憧れの世界でもう一度

五味

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26章 魔国へ

オユキも交えて

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ようやく少し落ち着きを見せたオユキ、正直なところ内心では全くそのような事は無いのだろうが、簪を取り上げただけでも一人で立ち上がれない程度の事にはなっているため、一先ずはと連れて戻れば。

「だが、他に選択肢も無いだろう」
「だからと言ってだな、こう、そうやって事後承諾ばかりを取り付けるやり方はどうなんだと」
「事前に折衝を行うとなれば、やはり時間がかかりすぎますから」

何やら、議題はわからないのだが、オユキのよくやるやり方で既成事実を作ろうと企む者たちと、そういったやり方を好まないだろうルイスとの間で何やら派手に議論がなされている。室内は、誰かの手によってであるのは間違いなく、既にすっかりと片付いておりそれが当然とばかりに侍女たちが控えているものだ。

「まぁ、そうでしょうとも。事前に条件を詰める機会がある、事前交渉が存在する状況と言うのはそういう事ですから」
「で、他の、下の連中には知らせる気が無いと」
「知ったところで、それでどうなる事でも無いというのが私から言える大きな理由ですね」

ルイスの不満にしてもわからないではないのだが。

「では、現状の話を他の方に、そうですねルイスさんの部下として従う人たちに行うとしましょう」

さて、その結果何が起こるのか予想ができるのかとオユキが視線でだけ問えば、やはり返答に詰まるという物だ。

「オユキは、まぁ、またか」
「いつもの事にはしたくないのですが」
「簪を取り上げていますから、先ほどの事が最後の一押しとなって」
「その、オユキさん」

シェリアに抱えられて連れてこられたオユキ、そして、それに並んで歩いてきたオユキを改めてアベルが見て声をかける。返答に詰まり、唸り声をあげるルイスはそのままに。

「先ほどは、申し訳ありませんでした」
「謝罪は不要です。トモエさんにも言われましたが、総意ではなく、あくまでミリアムさんと言う個人の意見、そうであるのではないかと」

ミリアムが、オユキにそこまでの負荷を与えるつもりが無かったのだと、そう謝罪をする。相変わらず、目の奥にどこか暗い物はまだ残っているのだが、それも仕方あるまい。ブルーノと共に、声をからすほどに張り上げてきた日々、それをこの人物も間違いなく持っているのだから。そして、家紋に込めた意味。民の安息を、健やかなる日々をと、ただそれを近いとして掲げるべき紋章とした以上はそれをしなければならない程の過去が。

「ですから、戻った折にはアーサーさん、初代国王陛下にも話を求めましょう。貴女の恐らくは父君であるかの御仁であれば、また別の観点もお持ちでしょうから」
「そう、ですね。それがいいでしょう」
「あとは、そうですね。一つだけお伺いしたいのですが」

そう、他の話をする前に、オユキとしては確認しておきたいこともある。

「初代陛下は、その、何故亡くなられたことになっているのですか」

実際には、始まりの町にその人物は未だにいるのだ。だというのに、何故王都に広大な墓地と呼ぶべきものがあるのか。土地を無駄にとは全く思いはしないのだが、少なくとも警備にそれなりに人員が立っているのを見る限り、遊ばせておくわけにもいかないだろうと。

「私も、始まりの町で驚いたんですよね」

ただ、オユキの問いかけに、ミリアムもそれはまた随分と重たい溜息を。

「アーサー、当時と変わらぬ名前で、当時と変わらぬ姿で。門番として、始まりの町にと六百年程前でしょうか」

成程、つまりは確かに一度は国内から失われた人物であり、それが長く続いたからこそ今もと言う事。当時から変わらず平然とその命をつないでいた相手、ミリアムがいたからこそ気が付けたものではあるのだろう。当時と全く変わらぬ風貌で、同じ名前でふらりと現れたとして。記憶から薄れていれば、成程そういう事もあるかと納得できそうな範囲ではある。同じ顔をした相手、それは間違いなくこの世界でも相応の数存在しているに違いなく。

「わかりました、それ以上の事はご本人から。さて、ルイスさんは、どうやら同意を得られたようですね」

あまり人づてに聞くものでもないだろうと、そう考えてオユキは話題を変える。トモエの警戒と言えばいいのか、どうにもこの人物は過去に対して、当時の選択に対して決して良く思っていないと言う事もある。当然、オユキがその時代にこちらに流れてきたとすれば、今のミリアムと似たような感情をため込んだには違いない。どうにかしようと、それこそミリアムと一緒に動いたことには違いない。人々の安息を、望まぬものは戦う必要などなく。己の生を、流石に多少の労働は必要と考えはするのだが、それでも明日を心待ちにできるような、そんな生活をと。
ミリアムにしても、ここまでの中でオユキのそうした性質を理解したからこそ、こうして内心の吐露を始めたのだろうと、そうしたことくらいは理解が及ぶ。いや、落ち着いて改めて及ぶようになった。こうしたミリアムの振る舞い、まるでオユキを己と同じようにと考えての振る舞い。つまりは、意見が割れているらしい。身内で、今も。そして、神々にしても、今後の方向性と言えばいいのだろうか。それを定めることはしたのだとしても、人々に強制などできはしないとそうした決まりごとが存在している。それが、嘘でさえなければ。

「どうにもならんと言われたら、それもそうだからな。確かに、解決の方向性も見えていないことを話すわけにもいかんか」
「そういう物です」
「いいさ、納得はいかんが、こうなった以上は引き受けざるを得ないってことらしいからな」
「お前以外に、現状適任がいないっていうのもある。他だと、派閥だなんだと本当に厄介でな」

アベルが実に深々とため息を。

「で、お前らがいない間に決まったことはそれと、後はこっちには傭兵ギルドが現状無い、それを確認したくらいか。あとは、魔物の収集品がそれなりに庭に集まっているから、後で処理をとそれくらいだ」
「では、商業ギルドの肩を読んだうえで、ミリアムさん」
「そうですね、同席させていただいてまずは物価の調査から始めましょうか」

それを行ってもらっている間、少し時間が空くだろうからその間に王都に一度戻って諸々片付けてこようとそうアベルとオユキは確認して。

「そういえば、アイリスさんは」
「ああ、あいつならセラを連れ出して、加護を安定させるために設置した社だったか、それを確認してくるとかでな」
「供え物も必要でしょうに。よもやとは思いますが」
「いや、流石に生肉は俺が止めた。一応持ってきていた保存の効くものだな、燻製肉の塊であったりを持たせてだな」

それならば、まぁいいだろうと一先ず納得して。ただ、気になる事として。

「そういえば、前回はこちらにそうした物を敷設すると言った話を聞くだけ聞いていましたが」
「俺らが、あの祖霊を相手にした場だ、そこに初めからあったろ」
「さて、今一つ記憶に」

アベルに然も呆れたとばかりに言われるものだが、そのころは今のように助けになる功績も無く長旅による疲労に加えて、どうにかしなければと気負いすぎていたこともある。少々周囲が見えていなかった、フォンタナ公爵にしても信頼が置けぬと判断してしまったために、魔国に入ってからはいよいよと気の休まる時間がなかったこともあるのだが。

「そういえば、先代アルゼオ公は。私たちの移動についてくるとも思ったのですが」
「先にファルコが来ることになったからな、一応本人からまずはと遠慮されている」
「成程、となるとそのファルコ君は」
「察しがいいな、年のころは少し離れているがこちらで暮らす、アルゼオ公爵の子供だな、そちらに預かった手紙を渡すためにと出ている」

オユキに相談が無かったのは、それをマリーア公爵と先代アルゼオ公爵から頼まれたこととして行っているからだろう。ただ、アベルに報告をした当たり、彼の頭の中ではこの集団の最も位の高いものとしてアベルと考えているようなのだが。

「あー、それもそうだな」
「ええ、この場の指揮をルイスさんがとるというのならば」
「だな、あいつらにも一応言っておくか」
「いや、俺がここに腰を据えてというのは構わないんだが、だが、そっちまではどうなんだ。流石に政治の話まで持ち込もまれても対応できんぞ」

そのルイスの言葉に、オユキとアベルの視線が今度はミリアムに。王族として教育を受けた以上、当然心得はあるはずだと。

「その、私にしても先ほども言いましたけど始まりの町からですね」

言われて、忘れていたなと視線を向けた者たちが揃って。

「であれば、いよいよ先代アルゼオ公か」
「どうでしょうか、フォンタナ公爵の件もありますし、こちらでは少し動きにくくなったとか」
「ああ、それもあるのか」

本当に、求められてこちらに来た、それは事実なのだが。だからこそ難しい事と言うのはいくらでもある。

「それこそ、俺らはこっちに呼ばれてきてるんだろ。魔国から担当者は出てこないのか」
「ええ、出てくるでしょう。今、話しているのはそちらの方も含めて魔国との折衝を担当できる神国側の人物ですから」
「ま、そういうこった。それこそ、お前に向かないのはわかってる。俺らの誰かができりゃ、それで済むんだが」

生憎と、互いにそうもいかない事情をすっかりと抱えてしまっている。

「その先代アルゼオ公が、改めてこっちでとするわけにはいかないのか」
「難しいでしょうね。正直、魔国との間での交渉となれば、真っ先に名が挙がる事には違いないのですが」

ただ、当人がそうした理由をもって反対すると言う事は、複雑と外から見える以上の物があるのだろう。オユキにしても、流石に外交に関してはあまりにも勝手が違いすぎてよく分からない。精々がフォンタナ公爵によって、不利益を被った者たちから散々に恨みつらみをかっているだろうなとそれくらい。あとは、流石にマリーア公爵に対する遠慮かウニルで改めて己の地盤を固めるのが先と判断しているからか。

「私たちですら納得ができてしまう理屈、それがある以上は」
「だな。今は早々河沿いの町から動かすわけにもいかん」
「そういえば、こちらにアルゼオ公爵の縁者がと先ほど話にありましたが」
「ファルコ君より少し年かさと言う事は、リヒャルト君くらい、ですか。いえ、だとしても他家の人員を好きに使うというのも」
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