憧れの世界でもう一度

五味

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31章 祭りの後は

少女たちも

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セツナとオユキは、狩猟に関しては見ているだけ。一応、オユキもきちんと与えられている物を身につければ、多少は動けるのだがトモエが許していないと言う事もある。セツナについては、そもそも参加する気が無いというのが、よく分かる。確かに動きについては、まさに手弱女を絵にかいたような様子。しかし、どうにもトモエにとっては町の外に出てからという物、警戒をしなければと思う先がそのセツナである辺りが困りもの。
周囲の護衛にしても、特にシェリアがオユキの側から離れようとしないあたり、クレドが今も大いに周囲を動き回っては野の獣を主体にうち滅ぼしているのを眺めながらも。警戒としては、クレドに向けるよりもセツナに向ける割合のほうが強い。

「皆さんは、こちらは初めてでしたか」

シグルドとパウが、早々にそこらを動き回っている粘性の何か、スライムという名前らしいものやパペットという名前のマリオネットなどを相手取るのを眺めた後は、次はとばかりに少女たちも送り出す。勿論、こちらにも食肉を基本として落とす魔物にしても表れてはいるのだが、今はクレドが己の四肢を武器に散々に狩っているために残念ながらそちらが少年たちに回ってくる事は無い。
クレドのほうで満足が行く頃には、もしくは少年たちを屋敷の中に戻すころには叶うのならば丸焼きに使うための肉を得ようかとトモエはそれくらいには考えている。だが、セツナが何やらクレドの動きを嬉しそうに見ていることを考えれば、応えるためにと動くところを見ていればそれも少し怪しげな物ではある。落ちた魔物の肉を、これまたどういった方法でとトモエとしても内心で首をかしげるのだが、器用に馬車の側に放物線を描く様に移動の流れで弾き飛ばして見せているのだから尚の事。

「はい」
「でも、こっちの難易度は向こうよりも少し高いって」
「それは、どうでしょうか」

アナの言葉にトモエは首をかしげる。確かに、一つの側面で、武器の摩耗という意味ではスライムなどは体が酸で出来ているのか、確かに痛む。それこそ、早々に刃に付着した魔物の残滓をぬぐっても、多少は残るのか蓄積するというのか。しっかりと、刀身が痛むというのは理解ができる。だが、その程度の事は他で切り捨てた魔物の血や油でも結局変わりはない。トモエにしてみれば、こうした特殊な相手を基準に考えて、それ以外を軽んじるというのは流石に理解が出来たものでは無いと言わざるを得ない。加えて、魔国の王都の周囲では、それこそ振りぬくだけで方が付くような光球も魔物として存在しているのだ。そちらも併せて考えれば、対応ができるという意味では魔国のほうがかなり難易度が低いのではないかとそう考えている。

「伝聞よりは、己で試してみるのが良いでしょう」
「えっと」
「あちらの、粘液質の相手は中央の核を。あの不可思議な人形は、上空になぜか伸びている糸はあまり意味が無い物ですので」

魔物については、確認する時間も無かっただろうと簡単にトモエがそうした話をしてみるのだが、そのあたりは心得ているとばかりにそれぞれが頷く。成程、ミリアムがこちらから色々と情報を抽出したうえで神国にとしているのだろう。そのあたりの情報を、どうやらこちらに来る前にしっかりと確認しているらしい。思い返してみれば、シグルドにしろ、パウにしろ。トモエにそのあたりを確認せずとも実に危なげなく対処をおこなっていたのだから。

「ウィスプは、魔術に対してはって聞いてますけど」
「いつぞやの狂った地精と同じですね。物理には非常に弱いので」
「それじゃ、久しぶりだし、私たちも少しづつ」
「そうですね。皆さんでと、それをするのも難しくはありますが、一先ず各々何匹か」

そうして、かつてよく行っていたように、今はシグルドとパウが各々思うように行っているように。

「順に声をかけていきますので、それまでは久しぶりにきちんと時間が取れるので」
「はい」

そうして、少女たちも手にそれぞれの武器をもって結界の外に駆け出していく。命がかかっている、だというのに楽しそうに。それについて、改めてトモエから注意するべきかと考えはするのだが、まぁとやかく言うものでもあるまいと改めて考えて。そして、見ていたところでまずは問題があると感じたシグルドを呼び戻す。パウについては、今もついてきてくれているローレンツに任せれば、まず問題がなさそうだと言う事もあるのだが、彼にしても随分と久しぶりの事ではあるのだろう。隣に並んで、おさがりというにはあまりにも立派な盾を構えるパウの隣に立って、まずはとばかりに持ち方に加えて使い方を細かく教えている。
トモエの知識にあったのは、せいぜいがバッシュと呼ばれる叩きつけに加えて縁を使った攻防位な物ではあったのだが、どうにもトモエが思う以上に細かい物であるらしい。ローレンツが細かくかける言葉を聞きながらも、呼ばれたからとまずはとばかりに周囲にいた魔物を一掃したうえでトモエの側に、少女たちと入れ替わる様に戻ってきたうえで武器の手入れを行っているシグルドにトモエは改めて。

「これまでの成果が見て取れる、良い戦いぶりでしたよ」
「だと、いいけどさ」
「そうですね、シグルド君の懸念も分かります」

確かに、彼が悩む程度には問題がある。教えたはずの型にしても、どうにもあやふやになっている。昨日軽く矯正したはずだというのに、それにしても動いている中で徐々にこれまで見ていない間に動いていたのだろう物が出ていた。目を離せない、それがどこまでも事実。準備運動の終わりだと渡したものはあるのだが、それはあくまで準備運動が一先ずの終わりを迎えたというだけ。目を離しても良いとするのであれば、その先なのだ。

「確かに、構えが、私の教えたことが出来ていないというのもあります」
「ああ、まぁ、自覚はあるよ」
「ですが、教え切れていない、伝えきれていない部分が多いのも事実なのです」

武器の手入れが終わったシグルドに、そうして声をかけながらもまずはとばかりに態勢を整えていく。シグルドが自覚があるというのならば、それは良い事でもあり同時によくない事でもある。今教えているのは、何処まで行っても一対一、それが基底となっている。勿論、それ以外を行う必要も無ければ、それしかできないというのも事実ではある。だが、それだけではやはりづ即する場面というのも存在する。トモエとオユキが、度々行っているように、周囲一帯を薙ぎ払うと言った方法も、やはりこちらでは必要になるのだ。そのあたりは、トモエの中では基礎ができた上で身に着けるものであり、先に教えるようなものでは無いと考えていた。だが、こうして度々離れてそこで問題を抱えるのならば、やはり順序を改めて考えた方がいいのだろう。

「私にしても、どうしても過去の事ですから。こちらにあった教え方、とでもいえばいいのでしょうか」

崩れた態勢を整えて、数度持っている両手剣を振らせてみれば、やはりしっくりとくると言わんばかりに。

「そうですね、皆さんで実験と言う訳でもありませんが」
「あー、そういや、あんちゃん達って魔物がいない世界だったんだもんな」
「ええ、そうなんですよね。それにしても、あの子たちもやはり根深いですね」
「面倒かけてるよな」

気にする事は無いとばかりに、一度軽くシグルドの肩をたたいたうえで、トモエは改めて己の頭の中で今後の予定を組み立てる。一つか、二つ。そろそろ明確に技を伝えても良いだろうと考えて。勿論、名のついたものを以前闘技大会の参加の前に伝えてという時とはまた違い、少し便利になるだろう、その程度の物。複数を相手取る時に、その複数をどう処理するのか。トモエにしろ、オユキにしろ行っている技というのもまた違う心構え。それくらいは、確かに事前に伝えてしかるべきだったのだろうかと、そうトモエは考えて。

「そんな事はありませんよ。私の教えてくれていることを、大事にしてくれているのですから」
「なんていうかさ、やっぱ便利だし、こう、自分でもずれてきてんなってさ」
「皆さんの場合は、何よりも体の成長もありますので、自分で治すというのも難しいのですよね」
「そんなもんか」
「ええ。それを教えられるからこそ、皆伝でもあるわけですから」

トモエは、勿論そこに自信を持っている。そして、シグルドにしても足幅を細かく。持ち手にしても改めて直して。これまでに散々に振ってきたからだろう。持ち手についてはすり減った部分に、己の手の形を柄が覚えているとそういった感覚につられるからだろう。何度か巻きなおしていると分かる、柄を保護するための革。始まりの町で、散々にウーヴェに仕込まれているのだろう。以前に見ていたころに比べれば、今はきちんと巻けている。
そうした細かいところで、やはりこの少年たちがどれだけトモエの教えていたことに真剣に向き合ってくれていたのかが分かると言うものだ。

「目録だっけ、あれって実際どの程度のもんなんだ」
「そうですね、体系としてお渡しする物なので、例えば今シグルド君に教えてるものであれば、太刀と脇差、両手剣と片手剣よりも少し短い物ですね、それを覚えればと言う所でしょうか」
「思ったより、少なくね」
「太刀術とくくっていますが、当流派ではこの武器を至高としていますので、他に比べればかなり技が多いのですよね」

そして、トモエがため息を一つ。

「過去の事になりますが、オユキさんが一番最初に目録を得たのは、当身術でしたから」
「あー、まじか」
「はい。やはり、こちらの目録は特別と言いますか」

そうして話しながら、シグルドの視線がオユキに向く。その先では、セツナと仲良くしているオユキの姿があるのだが、トモエとしても先ほどから感じていた気配がある。何やら、セツナとの話の中で今オユキが使える魔術の話にでもなったのだろう。それをこの場で行使してみてはどうかとそんな事を言われているのかもしれない。どうにか断っているというよりも、話の流れで、クレドや少女たちが十分に狩りを行ってからとそうした話を今もしているのだろう。
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