憧れの世界でもう一度

五味

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20章 かつてのように

簡単な事

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さて、狩猟者ギルドで話をしてみれば、意外と事は簡単に片付くのだと分かった。ただ、問題と言えばいいのか、懸念事項と言えばいいのか。要は、人手が多いのであれば、町の備蓄が危ういのだと、そうブルーノに言われたこともある。ならば一応は狩猟者として手伝うかと、そう言う話になるというものだ。
無論、同行していた者達にも誘いを出して、ついでとばかりに屋敷に人を遣る様に手配も忘れていない。装備という意味では、常に腰に下げているものがあり防具に関しては一応とばかりに身に着けている。そんな様子を見て、シグルドとパウからは頼もしいとばかりの視線が寄せられているし、狩猟者ギルドの面々からは何やらものものしいと、そういった視線を寄せられているのだが。

「では、そうですね。」

さて、そして町の外に出てきたは良いものの、では何を狩るのかと問われればそれを考えていないわけで。

「何を狙いましょうか。」
「シエルヴォは、どうよ。」
「水と癒しの女神様に向けてなのだから、魚の方がいいんじゃないか。」

さて、そこから暫くあれやこれやと少年達の間から意見が出る物だが、トモエとしては正直そのどれでもよい。どれにしても相応に見返りがあり、どれにしても難しいところがあるのだ。
勿論、野の獣たちを狩って持ち帰れば、町中にいる者達は調理に慣れている事だろう。しかし、水と癒しに似つかわしいという訳でもない。では、水と癒しに相応しいであろう水場にいる魔物たちはどうかと言えば、当然町にいる者達に慣れがあるはずもない。

「町の中にいる料理人の方々は、さて、どの程度慣れているのでしょうか。」

トモエとしては、色々と疑問ではある。近場に海産物の取れる拠点があり、そこからある程度は、例えば干物などにして持ち込まれるのではないかと、そうしたことも考えないのではないのだが、それについてはオユキからの実に複雑な説明である程度は飲み込んでいる。オユキの方で、何やら相応の理屈があると考えているようで、それは凡そトモエには理解しがたいものではあったのだから。
どうにも、過去の世界を基準に考えるところがあるトモエに対して、オユキの方はこちらの世界に対して随分と理解があるような、そういった様子。今後、これまでの間は少々互いに忙しい時間が続いていたため、話をしようとしても、どうにもならずオユキの方で気分を害するだろうからと日常の事に終始していたのだが、今後は改めてそうした話を求めてみるのも良いかもしれない。そう考えながらも。

「なんか、アルノーのおっさんだっけか、色々と助言をしちゃいるらしいけど。」
「そうだな。うちも色々と助かっている。」
「となると、いえ、流石にもう少し日が要りますか。」

さて、そうした話を聞いているのも楽しいものだが。

「では、とにかく二手に別れましょうか。私は、そうですね。」

そして、トモエとしては早々に結論を下す。どちらもいるというのであれば、どちらも確保を考えればよい。ローレンツは今、傭兵ギルドの方に貸し出しているというか、イマノルとクララがこちらに戻ってこれるように新しい拠点の管理をオユキが頼んだため、今朝がたそちらに向かって行った。今はそれぞれ引継ぎなどをしている事だろう。

「久しぶりに、鹿や熊としましょうか。」

そちらに向かい、猪、若しくはダチョウなどを狙うのも良いかもしれない。そんな事をトモエは考えながら、では他の者達はどうするのかと判断をゆだねる。結果として、未だに狩り足りないと感じていたのだろうか、それともファルコが従うトモエについてくることを望んだのだろうか。どうやら、シグルドがファルコの代わりに彼らを統率したうえで、トモエの方についてくることを決めたらしい。

「さて、皆さんご存知でしょうがトモエ・ファンタズマです。どうぞよろしくお願いしますね。」
「まぁ、こいつら皆あんちゃんの事は知ってるだろうけどな。ああ、改めてシグルドだ。」

簡単に自己紹介などを交えつつ、少し歩いて門から離れ、では早速とばかりに彼らに獲物へと向かわせる。
さて、これまで数度見た事もあるのだが、どうにもファルコが教えるほどには手が回っていないらしく、各々実に独創的に動いてくれる。それこそどうなっているのか分からない者達も、まぁ、ある程度以上いる。それでもどうにかなっている以上は、加護の素晴らしさという他ないのだろう。

「さて、どの程度口を出しても良いのでしょうか。」
「その、お願いできるなら、お願いしても。」

トモエとしては、実に不確かな事に対して首をかしげて見る物だが、ただ、何を望んでついてきたかはよくわかる。

「まぁ、良いでしょう。」

さて、頼まれたのならば仕方があるまいと、一度全員を集めた上で簡単にそれぞれを手直ししていく。勿論、細かい所までは流石に人数も人数であるし、時間もない為直せはしないのだがそれでも最低限と呼べるところまではとりあえず直して見せようかと、そう考えながら。

「では、そうですねまずは。」

さて、そう声を掛けてファルコの知り合いだろう相手を順に簡単に。シグルドの方では、その様子を見ながらも魔物狩りに余念がなく、彼についてせっせと勤しむ者達もいる。追いかけまわしているというのか、追いかけられていると言えばいいのか。どうにもシグルドが一人で鹿を相手にし、熊と戦いと、実に大活躍といった様子でそこに他の者達も我こそはと突っ込んでいっている。そちらに関しても、後で色々と言わなければいけないだろうなと、そんな事を考えながらも今は目の前に。

「さて、良いですか。改めてとなりますが、皆さんそれぞれに武器を持っているわけです。」

トモエにしても、腰から武器を下げている。

「では、これを如何にあてるのかというのが、重要になってくるわけです。」

それは、特段難しい事でもない。何となれば、ごく当たり前の事。

「そこで工夫を凝らさぬのであれば、ええ、そこらに落ちている石を拾い投げるほうがまだ良いでしょう。」

さて、こうして話した時に今少し離れた場所で熊を相手に奮闘しているシグルドは、突っかかってきたものだ。今となっては良くわかっているようで、どうにかあれこれと苦心しながらも戦っている。その様子を遠目に見ながらも、トモエは続けて己の武器を鞘から抜き放つ。白々と陽光を照り返す刃は、実に澄んだ地金と鋼の色を隠すこともない黒い刀身。実に美しいと、トモエはそう感じている。

「如何にあてるのかを考え、工夫を凝らし、そして技を磨くわけです。」

ちらりほらりと、頷いているものがいる。どうやら、その辺りを見る限りファルコの薫陶が行き届いているようでもある。どうにも、こうして狩りを続けるうちに反骨芯のような物が生まれた者達もいるらしいが、そればかりはこれから矯正していけばいいだろう。

「さぁ、それでは始めましょうか。」

早速とばかりに全員を促して、まずはそのまま素振りを行わせる。数を数えるオユキはいないが、まぁ、こればかりは仕方ない。

「一先ず、そうですね。」

しかしながら、過去にそうしたように二百も振らせては使い物にならなくなるだろう。とりあえずは百程で良いだろうかとそんな事を考えながら数を数えていく。そうしている間にも、シグルドの方は熊を打倒して、残ったものをあれこれと拾い始めている。合間にそちらにも視線を向けながら。周囲を見れば、恐らく祭りが近いと分かっているからだろうか、若しくは狩猟者ギルドが忙しいと分かっているからか。そればかりは予想にしかならないが、普段よりも随分と人影が少ない。何となれば、町から出たところにある追い込み場、若しくは新人未満たちがせっせと狩りに励む場所にしても、少々人影が少なかったようにも思えた。どうにも、人に興味をなかなか持てないトモエでは、その辺りは気が付かない物であるし、オユキの方は気が立っていたこともあり気が付かなかったのだろう。当然、そこの管理者から報告はいっているのだろうが、ギルドとしてもいつもの事だろうとそう流していたのか。

「あの、これって何回やるんですか。」
「疲れているでしょうし、この後もありますから一先ず百だけですよ。」

さて、何やら随分と疲れた様子でそう尋ねてくる相手に、トモエは当然のこととしてそう応える。何やらそれに対してげんなりした顔をしている者もいる。そちらは後でゆっくりと時間を取って叩き込むとして、ああ、それなら問題ないとそうしたことを考えている顔もある。どちらも相応に教えなければいけないし、やはり時間が必要となってくる。

「では、続けましょうか。」

さて、こうして剣を外で振るうのは、いつ以来か。過去はそれこそ道場の中で行っていたことだが、折に触れて演武の依頼であったり外で気分を変えてという事もたまにはあったものだ。

「ああ、それと皆さんもこの後魔物の狩りを行って頂きますので。」

これで終わりと考えていた者達の顔から、すっと表情が抜けるのをトモエは見た。

「当然ですね。」

それを当然としている者達こそが、傭兵となっている。狩猟者であるうちは、まぁ、色々と手がいる者達でしかないという事だ。加えて騎士となれば一体そこにあるのはどれほどのものか。トモエとしても、興味があるのだ。もしも叶うならば、いよいよ言い訳の無い場所で、そういった舞台で戦う事が出来たならと。それこそ、今は未だ届きはしないだろうが、手立てに心当たりはあるのだ。

「それと、皆さん、気もそぞろになっているようですが、どうぞ集中を。」

それはそれとして、己は己でどうにも気が多い事ではあるのだが、それが許される程度の積み重ねはこれまで行ってきたとその程度の自負はある。トモエとしても、オユキが立ててくれるようにあろうと、その戒めは常に己に対して行ってもいる。ただ、それが叶わなかった、何やらオユキが少々凄みを見せてフスカに食ってかかっていたこともある。いよいよ祭りがどうなるのか、そこに対して不安は覚えてしまうものだが、なるようにしかならないだろうとトモエとしては結局その結論に落ち着くのだ。

「さぁ、どうなるのでしょうか。明日からは。」

それが楽しみでもあり、怖くもあり。
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