憧れの世界でもう一度

五味

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18章 魔国の下見

知識と魔の神殿

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見苦しい。
それ以上の感想はトモエには無いが、オユキに言わせれば抵抗を見せる事にも確かな意味があるのだと、そのような話も聞いている。そこで精々問題とするのは本気度、くらいだと。
町の入り口で、若しくはそれが退けられた後に合間に出てくるものは確かに度し難いのだが、神殿の前で遊び程度に何かをして来る者達は評価できるところはあるのだと。

「オユキさんは、見どころがあるとそう言っていましたが。」
「成程。権威を守る者達の意地というのを買っていただけはするのですね。」

トモエが呟く言葉に、ニーナからは感じ入るところがあると、そのように返ってくる。

「生憎と、私はその辺りよくわかりませんが。」
「であるならば、確かに今の役割分担も正しいものなのでしょう。」

そして、トモエはどうした所でそれを評価しない。戦うならば勝つために。その思想が何処までも根底にある。

「ええ。信頼しています。私にできない事は、オユキさんが。」
「そして、ファンタズマ子爵が不可能であれば、という事ですか。比翼の鳥、まさに功績のままですね。」
「有難い事です。」

実際のところはそれだけでなく、連枝も含まれてはいるのだが。

「それにしても、相も変わらず神殿の威容というのは素晴らしいものですね。」

既に目的地には到着している。オユキがトモエに預けるといった手札も半ば使われたため、実に速やかに進んだものだ。本来であれば、これまでに幾度か経験したように脇にどけて主役を待つのだが、今はまだ片付けが残っている。要は、事ここに至って待っていた者達は、ただ王家の威光を保つために抵抗は行った。しかし、それを保証する神々の使命を持つ者達に退けられたのだとそういった実績を作っただけに過ぎない。だからこそ、参加しなかった者達がニーナが無造作に薙ぎ払った者達を速やかに脇に避けていく。そして、そんな相手に向けて遠距離から、予備動作の無い動きがある事は先に理解していることもあるので、警戒だけは緩めずトモエは改めて神殿の景観を楽しむ。
生憎と、王城にしても時間を使いたいものだが、全く異なる方向に視線を向けてという訳にもいかない。それに、近くに既に変わらず素晴らしい建造物があるのだ。
水と癒しの神殿とは、そもそも司るものが違う。故に、それが当然とばかりに神殿としての共通項目など何一つない。磨き抜かれたガラス張りの外壁、かつての世界にもままあった周囲の景色を写し取る佇まい。しかし、十分に近づけば中も薄く見通すことができる。知識の入り口は確かに不明瞭である。積み上げたものは細分化され迷路のよう。しかし、そうしなければ己の理解をただ理解すべきものが映し出し、表層をなぞるだけで完結する。何とも皮肉めいたというのか、あり方を表していると言えばいいのか。ただ、それにしてもトモエの理解が及ぶ範囲でしかない。では、何処に魔を示す要素があるのかと、視線だけを動かしてみればやはり表層しか確認はできない。

「トモエ卿は何か気がかりが。いえ、警戒は分かりますが。」
「その、恥ずかしながら目的もあり、魔を表すものが何かと。」
「言われてみれば、確かに。見覚えのない材質に見えますので、神殿そのものが魔道具という事でしょうか。」
「基本は銀と、いえ、成程。」

銀を使って魔道具とする。そう言った話は確かに聞いている。手土産として公爵領から、なかなか愉快な量を始まりの町に持ち帰ったこともある。そして、魔術師であるカナリアが、それをいたく喜んだりもしたのだ。しかし、改めて思い返してみれば、魔道具であるはずの馬車に、銀を使っている形跡など見受けられはしない。外装の飾りなどに隠してあるのだろうが、つまり、隠せるような使い方をしているという事だ。となれば、目の前の神殿にしても。

「ふむ。まぁ、眼の作りの差もある。どれ。」

そして、己の坐すところに興味を向けられて悪い気もしないのだろう。それこそ、与える神でもあるのだ。
知識と魔の神が、それこそ何事かをしたのだろう。そこで現れる結果は実に劇的だ。これまでは並ぶ王城と合わせて実に見覚えがある形状だと、水と癒しのように力を表す分かりやすいものが無いと、そのように見えていたものだが今は違う。見えていたものはあくまで一部だと、そう言わんばかりに目の前にあった景色が一変している。
知識は積み上げるもの、そして、細分化されたとしても実に複雑に重なり合うもの。それをよく示す形で。
先ほどまでは全容を視界に納める事も出来たと言いうのに、今となっては王城に迄伸びた先がどうなってるかは、いよいよ見えぬものでは分からない。それこそ、城内に研究機関もあるのだろう、王家、王族、その権威があるからこそ他の何処よりも先にと研鑽を積んでいる事だろう。だからこそ、遷都という選択肢があり、神殿が側にあるからこそそことの調和を考えて作り上げられているのだろう。
変化は積み上げられた箱がただ高く積んだ知識を誇るだけにはとどまらない。当然それを支えるだけの基礎研究というものも必要になる。足元に広がっていた石畳も、今になってみれば、その表面には何やら見覚えのない文字が刻まれている。そして、所々にまた柱状のものが立ち上がる。それは既にそこにあるものから干渉を受ける事もなくただ立ち上るホログラムのように。

「これは、また。」

そして、これまでその威容を目にできぬ者達も多かったのだろう。周囲からはざわめきなども上がっている。

「創造神様より、御身はこの度の事で聊か目を向けるのも難しい時間を得られていると、そのように伺っておりましたが。」
「それも間違いではない。されど、必要な準備が出来ているのならば、この程度は問題ないとも。」
「では、確かに私の目的に対して、配慮を頂けているのだと感謝を。」
「返せるものを返すだけ、それは我とて変わらぬ。そして、忙しさを言い訳にもできぬ事柄である故な。」

今この世界に映されている知識と魔の姿、像と呼ぶしかないものはオユキの少し後ろ。戦と武技と並んだうえでそこにある。しかし、声ばかりは確かに届くものだ。

「また、こちらでも色々とお話を伺いたいものですね。」
「要望は伝えておこう。」
「では、少し想定していた流れとは異なりますが。」

そして、トモエに預けられている札の一つとして、せっかくこうしてこちらで暮らす人の半分ほども目にすることが叶わない、そのような光景が広がっているのだから。

「ええ。儀式には相応しいものが揃ってこそ、そうですものね。」
「何も、そこまでとも思いはするけれど。」
「良いではないですか。私たちが頼ることもあり、それに応えてくれる相手なら。」

そして、この場に新たに現れる柱が。
今回の事、神々の予定としては決まったことでしかない。決まっていたことでしかない。しかし、人にしてみれば、神々の理だけでなく、人の世の理の中で生きる者達にとっては、異なる意味合いを持つ。
少々騒いだ神殿の前、そこで伸びていた相手が綺麗に片づけられれば、神殿を背にどこか面影に覚えのある相手が立っている。誰かが来るだろうと、そう言った話はしていた。何となれば、今頃王城で迎え入れるために、この後開かれる席の用意があるためそんな余裕を捻出するだけでも、大変な事ではあっただろうに。
早馬として、どうした所で旅慣れぬ者達が耐えられる範囲での移動の為、遠距離での移動を当然とする者達が、実に酷使されたとはいえ、それでも詳細を詰め切るほどの密な連絡とはいかない。神国から随伴していた者達はともかく、やはり知識と魔では、それを叶えられる人員が少ないという事もあるのだ。

「では、我らの良き協力者、戦と武技の位を与えられた者の願いもありました。そして、此処で暮らす者達にとっては、確かに意味がある行為だと、それが示される事が重要なのだと、その願いの正しさを私たちが認めたのだと。」

そう、何処か改まって創造神が声を上げれば、月と安息が水と癒しと知識と魔を従えて進み出てくる。

「まぁ、私を奉じる物はこの世界、壁の中では多いもの。」

それこそ、こういった場であれば、神国として、魔国として、主とする神が等とも考えはするのだが、やはりそこには歴然とした力の差があるらしい。

「そればかりは仕方あるまいよ。」
「ええ。私に願う相手は正直少ないに越したことがない物。勿論、水の恵みを、その祈りは私としてもうれしいけれど。」

そして、知識と魔については、そもそも続けられぬ、続けるだけの下地が現状作れぬと切り捨てられた。他方水と癒しについては、冠する名の公判を望む状況というのはどうあがいたところで悲劇的と評するべき状況がそこにはある。軽度な物であれば、そもそもというものなのだから。

「さぁ、よく日々を生きる者達よ、よく聞きなさい。これまでの積み重ねがあり、世界を確かにあなた方が良く育てからこそ、いまこうして結実した物をあなた方へ返すことが叶うのです。」
「無論、契機、切欠、言葉は色々あるが初めて動かすに足るもの、その特別が別として齎されたに違いは無い。しかし、それにしてもこれまでが無ければ成し得なかったのだ。」
「ええ。残念な事ではありますが、私たちが直接何かをするには、特別とするだけの事が要ります。そして、異邦から、ただその事実を持つ者達が分かりやすいのです。」

そう、今ここでこうしているのは前倒しにされた予定、その結果。
ミズキリという人間は、間違いなくその予定にオユキを組み込んではいるのだが、その辺りは言わぬが花。

「一つの、そう、一つの分かりやすい結実が、確かに此処に。そして、少し先には、より分かりやすい形として。」
「何も、私たちに向けてばかり手を伸ばす必要はありません。私たちの力は強い。しかし遠いのです。」
「日々の安息、それを願い叶えるなら、やはり隣人よ。最もあなたを助けてくれるのは。信頼できる相手、直ぐ近くにいてくれる、安息をトモエに願う隣人。」

そうして、神々が代わる代わる此度の事を語り、そして人々のこれまでを讃える。確かに物事を始めるための初動として、大きな力とするために異邦人という仕組みが使われた。では、動き出した後それを維持していたのは誰なのかと。そして、動かすことを讃えるのもただしく、しかし結果が出るまで費やし続けた時間というのはそれもまた尋常な物ではない。やはり、どちらも優れているのだ。そして、動き出し新しくなる道、変わる状況に合わせて舵を取り続けた物たちの苦労というのもやはり報われるべきものではある。つまり、今回の事は、そう言った諸々を含めての物であり、切欠となった者達を、また運ばなければならない者達という、その変わらぬ構図があるという事でもあるのだが。
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