憧れの世界でもう一度

五味

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32章 闘技大会を控えて

不満

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神を大量に降ろした結果として、オユキはせっかく休暇に魔国を選んだというのにどうにもならぬほどの負荷を追う事になった。少年たちが、見舞いに来た時にはまたかと言わんばかりの表情を揃って浮かべており、オユキとしても改めて信頼が痛い物だとそんな事を考えた。そうして、色々と用意されているオユキのための道具、それらをきちんと取り上げられて、挙句の果てにはセツナの指示の元、あらゆる加護を抑えるための戦と武技から与えられた指輪を基本として身に着けるように言われ。そうしてみれば、いよいよトモエの助けが無ければ体が動かせないとそんな状態だと改めて思い知らされたものだ。
流石にこうなっては、オユキとしてもトモエに告げた手前正式に今回の闘技対価については不参加の旨をトモエを通して神国に送るという流れになったものだ。しかし、戻ってきたミリアムが携えていた、一通の書簡。それを読んだオユキの激情をさて、誰が責められるというのだろうか。

「その、流石に私に言われても困るのよ」

ミリアムと同席するのは、あくまで広間が基本となっている。しかし、今の底は屋内だというのに吹雪が支配する空間となっている。なんだかんだと病床に縛り付けられている間、セツナとカナリアにこの機会を逃すなとばかりに散々に魔術の鍛錬をさせられた結果だろう。加護に、マナを回さずに過ごした時間、こちらに来たばかりの頃に創造神から与えられた功績からトモエの持つ、トモエが外に狩に出て得た余剰、これがオユキに向かって流れたこともあるのだろう。未だに、オユキ自身には最初に得た魔術の分割などと言う事は出来ない。だが、こうして激情に駆られてみれば、周辺の環境を変える程度の事は出来る程度には進捗がみられている。
そして、そうしたオユキのどうにもならぬ怒りの、八つ当たりとして怒りのはけ口とされているアイリスはと言えば、もとより属性が氷と言う事もあり何するものぞと実に平然としている。握りこんだ後に、机に落とした手紙、国王からの通達が書かれたその手紙は既に氷の中に閉じ込められたというのに。

「貴女の言い分というか、感情のやり場が無いのは分かるのだけれど、同じ位を頂いているんだもの」
「アイリスさんが、断って頂けばよいだけでは」
「そうしても良いのだけれど、私にしても参加に対して難色を示されているのよ」
「それは、確かに書いてありましたが」

曰く、オユキが体調不良により試合の場にたてぬというのならば。優勝者が戦と武技の巫女との戦いを望むというのであれば、褒美としてそれを望むというのならば。同じ位を持つ、アイリスに行わせるのだとそう書かれていた。そして、トモエにしてもオユキが当日もしっかりと体調不良を抱えているのならば、というよりもトモエがそちらに対して否定的である以上は、そもそも望みはしないだろう。アイリスにしてみれば、その怒りはトモエに向けよと、そう目が語っているのだが、そこは既に話が終わっているためにオユキも今更どう言えるようなものではない。トモエはそれが分かっているからこそ、オユキを窘めるような視線を送りつつのんびりと用意されているお茶に口をつけている。
他方、オユキに魔術を、マナの扱いを教えていた二人はと言えば、こちらは今のオユキが激情に駆られて発動している種族の特性とでも言うべきものをただただ暢気に評価している。そちらにしてみれば、己の教えた成果がまさに今発揮されているのだ。これ幸いにと、これが良い機会だと考えるのは然も在りなんというもの。曰く、人としての生を受けた割に覚えが早い、これまでは本当に興味が無かったのだと少々オユキの振る舞いに対して不満を覚えるカナリアと。セツナのほうでははっきりと。幼子と、種族の長から見ればはっきりと分かるというのに、ようやくと言わんばかりにこちらも不満をはっきりと。要は、教師役が両者揃って不満を覚えてオユキを見ている。

「というよりも、貴女、気が付いていなかったのね。そもそも、トモエはトモエで年齢の制限がかかっているのだと」
「トモエさんは、全年齢を対象としたものに」
「トモエ、オユキに説明していなかったの」

そして、アイリスの言葉で、矛先を変えろとばかりにトモエが巻き込まれる。ミリアムの体調を慮ってというよりも、極端に寒さに弱いこの人物を少しくらい考えろと言わんばかりに、アイリスはそちらにも視線を向けて。オユキは、いよいよもって遠慮が無いとでもいえばいいのだろうか。過去のオユキの行状を知っていると、そんな発言もあったのだ。ミリアムに関しては、いよいよオユキの中でも別枠とでもいえばいいのだろうか。リース伯令嬢よりも、さらに厳しい対応をどうしたところでとっている。オユキにしても自覚はあるものだが、どうにも抑えが効かない。ミリアムに向ける感情、それをどういえばいいのかについても、オユキとしては今一つ理解が及んでいないのだ。リース伯令嬢については、はっきりと申し訳なさというのを感じている。彼女にかかる負荷については、少年たちを無理を言って取り上げることが無かったことからもきちんと配慮を示そうと、オユキはそう考えることが出来る。だが、ミリアムに関してはやはり色々と難しい。政治闘争が苦手だと、己の伴侶に、後からその位を継いだ者たちから当然とばかりに遠ざけられるほどに苦手としているのだと、それくらいは理解ができる。

「オユキさん、流石に私から言い出した事ですから、そこにあまりは無理は」
「ですが、年少者と社会人、そこで分けるだけで」
「区分としては、学生もありますよ。と言いますか、こちらであれば壮年としてまた分けないと難しそうなので、そうした区分をもう一つ。要は、未成年、青年、壮年とその三種として頂いたわけです」

そして、そこには不可逆、下の年齢が上に挑戦することを止はしないが逆は不可とした決まりを作った。以前には戦と武技からはっきりと年に少なくとも二回と言われていることもある。次期については、新年祭から二月後、ダンジョンの糧を喜ぶ祭り、それと同じ時期に言われているために神国の文官衆はかなりの難色を、それこそマリーア公爵から散々にどうにかならないのかとそうした連絡が来る程度には難しい日程ではあった。この問題に関しては、トモエでは無くオユキが神国の威を周辺国に見せるには実に都合が良かろうと、出品した物に、特に気に入ったものについては神々が印を与えるという話なのだ。周辺国と神国にどれだけ神の恩寵による差があるのか、それを示すまたとない機会になるだろうと、そうして説得は行えている。
では、もう一回のほうは、今回行われるものはどうなるのかとそうした話もある。
特に今回に関しては、武国の者たちが初めて参加をすると息巻いていることもある。ファルコが何やら魔国の若者たちの幾人かを誘っているのだと、そうした話も聞いている。しかし、問題としてはあまりにも明確に格が落ちるのだ。他に行う祭りが存在しない時に行われる闘技大会等と言うのは。ただでさえ、観客が少ない事が常となっているような、一応神国でも毎月行われているもの。では、これは本祭の前哨戦となるのかと未だにそうした議論が行われているものだ。そうした流れを、すっかりとそのあたりはオユキから引き取ってしまい、トモエが今は主体として相談されていることを改めてオユキに説明すれば、オユキもどうにか留飲を下げる。
既に部屋にはそれなりに雪が積もり、周囲のいくらかには霜も張っている。この惨状を片付けなければならない者たちは、何やら少し遠い目をしていたりもするのだが、そのあたりは諦めてもらうしかないとして。

「オユキさんだけに我慢を強いるというのは、やはり私の望むところではありませんから」

そして、トモエは一度アベルに視線を向けて。

「私も、已む無くではありますが、今回は大人しく青年の部で参加しようかと」
「それは。ですが、トモエさん」

数少ない機会ではあるのだ、トモエが、楽しめるかは分からないのだが、少なくとも楽しみの一つではあるはずなのだ。

「オユキさんが参加しない大会であれば、正直な所期待はできませんから」
「その、武国、いえ、そうですね」

武国からも、参加者は来るはずだ。オユキがそう口にしてみるのだが、一応武国で公爵の位を得ているアベルの父親。神国の現国王陛下の兄。その取り巻き、というよりも彼を監視し護衛を兼ねる相手を既に見ているのだ。そして、結果としてトモエは既に期待をしていない。もしも、万が一があるのならば。それこそ、在野の異邦人、こちらに流れてきて、権力者の庇護を求めずに済むような、そんな異邦からの物にしか、最早期待は出来ぬのだと既にトモエの眼がそう語っている。
勿論、加護を含めてと言う事であれば、圧倒的な上位者であることには変わりない。それこそ、己の生命をかけたところでオユキは勿論として、トモエですらもアベルに届くかと聞かれればただ首を横に振る。そして、上を見ればきりがないどころで済まないのがこちらの世界。

「私としては、私としても、何時か加護も含めた中でとは思うのですが」
「トモエさん」
「オユキさんは、最期の時には、どちらを望みますか」
「それは」
「ええ、そうでしょうとも」

単純な身体能力でいえば、性別の差がある、身体の差がある。こちらに来て、オユキが散々に痛感したように、肉体という面では何処までもオユキはトモエに劣っている。では、それを覆すための技はどうかと言えば、そもそもが皆伝と大目録。師と弟子。そこにも当然お話にならない程の差がある。では、それを覆すために歩き始めた道はと言えば、未だに目的地は遠く、歩き続けているのかといわれればそれも難しい。そして、ここ暫くの事で、オユキの体というのはどうにもマナへの依存が高いのだと実感させられる日々も続いている。
そして、最期の時に用意されている機械は一度だけ。
オユキが、トモエに挑むからこそ。トモエはオユキの選択に対して何も言いはしないだろう。

「で、話を戻してもらっても構わんもんかね」
「何を言う。夫婦の話し合い以上に大事な物など、あるまいよ」
「それを大っぴらにするのはどうかと、俺は思うんだが」
「ほう。それで、その方、幼子とその伴侶が二人の時間ばかりを求めれば、また要らぬ詮索をするというのに、よくもゆうた物じゃな」
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