憧れの世界でもう一度

五味

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22章 祭りを終えて

少し、今後の話を

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毎度のことと言えば毎度の事ではある。ただ、始まりの町ではこれまでに行った事は無かった。
ローレンツを先頭に、それこそ大量の戦利品を乗せた馬車と荷車が始まりの町に着けば、遠くからでもそれが見えたのだろう。まずは門の周りで日々の狩猟に励んでいる狩猟者たちが、狩猟者としての訓練を受けている者達も少し遅れて。ビソンテ、一度は見た事があるだろうが、改めて中型の異様な巨体が、無造作に積み上げられた町の側では見る事も出来ないだろう魔物のトロフィーが、無造作に積み上げられた様は実に異様に見えたのかもしれない。
そういった魔物が攻め込んできたのかと思った者達もいた事だろう。既に時が立ち、日は沈みかけて月がおぼろげに顔を覗かせている時間帯であったことも影響したのか。

「で、目的は果たしてきたわけだ。」
「はい。」
「まぁ、それならそれでいいんだがな。」

ローレンツを先頭に近づいた結果、流石に取り囲まれて身動きが取れないという事は無いのだが、それでもこうしてアーサーへの説明にトモエが馬車から降りている。オユキの方は、少々無理に動き回ったせいか今は例によって馬車の中に誂えてある寝台の住人となっている。トモエとしては、甚だ複雑な感情を抱いたりもしたわけだが。

「にしても、本当に。」
「流石に護衛の方がいなければ、どうにもなりませんから。」
「そりゃそうなんだろうが、それにしても少々早すぎるんだがな。」
「そう、でしょうか。」
「そうなんだよ。」

アーサーから、ため息交じりにそのような事を言われたりもする。

「オユキさんは、アーサーさん、あなたについて色々と想像を膨らませていますが。」
「俺だけじゃなく、門番ってのは色々ある人間が生るもんだからな。ちょっと他の連中とは、枠組みが違う。」
「それは、まぁ私も理解は出来ますが。」

門番たちというのは、尽く戦闘能力という面において隔絶している。

「ま、お前等じゃ流石に俺らが何なのかは言ったところで分からんだろうしな。今も、伝わっちゃいないだろ。」
「ええ。」

彼の口の動きを見る限り、先の発言にしてもそれなりに色々と情報を出してくれたのだろうが、生憎とトモエがそれを聞きとる事が出来ていない。相も変わらず口元の動きと聞こえてくる音、その差があまりにひどい状況に慣れを覚える事は無いのだが。

「ま、手続きはこれで終いだな。で、このまま狩猟者ギルドか。」
「そうですね。流石に私達で解体までということは出来ませんし。」
「それなら構わないが、で、どうするんだ。」
「ある程度を確保したら、そのまま町に流しますよ。勿論、確保するのは私たちの物だけではなく、方々にお渡しする品も含めてですが。」
「そのあたりは任せるさ。」

流石に日も沈む。これから戻ってくる狩猟者たちもいるだろうし、アーサーとしては町の外に出る事を許可した者達をこれから危険な時間帯になるからと、さっさと壁の中に戻してしまいたいという考えもあるだろう。トモエでは無く、外に意識を向けていることが分かるからと、トモエはさっさとその場を後に。狩猟者ギルドへの物品の持ち込みに関しては、流石に他の人に任せて。
オユキが、既に眠っていることもあるからと、屋敷に戻ってからは手早くトモエも入浴を済ませ、そこでどうにかオユキを洗った上で寝台に。すっかりと体から力が抜けている事もあり、なかなか手間がかかる物ではあったが服を着せる段にはシェリアも戻ってきたため、どうにか二人がかりで寝間着に着替えさせた。
流石にトモエも相応に疲労がたまっているからだろう。常の眠りのように、少々浅いものではなく。気が付けばという程には、随分と時間が経っていた。

「トモエさん、目が覚めましたか。」
「はい。」

それこそ、先にオユキが目を覚ますほどに。

「随分と深く眠っていたようでしたが。」
「流石に、疲労がたまっていたという事なのでしょうね。」

ここ暫くは、やはりオユキの看病もあってなかなか眠れぬ夜を過ごしていたこともある。オユキはこうして平然としているが、夜半にはやはり熱も上がり、うなされる事も多かった。本人に記憶が無いのは夢現という事なのだろう。ここ数日はそれもどうにか収まっていたのだが、やはりトモエの名を呼ぶことも多く。

「それは。」

ただ、どうやらトモエの表情や、こういった疲労の形が現れればオユキも気が付く。

「申し訳ない事を。」
「構いませんよ。私が好きでやっている事ですから。」

トモエが此処まで披露するほどであるのならば、確かにオユキは今回の狩猟に関してももう少し自重すべきであったと。すっかりとマナが己の内から減った感覚。それだけは嫌という程に分かるようになっているため、またこれかとそうした認識と共に己を振り返って。ここ暫くは、僅かに体力も戻ってきているからと、少々無理を言って参加したのだが、結果としては。

「ですが。」
「オユキさんも、だいぶ良くなっているようですから。これまでのような事があれば、私も当然目を覚ましたでしょう。」
「それは、どうなのでしょうか。」
「過去の話にもなりますが、自分の体調が悪かろうとも聞き逃したりはしませんよ。」

子や孫が、過去にも熱にうなされていたことがあった。そこで、当然のように人を呼ぶような事もあった。過去のオユキはそうした場面でも起きる事は無かったし、側に行くことも無かったが、トモエはやはりどこかぼんやりと目を覚ましては世話をしていたものだ。

「そうですか。」
「そういうものです。」

そんな話を起き抜けにしながらも、互いに体をしっかりと伸ばして。朝の柔軟は欠かさないようにと、互いに床に腰を下ろして。

「そう言えば、昨日は。」
「一応、簡単にオユキさんの指示もありましたから、基本はその通りですね。」
「そう、ですか。では、今日は狩猟者ギルドから一先ず素材を回収してとなりますか。」
「どうなのでしょうか。それこそ私たちが向かわずとも、アルノーさんやウーヴェさんに必要な物を取って貰えばと思いますし。」

オユキでさえ、こちらの品の目利きが出来る訳でもない。トモエに至っては、それこそ生前の食料と比べてとすることは出来るが、やはりこちら独自の物というのは難しい。それが食材以外となれば猶の事。

「と言いますか、取り決め通りに分配の必要もありますから、まずはそちらを片付けていただかなくてはなりませんね。」
「そう言えば、そういった話でしたね。」
「その辺りは、元々商業ギルドに勤めていたわけですし、カレンさんにお任せしましょうか。」

ここ暫くは、オユキが職務に復帰できていたこともあり、彼女にしても相応の時間を休養に当てる事が出来ていた。ゲラルドについては、いよいよメイの住む場所からここ暫くは返ってきていない。本人からも、謝罪の手紙などが日々届けられてはいるのだが、そもそも、そうしたことも含めての配置だというのはオユキも重々承知している。寧ろ、カレンに任せる事が出来る、その程度は彼もカレンを信頼しているのだとそうしたことが分かるというものだ。
使用人の管理、家財の管理と、カレンの仕事が愉快な量になっている事はこの際ひとまず置いておいたとしても。

「おすそ分けは、何処に持っていきましょうか。」
「そうですね、教会とメイ様。あの子たちは当然として。」

ビソンテ、中型種の肉はさぞ喜ばれることだろう。オユキは少々勘弁してもらいたいのだが、しっかりと脂も乗っており、焼くだけでも実に食欲をそそる事だろう。

「アイリスさんも、楽しみにしていましたからね。」
「そちらは、そうですね。」

アイリスが楽しみにしている。そう聞くと彼女の祖霊がまた顕れるのではないかと、少々の不安もあるし、いつぞやに戦と武技にしても肉を好むとも聞いている。

「後は公爵様にも、残しておかねばならないと考えると。」

指折り数えていけば、やはり用途は多い。一刀の獣から、どの程度の肉が取れるのかまでは分からない。枝肉まで加工してもらった上で、それこそ用途や配る先をアルノーに伝えるしかあるまい。他の者達には、少々申し訳ないのだが町に流す分は、それこそオユキが散々に狩った魔物、そちらの食肉が主体となっていくことだろう。
後は、それこそこの屋敷で生活をしている者達に向けて、アルノーが庭を使って振舞ったりもするだろう。なんだかんだで、カリンとヴィルヘルミナにしても肉が好きだ。ここ暫くは教会で生活していることが多かったサキにしても、暫くの生活が影響してか食に対して見せる執着というのが強い。問題としては、彼女の恩人と言えばいいのか、彼女をどうにか劣悪な環境で助けながら、最終的には逃がして見せたアリアというこちらはいよいよどう呼ぶのがいいか分からぬ年頃の女性を引き取るかどうか。既に目を覚まして久しく、ロザリアからは彼女と他の幾人かは既に汚染の心配も無いとそうした連絡を受けている。ただし、やはり社会生活は色々と難しいと言えばいいのか。とかく粗野な相手に対して、怯えるらしいのだ。これまでの環境を考えれば、それも当然ではあろうが生憎と今トモエとオユキが暮らす屋敷には見た目だけでも威圧感のある相手が非常に多い。アベルに対して苦手意識を持っていたサキ。それと同じことがまた起きるのかと思えば、なかなか引き取るのも難しい。

「サキさんとアリアさんですが。」
「本人たちが望むのであれば、二人で暮らす場を用意しても構いませんが。」

そう、この屋敷とは別に、何処か他の家であったりを用意しても構わない。ただ、二人で暮らしていくことができるかと言えば、それも怪しいと言わざるを得ない。サキだけであれば、最低限は生きていける。しかし、そこで養うべき相手を一人抱えてとなれば話は別。時折少年たちと共に、町の外に仮に出てはいるらしいが根本的に性格が向いていない。気後れすると言えばいいのか、魔物が彼女に向かってきたときに逃げようとまずそれを真っ先に考えるのだ。例え彼女よりも弱いのだとしても。

「どちらにせよ、本人の意思確認から、ですね。」
「ええ。」

なべて世は事も無し、そうあれかしとある様に。オユキとしても、そうただ日々を務めるしかない。
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