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17章 次なる旅は
楽しい時間ではある
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「ここまでしていただければ、そこまで忌避感なくいただけますね。」
そして、食卓はオユキが混ざるのが難しい様相を呈しているため、久しぶりに料理人たちの陣取る一角に、別で腰を下ろしている。
「私としましても、オユキ様にあのような真似をされては困ります。」
「いえ、あの中にあっても、作法を逸脱する真似は。」
「時間をかけていれば、取られて口に入るか怪しいものですから。」
「まぁ、それもそうですか。」
オユキ自身にそのような時分は無かった。兄弟も居らず、両親もどこかゆっくりと時間を過ごす相手だったのだ。食卓にしても、それが如実に表れていた。しかし、晩年、子供からその先にとなった時には、何度となく愉快な食卓というのを目にすることになった。教育を施し、理性を与え、以て獣から解脱するのだとそのような言葉の意味を、十分に理解する機会もあったものだ。シグルドたちにそうしたように、十分な用意ができるだけのものはかつても確かに持っていた。しかし、食材も料理も降って湧いたりはしないのだ。今も、変わらずアルノーとトモエが次々と用意をし、伯爵家の使用人たちが屋敷からあれこれと持ち出しているように。
「ニーナ様も、少し取り分けておきますね。」
「是非、守り通して頂きたいものです。」
ニーナも勿論オユキとトモエの側にいるのだが、こちらは現在絶賛仕事中となっている。他に交替の人員も確かに幾人かはいるが、そちらはそちらで残りの丸焼きの前で、行儀よく列を作っている。形だけは。
料理としての完成度は言うまでもない。しかし、問題として、その品は丸焼きなのだ。部位による味わいの違いというのは、どうした所で生まれる。今、オユキが食べ進めている脂の少ない部位、モモやヒレだけでなく、しっかりと脂ののっている背中側、肋周り。そう言った部位も存在している。そして、並ぶ者達にも当然好というものがある。全てを均等に、そう望みたいものたちがさてどれだけいる事やら。アルノーが準備が整ったと、給仕を伯爵家の使用人に任せた瞬間に走った緊張感というのは、トモエとオユキ両名に腰元に無いはずの武器を探させるのに、十分すぎるほどの物だった。
勿論、そこで暴走するようなものたちは居らず、実にお行儀よくけん制し合い、何やら簡単な手信号や目線の会話で優先順位が決まっていき、今となっては戦闘にいる者達が吟味し、何処を切り取ってくれと頼み、持ち出してくれば横目に見て舌打ちしたりと、実にらしい様子だ。
「家畜であれば、同じこともできるかと思いますが。」
「こちらの厨房を拝見させて頂きましたが、魔道具が主体でしたからね。」
「美味しくいただいていますよ。ご休憩ですか。」
そんな様子を眺めながらも、オユキは少量取り分けられた肉の塊を片付け、今度は葉野菜も添えられたプルドポークに取り掛かろうと、そうしているところにアルノーから声がかかる。
魔道具というのは、その大きさ以上の物が出来ないのだと、追加なども気軽にできないというのは、オユキもすでに知っている。回路を刻み、全体として一つの道具とする。丸焼きが可能な物を用意してしまえば、平素の調理にはとてもではない。
「ええ。流石に昨日からですから。」
「アルノーさんも、お疲れ様です。私の方でもいくらか角煮など用意はしましたが、流石にこの季節とはいえ、3時間も鍋と向き合っていると。」
「ナザレア、二人に水を。」
そうして、オユキが頼んだ時には、それが当然とばかりに水差しから器に移し、差し出されている。
「助かります。」
「お手伝いの子たちは、間に合いませんでしたか。」
「ええ、もう少しすれば起きて来るでしょう。」
昨日から、実に18時間近くの時間、火の管理をアルノーたちは行っていたのだ。当然子供たちは順に休憩に送り出しはしているのだが、それにしても半身で200キロ以上あるような、そんな愉快な肉の塊だ。スパイスを塗り込むのも、そのために切り込みを入れていくのも間違いなく重労働だ。挙句、それを作業台から焼き台に移した後は、火が体をあぶり続ける中で、加減を見続なければならない。
「この程度まで脂を落とせば、オユキさんも美味しく食べられるようで、何よりですね。」
「常の事とするには、時間がかかりすぎているとも思いますが。」
「薄切りにして湯通しをするだけでも、変わりますから。」
「ああ。言われてみれば、そう言ったサラダもありましたか。」
トモエに言われて、オユキはそういった料理もあったと思い出す。
「時間がかかること前提で、ロースト、燻製、やりようはいくらでもありますとも。あの子たちにも、一通りの技法は見せねばなりませんからね。」
「アルノーさんは、伝統的な南仏料理に限らず、幅広いですが。」
「シェフたるもの、店で出すものは他よりも優れていると信じているからこそです。幸い、これもありましたので、試すのも簡単でしたから。」
「それは、なかなか大変そうですね。」
どちらも、今行っているように一つの品を完成させるのに一日等可愛らしい、それほどの作業時間が必要なのだ。
「早々に完全予約制になりましたから。席数も少なく、週に三日だけ開店と我ながらよくぞ店舗として維持できたものだと。晩年はそれこそ後を任せられるものが増えたので、大切なお客様や、お声かけ頂いた折にだけ。」
「料理の世界には疎いのですが、それほどの腕前でしたか。」
「お二人とも、旅行などは楽しまれていたようですし、ミズキリさんの知り合いですから。」
「生憎と、南仏辺りに出向いた時にはニースには足を向けませんでしたから。」
アルノーがかつてどういったところで働いていたか、それはオユキも知っている事ではある。
「それは、仕方ありませんね。見どころの多い場所ですから。」
「ええ、本当に。」
かつての地、それを想いながら少し話をしていれば、勿論何があったのか報告が言ったのだろう。何やら覚悟を決めた顔で、家主と共に先代アルゼオ公爵夫妻が、実に賑やかな庭に顔を出す。そして、揃って何を言うでもなく、まずはオユキ達の陣取る一角に。
「また、ですかな。」
「さて、今度ばかりはアイリスさんが主体ですから。」
オユキがさらりとかわして、祖霊と仲良く肉をとり合っているその席に目を向ければ、実際先ほどから気が付いていたのだが、そっともう一柱増えていたりもするのだ。
そんな様子を見て、しっかりと動きを止める伯爵と、ただ瞑目して頭を振る先代公爵と。そこには確かに慣れの差というものが見て取れる。
「戦と武技の巫女、そのはずでは。」
「生業は狩猟者ですから。」
そして、料理を供するにあたって、人の糧となる奇跡を用意してくれる神への感謝、それを言い置いてもいるのだ。それこそかつての世界では、月と深いかかわりがあるとされることも多い柱、女性の姿をしており、動きやすい軽装に身を包んだそんな相手が実に楽し気にしながらも肉をとり合う様というのは、なかなか形容しがたい光景ではある。
「フィンガーボウルやエプロンの用意が要りましたかな。」
「さて、魔術での浄化など片手間に行われるでしょうし。」
こちらの世界で、テーブルマナーの一環としてそれらの取り扱いが無いのは、実に分かりやすい理由がある。
「ご挨拶だけでもとするべきなのでしょうが。」
「獣の食事を邪魔して機嫌を損ねない、そのような話は終ぞ聞いたこともありませんが。」
「では、我らも、今暫くこちらで共にさせていただきましょうか。」
オユキが言うまでもない事ではあるだろう。今となっては丸焼きはすっかりと平らげ、アイリスの供回りも含めて、僅か五人、そんな人数でどうこうできる様な量であるとも思えないのだが、今は各々がスペアリブに手を伸ばしては、そのまま骨ごと咀嚼しながら食べ進めている。
その様な様子を見せる者達の手を止め、少し話をなどと言い出せばどうなるか。まさに考えるまでもない。
「木々と狩猟の神も、健啖な方なのですね。」
「見た目は人にしか見えませんが、そこは神々としか言いようもありませんね。」
獣の特徴を身に宿す者達は、そもそも歯の作りも違うためまだ納得ができるのだがと、トモエが小首をかしげていたりもする。
「骨髄を使う料理もありますし、旨味という意味では比べるべくもないでしょうが、味見をしたことも無いので。」
「確かに、そう言った面での不安は覚えますか。」
本来であれば、貴族階級の者達が同席した折には、その席を整える物として控えてばかりいるアルノーだが、今ばかりは話の輪に入ってくる。それもそのはず、同席している上位者たちは、疲労をにじませてただ機会をうかがっているだけなのだから。
「さて、こうして木々と狩猟の神がああして楽しまれていることを考えれば。」
アルノーとトモエが、そこからお互いに用意した料理、その感想であったり改善点であったりを離すのを聞きながらオユキはオユキで他の事を考える。
最初に姿を見たときは、随分と気落ちしていた相手だ。それはこれまでのこの世界。始まりの町、領都、王都。そこで見た本来木々と狩猟の加護を最も強く受けるだろう相手が、一切を軽視していた、その改善が見込めなかったことが原因ではあろう。それが今こうして、賑やかに食事をするだけの気力が戻っている。つまりは、方々で手を回した結果、それが上手く進み始めている証左でもある。
「随分と、細かく手を打たれていたようですね。同様の細やかさを他にも見せて欲しいものですが。」
「その辺りは、興味の配分と申しましょうか。」
オユキは先代公爵夫人から刺される釘を、適当に流しておく。
どうした所で、今更容易くそれが変わるような年でもない。
「シグルド君たちも、そろそろ大変でしょうね。」
「あら、そちらも気が付いていますか。」
「ええ。これまでのなさりよう、王家の来歴、そういった物を伺いましたので。」
現国王陛下その人は、ただ玉座に座って公務をこなすばかり、それを好む相手ではない。他に出来る物が居らぬから、その役割を己に課しているだけだ。では、そう言った人間が休み半分。止める相手もいない場所に訪れればどうなるのか。好奇心のままに、あちらこちらと見て回ると、そう言い出している事だろう。そして、饗応役はメイしかいない。リース伯爵は、流石に始まりの町への移動までは間に合っていまい。それこそ国王その人が間に合わぬだけの仕事を回している事だろう。
「面識があり、食事にも招待されている、言葉もかけられた子たちが案内として最適でしょうね。」
そう、今頃は門を試すとしてふらりと現れた国王その人、その対応に少年達が駆り出され、王に大言壮語を吐いたもの達も、その成果をしっかりと吟味されるのだとさぞ肝を冷やしている事であろう。
そして、食卓はオユキが混ざるのが難しい様相を呈しているため、久しぶりに料理人たちの陣取る一角に、別で腰を下ろしている。
「私としましても、オユキ様にあのような真似をされては困ります。」
「いえ、あの中にあっても、作法を逸脱する真似は。」
「時間をかけていれば、取られて口に入るか怪しいものですから。」
「まぁ、それもそうですか。」
オユキ自身にそのような時分は無かった。兄弟も居らず、両親もどこかゆっくりと時間を過ごす相手だったのだ。食卓にしても、それが如実に表れていた。しかし、晩年、子供からその先にとなった時には、何度となく愉快な食卓というのを目にすることになった。教育を施し、理性を与え、以て獣から解脱するのだとそのような言葉の意味を、十分に理解する機会もあったものだ。シグルドたちにそうしたように、十分な用意ができるだけのものはかつても確かに持っていた。しかし、食材も料理も降って湧いたりはしないのだ。今も、変わらずアルノーとトモエが次々と用意をし、伯爵家の使用人たちが屋敷からあれこれと持ち出しているように。
「ニーナ様も、少し取り分けておきますね。」
「是非、守り通して頂きたいものです。」
ニーナも勿論オユキとトモエの側にいるのだが、こちらは現在絶賛仕事中となっている。他に交替の人員も確かに幾人かはいるが、そちらはそちらで残りの丸焼きの前で、行儀よく列を作っている。形だけは。
料理としての完成度は言うまでもない。しかし、問題として、その品は丸焼きなのだ。部位による味わいの違いというのは、どうした所で生まれる。今、オユキが食べ進めている脂の少ない部位、モモやヒレだけでなく、しっかりと脂ののっている背中側、肋周り。そう言った部位も存在している。そして、並ぶ者達にも当然好というものがある。全てを均等に、そう望みたいものたちがさてどれだけいる事やら。アルノーが準備が整ったと、給仕を伯爵家の使用人に任せた瞬間に走った緊張感というのは、トモエとオユキ両名に腰元に無いはずの武器を探させるのに、十分すぎるほどの物だった。
勿論、そこで暴走するようなものたちは居らず、実にお行儀よくけん制し合い、何やら簡単な手信号や目線の会話で優先順位が決まっていき、今となっては戦闘にいる者達が吟味し、何処を切り取ってくれと頼み、持ち出してくれば横目に見て舌打ちしたりと、実にらしい様子だ。
「家畜であれば、同じこともできるかと思いますが。」
「こちらの厨房を拝見させて頂きましたが、魔道具が主体でしたからね。」
「美味しくいただいていますよ。ご休憩ですか。」
そんな様子を眺めながらも、オユキは少量取り分けられた肉の塊を片付け、今度は葉野菜も添えられたプルドポークに取り掛かろうと、そうしているところにアルノーから声がかかる。
魔道具というのは、その大きさ以上の物が出来ないのだと、追加なども気軽にできないというのは、オユキもすでに知っている。回路を刻み、全体として一つの道具とする。丸焼きが可能な物を用意してしまえば、平素の調理にはとてもではない。
「ええ。流石に昨日からですから。」
「アルノーさんも、お疲れ様です。私の方でもいくらか角煮など用意はしましたが、流石にこの季節とはいえ、3時間も鍋と向き合っていると。」
「ナザレア、二人に水を。」
そうして、オユキが頼んだ時には、それが当然とばかりに水差しから器に移し、差し出されている。
「助かります。」
「お手伝いの子たちは、間に合いませんでしたか。」
「ええ、もう少しすれば起きて来るでしょう。」
昨日から、実に18時間近くの時間、火の管理をアルノーたちは行っていたのだ。当然子供たちは順に休憩に送り出しはしているのだが、それにしても半身で200キロ以上あるような、そんな愉快な肉の塊だ。スパイスを塗り込むのも、そのために切り込みを入れていくのも間違いなく重労働だ。挙句、それを作業台から焼き台に移した後は、火が体をあぶり続ける中で、加減を見続なければならない。
「この程度まで脂を落とせば、オユキさんも美味しく食べられるようで、何よりですね。」
「常の事とするには、時間がかかりすぎているとも思いますが。」
「薄切りにして湯通しをするだけでも、変わりますから。」
「ああ。言われてみれば、そう言ったサラダもありましたか。」
トモエに言われて、オユキはそういった料理もあったと思い出す。
「時間がかかること前提で、ロースト、燻製、やりようはいくらでもありますとも。あの子たちにも、一通りの技法は見せねばなりませんからね。」
「アルノーさんは、伝統的な南仏料理に限らず、幅広いですが。」
「シェフたるもの、店で出すものは他よりも優れていると信じているからこそです。幸い、これもありましたので、試すのも簡単でしたから。」
「それは、なかなか大変そうですね。」
どちらも、今行っているように一つの品を完成させるのに一日等可愛らしい、それほどの作業時間が必要なのだ。
「早々に完全予約制になりましたから。席数も少なく、週に三日だけ開店と我ながらよくぞ店舗として維持できたものだと。晩年はそれこそ後を任せられるものが増えたので、大切なお客様や、お声かけ頂いた折にだけ。」
「料理の世界には疎いのですが、それほどの腕前でしたか。」
「お二人とも、旅行などは楽しまれていたようですし、ミズキリさんの知り合いですから。」
「生憎と、南仏辺りに出向いた時にはニースには足を向けませんでしたから。」
アルノーがかつてどういったところで働いていたか、それはオユキも知っている事ではある。
「それは、仕方ありませんね。見どころの多い場所ですから。」
「ええ、本当に。」
かつての地、それを想いながら少し話をしていれば、勿論何があったのか報告が言ったのだろう。何やら覚悟を決めた顔で、家主と共に先代アルゼオ公爵夫妻が、実に賑やかな庭に顔を出す。そして、揃って何を言うでもなく、まずはオユキ達の陣取る一角に。
「また、ですかな。」
「さて、今度ばかりはアイリスさんが主体ですから。」
オユキがさらりとかわして、祖霊と仲良く肉をとり合っているその席に目を向ければ、実際先ほどから気が付いていたのだが、そっともう一柱増えていたりもするのだ。
そんな様子を見て、しっかりと動きを止める伯爵と、ただ瞑目して頭を振る先代公爵と。そこには確かに慣れの差というものが見て取れる。
「戦と武技の巫女、そのはずでは。」
「生業は狩猟者ですから。」
そして、料理を供するにあたって、人の糧となる奇跡を用意してくれる神への感謝、それを言い置いてもいるのだ。それこそかつての世界では、月と深いかかわりがあるとされることも多い柱、女性の姿をしており、動きやすい軽装に身を包んだそんな相手が実に楽し気にしながらも肉をとり合う様というのは、なかなか形容しがたい光景ではある。
「フィンガーボウルやエプロンの用意が要りましたかな。」
「さて、魔術での浄化など片手間に行われるでしょうし。」
こちらの世界で、テーブルマナーの一環としてそれらの取り扱いが無いのは、実に分かりやすい理由がある。
「ご挨拶だけでもとするべきなのでしょうが。」
「獣の食事を邪魔して機嫌を損ねない、そのような話は終ぞ聞いたこともありませんが。」
「では、我らも、今暫くこちらで共にさせていただきましょうか。」
オユキが言うまでもない事ではあるだろう。今となっては丸焼きはすっかりと平らげ、アイリスの供回りも含めて、僅か五人、そんな人数でどうこうできる様な量であるとも思えないのだが、今は各々がスペアリブに手を伸ばしては、そのまま骨ごと咀嚼しながら食べ進めている。
その様な様子を見せる者達の手を止め、少し話をなどと言い出せばどうなるか。まさに考えるまでもない。
「木々と狩猟の神も、健啖な方なのですね。」
「見た目は人にしか見えませんが、そこは神々としか言いようもありませんね。」
獣の特徴を身に宿す者達は、そもそも歯の作りも違うためまだ納得ができるのだがと、トモエが小首をかしげていたりもする。
「骨髄を使う料理もありますし、旨味という意味では比べるべくもないでしょうが、味見をしたことも無いので。」
「確かに、そう言った面での不安は覚えますか。」
本来であれば、貴族階級の者達が同席した折には、その席を整える物として控えてばかりいるアルノーだが、今ばかりは話の輪に入ってくる。それもそのはず、同席している上位者たちは、疲労をにじませてただ機会をうかがっているだけなのだから。
「さて、こうして木々と狩猟の神がああして楽しまれていることを考えれば。」
アルノーとトモエが、そこからお互いに用意した料理、その感想であったり改善点であったりを離すのを聞きながらオユキはオユキで他の事を考える。
最初に姿を見たときは、随分と気落ちしていた相手だ。それはこれまでのこの世界。始まりの町、領都、王都。そこで見た本来木々と狩猟の加護を最も強く受けるだろう相手が、一切を軽視していた、その改善が見込めなかったことが原因ではあろう。それが今こうして、賑やかに食事をするだけの気力が戻っている。つまりは、方々で手を回した結果、それが上手く進み始めている証左でもある。
「随分と、細かく手を打たれていたようですね。同様の細やかさを他にも見せて欲しいものですが。」
「その辺りは、興味の配分と申しましょうか。」
オユキは先代公爵夫人から刺される釘を、適当に流しておく。
どうした所で、今更容易くそれが変わるような年でもない。
「シグルド君たちも、そろそろ大変でしょうね。」
「あら、そちらも気が付いていますか。」
「ええ。これまでのなさりよう、王家の来歴、そういった物を伺いましたので。」
現国王陛下その人は、ただ玉座に座って公務をこなすばかり、それを好む相手ではない。他に出来る物が居らぬから、その役割を己に課しているだけだ。では、そう言った人間が休み半分。止める相手もいない場所に訪れればどうなるのか。好奇心のままに、あちらこちらと見て回ると、そう言い出している事だろう。そして、饗応役はメイしかいない。リース伯爵は、流石に始まりの町への移動までは間に合っていまい。それこそ国王その人が間に合わぬだけの仕事を回している事だろう。
「面識があり、食事にも招待されている、言葉もかけられた子たちが案内として最適でしょうね。」
そう、今頃は門を試すとしてふらりと現れた国王その人、その対応に少年達が駆り出され、王に大言壮語を吐いたもの達も、その成果をしっかりと吟味されるのだとさぞ肝を冷やしている事であろう。
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