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36章 忙しなく過行く
難事とは
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予定の話だけをするのならば、この祭祀を超える事でオユキには風翼の礎が与えられることになっていた。また、他の物たちにしても、皮算用ではあるのだがそれを前提としていくらかの準備を行っていたのも事実。オユキにしても、ようやく得た夫婦の時間、新しい子供たちとの時間を邪魔することを、已む無く頼むことになるとそうローレンツに断っていたのも事実。
つまるところ、今回得ることが出来なかった。ここに来て初めて、こちらに来てからごく短い期間に散々に使徒の子供として行ってきたこと、その立場故の都合のよさ。さらには異邦人としての素養といった物を使って行ってきた、神々との気やすさゆえのこちらにとっては大仰な事。そういった一切を、これまで巫女として、特別に扱われるだけの事をではオユキが手放すのかといえば。
「それで、オユキさん。きちんと回復したら、改めて教会に取りに行くでいいのですか」
「はい。いえ、トモエさんだけでも、恐らくは可能かと考えているのですが」
眠るオユキの横で、散々に人を集めた上で滾々と説教をしたうえで。
季節の果物を切り分けるため手に持た上でオユキにトモエが声をかける。
言ってしまえば、今回にしても結局確認したい事があるから、それ以上でもそれ以下でもないのだ。周囲に集めた者たちが、一体何を言い出しているのかと、それこそセツナとクレド以外は驚いた様子ではあるのだが、それこそ認識が甘すぎる。
オユキがトモエのために取った行動で、これまでの間に評価されていたこと、それを損なうような真似をするはずがないだろうというのに。
「流石に、今のオユキさんを置いてというのは」
「セツナ様がおられますし、カナリアさんも」
「お医者様の見立てを聞く人間は、必要でしょう」
「それも、そうですか」
「ええ。別でお伺いしても構いませんが」
「確かに、そこまで時間を頂くのも申し訳ないですね」
切り分けた洋ナシをオユキの口に運びながら、そうして話を。
果物の盛り合わせとでも言えばいいのだろうか、アルノーの手によって実にあれこれと用意はされているのだが、トモエが最低限の手を加えたいとそうした話をしたこともあり、いよいよ果物が籠に纏めて並べられているだけ。オユキは流石にこうしたことにまで気を回す事は無いのだが、それにしても一般的なという以上に配置に気が使われている。
一枚の絵画とでも言えばいいのだろうか。
静物画の題材として、確かにこれを描くこともあるのだろうとそう思えるだけの配置で用意されている。トモエでさえも、思わず崩すのに少々抵抗を覚えるほどに。だからこそ、こうして話がひと段落するまで時間がかかったと言う事もあるのだが。
「では、その、今度の事についても以前と同じくらいの」
「確か、その折には半月ほど、でしたか」
ただ、今回そこまでの時間を使ってしまえばローレンツに頼む予定の華国への移動が間に合うかどうかと、トモエが思わず首をかしげる。
オユキはオユキで、相も変わらず食欲は無いのかもしれないが、トモエがこうして手を加えた物に関しては特に疑問を持つことも無く。嫌がるそぶりも見せずに口に入れるのだから、今後しばらくはいよいよトモエもオユキの看病に時間がとられることだろう。王都で望まれている狩猟際、そこまではいかないのだとしても、乱獲するのはしばらく先の事となるだろう。散々に己の伴侶を使いつぶすような真似をしてくれているのだ、そちらに対する抗議としても暫く屋敷からでないというのは一つの手段でもある。トモエはそのように考えて、ここに至るまでの間にオユキとも話をしてそこには結論を得ている。
「その、回復に関しては前回と同じ期間がかかるかと言われれば」
「ふむ。妾が手を貸せば、こうして整えた部屋で過ごしていれば、確かにそれが無かったころに比べればと言うものではあろうが」
「セツナ様の手をとは言いましても」
正直な所、トモエとしてはセツナとの間である種の共通認識を持っていると考えてはいるのだ。
「そのあたりは、妾からはまずは幼子とその伴侶の間で話をせよとしか言えぬな。仮にそれが成ったとして、妾が手を貸すのかは、また別の話ではあるのじゃがの」
「あの、セツナ様、いえ、トモエさん」
「ここらで、オユキさんには一度反省をしていただくのも良いかとは思いますが」
「その、新年祭までには、どうにか」
「まだ二月以上はありますし、これまでの事を考えればローレンツ卿であれば」
華国迄の距離、実際どの程度かはトモエにしても理解が及んでいないのだが神殿の位置関係とでも言えばいいのだろうか。以前に、ロザリアに尋ねたときに言われた距離。それくらいはトモエも覚えている。特別に遠い物、俺らは間違いなく神国の周囲にある国、それを隔てた先だ。それにしても、ロザリアが話していたよりも早くテトラポダにたどり着いているのだ。
「華国の神殿までとなれば、間に必要な事を考えたとしても二月もあれば十分でしょうな」
「その、それは」
「風翼の礎を運ぶ、これに関しては既に国事と考えられております。第五騎士団の内、選抜された者たちが常にある程度は待機をしておりますれば」
「同道する、外交官と言えば良いのでしょうか」
「そちらに関しましては、既に魔国とのこともあります。即ち、実際の交渉は門を設置してからでも問題が無いとそのように」
騎士達が他国で神殿に運ぶのだと公言し。それを行う。
確かに、こうした神々の実在が無ければ難しいようなことにしても、こちらの世界であれば神々の名を騙り、その意思を虚言として語ればただではすまぬ。そして、巫女として公にこれまで振る舞った実績が、より確かな物とする。脅しにも近いほどに。
「では、オユキさん」
「いえ、私が回復をしてからで」
「急ぎでは、無いのですか。過剰に無理を、それをオユキさんは」
「確かに、そうなのですが」
オユキが避けようとしている言葉。それに関しても、トモエは気が付いている。実のところ、トモエでも構わないのだ。オユキの言が正しいのであれば。言ってしまえば、既に必要な事はなされている。オユキの言が正しいとすれば後は切欠だけなのだ、必要なのは。
「そういえば、これまでを考えれば私たちの、いえ、こちらでは異空と流離を司る事となっているお方ですが、既に用意があるとか」
「ふむ。妾のあずかり知らぬところではあるが」
「それは、そうでしょうとも。ええと、此処までの話を纏めてお伺いした時に、族長様からも既に礎の数は十分にあると聞かされていますから。要は、それを与えるに足る物が無ければと言う事か」
「ええと、それにしても実のところあと三つほどは問題が無いと」
そこまで口にしたカナリアが、途端に口を閉ざす。
間違いなく、失言の類ではあるのだろう。何やら、口に出すのも恐ろしいとばかりに顔を青ざめさせて、体が発作のように震えている。成程、監督役、教育係、そうした相手が常々カナリアの言動というものを確かに監督しており、都度必要な言葉を届けているらしい。閉ざされた場だというのに、一体どのようにして。それに関しては、今後間違いなく対応策を考える必要があるだろう。
いつぞやカナリアの語っていた言葉。観察を好む種族だという言葉。有り余るマナを、人程度ではどうにもならぬほどのマナを保有するかの種族にとっては、大地に生きる者たちの生活を具に見ることなど何ほどの事でも無いのかもしれないが。
「ええと、カナリアさんと、翼人種の方々への対策は今後考えるとしまして」
「そうですね、今はそれよりもオユキさんの体調と、ローレンツ様に無理のない日程を、それが重要ですから」
「ただ、トモエさんが教会、ないし神殿にお一人でというのは」
「オユキさんが現状を得ていますし、名代としてというので問題が無いのでは」
トモエとしては、オユキの代わりを務める事に何一つ問題を感じていないのだ。だからこそ、こうして場を用意したうえで色々と問い詰めて。さらに、此処で他の物たちからの追認を得るつもりでいたのだ。何も、オユキばかりに負担を与えなくても良いのだと。少なくとも、今回オユキが無理をしたのはトモエの望みをかなえるため。ならば、その分を、これまでの分までを含めてと考えてのうえでの事ではあるのだが。
「その、トモエ様、それに関しては時期尚早かと」
「そうですね。正直な所、内々ではお二人の関係は知られていますが」
だが、セツナとクレドからはいくらか乗り気な視線を感じているというのに、神国の者たちからは問題があるのだとあまりにもはっきりとした態度が返ってくる。言葉の端々では、流石にオユキと違ってトモエはよく分からぬ。だからこそ、オユキは理解が有るのかとトモエが視線に力を込めてみれば、握る手に僅かに力を入れてみれば。
「その、新年祭で改めて家の登録と、そのあとに婚姻を正式に」
そして、トモエに体を隠すようにして、そろそろ眠気がオユキを襲っているというだけではなく、気恥ずかしい、隠していたことをこんな場でと言う事でもあるには違いなく。
「ええと、その程度の」
「トモエさん、こちらではやはり大事なのです」
「オユキ様にはご理解いただけているようですが、トモエ卿にも家についての理解はあるものとばかり」
「いえ、私も最低限の理解はあるつもりでしたが」
寧ろ、こちらに来るまでであれば、オユキよりも理解をしていたはずではあったのだ。つまり、こちらに来てから離れている間。トモエが家を出て、かつてとは逆の立場になってからというもの、そうした理解で随分と水をあけられている様子。トモエとしては、何処か寂しさを覚える反面、嬉しくもあるのだ。かつての己が費やした事、基本としては道場や流派の事ばかりではあったのだがそれ以外にも心を砕いていた事柄。それを、オユキがこちらで行ってくれているというのは、確かに嬉しい物でもある。
「その、オユキさん、ですがその前までにと」
「ですから、最低限が戻ればと」
「それまで待って、ローレンツ卿はそれこそ」
では、オユキが己の足で動けるまでを待ち、風翼の礎を教会に取りに。そこから華国までの移動が間に合うのだろうかと、トモエがローレンツに視線を向ければ。
「お望みとあらば、万難を排して」
つまるところ、今回得ることが出来なかった。ここに来て初めて、こちらに来てからごく短い期間に散々に使徒の子供として行ってきたこと、その立場故の都合のよさ。さらには異邦人としての素養といった物を使って行ってきた、神々との気やすさゆえのこちらにとっては大仰な事。そういった一切を、これまで巫女として、特別に扱われるだけの事をではオユキが手放すのかといえば。
「それで、オユキさん。きちんと回復したら、改めて教会に取りに行くでいいのですか」
「はい。いえ、トモエさんだけでも、恐らくは可能かと考えているのですが」
眠るオユキの横で、散々に人を集めた上で滾々と説教をしたうえで。
季節の果物を切り分けるため手に持た上でオユキにトモエが声をかける。
言ってしまえば、今回にしても結局確認したい事があるから、それ以上でもそれ以下でもないのだ。周囲に集めた者たちが、一体何を言い出しているのかと、それこそセツナとクレド以外は驚いた様子ではあるのだが、それこそ認識が甘すぎる。
オユキがトモエのために取った行動で、これまでの間に評価されていたこと、それを損なうような真似をするはずがないだろうというのに。
「流石に、今のオユキさんを置いてというのは」
「セツナ様がおられますし、カナリアさんも」
「お医者様の見立てを聞く人間は、必要でしょう」
「それも、そうですか」
「ええ。別でお伺いしても構いませんが」
「確かに、そこまで時間を頂くのも申し訳ないですね」
切り分けた洋ナシをオユキの口に運びながら、そうして話を。
果物の盛り合わせとでも言えばいいのだろうか、アルノーの手によって実にあれこれと用意はされているのだが、トモエが最低限の手を加えたいとそうした話をしたこともあり、いよいよ果物が籠に纏めて並べられているだけ。オユキは流石にこうしたことにまで気を回す事は無いのだが、それにしても一般的なという以上に配置に気が使われている。
一枚の絵画とでも言えばいいのだろうか。
静物画の題材として、確かにこれを描くこともあるのだろうとそう思えるだけの配置で用意されている。トモエでさえも、思わず崩すのに少々抵抗を覚えるほどに。だからこそ、こうして話がひと段落するまで時間がかかったと言う事もあるのだが。
「では、その、今度の事についても以前と同じくらいの」
「確か、その折には半月ほど、でしたか」
ただ、今回そこまでの時間を使ってしまえばローレンツに頼む予定の華国への移動が間に合うかどうかと、トモエが思わず首をかしげる。
オユキはオユキで、相も変わらず食欲は無いのかもしれないが、トモエがこうして手を加えた物に関しては特に疑問を持つことも無く。嫌がるそぶりも見せずに口に入れるのだから、今後しばらくはいよいよトモエもオユキの看病に時間がとられることだろう。王都で望まれている狩猟際、そこまではいかないのだとしても、乱獲するのはしばらく先の事となるだろう。散々に己の伴侶を使いつぶすような真似をしてくれているのだ、そちらに対する抗議としても暫く屋敷からでないというのは一つの手段でもある。トモエはそのように考えて、ここに至るまでの間にオユキとも話をしてそこには結論を得ている。
「その、回復に関しては前回と同じ期間がかかるかと言われれば」
「ふむ。妾が手を貸せば、こうして整えた部屋で過ごしていれば、確かにそれが無かったころに比べればと言うものではあろうが」
「セツナ様の手をとは言いましても」
正直な所、トモエとしてはセツナとの間である種の共通認識を持っていると考えてはいるのだ。
「そのあたりは、妾からはまずは幼子とその伴侶の間で話をせよとしか言えぬな。仮にそれが成ったとして、妾が手を貸すのかは、また別の話ではあるのじゃがの」
「あの、セツナ様、いえ、トモエさん」
「ここらで、オユキさんには一度反省をしていただくのも良いかとは思いますが」
「その、新年祭までには、どうにか」
「まだ二月以上はありますし、これまでの事を考えればローレンツ卿であれば」
華国迄の距離、実際どの程度かはトモエにしても理解が及んでいないのだが神殿の位置関係とでも言えばいいのだろうか。以前に、ロザリアに尋ねたときに言われた距離。それくらいはトモエも覚えている。特別に遠い物、俺らは間違いなく神国の周囲にある国、それを隔てた先だ。それにしても、ロザリアが話していたよりも早くテトラポダにたどり着いているのだ。
「華国の神殿までとなれば、間に必要な事を考えたとしても二月もあれば十分でしょうな」
「その、それは」
「風翼の礎を運ぶ、これに関しては既に国事と考えられております。第五騎士団の内、選抜された者たちが常にある程度は待機をしておりますれば」
「同道する、外交官と言えば良いのでしょうか」
「そちらに関しましては、既に魔国とのこともあります。即ち、実際の交渉は門を設置してからでも問題が無いとそのように」
騎士達が他国で神殿に運ぶのだと公言し。それを行う。
確かに、こうした神々の実在が無ければ難しいようなことにしても、こちらの世界であれば神々の名を騙り、その意思を虚言として語ればただではすまぬ。そして、巫女として公にこれまで振る舞った実績が、より確かな物とする。脅しにも近いほどに。
「では、オユキさん」
「いえ、私が回復をしてからで」
「急ぎでは、無いのですか。過剰に無理を、それをオユキさんは」
「確かに、そうなのですが」
オユキが避けようとしている言葉。それに関しても、トモエは気が付いている。実のところ、トモエでも構わないのだ。オユキの言が正しいのであれば。言ってしまえば、既に必要な事はなされている。オユキの言が正しいとすれば後は切欠だけなのだ、必要なのは。
「そういえば、これまでを考えれば私たちの、いえ、こちらでは異空と流離を司る事となっているお方ですが、既に用意があるとか」
「ふむ。妾のあずかり知らぬところではあるが」
「それは、そうでしょうとも。ええと、此処までの話を纏めてお伺いした時に、族長様からも既に礎の数は十分にあると聞かされていますから。要は、それを与えるに足る物が無ければと言う事か」
「ええと、それにしても実のところあと三つほどは問題が無いと」
そこまで口にしたカナリアが、途端に口を閉ざす。
間違いなく、失言の類ではあるのだろう。何やら、口に出すのも恐ろしいとばかりに顔を青ざめさせて、体が発作のように震えている。成程、監督役、教育係、そうした相手が常々カナリアの言動というものを確かに監督しており、都度必要な言葉を届けているらしい。閉ざされた場だというのに、一体どのようにして。それに関しては、今後間違いなく対応策を考える必要があるだろう。
いつぞやカナリアの語っていた言葉。観察を好む種族だという言葉。有り余るマナを、人程度ではどうにもならぬほどのマナを保有するかの種族にとっては、大地に生きる者たちの生活を具に見ることなど何ほどの事でも無いのかもしれないが。
「ええと、カナリアさんと、翼人種の方々への対策は今後考えるとしまして」
「そうですね、今はそれよりもオユキさんの体調と、ローレンツ様に無理のない日程を、それが重要ですから」
「ただ、トモエさんが教会、ないし神殿にお一人でというのは」
「オユキさんが現状を得ていますし、名代としてというので問題が無いのでは」
トモエとしては、オユキの代わりを務める事に何一つ問題を感じていないのだ。だからこそ、こうして場を用意したうえで色々と問い詰めて。さらに、此処で他の物たちからの追認を得るつもりでいたのだ。何も、オユキばかりに負担を与えなくても良いのだと。少なくとも、今回オユキが無理をしたのはトモエの望みをかなえるため。ならば、その分を、これまでの分までを含めてと考えてのうえでの事ではあるのだが。
「その、トモエ様、それに関しては時期尚早かと」
「そうですね。正直な所、内々ではお二人の関係は知られていますが」
だが、セツナとクレドからはいくらか乗り気な視線を感じているというのに、神国の者たちからは問題があるのだとあまりにもはっきりとした態度が返ってくる。言葉の端々では、流石にオユキと違ってトモエはよく分からぬ。だからこそ、オユキは理解が有るのかとトモエが視線に力を込めてみれば、握る手に僅かに力を入れてみれば。
「その、新年祭で改めて家の登録と、そのあとに婚姻を正式に」
そして、トモエに体を隠すようにして、そろそろ眠気がオユキを襲っているというだけではなく、気恥ずかしい、隠していたことをこんな場でと言う事でもあるには違いなく。
「ええと、その程度の」
「トモエさん、こちらではやはり大事なのです」
「オユキ様にはご理解いただけているようですが、トモエ卿にも家についての理解はあるものとばかり」
「いえ、私も最低限の理解はあるつもりでしたが」
寧ろ、こちらに来るまでであれば、オユキよりも理解をしていたはずではあったのだ。つまり、こちらに来てから離れている間。トモエが家を出て、かつてとは逆の立場になってからというもの、そうした理解で随分と水をあけられている様子。トモエとしては、何処か寂しさを覚える反面、嬉しくもあるのだ。かつての己が費やした事、基本としては道場や流派の事ばかりではあったのだがそれ以外にも心を砕いていた事柄。それを、オユキがこちらで行ってくれているというのは、確かに嬉しい物でもある。
「その、オユキさん、ですがその前までにと」
「ですから、最低限が戻ればと」
「それまで待って、ローレンツ卿はそれこそ」
では、オユキが己の足で動けるまでを待ち、風翼の礎を教会に取りに。そこから華国までの移動が間に合うのだろうかと、トモエがローレンツに視線を向ければ。
「お望みとあらば、万難を排して」
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