憧れの世界でもう一度

五味

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26章 魔国へ

後を任せて

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レモが乗り気であったこと、その後少し話してみれば先代アルゼオ公とマリーア公の両名からの後押しを書簡として預かっていたこと。この二つが決め手となり、彼に一先ずは後任付きでこの場の政治、そのやり取りを任せることとなった。そうしてみれば、当然の帰結と言えばいいのか。

「で、結局どうなったのよ」
「最低限の分担ができただけ、それ以上でもそれ以下でもないので難しいところです」

狩猟者としてこちらに来た以上は、それが当然とばかりに王都の外に出て今日も狩りを。流石に人手が足りないこともあり、時間も初日は短かったこともあり特別何が変わったと言う事も無い。強いて言えば、アイリスの手によるものなのだろうか。少し遠く。王都から相応に距離を置いた場所に、何やら緑がちらほらと見え始めている位。王都の中では、農耕、牧畜なども今では盛んになりつつあるとそうした話はオユキの耳にも届いているのだが。

「つまりは、変わらずと言う事なのね」
「ええ。正直年若い彼にばかり任せるわけにもいきません。そうなったときに、ある程度の人物をこちらに連れてこなければならないのですが」
「明日には戻るのだったかしら」

そう、壮行式に参加するために、明日には一度神国へと戻る事になる。

「そこで、相応の人員をこちらに連れてくることになるのですが」
「まぁ、そうよね。私としても、何人か考えているのだけれど」
「事前にお伝えいただければ、こちらに連れてくる分には協力しましょう」
「貴女の馬車に、まとめて積んでとそうなるのでしょう」

確かに、人員が十分に用意されていればそうなるだろう。それこそ、帯同する騎士たちと言うのも間違いなく追加がいるには違いないのだろう。それ以上に、魔国に対する対価、今回侍女たちが大いに不足を感じているらしいため、それらを是正するための道具であったりも必要になるとは聞いている。それらまでを馬車に積むとなれば、さて、どれだけの物が運べるのか。

「そのあたりは、戻った時にどこまで手配が進んでいるか、ですね。やはり」
「面倒ね」
「仕方ない、そういうしかありませんとも」

これが教会であれば、少々無理を頼んで。ある程度の積み荷であったりを、事前に集めておくという選択肢も取れないでもない。だが、神殿ともなると、ここ暫くは馬車の往来も増えている神殿では難しい。占有してしまうと言う訳にもいかないのだから。

「あまり不要な前例を作らない、いえ、作れないというのはなかなかに厄介なものです」
「貴女は、そこまで気にしないと考えていたのだけれど」
「いえ、流石に自分以外もとなれば気にかけますとも」

そうして話しながらも、やはり手も足も動かして。
近くには、昨日と変わらぬ、少なくとも差を感じぬほどの魔物が居り、鍛錬にはまさにうってつけの環境がある。オユキとしても、昨日トモエの指導の下に繰り返した動きを改めて思い出しながら。頭に置いた己の動きの理想、それの通りに体が動く様にと気を付けて。トモエのほうは、オユキとアイリスから少し離れて、今はルイスとアベル、その二人と共に少々大物を狙いに行くのだとそうした構え。離れた場所には、昨日はあまり相手にしなかった斑模様の鹿もいるため、要はそれを狙ってと言う事なのだろう。アルノーは流石に今回頼んでいないのだが、それでも鹿肉と言うのはこちらでも好まれるには違いないはずだからと。オユキとしても、脂の少ない肉であるため、そこまで忌避感なく口に運ぶこともできるものだからと。

「それにしても、また少し変わった動きね」
「武器に合わせてと言う所もあるのですが」

そして、久しぶりにこうしてアイリスと話すからだろうか。

「少し疑問なのだけれど」
「ええと、アイリスさんが尋ねたい事と言うのは、一応想像がつくのですが」

ただ、想像がつくからこそオユキから答えるのが難しい問題でもある。
聞きたい事と言うのは、間違いなくこうしてこれまでと全く異なる構えで、異なる武器を使っているオユキ。その振る舞いで、これまでアイリスの相手をするときに行っていたかつての世界で好んで使っていたのともまた違う。そうした鍛錬を重ねてしまえば、ただ一太刀を求めて突き詰めんとするアイリス、そちらと距離が開くのではないかと。そうした心配と言うのは確かにうれしい物ではあるし、かつてはオユキにしてもそう考えたものではあるが。

「私から答えられるのは、問題ないとそれしかありませんね」
「ああ、そういえばそうだったわね」

オユキとしては、想像はつくものでもある。なんとなれば、かつて直接聞いたうえで答えを与えられてもいる。そして、相応に研鑽を積んだ身としては、確かな実感もある。だが、やはり目録しか持たぬオユキでは、流派としての心構えすら答えられない。

「印状、だったかしら」
「はい」
「こちらで、狙うつもりは」
「どう、でしょうか」

印可の位を得ようと思えば、このままトモエが良しと思うまで暗器術を学べばよい。そうすれば、晴れてその位は貰えるとわかっている。オユキのほうでも、色々と仕込み武器を持とうと考えて、あれこれと実際にトモエに習っていることもあり、それも現状の延長線上にあるというのは想像がつくものだが。

「トモエさんに聞かれたときには、受け取りたい相手がいないと、そう答えたのですよね」
「そういえば、トモエと同じ師にと言う事だったわね。トモエの父だとは聞いた覚えがあるのだけれど」

トモエであれなら、その師であった人物は、いったいどれほどだったのかとそんな視線が。こちらの話が聞こえているわけでもないだろうに、視線に気が付いたからだろう。近寄る魔物を膾切にして、振り返ったトモエが何やら華やかに笑って見せている。そうした態度が、はっきりとした余裕に映るのだろう。実際に、周囲に近寄る魔物など、何ほどの物では無いとそう示していることもあり。

「全く、どうにかしたいわね、本当に」
「さて、それをやすやすと許す私たちではありませんが」
「それなのだけれど、結局今回の事はどうなるのかしら」
「そうですね、一応このようにとそうしたお言葉を頂いたものを預けていますから」

以前は、さていつであっただろうか。それこそ、新年祭とまではいかず、秋も少し深まったころであったはず。思い返してみれば、かつての闘技大会が開かれてから、既に一年がたつまではあと季節が一つ変わればとそういったところまで。確かに、恒例とするためにも、日程を整えるためにも色々と考えなければならないだろう。聞いた話では、今度の大会には神国で地方にいる者たちからも参加希望があるとそう聞いている。予選が開かれるのだと、一応はそうした布告もあるため、最低限と言うには少々度が過ぎているのではないかと、それぐらいの人員が今や王都に集まってもいる。傭兵たちは、それが仕事だからと納得もいくのだが。

「ただ、何やら狩猟者にしても周囲から集まっているようで」
「確かに、随分と賑やかになっているわね、外周区のほうは」
「私も、何度か出がけに通ってはいると思いますが」

アイリスのほうでは実感があるのだろうが、オユキのほうでは生憎と。王都ではいよいよ自分の足でと言う事がなく、移動にしても馬車を使うため窓などない。外の様子と言うのは、本当にわかりにくいものだ。今回、どうにか意地を張ってトモエが向かう乱獲、そちらについていったものだがその道中はいよいよ騎士の護衛もあり、人々と言うのが遠巻きであったものだ。前回王都での行進ともまた違って、政治的な意味合いも正直薄い。他国からの使者も多いにつれてと言う事もあったため、今度ばかりは容赦なく道が作られていた。

「さて、流石にこちらで頼むべき人を探さねばなりませんね」
「そうね。私も、正直いちいち拾い集めるのはと思うのだけれど、正直神国で募ったのとはまた違う相手になるのでしょう」
「そう、なのですよね」

神国では、まだ周辺に魔物が現れるにしても、魔国ほどでは無かった。少々遠間と言えばいいのだろうか、まだ戦闘ができない者たちでも拾い集められる、そういった環境でしか頼んでいない。始まりの町では、いよいよ長閑な物であったし領都も程ほど。

「神国もそうなのですが、王都と言うのはやはりなかなかに難しいですね」
「そういえば、貴女が頼んでいた相手も、基本的に領都と始まりの町くらいだったわね」

そして、それについては見落としていたと、そうアイリスが呟く。

「一応、そのあたりは試しとしてレモに頼んではみましたが」
「期待は、できないと」
「正直、彼にしてもあまり人を見る目があるようには思えないのですよね」

困ったことだと、そうオユキは思わずため息が。

「信頼、できないと言う事かしら」
「いえ、単純に能力が不足しています。年齢を考えれば、それでも抜けてはいるのでしょうし、ファルコ君に任せるよりは、はるかに良いのですが」
「比較対象は、そこなのね」
「これまでの経験、それを使ったうえで、どうにかリヒャルト君と比べられると言ったところでしょうか」

どうにも、焦っているのだとそれが実に分かりやすい。焦る気持ちも、それを持ち込んだオユキに対する感情も。実際には、結果としてオユキが持ってきただけではあって、頼まれたことを果たしただけ。お門違いも甚だしいと、そう言えるものでしかない。

「彼も、どうやらこちらで良からぬ思想を持ってしまっているようですし」
「良からぬ、ね」

どうにも、今回のやり口にしても、脳裏をちらつくものがある。王太子妃の兄、既に王家との縁を切られているとはいえ、継承権の剥奪が行われたとは聞いているのだが、それ以上の事は何も聞こえてこない相手。解決への具体策の一切は持ち合わせていないらしい相手ではあるのだが、その身の上だけでも実に利用しやすく見えることだろう。そんな人間が、間違いなく未だに王都にいる。それも警戒をしなければならないというのは、本当に頭の痛い事なのだ。

「確か、前回の時にはアイリスさんもいたのでしたか」
「ああ、あの」
「ええ、あの」

名前も聞いていない相手がいる。オユキとしては、話を聞いたところで恐らく何にもならないだろうと考えている相手がいる。そちらが、今後どう動くのか。王妃のほうで、報告をしたうえで何やらつけられている者たちもいるのだが。

「面倒ごとばかり、引き寄せるわね」
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