憧れの世界でもう一度

五味

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26章 魔国へ

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午前中というには少し遅い時間。昼食までの間と考えて、王都の外に向かっていたのだが、オユキよりも早くトモエがオユキの違和感に気が付いた。そして、指摘してみれば本人としても確かにと思う所があり、速やかに戻る事となった。少々周囲に散乱しているものはあるにはあったのだが、それらは護衛としてついている相手と、傭兵たちで回収をするという話になった。一応、いくらかの魔石と肉、毛皮と言ったものは何とはなしに拾い集めたうえで。

「持ち帰ったのはいいのですが」
「そうですね、まずは買い取りの仕組み作りからですね」

では、持ち帰ったものをどうしようかとそういう話にはなったのだが、門のところで門番ともまた様子が違う相手に尋ねてみたところ、商業ギルドにもっていけと実に身も蓋も無い言葉。どうやら、こちらではいよいよ根付かなかったものであるらしい、狩猟者ギルドという物は。
そのあたりも確認してきたのだろう。戻ってきたときに、今で何やら気が重いと言いたげに書類に向かっていたミリアムにそうした話をしてみれば、返ってくるのは難しいとそういう言葉。

「書類を持ち帰ることはできているようなのですが」
「ここ暫くの、凡そ10年分ですね、その間の活動をまとめた物なのですが」
「10年が、その程度の分量で収まりますか」

相応に厚みはあるのだが、始まりの町、領都、それらの場所で渡される個人分の活動と比べても高々数倍程度。

「見せて頂いても」
「流石に、難しいですね」

トモエが興味があると、そうしたことを言うのだがミリアムからはそれはできないと。

「読んでしまうと、引き返せませんよ」
「では、止めておきましょうか」
「賢明です」

部外秘の情報ではあり、目を通せばギルドの管理者として認識されるのだと、そう言外にミリアムが話す。期限を切っている、あと四年も無い者たち、そんな人間が背負うべきものではないと。オユキとしても、トモエが突然に言い出したことに止める間がなく、少し安堵したように思わずため息がこちらも。
これがミリアムではなく、それこそ他の物であれば間違いなくこのような助言など行われなかったことだろう。

「何にせよ、こちらは本当に一からとなりそうですね。何人か、魔国に来てもらわなければ」
「私とアベルさんが、後二日もすれば一度戻りますので、その時までに声をかけるべき相手をお伝えいただければ」
「そういえば、そうでしたね。ですが、私がある程度無理ができるのは始まりの町だけですし、お戻りになるのは、王都ですよね」

確かに、戻らなければならないのは王都。

「領都で、いえ、狩猟者ギルドに届けることくらいはできるかと思いますが」
「生憎と、私であれば使える手段も多いので、それには及ばないのですよね」

一体如何なる植物が祖かはわからないのだが、つまりはいくら離れていようが連絡できる手段を持っていると言う事らしい。いや、離れがたいと言うのは、よもやと。

「ええと、まぁ、基本としてはそんなところです。いいですか、くれぐれも」
「念押しをして頂かなくとも、既にルイスさんからも言い含められていますから」

過去、一応外部のツールを使う事で、それも少々強引な方法で利用することでどうにかなっていた遠距離との連絡手段。それをこちらでは、根が張り巡らされているわけだからと、木精達でいいように使えるものであるらしい。いや、種族としての特性が事実そうであれば、もっと大々的に今の人々の生活に組み込まれていても可笑しくはないはずなのだが。恐らくは、このあたりが、いよいよ人という短い寿命しか持たないものと認識が全く違うのだとそうした話にもなってくるのだろう。オユキがそんなことを考えていれば。

「オユキさん、恐らくまた」
「またというと、ああ、そういった」
「えっと、私が何か」
「いえ、あまり人前で話すべきことでもないようですから、今はオユキさんの考えというのは勘違いだと」

トモエとしては、それが事実であれば今こうしてミリアムを他国になどできはしまいというのがある。もしくは、各拠点にミリアム程協力的な存在がいるとも思えない。要は、その予想は外れていることだろうとそう言えるだけの物が、トモエには想定としてある。オユキがそのあたりに気が回ってないのは、それこそ生来の気質でもあるし久しぶりに大いに体を動かして、それをどこか中途で止められてしまった無念と。加えて、頭の中では今日トモエが話したこと、改めて己で動いてみて自覚したこと、それらを何度も繰り返しているからだろう。
言ってしまえば、オユキにとって今回の事というのは休暇の一環とそう扱ってしまってもよい事柄なのだ。
より現実に即した言い方をすれば、これから乱れるとわかっている神国。そこにさらなる問題を持ち込んでくれるなよと、そうして他国に一度放り出されているに過ぎない。勿論、内々の事としてとどめてあり、対外的な、事情を知らぬ者たちに対しては魔国からの要請であり、と。そのように説明がなされていることだろう。勿論、今も神国で出発の為に待たされている他国の使者たちに対しても。
そのあたりは、いよいよ今後。門が運ばれたことで、間違いなくテトラポダからも呼び出しがあるのだろうが。

「そうですか。であれば、よいのですが」
「ええ、後の事は一先ずトモエさんに任せます。それよりも、今は」

そして、ミリアムから簡単に魔国の狩猟者ギルドが抱える窮状が共有される。まともに機能としているとは、とても言えないのだとそうした話から始まるそれは、やはり相応に長く。聞いているうちに、どうにか話し合いがまとまったのか、アベルとルイスも同席して。恐らく、何某かの楽しい出来事があったのだろう。互いに取り繕ってはいるのだが、やはりそれなりに身なりには乱れがあるし、互いに纏う空気が平素の物では決してない。そもそも、戻ってきたときには庭から随分と賑やかな音が聞こえていたものだ。

「そこまでか」
「というか、傭兵ギルドに顔を出すつもりだったんだが」
「そっちは、俺から頼んで既に戻ってきてる。一先ず情報を纏めてあるのが、これだな」
「おい」

そんなやり取りを、仲の良い事だとただそうして流しながらも。

「私たちも、今朝方狩りに出た成果ですね、これを商業ギルドにとのことでしたから」
「全く、元ある物を無くすなとまでは言いませんが」
「選択の結果なのでしょう。優先順位に関しては、さて、確かに少々の疑問も覚えますが」

生活基盤も無く、研究を。そんなことを、国家として許すべきではない。確かな成果として、それを他国に求められるならばまだしも、この世界においてはそうでは無い。恐らく、このあたりは昨夜聞かされたミリアムの話に関連しているのだろう。物流は、なんとなくと言えばいいのだろうか。どうにか最低限はシステム上は成立していたのだと。そして、最初期にはそれこそ大量の異邦人たちが投入されて。どうにか、それでどうにかなってしまった。問題が無いように見えた。そのあたり、ミリアムについては随分と先が見えていたのだろう。

「私は、そうですね。ええ、色々と考えることがあり、これが長くは続かないとそうも言われましたから」
「言われたというのは」
「使徒様方です」

そう、どうやらここでもかつての世界においてこの世界を構築した者たち。その話が出てくる。よもやと、そうオユキが考えて僅かに瞳が揺れるのだが、当然トモエ以外が気が付く訳も無く。

「お会いしたのは、七名のうちお二方だけですけど。その時に言われたのですよね」

曰く、これは、この現状は決して長く続きはしないと。そして、異邦人たちのうち勘違いをしている者たちから早々に退場していくのだと。勘違いという言葉が何を指しているのか、それは言うまでも無くリスポーンというあまりに便利な仕組みが存在しているかどうか。であれば、初期にこちらにとなった者たちはと。

「そうですね、そのころから今に至るまで。ええ、何名かやはり全体に比べて極僅かですけど」
「変わり者がいたと、そして、そういった者たちが要は」

要は、生前の己を全うしたうえでこちらに来た者たちと、そうでは無い者たち。かつてのプレイヤーの人格、その一部を切り取って、貼り付けて。結果として生まれたものがあり、溜まってしまったものがあり。要は、その結果だからこそ直接力を振るう事もできるのだと言う事らしい。つまり、纏めてしまえば。

「ああ、それは」

そして、室内だというのに、ここ暫くは頻度が上がっていることが。

「なんと罪深い事」

つまりは、誰もかれもが最初から罪を抱えている。向き合っているものは、間違いなくミリアムであったり、神々であったり。当時の世界を知る者たちのすべて。しかして、今を生きる者たちにとってはそんなものはやはり関係がないのだ。門番として、あの町を守るアーサー、初代国王その人が助け出した者たちを随分と快く迎え入れた理由もよく分かる。かつてなしてしまった事。どうにもならぬことを、どうにかするためにと踏みつぶしてきた者たち。それに対して、改めて向き合うためにと。

「ええ、本当にそうです。私たちは、この世界の成り立ちはあまりにも多くの犠牲の上に」
「ミリアム。いや、初代マリーア公」

そして、オユキに同調するように少し暗い色を瞳に宿して、オユキに同調するミリアムに対してアベルが慌てたように。

「事実は、事実として受け止めなければなりません」
「しかし、いや、私にしても過去の事は話としてしか知らぬのだが」
「私たちが消した歴史、伝えなかった歴史。そうですかユニエス公爵家には多少なりとも伝わっていますか」
「王兄、いや王族が継承権を持ったまま継ぐ家格だ。当然、予備としての側面くらいはある」

難しい、それにしてもまた他国の地で随分と気軽に口にするものだ。いや、こうして他国にいるからこそ、この場にいる者たちについては散々に選んだ相手だからこそと言う事なのか。

「であれば、ユニエス公爵。貴方も、よくよく肝に銘じておきなさい。神々が我々に対して下した使命、この世界が独立するための最後の試練。それは非常に過酷なものとなりますよ」
「よもや」
「私もそうです、他の、長くこの世界にある者たちは協力する事は無いでしょうから」

ここまで続けて来た者が、もはや終わっても良いのではないかと。少なくともそうとるものが出るだろう言葉を紡ぐ。

「そして、その時には私たちはすべてを詳らかにするでしょう」
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