憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

試されるのは

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「意外、と言っても。」
「まぁ、そうでしょうね。あっちよりましとは言え、貴方も大差ないわけだから。」

トモエは、こちらも色々と呼び名のある神、それと差し向かいでのんびりとお茶などを頂いている。オユキもトモエのためにと探してはいるのだが、緑茶、発行させない茶葉で要れた随分と懐かしく感じる物を口にしながら。オユキが見つからない理由として、恐らく産地というのは決まっており、現在の物流にかかる時間を考えれば、難しいとそう言っていたこともあり、トモエにしても納得はしている。ときに口元に寂しさを感じはする。ただ、こうして口にしてみれば、やはり味覚の変化が大きいようで、以前ほど好ましく感じないのが、寂しくも思うのだ。

「オユキさんは、いよいよ未練を持っているわけですから。」

風を生む神。古い物を集め、己の熱で全てを巻き上げる。そう言った特徴を持つ神でもある。本人の言にあるように、古い風、何処までも心を残すものというのは、この柱を墓場と呼ぶにふさわしい場所に押し込めようと、そう言った物たちの心根と変わらない。
こちらの世界にとって、新しいもの。それを多く齎している。それは事実。
しかし、その根底にあるのは過去への想いでしかない。

「よくやるわね。本当に。私ならとうに飽きて、全て更地にしているところよ。」
「そういった部分をしっかり残されているから、水に沈められたのでは。」
「全く、不愉快な事だわ。」

そうして、のんびりとお茶をすする時間が少し経つ。
トモエにしても、こうして連れてこられた理由は、何某かがあるだろうとは踏んでいるのだが、試しは受けられないと理解している。その資格が無い。
この神は、何処まで行っても新しく変わることを求めるのだ。オユキよりはトモエの方が、その程度の違いはある。しかし、その程度を神々がというものだ。

「試して欲しいのかしら。」
「他の方が、必要な事を為すでしょう。」

トモエは、聞かれたことにそう笑って答える。

「あの子たちは、いい子でしょう。」
「全くね。」

こちらに来て、一番時間を使ったオユキ以外の相手が。少年たちにしても、新年祭迄に始まりの町に戻るには、この神に纏わる奇跡が必要になるのだ。だからこそ、試練を受けなければならない。この世界に生まれる新しい奇跡、それを一番最初に使うだけの何かが、お前たちにあるのかと。
ただ、トモエは、そちらは全く不安を感じていない。
過去そうであったように、老いた心を、何時だって子供が引っ張り回してくれたのだ。そして、そこですでに知っている、当然としたはずの物がそれだけではないのだと、何度教えられた物だろうか。

「ただ、火と鍛冶の神、だったはずなのですよね。」

そして、中に特に一人。ただただ先をと、そう求める少年の事を。

「悪くはないけれど、まだ駄目ね。」
「少なくとも、私たちに剣を届けるまでは御眼鏡にかないませんか。」

そうトモエが笑って話せば、神殺しの逸話すら持つ相手は嫣然と受け取るだけだ。

「本人が望まない事は、しないのよ。」
「練習相手には、ちょうどいいかと。」
「この私をさして、練習、ね。」
「私は、何処まで行っても相性が悪いですから。」

火と光、それを司る相手では。それこそ格上相手に向けている力、武技らしきものにしても、属性として伝えられた物を考えれば、相性が悪いどころの騒ぎではない。それを司る神を殺して見せたのが、今目の前の相手だ。そして、末には老いる事が無いという奇跡を与えているらしいが、本来であれば不死の霊薬だ。そのような相手に対して、トモエはどうした所で何一つ手立てを思いつかない。

「良いわね、その目。」
「どうしましょう。私としては、こうして懐かしい味を頂けましたし。」

逸話が流れて、変わった名前と伝承。同一とされているその先でも、しっかりと剣を持つ相手だ。

「良いわよ。あなたが思う程、私は無力でもないもの。」

そうして、目の前に座る神が手をひらりと振れば、茶会の席に追加の顔ぶれが現れる。

「流石に、老骨には答える。」
「デズモンド、お前からオユキに良く言い含めておいてくれ。」
「それこそ、我よりも適任が居るだろう。」

椅子に座ったと、そう見えたのは束の間。直ぐに両名とも机に腕を乗せ、疲れが隠せないとそのような風情だ。

「お疲れ様でした。流石にお二方相手には武力を、そのような試練ではないとオユキさんも考えていましたが。」

今となっては、どちらもアナに簡単にあしらわれる程度の武力しか持っていない。そんな人間を連れて、武力を試す、人が超えられぬ試練を課すような存在ではないと、ここまでで大いに示されたこともあり、トモエもそこに否は無かったのだが。

「少々、神の圧にあてられたうえで、己の思うところを宣言してきてな。」
「うむ。ついでとばかりに、火に囲まれもしたが。」
「あら、わざとでは無いわよ。私が力を放とうと思えば、抑えようとしてもどうした所でというものだもの。」

どうやら、しっかりと圧と熱を受けた上で問答をしてきたようである。そして、疲労はあれども、受け答えに自身がある以上は、上手く話が纏まったようす。

「アベルさんも、無理でしたか。」

少年達の方は、それこそまとめてとなっている事だろう。ならば、この二人がまとめられていたとして、あの場にいた他の顔、オユキ以外にも一人いない事になる。

「あっちは、まだね。それに、流石にあれを試すとなると、少し難しいのよね。」
「アイリスさんの祖霊、五穀豊穣を司る相手は、試しの場にとされましたが。」
「あの子は、手加減が上手いのよ。あなたも気が付いて言ってるみたいだけど、それこそ本体の毛の一本、その程度を送り込んだだけよ。」
「ええ、そうでしょうとも。」

そして、そんな相手の毛を少し切り取り、僅かに血をにじませただけで、都市一つの食料の絶対を約束できるとういうのだから、本当に途方もない。そんな程度の相手にあしらわれた、その事実は払拭してみたいとそんな事はトモエも考えはするが。

「話も上手く纏まったようですし、これで一先ずはと言った所でしょうか。」
「あれは、上手く纏まったのかデズモンド。」
「さて、どうにかするしかあるまいよ。それで得られるものの方が大きいのだと、我はそのように考える。」
「条件が流石に付きましたか。」

これについては、オユキと公爵の間でいくつか想定がなされていた。
アイリスの事を受けて、一度だけなら何もないだろうが今回については継続しての事になる。新しい交流については、それこそ自由な意思の間でとそうなるだろうが門については継続して使うのだからと。勿論、実際に頼まねばならないのは、神殿や教会である。しかし、必要な物を用意するのは誰かと言われれば統治者に決まっている。

「何、領内の資源の配分など、それこそ我らが行うべき業務であるからな。しかし、蛇に連なる魔物等、森に入らねば。」
「まさか。」
「流石に、そっちじゃないわよ。」

仏門で、随分と仰々しい名前で呼ばれる相手、それを相手取れという事かと。しかし、それはすぐに否定される。

「単に、私たちが好きなのよ。」
「定期的に供える事と、後は取引としてであるな。」
「種族として、どうした所で森の中で戦闘が不得手であるらしくてな。」
「まぁ、人型、人と同じ大きさになれば、そうもなりますか。」
「というよりも、あなた達が知っている相手はこちらで生まれて、特に近くにあったものの影響を強く受けているからだけれど、本来は私の眷属だもの。」
「食事を取りに行って、それがいる場全てを焼き払ってというのは、確かに困りますね。」

森に食料を取りに行き、森林火災を引き起こされてはたまった物では無い。欲しい食べ物を取りに行くだろうと、それならばこれまで同様好きにと話を進めたところで、そのような話をされてしまえば。半ば脅迫ともとれるというものだ。確かに上手く纏まったのかと言われれば、首の一つもかしげたくなるだろう。

「そう言えば、雨等も。」
「降らせたいのかしら。良いわよ。それこそ祭りの時にでも、野焼きをして私を讃えれば。間借りしている水と癒しも、喜ぶでしょうし。」
「そちらについては、方法があると分かっただけとしておきましょう。流石に、この一年近く一度もなかったわけですから、備えも無いでしょうし。」

そう返したうえで、為政者二人を見てみれば、どちらも今一つ要領を得ないとそのような風だ。

「言葉はわかるな。確か、何処だったか、花精の集落の一つでは定期的にと聞いたことはあるが。」
「空と大地を繋ぐ、詩的な言い方ではそのように言われることもあるのですが。」

同時に、過剰であれば、備えが無ければ。

「水路を作ったばかりでもありますし、それこそ一度色々と考えてからの方が良いのではないかと。」
「その方が神々の勧めをそこまで言うのも、珍しい。」
「私は、その辺りは詳しくありませんが、用は空から水が降ってくるわけです。今ある場所に溜まっている水、それが溢れないとも言えません。」
「水であるなら、神々の奇跡でもある。この国であればこそ、多くの者は喜びそうなものだが。」
「今ある建物は、水害に対する備えがあるのか。その辺りに不安がありますので。」

公爵の何を不安に思っているのか、その背景にあるものをトモエも思い出す。そもそも、神の奇跡が最も強く現れる神殿が水に沈んでいる場所なのだ。何を不安視しているのか、そう考えるのも無理もない。これまで雨が降る事もなかったというなら、極一部の話でしかないというならば、水害などというのも全く縁が無かったであろう。ただ、水と癒しが以前神殿への催促に便宜を図ってくれた折には、涙がこちらの世界にと、そのような話し方をしていたこともある。恐らく、過去の記録としては、何かが残っていそうだと、そうトモエも思い付きはするのだが。
神が、神殿のある神が喜ぶとまで言われている以上、それを止めるだけの根拠をトモエは持たない。

「それこそ、元の場に戻って聞けばいいわ。」

さて、少年たちはこちらの席に現れはしないが、そう言われるというのであればそちらの試しも終わっているのだろう。なら、オユキを交えて実際の話をまた別で行ってみるのが良いだろう。ただ、そちらにしても、こうして神が派手に力を使うために、また何某かが有りそうなものではあるのだが。
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