憧れの世界でもう一度

五味

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34章 王都での生活

移る色

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「あなた達も、こちらに来ていたのですね」
「あー、ねーちゃんが頼んでって事もできるらしいけど」
「うん。まだ、リース伯爵家の人たちは色々と忙しいみたいで」
「ウニルに残って、レジス家とラスト家の間にも入らなきゃいけないからって」
「あちらには、先代公爵夫妻もいたように思いますが」

オユキは、やはりすっかりと寝入ってしまったらしい。湯船につけてと言う事までは流石にしていないと聞いているのだが、それでも長い髪を洗い。汗を流すには、それなりの時間がかかる。それだけでは無く、日々色々と使っている化粧品の類もある。未だに幼い見た目をしているとはいえ、こちらの世界で過去の事がどれほど通用するかはトモエも理解が及んでいないとしても。用意を頼めば、きちんと必要だと思われr物が用意される以上は、共通の認識であるらしいものをまずは落とすところから始まると言う事もある。そうした時間を使っていく結果として、オユキはやはり疲労にそのまま負けたのだとそうした話を聞いた後に。オユキが未だに体を洗われている間は、アルノーと色々と相談しながら具材を選んで一先ずパピヨットの用意を終えて庭先に出てきてみればそこには先客がいた。
他の者たちは、クレドとセツナについてはオユキに話があったのだろう。もしくは、流石に外に長くいるのは難しいからか。

「えっと、任せてばかりも問題があるとかで」
「それは、リース伯にしても変わらないのでは」
「今は、一応公爵様の領地で、引継ぎとしてリース伯に話が回っていたらしくって」
「そのあたりは、オユキさんの領分なので、私は詳細を聞かねば判断が出来ないのですよね」

そして、数時間前から変わらず席についている異邦人二人に視線を向けるのだが、カリンは真っ先に視線を逸らす。同じようなと言う訳でもないのだが、それでも近しい気質を持っている相手でもあるため、成程期待が出来ないものであるらしいとトモエは納得を一つ。

「簡潔にまとめてしまえば、引継ぎの段階の問題なのでしょう。この子たちも、一応の納得を得てはいるようですけれど、それでも覚えていない。要は、内情として引き継ぐことが、公爵領の一部を伯爵の領地とすることは決まっており、実質的な権限は先代から既に移っていたと言う事でしょう」

そうしなければ、流れる様にとはいかないのだからとそうしてヴィルヘルミナが笑いながら。

「ミーナ。私は、そのあたりは苦手だと」
「知ってはいるわよ。聞かされたもの。だけど、貴女の願いを考えたときには、この辺りもできないと、無理よ。貴女の生国でも、過去にこうした制度はあったはずだもの」
「それは、正直相応に人が集まれば段階として」
「ええ。学んでいるというのであれば、きちんとそれを活用しなくては。勿論、上手くできない事等いくらでもあるでしょうし、間違えることもあるでしょうけれど」

苦手意識を持ったままで、ただそれから目をそらすのは止める様にと。カリンに対して言葉を作りながらも、ヴィルヘルミナの視線がアドリアーナ以外に向けられる。この場にいる者たちは、いよいよ関わる機会が多いというのに、どうにも苦手にしている者たちばかりであり、それを分かっているからこそ誰かにとしている者たちなのだから。

「でも、えっと、ヴィルヘルミナさんも」
「苦手な事は、ええ、私にもあるもの」

だが、彼女の付き人として教会から召し上げられた子供からこちらも色々と聞いているからだろう。アナが、ヴィルヘルミナのほうでも、そうした問題があるだろうと。言ってしまえば、身の回りの事に関しては、いよいよ人に任せているのではないかと。

「でも、最低限は、これでもしているのよ。それこそ、あの子にはまだ舞台に立つための衣装をどう選ぶのか、化粧の選択を、そうしたことは早い物」

カリンに対して、そのあたりはそちらも理解が出来るだろうとヴィルヘルミナが視線を向けて。

「それは、そうでしょうけど。私にしても、そのあたりは自分でやっていますし」
「要は、貴女が出来る事、その一部を使って私は他にも力を入れている、それだけのことですもの」
「結局、ミーナが言いたい事はそれですか」

どうやら、何かの含蓄がある言葉では無く、言い訳の類に使うためではあったらしい。だが、歌姫としてあちらこちらで請われるままに歌声を響かせる彼女が、そうした前置きを作った様に。それこそ、彼女はそのあたりが上手いというのは間違いはない。オユキにしても、カリンよりもヴィルヘルミナのほうを高く評価している。
それは、オユキがかつての世界でも度々行っていたように、人の輪に混ざることで色々と情報が得られることを知っているから。

「ええと、そちらは一先ず置いておきまして、皆さんも、色々と頼むこととなってしまいましたが」
「いや、それは別にいいよ。色々と受け取ってばかりってのは、やっぱり俺もどうかとは思うし」
「ね。始まりの町で出来る事だったり、そうしたことがあるなら色々と言ってくれればいいのに」
「流石に、皆さんに対しては頼みにくい事もありますので」
「頼みにくい事、ですか」
「どういえばいいのでしょうか、感覚としては子供のような、といえば近いのでしょうか」

言ってしまえば、トモエの中ではこの少年たちというのはすっかりと自分たちが保護するべき対象となっているのだ。何か仕事を任せてというのは、やはり気が引ける。

「こちらでの感覚、いえ、常識とでもいえばいいのでしょうか。やはり、未だに馴染めていない部分も大きいですから」
「あら。あちらでも、自分の子供にお使い位は頼んでいたはずだけれど」
「それは、そうなのでしょうが」

ヴィルヘルミナから、揶揄う様に言われるものだ。トモエは、随分と過保護なのだなと。だというのに、眼を話して、自分の子供のように考えているといいながらも、彼ら自身での生活をさせているではないかと。トモエにしても、彼女の言いたい事は分かる。トモエ自身、矛盾しているなと感じる部分は、確かに大きい。それでも、自分の都合であれこれとこの少年たちに頼むというのは気が引けるのだ。今一つ、理由は言葉にできないのだが。
この辺りは、トモエ自身が己の課題と考えながらも結局はオユキに、自信の家族に甘えてきた部分。どちらもが、トモエの少ない言葉に、拙い言葉で色々と察してくれていたものだ。
振り返ってみれば、父の跡を継いでから順調に道場に通う者たちが減っていったのは、トモエの教え方に難があったからかもしれないとその様な事を考えてしまう。こちらの世界に来て、改めて教える立場を少し得てみて。少年たちのように、只トモエがどのように動くのかを真剣に真似ようとする相手は、確かに伸びている。こう動くのだと、体に直接触れて、直すことをすれば他の者たちにしても少しはまともになる。そういった事を、言葉で伝えられれば少しはと、そんな反省が今でもトモエの中にはある。恐らく、少年たちに対しての遠慮という部分にしても、そのあたりが起因しているのだろうと、そんな事を考えて。

「一度置いておきましょう。私としても、向き合ってからなかなか時間が取れていない事ですから。それよりも、カリンさんは今回の闘技大会には」
「ええ。勿論、参加しますとも。加護を排し、技だけでというのであれば尚の事私の見せ場とできますから」
「私は、観戦にといいたいところだけれど、幾つか仕事を頼まれているのよね。水と癒しの神殿から」
「鎮静の祈りでしょうか」
「他にも、前後での儀式でもよ。私の歌を求めてくれるのは嬉しいのだけれど、かつての世界の物をこちらでもというのは、やはりあまり芸が無いのよね」
「ヴィルヘルミナさんは、こちらで新しく作っている物もあった様に思いますが」
「お披露目をするには、少し自信が無いのよ。かつては、あなたにとってのオユキのように」

ヴィルヘルミナは、まず己の作ったものを見せる相手がいたのだと。そして、それは既に失われてしまったのだと。こちらで、新しく作ればいいのではないかと流石にトモエはその様な事を考えることもできずに。己の事を考えれば、己がどれほどオユキに対して依存しているのかを想えばとてもではない。

「こちらならではと、そこまではいわないけれど」
「そうね。一応は。だけど、思っていたよりも楽器の数も、種類も少ないのよね。倉庫には残されていると聞いているけれど、使う奏者が居ないんですもの」
「弊害は、やはり多そうね」
「ええ」

こちらの世界が、過去に置いていくとしたもの。それがこうしてここでも。
オユキとも、トモエは少し話したのだが。かつての世界と、この世界と。そこが、どうしたわけか接続が一時とは絶たれ。その結果と言えばいいのか、かなり大きな皺寄せがこちらの世界には残されている。オユキは、入れ子構造等と言っていたものだし、こちらに来るにあたっての、恐らく間違いのないこの世界の創造神の言葉もある。いよいよ時間軸等どうとでもできる相手のようにも思えるのだが、やはり人のみではその様な事まで分かるはずもない。

「そのあたりは、今後に期待といいますか、いえ、間口を広げなければなりませんか」
「少し、長くなりそうだわ。神国だからと、そうした話も聞いてはいるのだけれど、今回後に回してしまったでしょう」
「美と芸術、でしたか」

オユキが気が付いた、というよりも、トモエがどこか気にしているそぶりを見せていることに気が付いて、そこで改めて考えた結果とでもいえばいいのだろう。カリンとヴィルヘルミナが隠していること、オユキには伝えないようにしていることがあるのだと、トモエが気が付いた。そして、そこから少し考えればオユキでも分かるというものだ。各々が、一応は隠そうと、表には出さないようにとしているのだが、それでもこうしてそれぞれが役割を与えられた柱の神殿に、置かれている国に対して明確に言葉を作るのだから。

「次、だと期待してもいいのかしら」
「さて、そればかりは少し難しいかと」
「他に老師とオユキが気にかける場所は」
「次に向かう先は、オユキさん王太子様に任せそうな気がするのですよね」

そう、今度の闘技大会の場で、オユキはまたしても確保するつもりでいる。勿論、氷の乙女の里への物こそ優先するのだろうが。だからこそとでもいえばいいのだろうか。本命ではない、残りの一つ。初めから各地の神殿へと置く様にと決められている物については、どうにもとにかくどこかへとそれくらいにしか考えていない様子なのだから。
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