憧れの世界でもう一度

五味

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28章 事も無く

次なるは

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「神国に、しばらくですか」

そういえば、今後の予定として伝えていなかったかと。魔国の王妃その人の反応でようやくオユキも思い至る。

「はい。先にも申し上げましたが、今回行った祭りを、やはり神国でもと考えますから」
「それは、ええ、国の事を思えば理解も及びますが」

そう。こちらでのことは、言ってしまえば予行演習。これから、神国に戻って、改めてクレリー家が神国において、取引相手に足る家なのだと、領地なのだと示すためにも今度は神国の王都でやらなければならないことがある。そして、ある程度の準備を頼むにも、それこそカナリアも一度連れて戻らなければどうにもならないこともあり、オユキにしても、トモエにしても神国に。

「よもやとは」
「邪推ですと、確かにそう申し上げるのは容易でしょう」

そして、今の魔国の王都、こちらはまたなかなか大変なことになっている。初めての雨、その効果は実に劇的な物であり、それに合わせて国王その人も、あの場にいたからこそ機を過たずに領主としての権限を行使して行ったのだろう。これまた実に分かりやすい変化の一つとして、大河から王都まで川が新たに生まれた。流石に、王都の周囲を一先ずめぐるだけとはしており、水路までは引き込んでいない。しかし、今後それを新たな水源とするには違いなく。また、始まりの町に川を引き込んだ時と同様に、周囲の魔物と言うのも大いに変わった。併せて、植生にしても、オルテンシアが心から喜んだ結果なのだろうが、同じくイタリアでも非常に有名なアジサイが王都の外、雨乞いをした跡地に今も咲き誇っている。そして、その周囲にはこれまたトモエとオユキは全くもって知らぬ類の植物までが群生を始めている。
王都の中にしても、アイリスが己の毛皮を犠牲にして、こちらも上手くやったのだろう。既に様相は一変していると呼んでも差支えがない。要は、この王都、そこに住まう者達。それらが植える必要がないほどの食糧、大地からの恵みが。今後も間違いなく得られるのだろうと、今のままの状況が維持できればそうなるだろうと。そう思わせるほどに、地には緑草が茂っている。牧畜にしても、間違いなく行われているのだろうが、そちらにも大いに貢献してくれることだろう。要は、一つの区切りとなる、魔国の今後を助けるという目的は果たしたのだ。果たしすぎたのだ。

「その、流石に私たちが何かをとなると、内政干渉も甚だしいと言いますか」
「ええ、理解はしています。ですが、今回の事を為したのがだれなのか、それは書籍の目次を見るがごとく」
「それこそ、取りまとめて神国へとして頂ければとは思いますが」

今も、神国から来た者たちに与えられている屋敷、その周囲は実に愉快な混乱に満たされている。警護については、当然信頼できる者たちがいる以上は問題がない。身体能力と言う意味では、神国と魔国であまりにも分かりやすい差があるため、魔術を誰かが使ったところでやはり問題はない。ただし、その相手が悪意を持っているのならば。魔国でも、今も周囲を取り囲んで、初めのころは歓声を上げていた者たちは、今となっては静まり返っている。それは、祭りの主役となった者たちが、それだけを費やしたのだと説明が行われた結果。要は、声を上げて、休息を邪魔してくれるなとそうした理解が正しくなされたから。しかしながら、黙っているのだとしても、機会さえあればと、そうして待っている者たちの熱、圧、そうした物はやはり屋敷の中にまで。こうして魔国の王妃が訪れるまでの二日間、その間だけでも実に多くの事が起こったのだろう。問題としては、雨乞いを行ったカナリアは改めて助祭の位が得られたのだと、そんなことを実に元気いっぱいに話していたかと思えば、フスカが少し上を見たと思えば例によって例の如く。上空からふわりと言うには過剰な速度で訪れた同族たちの手によってそのまま拉致されていった。何やら、フスカのほうでもしっかりとため息をついたうえで、そのあとを仕方なしとばかりに追っていったものだ。
是非とも、当事者として誰か一人でも残った上で、そう考える者たちがいたのはやむを得ない事だろう。勿論、オユキもそう考えている者の一人であるには違いない。

「ただ、どのみち報告に戻らなければならないのは」
「事実なのでしょう。ですが、戻ると言うのであれば、色々と頼む物も」
「それは、そうなのでしょうが」

それこそ、親書とでもいえばいいのだろうか。そうした物もオユキないし、この集団の代表でもある先代アルゼオ公が今はまだその席を持っている神国の国王に届けなければならない。要は、魔国の側から見た今回の顛末。まさに慈雨と呼ぶにふさわしい、水と癒しの奇跡。それが、いかほどをもたらしたのか。それらを書いたうえで、恐らくお決まりの今後とも末永くと、王太子妃の身が要はこれだけの成果を魔国にするのだとそれくらいの成果をそちらでも認めているのだろうと、そうした話をしっかりと書いた書状。

「時間が、係るでしょう。少なくとも数日は」
「では、一先ずそこまでは待ったうえで」
「その数日にしても、そちらからどの程度の協力が得られるのか、それにもよっているのですが」
「真に遺憾ではありますが、当事者については空の彼方へ」

住んでいる場所、翼人種の拠点とされている岩塊は今も変わらずマリーア公爵領にあるはずだと言うのに。随分と気軽にあちらこちらにと。恐らくはと、もはやそう枕に着ける気も起きない程に、門を使わずに自由に移動ができると示してくれるものだ。

「後日、召喚に応じさせることは」

そう聞かれたところで、カナリアであれば問題ないだろう。オユキからはやはりそうとしか答えられない。もとより、彼女にしてもこちらで叶えるべきことがあるとついてきて、それを今となっては達成したわけだ。ならば、後はそれこそ自由な時間を過ごすには違いない。せっかく古巣に来たこともある。旧交を温めるのだろうと、そんな事を
暫くは考えていたのだが。

「魔術師ギルドからも、色々と」
「本人に一応問いただしてはみたのですが」

前回、こちらに来た時からどことなく嫌な予感はあったのだ。
種族として保有可能なマナという物に冗談じみた差が存在する。彼女は、その有り余るマナをもって、まさに人では到底及ばないような速度で数多の事を成し遂げたのだろう。結果として、クレリー家の人物に言われた、焦りと言うのをこちらでも散々に生んだには違いないのだ。そして、そうした物が着実に溜まっていった結果として、家同士、それが種族間で。こちらのように、どうにもならぬほどの種族差があるのならと、オユキとしてはそのように考える物だが、そうでは無い者たちもいると言う事らしい。

「何にせよ、そちらはそちらでとして頂くしか、とは言えませんからね」

今後、王都に戻る予定の中には、当然カナリアも含まれている。そもそも、王都で今回と同様の祭りを執り行うのは彼女だ。そして、今はしっかりと療養しなければならないカルラがクレリー家で協同して行う物でもある。一応は、カナリアから神国で行うときは流石にこちらほどでは、アイリスも併せて行った祭りもあり、今回は随分と大量に持っていかれたのだが、次はそうでは無いのだと聞いている。ようは、カナリアの眼から見て、これまでオユキで問題なかったのだからカルラにしてもできるだろうと、そうした判断がなされているわけだ。
それを聞いたカルラの顔色が、少々愉快な事にはなっていたのだが。

「まずは、前提を確認しましょうか。一時的に戻るのだとそれは確かな事ですか」
「いえ、正直わかりません」

そう、この先の予定はまた色々と。

「戻って、どうなっているか、あちらで執り行った後にどうなるのか」
「かの国であれば、我が国程、我が王都ほどに」

十分に豊かな国なのだろうと、こちらではこれまでに従事していた者達、間違いなく低く見られていた者達ではあるのだがその意識の改革も含めてこれから変えていかなければならない。それについては、先代アルゼオ公爵が言い出したファルコに色々と知恵を与えてくれるらしいのだが。

「いえ、求めるところはむしろこちらより」
「水と癒しの女神、その神殿を要する以上は確かにそうですか」

そう、カナリアはあの国で、その名を冠する神が坐する神殿を擁するあの国で方々から求められることになるだろう。勿論、カナリアだけでなく、今は連れていかれた先で色々と話をしたうえで協力者を上手く募ってくれてはいるのだろうが。

「新しい柱も、恐らくは」
「水と癒しの教会が忙しなくしているのは、それもあってですか」
「一応、私の目的の一つでもあるには違いないのですが」

そう、オユキとしてもこちらで失われてしまっている神々、実際には眷属であったり、従属神になるのだろうが、そうした神々の復権と言うのは求めていることでもある。今回の事はよい例と言えるものでもある。ならば、その目的に従って動くことにオユキとしても協力をしたいと位には、やはり考える。

「あとは、今回戻った時には、刺繍もどうにか出来上がりましたので」

そして、オユキのほうでも神々から与えられた仕事の一つをどうにか終えたところでもあり、それらを納めに行こうと考えている。改めて考えてみれば、方々の神殿を見て回る、それに対して実に都合のいい話ではあるのだ、今回の事は。渋々と、実際にトモエが苦手なのだろうと、気乗りしないのだろうとそう言っては来たからこそ。では、これまでであればそうした物は何かと理由をつけて断ったはずの己が、何故今回はと考えてみたところ、ふと思いつくことがあった。今となっては、はっきりと疑っている。警戒している。そんな相手に言われたことを、何故唯々諾々とと。結果として、ああ、確かにこうして完成品を、神々に言われたことを成し遂げたのだから、納めに行くのだと言えば、こちらの者たちはまず断れない理由になるのだとようやく気が付いたものだ。

「それは、いえ、そういえば聞いた覚えが」
「ええ、使命として与えられていたものでして」

そう、こうして王妃その人がそれには配慮をせねばと頭を抱えるほどに、わかりやすい理屈なのだ。
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