憧れの世界でもう一度

五味

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30章 豊穣祭

招かれて

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神殿にたどり着いた時には、既に日はすっかりと沈んでいた。祭りの余韻とでもいえばいいのだろうか、シェリアの手によってオユキが降ろされた時には以前に見たときよりも、二回りほどその範囲を増した水球に包まれた神殿が目の前にあり。足を降ろした地面は、ぬかるんでいるというよりも、しっかりと水気を感じさせるほどのみずみずしさに。周囲に植えられていた植物たちも、その葉に、花弁に、額に水滴をつけて。月光の下、柔らかな光を返すその姿は幻想的と、そう呼んで全く差支えの無い物だろう。
不思議な事と言えばいいのだろうか、神殿そのものが柔らかく輝いているのは、まぁそういう事もあるのだろうと納得をするとしても、水球で包まれているのは以前に見たのが事実だとして。周囲に、衛星のように浮かびながら緩く回る水球が。光を淡く放ちながら、時に神殿を包む水球に腕を伸ばすかのように水の橋を渡しながら、周囲を見ただけでも四つ程が回っている。
トモエにしても、王都を出た後に隊列の再編などを行ったこともあり、しっかりと濡れた鎧に加えてかなりの汗をかいていたため、今も少々気にしながら。珍しいと、いう程でもない。過去にしても、鍛錬の後汗をかいたと思えば都度流して。特に入浴を好んでいたのは、過去のトモエなのだから。オユキのほうは、忙しさにかまけて汗を流さないなどと言う事は無かったのだが、言ってしまえば身ぎれいにしていようとその程度。トモエは、馬車の中では軽く体をふくだけではあったため、こうして神殿を訪れてからとそう考えていた。

「本当に、不思議な物ですね」
「実際に神々がおられる以上は、こうして私たちの理解の及ばぬことが起きるとそういう事なのでしょう」

オユキとしては、一見して門の数化などとも考えるのだが、どうにもそれ以外の意味もありそうなものだと考えを改める。どうにも、そこまで分かりやすい者ばかりが正解と、最早そのようには考えられない。今は気が付けぬ以上の意味があり蘇づなものだとついつい考えてしまう。どうにも、この世界の背景と言えばいいのだろうか。そちらに相応に踏み込んだこともあり、理解が深まってきたこともある。裏層の存在、その確信が大きいのかとついついそんな事を考えてしまうものだ。ユーフォリアと話して、その存在を正しく告げられて。

「トモエさんは、いくつ見えますか。神殿の周囲に浮いている水球が」
「以前には二つでしたが、今は六つほど」
「私には四つに見えていますが」
「では、それが増えた量と言う事ですか」

巫女等と言う位を与えられているのだが、どうにもこの辺りオユキがトモエに及ぶことが無い。はっきりと、それこそ明確に。持っている知識の差が、ただ厳然と存在している。それこそ、初めて風翼の門を作る時に始まりの町の司教。創造神の分御霊でもあるロザリアとそのあたりは確かめたものだ。トモエの目に映る神々、それを示す意匠が圧倒的に多いのだと。そして、オユキに見えるのは、創造神の連なる者のほうに特化しているのだと。
事、今現在定めている期限では、間違いなく役に立ちはしない。創造神が連なる先はどこか、そんなものは決まっている。この世界が生まれるために、独立して存在するためにと今動いている。ならば、今は繋がっている世界があるという話に他ならない。オユキの眼に映るのは、その繋がり。知っているのは、この世界を作った両親の組み立てたもののうち基礎設計。それだけ。もしくは、始まりの七人と呼ばれていた、本当はそれ以外の相手も含まれただろう設計の知識。そして、トモエが持っているのは両親が残した資料、その中でもこちらの神々の設計に際して使ったのだろう大量の知識。世界各地の神話伝承、民話や風俗。果ては口伝で伝えられている物を伝聞形式で書き残したような資料まで。さらには、そこに書き込まれていた他の細かい内容にしても、トモエはその知識に納めている。
一度、二人の時間で、どのような事が書かれていたのかと尋ねてみたことはあるのだが、与えられた功績が許すはずだというのに、オユキにはほとんど聞き取る事が叶わなかった。トモエにしてみれば、そうでしょうともというしかない無い様でもあったらしく、オユキとしてはとても残念な。トモエが語るには、オユキがこちらに残ることを決めて、それこそ、選択の時が過ぎてからようやく互いの知識、その根幹にある物を共有できるのだろうと、そうした話を互いに。

「戦と武技の巫女、オユキ様。この度は、当神殿にようこそおいでくださいました」

そして、神殿から随分と懐かしい顔がトモエとオユキを迎えに出てくる。勿論、神殿側の受け入れ準備として、かなりの数が待機してはいる。訪れた者達よりは流石に少ないのだが、それでも十数人ほど。揃いの衣装を身に着け、一人は随分と露出の多い、華美な衣装を身につけてはいるのだが。そんな人物を背後に、進み出てくる相手。
思わず、神殿の威容に足を止めて、眺めてしまっているトモエとオユキにもう夜も遅いからと声をかけに進み出てきた相手は。

「久方ぶりですね、助祭リザ。生憎と、こちらに連れてきてからと言うもの、終ぞ顔を合わせる機会にも恵まれませんでしたが」
「いいえ、巫女オユキ様。どうぞ、この身の事はお気になさらず。御身に付き従っていた持祭の子供たちから、如何なる事があったのかは伺っておりますれば」

実のところ、オユキは挨拶に関しては事ここに至るまで、決めてはいなかった。神殿とはいえ奉じる神も違えば、以前に一度観光にも来ている場所。勿論、今も水の輝きに照らされている風翼の門を届けた折にも訪れているし、他にも仕事として。今度は、確かに神殿から声がかかっているのだが、それはどういった立場として招かれることになるのか。それが分からない以上は神殿側の人員に依る物をみて決めようと、そう考えていた。リザ助祭が、明らかに高位の相手を迎えるための所作を伴って、集団の中からリザが静々と歩み出てきた。ならば、そうした物として招かれたのだろうと判断して。

「助祭リザに言う事ではないのかもしれませんが、やはり異邦から来たこの身では、神殿の威容というのは飽きずにいつまででもと望みたくなるものです」
「どうか、それは過去の世界より変わらず存在されている、その事実がありますれば私どもが特にと奉じる御柱に。御身を急かす事、神々のお力に触れておられる中誠に恐縮ではございますが、どうぞ、まずは神殿の中にてお寛ぎ頂ければと。見れば、巫女オユキ様のお連れの方も、かなり疲労されているご様子」

そのあたりは、癒しを司るからこそと言う事だろうか。トモエのほうでは隠そうなどとしているのだが、どうにもそれも叶わない様子。勿論、オユキには理解が出来ているし、なんだかんだと付き合いの長い相手というよりも、馬車で一緒であった近衛たちは勿論気が付いているだろう。近衛とは言うものの、完全装備となっているのはシェリアだけ。ラズリアに関しては、常と変わらぬ姿と言う訳では無く、こちらも武装はしているのだが全身鎧姿ではなくキュイラスに脚甲と手甲を身に着けただけの姿。ナザレアに至っては、いよいよ侍女としての振る舞いを崩す心算も無いというよりも、王妃から借りている侍女であるため鎧など初めから身に着けるつもりもない様子。ただ、どうにも三人が三人とも揃いと分かる武器を佩いているため、何が何やらと言った物ではあるのだが。

「ええ。昼の間は、王都で少し物見遊山などを行っておりました。そのため、騎士達にかなり無理を押して移動をと言わねばなりませんでした。わが身の不徳を恥じ入る事ではありますが、この者たちにも神殿でご慈悲をと」
「仰せとあらば」

トモエがとは言わず、ただ、他の者たちにも本来であれば一日かかるような移動を僅か数時間で頼むこととなったのだとそう伝えて。さらには、こちらでは随分と珍しいというよりも、祭りとして執り行わなければならない雨の中。慣れぬ事でもあり、体をぬらさぬとはいえ気温が下がり、熱を奪う事には変わりない水滴に疲労ばかりはどうしようもなく。勿論、トモエ以外の者たちにも疲労がある。明日には、豊穣祭の本祭が控えてもいるため、今着こんでいる鎧にしても手入れがいる事だろう。従士たちが、そのあたりを徹底的にやるには違いない。しかし、人数が足りないことに加えて、一部の者たちには今夜起こるだろうこと、それを確認してくるようにも頼んでいる。オユキから実際には頼んだ形をとっているのだが、勿論事前に借り受けている場所、公爵と王家からきちんと正式な書状としてオユキに依頼が来ている。
どうにも、イリアと、彼女が見つけたらしい漆黒の毛並みを持つ猫の特徴を備えた人物と。その者たちが行う祭りというのが、夜を守るために、夜を守ることが叶うのだと示す祭りと言うのがなかなかに派手な事になると、そう警戒しての事。言ってしまえば、望む時に起こせる狩猟際、それを祭りとして、暦を定めて行うからこそ。限定され、そこで願うものが魔物を狩って得られるものだけでないからこそ、難易度が跳ね上がる。
イリアから、というよりもカナリアからトモエとオユキは参加しないのかと、そんな事を聞かれたのだが生憎とそれに参加するにはオユキが持たない。トモエであれば、一日くらいなら眠らずとも良いと、そう動くことが出来ないではない、どころか今の体であれば数日は問題がない。だが、オユキはそれが難しい。冬と眠り、そちらに連なる形でもある以上、オユキにとって眠るという行為は重要なのだから。

「では、私が御身の神殿における世話役を仰せつかっておりますれば。どうぞ、短い間ではございますが」
「ええ、良しなに」

さて、こうして話しながらも、オユキが話を進めている間もトモエは時折ほうとため息をつきながらもこの幻想的な神殿を眺めることを楽しんでいる。それを邪魔するのは、オユキとしても気が引けるのは事実なのだが、やはり内部にもトモエが好む者は多くある。何より、神殿に泊れる機会というのは珍しい事であるには違いない。今回も、何やら騎士たちの間で賑やかな事になっていたのだから。それをしり目に、確実についていくことが出来る侍女として振る舞う近衛たちが、悠々と準備をしている様にしても、やはり人の世なのだとそれを感じさせながら。
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