのじゃがな」
「トモエさんに、あまり話してしまいますと、どうしても面倒を」
「幼子の考えていることも分かる。しかし、妾もそれなりに長く生きておってな。妾の良人、そちらの種族との関係。それらも色々とあった上で、どうにも妾の考えだけでなく、相談する、妾はこのように考えていると良人の理解を常とするだけでなく」
「その、そうした時間を、夜に持つようにはしているのですが」
そう、確かにそうした時間を常々持とうと動いているのだ。己の身の周りを任せている者たち、一応は王妃から与えられている近衛たちにしても既に理解はしてくれている。だが、現実は、王都ではやはりなかなか難しい。
「その、特に私達で予定を話していると」
「ふむ。今も壁を一枚隔てた先に、幾人もおるが」
「はい、その方々の過剰な意識といいましょうか」
「確かに、夫婦の時間と考える時であるならば、無粋と思うものよな」
トモエには、どうしたところで口にしにくい不満。それをセツナが聞くためにと残ってくれているのだと、それくらいはオユキにも理解が有る。それこそ、体調が良ければ、今のような状態でなければ自制も効いたのだろうが、どうにもここ暫くの事もありそれも難しい。
「私の行いは、本当に正しかったのでしょうか。トモエさんの願いをかなえる、それだけを考えたときにより穏当な物というのもありました。しかし、時間制限がある、それを気が付いたこともあり明確な、移動自体を簡略化するための方法にどうしたところで心惹かれて。トモエさんも、かつてと今と。移動の困難に、思う所があるようでしたから」
オユキは、以前にリース伯爵が己の娘であるメイにかけていた言葉を思い出す。
己よりも上の立場がいる場では構わない、しかし、そうでない場では許されない。
つまりは、こちらに来るにあたって行動の指針をトモエに預けたとして。では、いかに実現するのか、それを考えるのがオユキの仕事であったのだ。トモエは、どうしたところで対外的な経験が少ない。そもそも、そうしたことを行うよりも、言葉で行うよりも権謀術数に頼るよりも、より信頼のおける手段があると己の腰から下げた物を選んでしまう。だからこそ、そうした部分ではオユキが殊更にとしているのだ。
己の伴侶が望んでいること、かつて己が語ったこと。省略した困難、それが改めて省略できるのだと示されたこともあり、ついつい飛びついてしまったと、確かな反省がある。
「その、正直な所を申し上げれば、これはカナリアさんを助けたところから始まり、それに尽きるといいましょうか。トモエさんにしても、彼の神からは思う所があるのです。私に至っては、いよいよ」
「炎熱の鳥、それの祖か。確かに妾たちにとっては、天敵としか言いようもない相手じゃからの」
「自覚はつい最近ではありますが、その、確認を最初に行えなかった、それに関しては作為があったのでしょうが」
ぼそぼそと、ようやく明確に声になり始めた声で。それが無いのだとしても、そもそもこちらの世界における恩恵。知識と魔、法と裁きの管轄する範囲であり、重要なのは発声ではなく意志なのだろうと。病床のオユキとしては、その様な事を考えてしまうのだが、それに甘える事は無く。甘えてしまえば、いよいよ神々の奇跡を使う事になり、対価を支払わなければならない。その様な事を行ってしまえば、さらに回復が遠のくと、それくらいの認識をオユキは持っている。
「妾たちの祖に対して、そちらには隔意が無いと分かるのじゃがな」
「その、こちらの神々に対して隔意があるかのように言われましても」
「隠しもしておらぬじゃろうに。炎熱の鳥の祖、妾たちの祖が更に連なる、辿ればそちらが祖となる月と安息にまで。他にも、その方が口にするいくらかの柱に対しても、少々硬さを妾は感じておるぞ」
「秘め事とまでは言いませんが」
「幼子が如何に隠そうとしたところで、それに気が付かぬ年長ではない、それくらいは幼子も理解が及ぶじゃろうに」
窘められている。体が弱っているから、心も弱っている。さらには、カナリアの手配か、トモエの手配か。
ここ暫くどころではない、明確に今回。オユキは、どうにも周囲を上手く探れない。己に向いている意識、それがこの部屋にいる相手、それだけだと感じてしまう。他に、いない訳が無いというのに。弱った己を放っておける、そのような人員など身の回りには存在していない。それを理解している。だというのに、今この時に感じる現実はどうだと首をかしげてしまう。
しかし、弱った心は、どうにもならず。
周囲に人がいない、そして、目の前には不思議と甘えても問題が無いと、あまりにもはっきりと己の上位だと感じる相手がいる。
これまで、立場に慮る事はあった。保護者に対して、庇護者に対して、それらを受ける物として振る舞う事もままあった。だが、目の前の相手は、取引相手と考えなければならぬというのに、オユキの内心とは全く異なる何かがやはり働くというモノ。
「その、セツナ様から見て、トモエさんは」
「妾たちの常とは言え、よい、尋ねてみよ」
そして、事ここに至って、オユキが気にすることなどどうしたところでそればかり。
「トモエさんに、負担を、その、望まぬことをとしてしまっています。ここ暫くは、特に」
「望まぬかどうかは、生憎と妾はその方の伴侶でない故分からぬが」
「本来であれば、こうした煩雑を、世の面倒を感じてほしく等は無いのです。ただ、かつて憧れていた世界を、私がトモエさんにこのような素晴らしい物があった、かつての世界ではありえなかった景観があったのだと伝えた場を」
「それが、その方らの間に確かにある繋がりとは思えぬが」
「ですが、トモエさんがこちらに来る動機には」
「それこそ、尋ねてみよと、そうとしか妾は言えぬが」
オユキが、どうしたところで恐れていることがある。
万が一、トモエが、オユキが今そうなっているように。
こちらの世界に失望してしまっていたら、どうしてくれようかと。
かつて己が語った言葉、それがどれほど虚しい物であるのか、それをトモエに言われたら、どうしようかと。
そんな事よりも、オユキに対して、かつてのオユキが憧れた形、それがこのような物であったのかと。改めて、これらを通して、己に対して失望が生まれてしまったら、最早生きてはいけぬと。
甘え方の形が違うからだろうか。万に一つでも、トモエにこうしたことを話してしまえば、オユキはそれこそ涙を滂沱の如くとしてとなるだろう。ただでさえ、こちらに来てからという物、己の体躯はあまりに以前とは違い。かつては、どうにか有利を得ていた部分ですら今となっては真逆。
トモエは、こちらに来て改めて己の道の先を求めているというのに、それに並ぶ道を歩くとかつて語った己の有様は果たしてどうなのかと。
「いっその事、そう考えてしまう己が、どうしようもなく」
オユキにとっては、そのように考える己こそ、情けなく、惨めで、怯懦を極めていると。
「それも選択肢の一つと、妾にしてもかつて言われた事はあるのじゃがな。妾たちは、それが出来るような素性ではあるまいよ。己の伴侶には、やはり妾たち自身の考える最善の己、器ばかりはどうにもならぬ事はあるのじゃが、心だけでもとそう考えるものであるからのう」
こうした、かつてから変わらず持っているオユキの精神性。
実際のところ、こちらに来てからという物、周囲の、かつて己と関係のあった者たちから、トラノスケのようなゲームの中だけでは無い者たちからの評価にしても、正鵠を得ているのだと感じている。確かに、かつてから己の内にあった物、それがこちらに来てからは随分と表に出てしまっているのだとそんな事を改めて自覚しながらも。
「尋ねてみるのは、その」
「うむ。妾もそれをせよとまではいわぬ。妾たちの伴侶にしても、妾たちが尋ねず、そうした最も深い部分を言葉にする事は無い。どうしたところで、妾たちが選ぶ相手というのは、そうした相手であるのじゃからな」
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