憧れの世界でもう一度

五味

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20章 かつてのように

町を歩いて

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トモエの方は、あれこれと確認に奔走している人たちの間をすり抜ける様に歩いていく。どうにも、先の集まりで頼まれた事を、あれやこれやと片づけなければならない為、人手が足りない事もあり己が買って出ているのだ。これでオユキのように人が使えるのであれば、随分と楽になったのだろうがどうにもその辺りが慣れなのだろう。トモエは実に向いていないと感じるものだ。

「で、あんちゃん何してんだ、こんなところで。」
「そうですね、お遣いでしょうか。」

こうしてシグルドにばったりと会って、不思議そうに尋ねられるのだが他に応えようもない。

「そっか。」
「ええ。シグルド君は、狩りから戻ったところですか。」

さて、こうして出会ったのならば仕方がない。

「ああ。俺らはそうだな。」

そして、シグルドが示す先には、何やら珍しい者達の姿がある。どうやら、少女たちの内幾人かは教会の手伝いに駆り出されているようで、残りの者達は恐らくメイに誘われたのだろう。子供たちと、他にもちらほらとよく見た顔がある。どうやら、王都に向かう者とこちらに残る物でまた別れたのだろう。

「そうですか。それにしても。」

こうして改めて見てみれば、それぞれがかなり成長しているのが見て取れる。生憎とトモエの方は体系などそうそう変わりはしないのだが、少年達、子供たちは違う。少し見ない間に、やはりかなりの成長がそこには存在している。これまで不足していた栄養素というのもあるのだろう、他にも十分な運動が足りていなかったりと、色々と。
各々が背負っている武器にしても、随分と使い込まれているようだし、身に着けている鎧にしてもかなり使い込まれている。実に結構な事ではある。

「皆さん、なかなか見違えましたね。」
「まぁ、色々あったしなぁ。」
「ああ。」

さて、こうしてシグルドとパウと話し込んでいてもいいのだが、残りの面々も何やら話したそうにしている。ただ、そちらは一度おいて起き、トモエからはそろそろ暇を乞おうかとしていれば。

「で、あんちゃんなんかまたあったんだろ。」
「おや、分かりますか。」

しかし、シグルドがトモエを引き留める。

「まぁ、な。どこかに行こうと、そう考えているのは分かる。」

どうやら、付き合いの長い相手にはお見通しであるらしく、トモエの様子を見て理解が及んだものであるらしい。

「ええ、そうですね。」

さて、事ここに至っては、まぁ、言い出した以上は巻き込まれると分かっているのだろう。では、丁度人でも欲しかった事であるし、巻き込もうとトモエは早々に決める。思えば、こうして足の赴くままにという訳でもなく、話し合いが終わってまずはとばかりに門の所にまで歩いてきたのはそうした腹心算があっての事。ならば遠慮する必要も無いだろうとトモエは考えを改めて、厚意に甘える事とする。
どうにも、彼らとしてもトモエとオユキに向けて返したいこともあるようす。

「何分、急ぎの事ですから丁度人手が必要だったのです。」

さて、そうトモエが話しを切り出せばすわ何事かと身構えるファルコが連れてきた者達。そちらの事は放って置き、何やら訳知り顔のシグルドとパウは置いておき、なにやら不思議そうな顔をしている領都からの子供たちに。

「どうにも、明日行う祭りですね。そちらの準備が不足しているようです。」

そして、オユキから示された懸念点を少年たちに、そして子供たちにも伝える。
要は、資材の不足であったりあちらこちらに伝達しなければいけない事が溜まっているのだと。商人たちには、商業ギルドに戻ったものが、傭兵達、警備を行う者達には傭兵ギルドに戻ったものが。そして、採取を行う者には、採取者ギルドに戻ったものが。そして、狩猟者ギルドにはそれこそブルーノが参加していたのだが、生憎と持ち込まれる物であったり予定の調整をしなければならないと後の事を他の者達に任せて今は忙しくしている。最も狩猟者というのは基本は専業であるものの今となっては兼業としている者も多い。そうした者達への周知徹底は、色々と方法があるのだろうが何分手が足りていない。そして、トモエにこうして任されたという訳だ。

「あー、まぁ、俺らでも出来そうなことで良かったよ。」
「ええ、ですので皆さんにもお願いしたいのですが。」
「分かりました。」

実に元気にそう返ってくるものだ。

「一先ずは、貴族区画は置いておきましょう。町の、そうですね、南側を主体として、皆さん周知を。」
「明日だったか。」
「はい。」

パウに改めて確認されるが、そうなのだ。どうにも町中は忙しないし、こうして男衆ばかりが集まって何をするのかと言えば、まぁ、狩猟祭の延長の様な祭りだ。

「とにもかくにも、参加者を募るところからでしょうか。こう、用水路ですね、今引き込んでいるあのあたりを使ってとなるでしょうから。」
「でも、どうなのだろうな。」
「あー、だな。物見高いのは行くだろうし。」

さて、何やら認識の齟齬がありそうなものだ。

「おや、どういうことなのでしょうか。」
「あ、気が付いてなかったのか。こう、アン達が色々とやるだろ。」
「ええ、そうですね。」

アナとセシリア、それにアドリアーナも。それぞれにメイに招かれているのだが、どうなる事か。

「いやさ、あんちゃん知らないだろうけど、結構参加希望者多いぞ。」
「おや。」

しかし、何やらシグルドの言い分を見れば、あれこれと違うらしい。

「ああ。確か、どうせ暇だからといつも寄っている店の店主たちは参加するんだったか。」

どうやら、思った以上の人出がありそうな、そうした様子であるらしい。オユキも見落としていたのだが、トモエにしても恐らくはある程度のものたちが参加するだろうかと考えていたのだが、何やらそれ以上の出来事になりそうな。そういった予感がある。

「だよね。えっと、あのお店の人とかもそうだけど、他の町から色々な人が来るし。」
「そういや、河沿いの町からも人が来るんだっけか。」
「そう言えば、そんな話だったかもしれません。」

思えば、河沿いの町から助祭を借りた上で、今回の祭りを執り行おうとそういった話になっていたはずだ。であれば、今は未だ到着していないらしいがその人物に向けたなにかも必要になってくるだろう。どうした所で、人を頼まねばならない状況ではありそうだ。
あれこれと、それはもう盛り上がる話を聞きながらも、足は自然と狩猟者ギルドへと向かい始め、皆がそれについてくる。そうして連れ歩いていれば、何とはなしに過去の事をトモエは思い出す。思えばこうして子供たちを連れて、それこそ国内旅行であったりをしたのはいつの日か。どうにも思い出せないほどではないのだが、遠くに感じてしまう昔日。こうして子供たちを、後進を引き連れて歩くというのは、まぁ悪くはない。

「狩猟者ギルドに向かってきたわけですが、さて、どなたかお手すきの方がいればいいのですが。」
「あー、俺らは先に報告してくっかな。」
「そうですね、では、その時にでもどなたか手が空いているようでしたら。」

さて、そうして話していればミリアムが何やら気が付いた様子で、トモエに向けて手など振っている。では、そちらに向かおうかという時に、己の話だけでは不足がありそうだと引率をパウに任せてシグルドと領都からの子供でもあるウィンダムに頼み、そちらに向かう。重たい素材もそれなりにあるだろうから、という判断でもある。

「トモエ卿、どうかされましたか。」
「ああ、ミリアムさんですか。丁度良かった。先ほどお話しした件なのですが、この子たちに聞くとどうにも様子が違う様で。」

さて、ギルドは国営の機関であり、ここ暫くは忙しくしていたというのだ。ならば、現在の町中の空気を知らずとも仕方があるまい。そうして、トモエがかいつまんで話したうえで少年たちに話を求めれば、直ぐに厄介事だと気が付いたのだろう。早々と上階が用意され、先ほど話していたブルーノとも再び顔を付き合わせて話し込むこととなっている。何とも、忙しない事である。

「成程。しかし、つい先ごろにも祭りを行ったではないか。」
「いや、騒げる口実なんていくらあっても良くね。」
「それは、そうかもしれませんが。」

さて、トモエからしてみれば、シグルドの言う事もよくわかるのだ。

「それに、皆あれこれ頑張ってんだし、神様にお礼を言いたいってんなら止める理由もないんじゃね。」
「確かに、そうなのだが。しかし、規模がな。あまりに大きくなりすぎると。」

そして、ブルーノの言い分もまた理解ができる。
では、どうやってすり合わせるのかと言えば。

「仕方がありませんか。」

少し考えた上で、トモエは一先ずの解決策となるだろうものを口にする。要は、送り出した後に、別の場にいけばいいのだ。水の側で何かをしたいと考えるものたちがいたとして、何もいつまでもそばにいてもらうという訳でも無し。

「では、贈り物をした者達は、他に向かって貰いましょう。そうですね、このあたりでは、色々と障りもあるでしょうから少し奥まった場所に。」

そう、どうにか出来るだけの財は、まぁ一応あると言えばある。トモエの裁量で動かせるものは限られているし、何となれば己の手で稼ぎ出した者だけとなっては来るのだが、それでも一ついえる事があるとすればまた稼げばよいだけでもある。今回の色々で、それこそ方々からさらに贈り物などが得られるであろうし、正直収入と支出のバランスが完全にくるっている家なのだ。ファンタズマ子爵家というのは。何処か期待するような目で、ブルーノがトモエを見ているのは理解が出来ている。だからこそ、気軽にそれを口にする。

「当家から、と言いますか私からですね。いくらか、供出できるものもあるでしょう。」

それこそ、アルノーにでも任せてしまえば良い。思えば、彼も何やらここ暫く忙しくしていたようではある。水と癒しの神から、また何か彼に頼み事でもあったのだろうかと、そう考えていたものだがどうやらこういった事を見越しての事であったのだろう。どうにも、周囲にいる者達に支えられているのだとそれが良く分かるというものだ。

「どうにかなるのであれば、ええ、どうにかして見せましょうとも。」

さて、オユキは今頃オユキの戦場で戦っているのだろうと考えながらも、今は己が出来る事を己に課して。
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