憧れの世界でもう一度

五味

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31章 祭りの後は

借りた場に

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話の流れでという程でもなく、セツナから確認された事。オユキが、種族としての魔術とでもいえばいいのだろうか、特性とでもいえばいいのだろうか。そのあたり、短い期間で、他に誰もおらぬ中で身に着けることが出来たのかと問われることになった。
オユキが改めてここまでの己を振り返ってみて、覚えた物は一つだけだとそうした話をしてみればでは一先ず使って見せよとそうした話をセツナにされることになった。だが、生憎と今はトモエが色々と教えている最中でもあるし、クレドも何やら随分とのびのびと己の腕を振るっている。振るった先で魔物に起きた事、地面をえぐったと分かる土埃などを見れば、どうやら爪を使っているのだと分かるのだがその程度。対応するには、オユキであれば、腕の振りを見てそこからだろうかと考えて。そして、そうしたオユキの視線がセツナに伝わったのか何やら少々機嫌を損ねたと分かる雰囲気に切り替わる。
オユキが己の内にある文字に意識を向けて、そこにマナらしきものを放り込んだ時に起こるような、周辺環境を容赦なく変えるような物でも無く。ただただ、セツナからオユキに向けて、氷交じりの空気が、風がゆるりと流れる。オユキとしては、そうした空気は己にとって心地いい物ではないかと考えているのだが、どうにもきちんとセツナのほうでも変えているようで、確かに剣呑と感じるものにはなっている。
そして、僅かに険悪な空気が流れているからだろうか、護衛についてきているシェリアが僅かに警戒を見せるのだが、そちらには問題ないと改めて示したうえで。

「セツナ様は、宜しいのですか」
「良人が楽しんでおるのじゃ。ならば妾はそれを待とうとも。そうして妾に尋ねるその方こそ、思う所があると言った様子」
「それは、はい」
「良いのか」

改めて口にされれば、オユキとしても叶うならとくらいには思うのだ。トモエは、結界の外で少年たちを連れて魔物を狩っている。己が、何故その隣に立っていないのかと、そんな事は常々考えている。だが、体調が戻っていないとトモエが判断している間は流石に許されない。今後、トモエも良いと考えていることの一つとして、門を一つ手に入れようとそう話が二人の間でまとまったこともある。そのためにも加護をためなければいけないのだが、それができるのはやはりまだ先だとその理解は互いに。

「良くは、ありませんが」

理解はしている。納得もした。だが、それでオユキが何も思わないのかと言えば、当然そんなはずもない。

「まぁ、妾もそうであるからな。というよりも、そのあたりは妾達氷の乙女の種族に基本として共通しておる。無論、縛られぬものもおるにはおるがの」
「私は、生前からこうした気質があったと自覚はしていますから。フスカ様、セツナ様が炎熱の鳥と呼ぶ方々にとっては、許しがたいと言われるほどには」
「あの者たちは、とかく妾達とは相性が悪い」

苦笑いと共に、そう告げられる。

「その方も、何やら知っていると言わんばかりではあるが」
「お伝えしていたとばかり考えていましたが、はい、一度手ひどくやられていますので」

そして、今となっては傷跡も残っていない己の腕を一撫で。

「妾としても、こうして生きるのに必要である以上は妄執などと呼ばれても困るのじゃがな」
「全くです」

互いに、伴侶に対して向ける物。それが酷く似通っているのだと、そうした共感が確かにある。

「ふむ、あれは」
「おや、当家の馬車ですね」

そんな事を話していれば、トモエが少年たちと狩場としている方向とはまた少し違う所から。家紋として、既に登録されているファンタズマ子爵家の紋章を掲げた馬車と騎兵の一団が移動してきている。まだ少し離れてはいるのだが、既に移動の速度をきっちりと抑えている。こうして、狩猟をしている一団に気が付いてという以上に、トモエとオユキ、それからローレンツの姿に気が付いての事だろう。

「話をすればと言う事も無かろうが」
「おや。とすると、あの中にはカナリアさんとイリアさんが乗っているわけですか」

苦々し気にセツナが口にした内容に、オユキが後続の者たちが来たのだろうと判断する。トモエによって、オユキは今度ばかりはまさに逃げる様に魔国に来たこともある。こちらに到着したという報せについては、既に神国にも魔国にも出している。こうして気軽に外出はしている物の、面会については一先ず暫くの間は、それこそカナリアの到着と彼女の診察を一度待ってからだと正式な宣言として併せてしっかりと記載をして。
ならば、明日にでも改めてカナリアに頼んだうえで判断を仰ぐことにはなるのだろうと、オユキとしてはそんな事を改めて考えて。
そもそも、今は、色々とカナリアに頼まなければいけない事が立て込んでいる。彼女以外に、魔術に長けた知り合いがいないというのも、困ったものではある。メリルが一時期は同行してくれていたのだが、今は馬車に関連することに加えて、魔石の調整でどうしても人が足りないからという話であり分かれている。

「カナリアと言うと、その方が確か言っておった」
「はい。私の身の回りを整える事を頼んでいる方です。その、セツナ様にはお手間をかけますが」
「妾としては、こうして離れていても分かるほどに気配の濃い相手とは、正直側に居たくも無いのじゃが」
「そちらにつきましては、ええ、補償はセツナ様の望むままに」

気に入らないと、視線がはっきりと語っている。何よりも、そうした素性の相手が、本当に己の種族が楽に暮らすための場を整えることが出来るのかと随分とはっきりと懐疑的な視線を向けてくれるものだ。

「此処までの間、確かにカナリアさんの手で助けて頂きましたから」
「ほう。であれば、少し試しても」
「まずは、話をしてみてくださると、私としては有難いのですが」

セツナからの提案に、オユキからは何を言えるでもなく。
試すにしても、あまりに武力や魔術とでもいえばいいのだろうか。周囲に影響を及ぼす方法をとられてしまえば、ただでさえアイリスがどうにかと勝ち取って与えたはずの加護、それを今も変わらず使いつぶしている加護がさらに薄れることになるのは、想像に難くない。僅かの間というには、確かに期間が開いている。神に頼んだにしても、あくまで個人の願いとしてと言うものではあった。だからこそ、与えられたものをきちんと維持しなければならず、それを現在の魔国ではやはり行えていない。
既に、一部の騎士や傭兵たちが魔国の王都周辺で活動を始めている。なんとなれば、アルゼオ公爵領からと分かる騎士たちにしてもそれなりに数を増やして活動をしているというのに。まさに延命と、そういうしかない状況がこうして簡単に見て取れる。

「その方も、理解はあるようじゃの」
「まさかとは思いますが、セツナ様がこちらであまり力を振るえぬというのは」
「夏の気配が濃い事もあるが、それ以上にこの場からはあまり過剰に力を得る気にはなれぬ。妾が整えた場で、無論妾も回復をすることはできるが、それにしても使った物を取り戻すまでにやはり相応に時間がかかる」

どうにも、オユキが思うよりは、トモエが望むよりは難解な事であるらしい。

「何、そこまで気落ちをするでない。地に満ちる力が十分であれば、それこそ児戯にも等しい物よ。妾たちは、その名が示す通りにどうしたところでそこにいるだけで環境を変える。環境を変えずにはおれぬ。故に山奥にこもっていると言う事もある」
「それを、寂しく思う事は」
「無論あるとも。その方も伝承としての妾たちの祖、そちらに明るいようではあるからな。凡そ妾達のもつ寂しさ、祖霊から引き継いだもの、冬に連なる者たちが常に抱えるものばかりはどうにもならぬ。故に、妾は良人に感謝しておるとも。妾達の里に、己の求める物があまりないと知りながらも共にと、そう望んでくれた妾の良人から連なる種族に対して感謝をしておるのじゃ」

オユキとしても、確かにと頷くしかない。単一の種族だけで、後を増やすこともできずに。ただ、己たちが変える環境の中で。深々と降る雪、周囲を峻厳な霊残に囲まれてと聞いている、そんな場所に種族として暮らすことを選ばなければいけなかった、それを選んだ種族。勿論、セツナが言っていたように、それを望まぬ者たちとていいるのだろう。里から出る事を、一時は選択する者たちとているのだろう。そうした者たちを、かつて短い間だと思って送り出したときに、トモエとオユキが感じた以上の喪失感と共に見送って。

「だとすると、クレド様をはじめとする種族の方々は」
「冬の眷属では無いのは確かじゃな」
「春、と言う訳でもないのですね」
「四季の分類には入らぬ者たちよ」

四季の神、季節を司る柱。何も、この世界はそればかりではない。そんな事を、やはりオユキとしては忘れがちだと考えて。

「そろそろ、良いでしょう」
「ふむ。あの馬車が過ぎるまで待たぬでも良いのか」
「はい。トモエさんも、どうやら気が付いて引き上げる構えの用ですから」

少女たちのほうが、魔物を狩り足りないとそうした様子ではあるのだが、あちらはあちらでトモエは屋敷に引き上げてから纏めて直す心算なのだろう。シグルドとパウが、オユキから見ても問題があるにせよ日々きちんと体を動かし続けていたと分かるのに比べて、少女たちのほうはかつてのオユキと同じく最低限、それこそ日に数時間どうにかと言ったところ。それでも、見るものが隣に居り、正しく指導をしていればそこまで根深い物を残す事は無かったのだろうが、残念な事に彼女たちはそうでは無い。つまりは、こちらはいよいよほとんど初めからと言っても良いほどには直さなければならない。それでも、セシリアに関してはまだ綺麗な太刀筋で薙刀を振っているあたり、確かにトモエが才を評するだけの事はあるのだろう。

「私が使うものは、冬と眠りでしょうから」
「何、まずは使って見せるが良い」
「魔物が寝てしまうので、私としても使いどころが難しいのですが」

そして、セツナに言われるままに改めて己の内側に意識を向けて、魔術を使う。氷の乙女は、周辺の環境を望まぬとも書き換える。成程、それに近い形の魔術なのだろうと、オユキは改めてそう考えながら。

「あの子達が、体を冷やさねばいいのですが」
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