憧れの世界でもう一度

五味

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27章 雨乞いを

初めての雨

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カナリアが事を終えるタイミング、それを図ってと言う訳でもないのだが。

「さて、この後が楽しみではあるのですが」
「ほう」
「為すべきを為さねばならぬものですね」

やはり、雨乞いの祭りなどと言ったところでいよいよと現場は壁の外。ならば、そこには多くの守られなければならない者たちがいる。無論、それをトモエが行う必要があるのかと言われれば、その様な事は無い。
魔国からの戦力として、当然一部の魔術師たちも外には出てきている。その者たちの中には、以前彼らの意地を通すためにとトモエの前に立ちはだかって見せた者たちもいる。どうにも、そうした者たちがこちらの王家の護衛も兼ねてはいるようで、少々頼りのない者達を前において。そうした相手迄もを含めて、神国の騎士たちの矜持として守らねばならぬのだと力を入れることになっているため、寧ろとそうしたことを考えもするのだが。

「私としては、今も壁の中にいる相手を少しはと思うのだがな」
「さて、あちらはあちらで任せる物にと決めたでしょうに」

そして、今はローレンツではなくアベルと並んで。
生憎と、どういった人員配置にするべきか、そうした話し合いがもたれたときに内外で分ける必要が生まれてしまった。外では、カナリアを主体として、今も進んでいる雨乞いの儀式。同様に、壁の内ではアイリスが己の祖霊の加護、それがかなり薄れているためにさらなるものをと喚起するのだとそうした話。壁の外には、魔国の国王。そしてうちには王妃とその様に決まったのだと報告を受けて、では神国から来た者たちはとそうした話になった。そこで、まず真っ先に話が決まったのはトモエとオユキ。雨を乞う、水と癒し、異空と流離に連なる祭りである以上、空と地をつなぐ恵みを求める以上はそうした特性を備えている異邦人が祭りの場の中にとそうした話になったのだ。では、ローレンツとシェリアといういつもの組み合わせになるのかと言えば、魔国の国王その人との釣り合いがとそうした話にもなる。アルゼオ公爵の縁者がいるにしても、方や先代、方や令息。そして、マリーア公爵家にしても追い落とされた初代とこちらは令孫。流石に、家格が足りないのだと、そうした話にまずはなった。そして、ユニエス公爵家の家督を持ち王兄の令息でもあるアベルに白羽の矢が立った。代わりにと言う訳では無いが、信頼のできる騎士として、オユキがなんだかんだと重用することもありアベルとも連携をよくとっていた彼にでは頼むとアベルから。
そして、ここ暫くはなかなか見なかった布陣が今は出来上がったと言う訳だ。

「にしても、始まりの町に流れてきた花精の長だったか」
「一団のと、そうした話ではありますが、そうですね」

そうして、アベルが意識を向ける先は、守られながらも喜びを隠しきれない様子のそんな人物。木精にしろ、花精にしろ。種族としての特性を使うときには大地から容赦なく吸い上げる物があるのだと、そうした様子はこれまでも散々に見て来たのだが、今となっては実に分かりやすい。アジサイが、実に見事に咲き誇っている。オルテンシアと言う名前がそのまま示すように、あの国ではやはり有名な花でもある。色とりどりの額に囲まれ、その中には白い小さな花が可愛らしく咲く。しかし、容赦なく咲き誇るアジサイの周囲、かろうじて生えていた下草が枯れていってもいるのだが。

「本当に、つくづくと知らぬ事ばかりが多いのだと思い知らされる」
「オユキさんの事も含めて、でしょうが」
「神国の事も含めて、ではあるのだがな」
「そちらは、まぁ仕方の無い物でしょう」

オユキは、割と身近にいる相手として、アベルにも勿論八つ当たり時見た事をする。それについては、もとより騎士団の長であった、その事実を聞いたうえでのことではあるのだろう。加えて、原因の一端を担っている者同士と言ったそうした親近感も含めて。言ってしまえば、この人物はかつてのミズキリに近い位置にオユキはオユキ自身の中で配置しているようにトモエからは見えるのだ。
だが、それをするにはやはりこの人物にしても立場が非常に難しい。騎士たちの中では、一目を置かれている、と言うよりも可愛がられているのだとトモエには見えている。しかし、どうにも全体として、貴族社会から見たときにはどうかと言えば、やはり扱いかねる存在だと方々からそう見えていると言うのが実に分かりやすい。
こうして、らしい振る舞いを、散々に叩き込まれた振る舞いを行うのがこうして公の場面でのみ。それにしても無理に等と言う事も無く、寧ろこちらの方が自然体なのだと分かる様子で。
ならば、常日頃からこの人物が行っている振る舞いと言うのが、そのような状況で生き抜くためにと身に着けてきたアベルなりの処世術と言う所なのだろう。アイリスが、要所要所を外すことがない、それと同じように。

「それにしても、オユキさんとは私も見方が異なるのですが」
「ほう」
「アイリスさんと、アベルさんですね」
「ああ」

そう、本当に過去の己を見るような、トモエとしてはそのような心持なのだ。

「関係を進めたのもアイリスさんからでしょうし、本当に」
「そうか、その方らであれば確かにそうなったか」

過去のトモエには、アイリスのような特別な立場。言ってしまえば姫として扱われるようなそういった物は確かになかった。だが、まぁ、過去のオユキにとってはまさにその通りであったのだろうと、何処かそんなことを今になっても考えてしまうものだ。演武として、演舞として。近くの神社で行われる奉納の舞、依頼を受けて流派としての物を披露するために。そうした機会には、生憎とかつてのオユキが付いてくる事は無かったし、そのころには父にしても何やら断りを多く入れる事となっていたため、ついぞ機会も無かったと言うしか無い物ではある。それこそ、目録の先、内伝としてそうした所作と言うのは伝えていくのだが。
なんにせよ、そうした振る舞いも身に着けて。しかし、諦念、厭世観が前面に滲み出すアイリスと、かつて似たような心持。このまま、父から継いだ流派と言うのは、今いる門下生たちにしても年ごとに数を減らしている様を見て、今後は確かに衰退していくのだろうとそういやでも理解していたトモエと。
オユキがアイリスに気やすいのは、なんだかんだと気を許してあれこれと本来であればトモエに許可を求めて行う発言を失言とするのは、要はそのあたり。

「どうにも、周囲の用意、それが出来すぎているとこちらに来て感じることが多かったのです」
「用意、とは。いや、言いたい事はわからないでもないのだが」
「それこそ神々の予定、それ故だろうとそうは考えています」

アベルが始まりの町に来て、それは一応どのような流れがあったのか、そうした理解はある。

「どうなのでしょうか、アベルさんは」
「そのあたりは、先達に言われて、だな。凡そ神国の最高戦力、そう呼んでもいい存在がとな」
「門番をされている、アーサーさんですよね」
「ああ」

魔物を狩ったところで、己の向上が求められなくなったのだとアベルはそう話していた。だと言うのに、王都を離れ、さらなる強敵を求めて放浪するのではなく、それこそ始まりの町という名にふさわしいようにあまりにも長閑で牧歌的なあの町に。オユキのほうでは、特に重要ではないと考えての事なのだろうが、トモエとしてはやはりそこが気にはなったいたのだ。オユキは、そこで魔物相手ではなく技術を磨くための時間が取れるようになるだろうと、そう考えていたのだろうが、生憎とその様な研鑽はトモエに感じられないのだから。

「何度か、頼んではみたのだがな」
「立場もある方ですし、色々と難しいのでしょう」
「それにしても、私が知ったのはいよいよその方らを経由して、なのだからな」

あの町で、ミズキリと言う使徒までも集まって。

「世界をつなぐ、それだけなのでしょうか」
「ああ、それか。いや、言わんとすることはわかるのだが、私にはそれすらも途方も無い事のように聞こえていてな」

それが目的だとして、過剰ではないのか。トモエにとっては、そうした話。アベルが言う様に、オユキがそれが目的だと考えているように、それも一つであることは違いない。

「ですが、異邦人としてかなりの数がこちらに来ているはずなのですよね」

それこそ、こちらの神々に始まった話ではない。この世界では神として認められていない、そんな存在程度でも行えることなのだ。世界の切り離しを行う、それが着々と進んでいる。だから、今後は遠くなる。そうした話は確かに聞いている。それにしても、トモエから何度となくオユキに伝えているのだが、つないだままにすると言うのならば、そもそも切り離す必要などないだろうと。

「こう、寧ろ逆なのではないかと、私はもっぱらそう考えているのですよね」

そう、切り離すから選択の時が失われるのではなく、繋いだままにできない、このままでは世界が離れてしまうからこそ、選択の時、刻限が存在する。そして、こちらで魂の循環が成立するだけの素地ができた、予定が加速して、離れてしまうまでの期間が短くなった。だからこそ、大いに慌てているのだと考えれば、実に納得もいくという物だ。

「相も変わらず、その方らは」
「いえ、不敬にすぎるとそう言いたい気持ちは確かに分かるのですが」

アベルがため息とともに、そんなことを口にするのだが、確かに言わんとすることと言うのは理解できる。

「ですが、役割があり、制限があるとそういうお話ですから」
「それは、いや、言わんとすることはわかるのだが」

そうして、アベルと二人肩を並べて寄ってくる魔物を次から次へと切り捨てて。遠間の相手には、すっかりと馴染んできたと感じるある程度の距離まで纏めて切り捨てることが出来る武技なども使いながら。

「私たちの最終的な目標、それはご理解いただけているのでしょう」
「アイリスから聞いた時には、耳を疑ったのだがな」
「それが叶うのであれば、いえ、間違いなく今の期間では及ばないのですが」

どうだろうか。ついにはカナリアが主となる薪に向けて、火を放つ。そして、それよりも遥かに前から、雨乞いとしての炎等きっかけに過ぎないのだと、祭祀の象徴でしかないのだと言わんばかりに湧き出ていた雲に向けて、灯された焔が、火の粉が少しづつ舞い上がっていく。

「私には、動機があるのですよね」
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