憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

王都の日々は忙しい

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少年達が疲れていたこともある。しかし、それ以上に明らかな異変が王都に起こっているため、事情を知る者達は急がなければならなかった。王太子にしても、非常に座りが悪いと言わんばかりの顔をどうにか取り繕って、今回手伝った少年たちに向けていくつか言葉をかけたと思えば、そのまま公爵をひっつかんだ上で王城へと。
何があったと、普段であればそう聞いてくる少年たちにしても、上空にある巨大ないくつもの岩塊に視線を向ければ否が応でも理解が及んだらしい。そして、その日は疲れに任せてそのまま早々に屋敷に引っ込んでのんびりと。

「長老様が。」
「公爵様は王城ですから。そのうち、正式な使者として人も来るでしょうから、そちらと。」

元々休日の予定であったのだと、そうしようと考えていたのだがそうもいかず。

「間は、カナリアさんに頼むことになりそうですね。確か、種族としての衣装があるようでしたし。」
「ありますけど。いえ、それよりもですね。」
「その辺りは、公爵様と、ええと、なんとお呼びすれば。」
「散々に言われました。今は異空と流離だと。冠以外は、使える相手もいないですし。」

大いに不満があると、カナリアはその様子を隠そうともしていない。そして、人以外の特徴、そこにやはり加護というのが強く現れるようであるし、負担も大きいようである。普段はそれこそ水鳥の様なという形容が相応しいものなのだが、アイリスと同じく何ともぼそぼそとした、そのような状態に。

「私も、ここまでになったのはお会いした時以来ですよ。」

少々、不躾な視線になったようでトモエに軽く体を触られ、オユキは視線を外す。そして、カナリアにしても寝ていると聞いていたが、その間にある程度治療が済んでから外に拾いに出てきたという事らしい。

「流石に、公爵様がどのようなお約束をしたかは分かりませんので。」
「向こうからも、何事だとそう聞かれているんですよ。こう、せめて今何処まで説明してもいいかだけでも。」
「それこそ、カナリアさんが体験したことをで良いのでは。」
「それをしようにも、今回同行するにあたってですね。」

そう言えば、シェリアに公爵にと色々言われていたなと、そんな事をオユキも思い出す。

「今回の事は、流石に別物です。それに互いに異変などあまりにわかりやすいわけですから。」

風、用は大気の移動に詳しい種族だ。恐らく、その域を出る物では無いが、離れた位置との間でそれの振動を伝える等手慣れた物なのだろう。現状が室内だと、それに対して思うところが無いわけでもないのだが。
どうにも本気でその辺りとの、折り合いで悩んでいるようだとオユキの方でも理解する。散々に馬車の中で話して、波長が合うとそうお互いに感じる事が多かったのだ。要は訓練としてオユキは出来るが、いよいよ研究者としての道を歩んでいたカナリアは、苦手のままだという事なのだろう。

「そうですね、私から具体的な日程は今はまだお伝え出来ませんが、カナリアさん達の神、それがこちらの世界で改めて力の一部であれ、表すことを新たにしたのだとそれを伝えた上で、話し合いに備えていただくのが良いでしょう。」
「確かに、聞きたいことも纏めなければ取り留めもなくなりますか。」
「どうしましょう。カナリアさんに間を取り持って頂くとして、事前にという事が必要であるなら、私から公爵夫人にお伺いを立てますが。」

ただ、それにしてもお互いに初めての事なのだ。
これまでのカナリアの話を聞くに、そう言った面倒を嫌いそうな、そんな予感もある。そして、公爵の手柄とするようにと考えてはいたため、そちらが主導にはなるだろうが、ではそれがどう繋がるのか、その辺りの調整もとなるとそれこそ公爵側でも、なかなか直ぐの事になりそうもない。オユキとしては、そう言った諸々をともかく簡単に説明し、トモエからも公爵がこのような約束を、それを口の端に乗せたとして追加での情報を与えれば、カナリアがそれを伝えるためにと屋外に出ていき、そして戻って来ることは無かった。
国境など気にも留めない種族、それを改めて思い知る出来事だろう。当然とばかりに、空に浮かぶ岩の塊から数人が舞い降りてきたかと思えば、そのままカナリアを連れて直ぐに空の彼方に。何とはなしに、どのように連絡を取るのだろうかと、助言を加えた身としてさらに不明点もあればと一緒について出ていたオユキとトモエにしても、ただそのまましばらくカナリアが連れ去れた方向をぼんやりと見遣る程度には、鮮やかな手並みであった。
そして、夜にはどうにか戻ってきた公爵に諸々の報告を行えば、それからの数日は実に慌ただしく進むというものだ。

「にしても、なんか、増えてね。狩猟者。」
「前回作った流れが、良く動いているようですね。ファルコさんは、何か。」
「神々の言葉もあり、兄上の方でオユキ殿が上げた策を始めとしていくらか行ったとか。長期的な物に、そのような話であったはずですが。」
「ええ、この状態を継続し、更に先に進めねばなりませんから。着地点から見れば、ようやく一つというものでしかありませんからね。」

シグルドが、王都に前回滞在中も陣取っていた区域、そこから周囲を見回して零す言葉に他の者達も興味深げに周りを見回している。前回と比べて倍とまでは行かないが、見てわかる程度に人の密度が増えている。

「へー。食料とかって、そういや解決したのか。」
「いや。」

では人が増えたから、以前直面した問題が解決するのかと言えば。

「寧ろ、全体として消費が増えているようでな。」
「腹減るもんな、狩りに出ると。」
「そればかりは、仕方ないものだからな。そこで、まぁアイリス殿の加護と、新年での事に期待が向いているわけだ。」
「そういや、来週だっけか。俺らはいよいよ後ろにいるだけになるけど。」
「心強いとも。当日頼む友人たちも、また紹介させてくれ。どうした所で彼らも作法の練習に、文面の用意にと頼んでいることもあり、なかなか時間が取れずにいるが。」

新年祭の前、国王に対して現在の学院、これまでは守られるだけであった者達が、それ以外にもできるのだと、それ以外もやらなければならないのだと訴える場が用意されている。それにあたって、ファルコからメイを経由して、シグルドたちの同行を求めたのだ。既に変わらぬ年頃の者達が、存分に行っている。それを示す一例として。

「俺らの方も、後なんかねーちゃんから一度って言われてるんだよな。」
「それはそうだろうとも。神々から渡された物を譲ると言われて、リース伯爵子女としても何もせぬわけにもな。」

そして、試しの結果として、端的に言えば割引券を少年たちは手に入れた。ただ、今後門を頻繁に使う事もないからとメイに気軽に渡したのだ。その気楽さに、オユキの過去の所業を思い出したらしく、少年たちのいない場でメイとリース伯、マリーア公爵まで揃ったうえで教育方針について問いただされもした。それこそ、少年達がそれが良いと考えただけなので、オユキからは濡れ衣だと散々に訴えた。しかし、子供たちがいる前で行った行状。神々からの下賜品の内、さてお前たちはいくつ手元に残し、いくつを対価もなく渡したのかと言われれば言葉に詰まりもした。

「それにしても、良かったんですか。私たちも、ファルコ様も、まだ色々と。」
「なに、教えを請おうにも手の空いている相手がいない。ならば、その時間で日々の職務に精を出すものだ。」
「ええ、そうですね。」

そして、ファルコの言葉通り。国王の前に出る、その時の作法を教える事が出来る物など限られている。加えて、それを主体として習うのが、伯爵子息ではあるが公爵の孫でもある相手。それはもう人を選ぶ。そして、それが当然として行えるものたちは、今も新しい種族との交渉を始め新年祭までに行わなければならない事、それに翻弄されているのだ。だからこそ、どうした所で手を引かれなければならない者達は、こうして自由な時間が取れるということもある。最も、あまりにも予定を詰め込むのはと、気分転換を許されているという側面もあるのだが。

「オユキは、結局また服頼むんだっけ。」
「そうですね、季節によって使う柄も変える物ですし、巫女の装束にも近いからと許可も頂けましたので。」
「私たちはどうしよっか。結局、用事が有ったら使わせてもらうわけだし。」
「御屋敷、貰えるんじゃなかった。オユキちゃんとトモエさんの隣に。」
「そっちはもともと決まってたことだから、別にだって。」

少年達の方でも、メイから何か欲しいものはと、本来であれば避けるべき質問がさっさとされているらしい。

「それこそ、其の方らも衣服であったり、装飾であったりでも良いのではないか。」
「借りてばっかだし、それもいいかなって言ったんだけどさ。」
「まだ背が伸びるだろうし、体型も変わるからって。」
「確かに、褒美として渡したものが、季節一つで使えなくなるというのも、まぁ問題があるか。」

さて、そのような評価を聞いてしまえば、オユキはもはや体型が変わる予定が無いと、そのように言われたに等しく聞こえるために思うところもあるのだが。
なんにせよ、こうして話しながら、他の狩猟者も気にしながらも移動を続けて、森のすぐそばまで歩いてきたのだ。

「さて、結局のところ次の準備ではありますが。」
「カナリアおばさんの祖霊、ともまた違うんだっけ。異空と流離の神様から要望があったんだよな。」
「水と癒しの神も、お喜びだとか。」

トモエからオユキが相談されはしたのだが、随分と何回であり水害の評価などは流石に難しい。そして、そういった事が起きれば、少年達にも示したようにと、オユキから水と癒しの神殿へと問い合わせを行った。そちらの返事は実に簡単な物。水を司る神、そのお膝元。そこで水に関わる問題など起こりようはずもないと。最も、何か勘気を買えば、それも定かではないと加えられてはいた。実際に、少年達からも寓話として川底に沈んだものの話を聞いたりもしたものだ。

「たくさん、いるんでしたっけ。」
「そうですね。アイリスさんが声をかけて、詳しいものに主導を任せるようですが、相応に。」

結局そちらも併せて執り行うことが決まった。

「色々変わった新年祭みたいだし、こっちも興味あるな。」
「まぁ、今後機会があればでよいのではないか。」
「だな。」
「ね。私たちも色々あったし、教会も色々新しい事増えたし、手伝わなきゃだし。」
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