憧れの世界でもう一度

五味

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22章 祭りを終えて

護衛を終えて

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護衛対象者である採取者たちを先に町まで送り届け、それからトモエとシグルド、パウの三人は改めて町の外へと出てきている。まだ昼には早い時間、門まで送り届けたところで解散としたため少々時間も余っている。採取者たちも各々持ってきていた籠が埋まったため、予定よりも早く戻ることを承諾したという事もある。今暫くは、こうして三人で魔物を狩るというのも楽しい事ではあるだろう。
オユキに話して聞かせれば、恐らくそこを起点にオユキも多少はと譲歩を迫られそうな気もするのだが。

「で、あんちゃんは良かったのか。」
「ええ、構いませんよ。」

何やらトモエの顔色をうかがう様な様子を見せていると思えば。

「オユキさんも、少し良くなっていますから。」
「そうか。」

オユキが不調だと、少女達からも聞かされているのだろう。そんな相手の側にいなくてもいいのかと、少年たちなりに気にしていたらしい。ただ、その心配にしても。

「そう言えば、容体の詳細は伝えていませんでしたね。」

そこで、トモエとしてもこの少年たちの見舞いは受けるつもりでいたのだが、どうにも少々行き違いがあったのか、遠慮があったのか。

「あー、そっか。それってアン達に話してもいいのか。」
「ええ、構いませんよ。そうですね、あの子たちも同じ場にいたのでしょうから、気になっていますよね。」
「ああ。特にアンが気にしていてな。どうにも、身が入らないらしい。」
「オユキさんは無事ですし、今は未だ回復を待たねばなりませんが、午前中であれば起きて仕事をすることができる程度にはなっていますから。」

今も机に積まれた書類と向き合っている頃だろうと、トモエとしては苦笑いするしかない。

「あー、まだかなり悪そうだな。」
「そうですね。正直欲はありません。お医者様からも、きつく言われていますから。」
「それは、腕の怪我か。」

少年達と話しながらも、先ほどまで向かっていた河沿いではなく、今度は森に向けて歩みを進める。荷拾いを頼める相手は流石に連れていないため、切り捨てた魔物が姿を変えた者は各々拾いながら。ファルコが是非にと頼んで王都から連れてきた者達は、暫くトモエとオユキが町を離れている間に各々の去就を決めているため、既に同じことを頼んで受けてくれるものがいない。河沿いの町の教会に居を変えた子供たちについては、今も始まりの町の教会にいるのだろうが、そちらはそちらで色々と覚えなければならない事があるらしく、彼らもこちらに来たがっていたのだがそれが叶わないのだとシグルドとパウに既に聞かされている。

「いえ、マナ中毒に似たようなものと、少なくとも私はそう聞かされましたし、いくつか他の病も併発した結果と、そのように。」
「他か。」
「はい。要は風邪に罹るにしても、間が悪かったというところでしょう。」

トモエは鹿を無造作に切り捨て、次いで熊の首も落とす。これで食肉を求めるというのであれば、もう少しこういった魔物の相手をしてもいいのだが、生憎と今は少年たちの確認とこの先に求める魔物、それに対しての準備運動のような物だ。

「そうか。」
「そっか。何つーか、オユキいっつもこんな感じだよな。」
「そう、何ですよね。」

オユキはオユキで、どうにか年長者として頼りになるところを見せようとしているのは分かるのだが、空回りすることがあまりにも多い。それこそ、初めての遠出、河沿いの町に向かったときにしても、オユキは少女達と仲良く馬車の荷物となっていたものであるし、次に領都に向かった時にも帰り道では、シグルドは起きていたのだがオユキは見事なまでに撃沈していた。そうした、振る舞いとしての途方も無さから感じる物と、日常に近い部分で目にするオユキの姿というのは何処まで行っても飲み込みにくいものがあるだろう。
パウはどういった意見を持っているだろうかと、トモエは様子を伺ってみるがこちらにしてもシグルドと似たり寄ったりであるらしい。少女たちの方は、見た目としては同性であり少し幼い容姿と見えるからだろう、トモエよりもオユキによくなついているのだがどうにも面倒を見なければならない相手だと、そうした様子が垣間見える。

「まぁ、そこが昔から変わらず可愛らしい所なのですが。」

子供のようなところが、いくつになっても自分の思い付き、きっとこうなれば誰かが喜ぶだろうといった事に全力で向かうオユキを、トモエは好いたのだ。時には行き過ぎる時もあり、トモエが掣肘することもままあったのだが、そうでない時にはやはり自由にあるオユキが好きなのだ、トモエは。

「ま、オユキもあんちゃん好きみたいだしな。あいつらから聞いたけど。」
「そうだな。」
「おや、オユキさんがあの子たちに何か話しましたか。」

何やら、シグルドの視線が少し遠くを見ている。
近寄ってくるシエルヴォを相手にしながらも、こうして他の話に興じる事が出来る程度には、確かに教えた事が身につき、そして加護も十分得ているらしい。渡した太刀を今も油断なく構えて、シエルヴォの足をまずは斬り、行動を縛ったうえで次に致命を狙ってと。他方パウの方は、いよいよシエルヴォを一撃のもとに叩き潰して見せている。オユキが面白がってという事も無いだろうが、彼に渡した金砕棒を実によく扱っている。トモエにしても、そのような物を振り回すとなればなかなか難儀しそうな重量物ではあるのだが、パウはそれがごく当たり前といった様子で。
但し、シグルドにしてもパウにしても、やはりトモエから見ればまだまだ不足が多い。

「あー、何つうかあんちゃんに傷を与えたら、オユキは絶対に許さないとか、そんな話をな。」
「ああ。納得しての事であればまだしも、そうでは無く不意を突いてというのならば。」

トモエにしてみれば、不意を討たれる方が悪い以上の物では無いのだが、オユキがそう考えるのであれば、まぁ嬉しいものだ。トモエにしても、オユキがトモエでは無い誰かに同様の事をされたとしたならば、どうするのだろうかと考えてみる。結果は、まぁ大差がない。苛立ち、怒りに支配されて、オユキよりも酷い振る舞いを行って見せるかもしれない。事此処に至るまでに、オユキを散々に利用してくれている相手に対して、トモエこそ思うところがある。現状、こちらの世界に残る事を良しとしない理由、その最たるものがそれ。

「そうですね。少し考えてみましたが、オユキさんが同様の事をされたのならば私も同じことをするのでしょうね。」
「ほんと、仲いいよな。」

シグルドにそう評されるのは嬉しいものだ。
それこそ人によっては、トモエやオユキの在り方というものに対して実に懐疑的と言えばいいのか、否定的な振る舞いを見せる事だろう。それを示さない相手というのは、側にいてもトモエは苦を覚えない。己に対して、好ましい関係や振る舞いに対して否定的な者達の中で生きるのは、やはり疲れる。生前の世界で、散々に言われたことがある。古い技術を伝えている、野蛮な振る舞いが、精神修養にならない。こぎれいな言葉だけではなく、それこそ罵詈雑言に近い物まで。トモエが最も困ったのは、人が積み重ねた物、科学と呼ばれる思想の名のもとに生み出された兵器に対して何もできないだろうと、そう言われたこともある。
事実として、人間の強度がある以上はやはりどうにもならないのだと理解せざるを得なかった。

「ええ。私の数少ない自慢の一つでもあります。」

喜ばしい事に。

「それは置いておきましょうか、今は。」

周囲にはやはりまだ魔物もいる、ただその中にいてもシグルドとパウの動きに見える良くない部分について指摘を行っていく。実際に直すのはまた別日という事になっていくのだろうが、それでも事前に言い含めておく方が良いだろうと。

「シグルド君は、これまで使っていた両手剣と今使っている太刀、その差をもう少し理解することが必要ですね。パウ君は力任せに動くことが増えています。以前にも伝えた事を繰り返しますが、やはり力というのは繊細なのです。」

大きな注意点を、まずは伝える。
シグルドはやはり両手剣のように太刀を振るうし、パウは教えた範囲の事も既に忘れつつある。どちらも、またしばらく間が空く前にきちんと矯正をしなければならないだろう。一先ず準備運動は終わりと、その証として渡した武器を持って、そうでは無い振る舞いを伸ばしたというのならば、やはりトモエとしても苦言を呈さなければならない。シグルドとパウもそれを望んでいたのだろう。
トモエの言葉に、分かってはいるといった様子でただ納得した風に。

「以前は、そうですね。練習用の武器を使っている所多少見ただけでしたからね。そこでも、直しはしましたが。」
「あー。」
「武器が違うという事は、そこに手直しが色々といるのですよ。以前、領都でも言いましたね。」

シグルドがなんのことか分からないと、そういったそぶりを見せる為トモエが言葉を重ねればパウの方では理解の色を見せる。シグルドは未だに何事かと言いたげな風ではあるのだが、そればかりは言葉で理解が進む者とそうでは無い者、そういった差。では、どちらの方が上手くなるのかと言われれば、現状だけで言えばシグルドの方が技という部分ではやはりパウに勝る。力に関しては体格にかなり恵まれているパウにかなりの分がある。総合で言えば、今もパウの方が安定して強いだろう、シグルドよりも。
ただ、この二人で試合を行えば、恐らくシグルドが勝ちを拾う。
何処までも勝気なシグルドに比べて、パウは身内に対してそこまで勝とうなどと考えることは出来ない。試合だからとセシリアのように割り切って、己の力を示すこともままならない。

「ここでは、少し難しいですから、そうですね。」

こうして話している間も、やはり変わらず魔物はトモエ達めがけて突っ込んでくる。
鹿と熊だけでなく、既に虎やヘラジカなども側に来ようとし始めている。流石に、トモエがそれらを相手取れば下手をすれば丸ごと残りそうでもあるから、今日は見逃すこととして。

「時間のある時、午後以降においでなさい。」
「あー、大丈夫か、その。」
「ええ。オユキさんは動けはしませんが、皆さんの様子を見るのも気分転換にはいいでしょうから。」

今も執務室で、私室でもある寝室と同じように窓のない部屋で書類と向き合っている事だろう。ならば午後からは疲労を感じていたとしても、少し外に出たいというに違いない。
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