憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

行進

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公爵を先頭に、始まりの町とは比べるべくもない広い道を進む。
領都で暮らす人々は、それが当然とばかりに脇に人垣を作り、新たな奇跡を喜ぶ声を主役たちに投げかける。本来であれば、トモエの後ろからついて来ている少年たちは気恥ずかし気に、慣れぬ事であろうから、するのであろうが。

「アン、少し遅れてるぞ。」
「まだ、服に慣れてなくって。」
「リーア。」
「オユキちゃんもトモエさんも、何度も練習する理由が解るね。」

位を持つ少女三人は、教会から正式に用事として頼まれたこともあり。本来であれば教会の中でしか許されないと、そう話していた衣装を着こんだうえで門の種を運んでいる。そのまま荷台に乗せてかと思えば、流石に急ごしらえの物ではという話になり、始まりの町でそうであったように教会関係者と、同行してきた使用人たちが手ずから運んでいる。
公爵の方でも荷台の用意はあるのだが、それは王都に向けて使う物。つまりは、こちらの教会に納められており、今使える物では無いという事らしい。格式を守るために不便を、そう感じる物は確かにあるのだが、用はそれだけ重要な事なのだと知らしめる、そう言った意図というのも納得できる。

「アベルさん。」
「あまりに速度を落とすのも、難しいんだがな。」

簡単にトモエも阿部宇に習い始めて入るのだが、正規の騎士を従えてとなると指揮もやはりままならない。
トモエに呼ばれたアベルが、簡単に手振りを行えば、それだけで先を進んでいた者たちまで速度が落ちる。

「先を歩く方々も、よくも今ので。」
「剣を磨く理由の一つがこれだな。」

先を行く者達も、それが当然と速度を落とす。教会へ向けて、まっすぐに進む道行だ。当然の事として、後ろを振り返るような事など許されはしない。だというのに。

「成程。鏡の代わりには、流石に難しいでしょうが。」
「だから、目のいい奴が先頭だな。」
「従騎士の方も、大変ですね。」
「役割が違うからな、何より。それこそ、そういった面じゃ騎士よりも遥かに優れてるぞ。」

トモエの頭の中には、順当な出世先といった印象もあったが、そうでは無いらしいと一人納得する。

「にしても、カミトキが聞き分けてくれて助かったな。」

公爵を先頭に。それに並ぶように伯爵が。要はここからの責任者と、ここまでの責任者が並ぶすぐ後ろには巫女が続く形になっている。それこそ荷台が使えるのであれば、そちらで一緒に運ばれたのだろうが。

「賢い子ですから。」

そして、アイリスは彼女が与えられた馬に、シェリアがオユキの馬にそれぞれ乗ってとなっている。領都に入る前、門の周囲はそれが当然とばかりに他の目が無い場所が用意され、そこで改めて色々と準備を行う事になった。トモエにしてもアベルを始め、他の騎士達と並んでも遜色がないようにと鎧を着せられ、それぞれの乗馬にしても飾り立てられている。そこで問題になったのが、カミトキだ。飾り立てられ、ではオユキが乗るのかと思えばシェリア。それはもう、見事なまでに抵抗をしてくれたものだ。結局オユキが宥め、一応少しの時間乗った上で散歩をし。初めて乗せたのがオユキであると、その実績を作ったところで、実にしぶしぶとシェリアが乗ることを許したのだ。
別の馬を、そう判断する実にギリギリの線を見極めての我儘であった。

「王都でも、同様に、ですか。」

そうして話しながらも、トモエにしてもかなりの負担を感じている。全身を覆う金属鎧、それが当然軽いははずもない。加えて常の馴染んだ武器ではなく、他の騎兵に合わせた武器を掲げ持っているのだ。相応どころでは無い負担を感じるものではあるし、疲労もする。

「向こうだと、まず神殿に向かうからな。そっちはまぁ、此処までじゃない。オユキとアイリスは王妃様と。トモエは、王太子殿下と。そう言う配置になるか。」
「まだ決まっているわけでは無いのですね。」
「その辺りは、公爵様の差配だな。俺がそっちに迄口を出すわけにもいかん。」
「私も、流石に王都の中をこれでとなると、持つかどうかわかりませんので。」

領都も広い。しかし、王都はさらに。その道行を思えば、トモエにしても無理だというしかない。

「まぁ、そりゃそうだろうな。」

そうして、常と変わらずという訳でも無く。周囲にいる者達を観察しながら、体制を真似て、その疲労をアベルと話して気を紛らわせていれば。

「右手、子供の後ろ。」
「やはりか。」

そして、当然の事として。汚染された者達は、魔物を集めて町を襲うばかりではない。新しい神からの奇跡。神を良く思わない者達、そう衣ttあ手合いがそれが町に運ばれて何もしない、そんなわけがあるはずもない。始まりの町では、そう言った存在が徹底的に排されている、汚染というのが配されているものだが、領都はそうでは無い。過去というには近い出来事として、一角の加護を奪う、その決断がされる場所だ。当然、運ぶ者達にしても、織り込み済みではある。トモエが表に出ている理由、本来わざわざ兜までしっかりと被って身を隠すような真似をしてまで、こうして広く人前に出ている理由として。

「思ったよりも、少ないのは前回でという事でしょうか。」
「それと、事前にある程度聞き出せたからな。当然、手は打ってある。」
「成程。生かして捕らえた理由が出来たと。そうであれば、まぁ彼らも今後次第と出来るでしょうか。」
「あくまで軽度な連中はな。最も、そっちはほとんど川沿いの町に回ってたがな。」

生憎と、始まりの町では生かして捕らえた相手など片手の指で足りるほどしかいなかった。領都、それ以外にも間にある二つの拠点の責任者。それらが汚染されているのだと、そういった話が聞き出せた。それを聞いた以上はと、今回のあまりに急な領都への、そこから王都への移動も納得をせざるを得ないものになった。こうして並んで進む馬車、その中の一つにはこれから話を聞くべき相手が詰まっている。

「こうなると、先の一件が効いていると、そう見えますね。」

トモエが示した相手。神の奇跡を喜ぶよりも、絢爛な装備に身を包み、整然と進む騎士の姿に夢中な子供。その背後に近寄り、捕らえようとしたものが、静かに地面に沈む。それこそ、本来であれば間に合わないような事ではあるのだが、安息の加護、烙印を押された者達にかかる負荷が強くなったことが良い方向に働いている。悪意を持って事を為す、それに対して明確な咎めがあるようだと、そう言った様子を見てトモエはただ納得する。

「ああ。王都でもな。」
「此処だけでは、当然ありませんか。」

そして、安息の加護が増すとなれば、その負担は誰が背負うのかとそう言う話になってくる。壁の維持にも魔石は必要だと、そう言う話なのだから。加えて、オユキとアベルが確かめていたこともある。いよいよ強くなった加護の下で生きる者達と、そこから出て事を為す者達。そこで認められるものに差が生まれていくことであろう。勿論、安息の中であろうと、他の神の目に留まるほどの事を続ければ、確かなものが与えられはするだろう。しかし、何処まで行っても籠の中の出来事だと、そう言った部分でしっかりと評価を下げざるを得ない事にもなる。そのように、現状は話が纏まっている。だからこそ、こうして旅に連れ出した少年達、日常としてそれを行うトモエとオユキにしても、しっかりと加護を得たのだろうと。

「ただ、なんと言いますか。」

そうしてアベルと話、進むのは完全にカミトキに任せたトモエは周囲に見える物について、改めて考えてしまう。領都で彼らの住んでいた一角、そこが既に魔物が現れる場になった。それを巻き起こした者達は、当然とばかりにそこを捨てて町を出た。もしくは、まだ軽度であり、先の出来事ではばれていないからと、こうして今蠢動する程度には残っていた者達は、変わらず安息の加護の内に。

「彼らの求めるものというのも、正直気になりますね。」

トモエから見て、とにかく行動に一貫性が無いのだ。
神を嫌う、それもいいだろう。元々緩い信仰しか持たない異邦の者だ。その心根というのも、理解が及ばないわけでは無いのだ。マルコにしても、始まりの町で散々お世話になっている薬師にしてもそうだ。神の奇跡に頼るばかりでなく、己で出来る事がと、そういった精神性はトモエにしても備えている。

「まともに聞ける気はしないがね。」

アベルはトモエの言葉に、ただ肩を竦めるだけ。
オユキはただ悪意を煮詰めた存在と、そう話している。それが背後から糸を引くというのであれば、まぁ、斬って捨てれば、それこそ先の一件のように、良い話だとトモエは思う。ただ、どうにもそれらと以前領都で神々を悪辣に語った者達は別の思考形態ではないのかと、そんな事も考える。勿論、それをした者達をしっかりと切り捨てたわけだが。

「神々に頼るばかり、それを良しとしないのは良いのですが。」
「ああ、そう言う事か。」

トモエがそうして少し思考の端を口に出せば、アベルにもトモエがなにを言いたいかが伝わったらしい。

「はい。私にしても、そう言う部分はありますから。」
「ただ、まぁ、さっきと俺の答えは変わらんな。まともな返答が得られるとは、思えんな。」

そうして話している間にも、所々で捕り物が行われている。
オユキの想像よりも数が少なく、トモエが思うよりは多い。そんな数。

「オユキの方は、なんか言ってたか。」
「煮詰めた存在であって、一様ではないのだろうと。」
「成程な。」

そして、オユキの方でもしっかりと疑問に感じている所があると。
そもそも、これについては、こちらの神々に与えられた試練という形をとっている。それを踏まえた上で、分からない事が有るのだと。

「神々の信任を得たはずの、統治者たち。そちらに汚染が及ぶ理由。己の統治者としての権限を、確かにする方法が失われた理由。」

かつて公爵ははっきりと口にした。

「歴史、それを捻じ曲げて伝えている者達が居そうだと。」
「それについては、王都で少し話すか。その時間があればだが。」

どうにも理屈が通らぬと、トモエがオユキとの時間であれこれと話しているときに、オユキもそれを考えていたと。そうしてトモエに話した事の一つとして、上がったことがある。
この世界で、神々の確かな奇跡がある世界で。
そこで名を忘れられる神々が存在する、それに値する理屈とは一体何のだろうかと。
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