憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

トモエの準備

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オユキとアイリスは、カナリアの診察を受けた後教会に向かう。
朝、食事をゆっくりととりながらその辺りを確認し、トモエはアベルとゲラルド、そちらについてメイの下に。必要な量、他にも用途はある木材については、相応の人出がいることもあり、後に回している。
共としても、前異に用事があった、それも事実なのだが。
そして、不躾とは分かっているが、簡単な確認。どうしてもトモエでは全容がつかめない予定の確認が終われば、それを切り出す。体調を整える、負担を強いた。それを背負い込む相手がいるのだから。

「慰労会と、決起会を兼ねて、ですか。」
「はい。河沿いの町に残って頂いている方もいますが。」
「いえ、そちらはそういう物、それぞれの職務ですから。」
「お前からってのは、意外でもないか。オユキがそう言った集まりのような物が好きらしくてな。」
「成程。確かにオユキさんも大変な状況ではありますし、ですが。」

メイの懸念、それはトモエにもわかる。案内を願った、用意された屋敷。その名かというのは、よく言えば準備が不足しているものだ。貴族、整った場に人を集める、それを良しとする彼女の美意識にそぐう場では無いのだろう。
そして、場を貸そうと言わないあたり、こちらも同様という事らしい。
役職、対外的な物としては、同じ代官であるが出自、その違いだろうとトモエにしても理解はできる。これまで訪れた伯爵、公爵のどの屋敷に比べても、格が落ちる。門、それにあしらわれていた紋章すらない、そう言った状態ではあるのだから。
どうやら、そう言った用意よりも、トモエとオユキを優先した、そのように理解は及ぶものだが。

「公式の物では無く、非公式で構いませんとも。いえ、寧ろそちらが望ましいといいますか。」
「まぁ、巫女様が主導するなら、こっちに来る時にやったのと同じになるからな。」
「オユキさんが好きな物とは、また異なりますからね。」

口実を用意して、オユキが行いたいものというのは、流石にそれは趣が異なる。

「しかし。」
「ああ、その、メイ様に確認をしているのは、屋敷を戴いた、その方を優先する必要があるのかと。」

難しい顔を変えないメイに、前提が違うのかと、トモエがそう声をかける。アベルにしても、招く、ミズキリを始め見知った顔をと思っているのだろうが、オユキについてはそうでは無い。
己の都合で周りに置く人間、その名前と顔が一致しない、そう言った状況が負担になっているだけだと、トモエは経験としてそう理解している。トモエにしても、代わりはしないが、旅の間そう言った手合いはトモエに遠慮が無かったため、既に挨拶以上の物は済んでいる。
オユキとアイリスはどうしても巫女として、そう言った扱いが先に立ったとそれだけだ。出がけに、少々以上仰々しい事を執り行った結果ともいえるが。

「そうですね、招くという意味では、公爵様はやむを得ないとして、優先していただく必要はありますが。」
「ああ、そんなのでもいいのか。護衛連中だけなら、それこそ道中使った道具はある。庭先で良いだろ。」
「しかし、戦と武技の巫女、その邸宅で初めて行うものが。」
「らしいっちゃ、らしい気もするがな。」

自宅の庭でバーベキュー、オユキは実に喜ぶだろうが、メイとゲラルドが難しい顔をする。貴族的に難がありという事らしいが、アベルは乗り気な当たり、理解の差だろう。

「思いのほかオユキさんの体調も良さそうでしたから、お茶会でも先に。」
「いえ、整えるための物は、まだ先になります。」
「後送の荷物ですか。」

出立、王都からの物にしても、領都からにしても。特に後者は当初の日程通りとはいかなかったため、不都合が実に多い事だろう。それこそ、王都からの物もまとめて、そうなるのはトモエにしても想像に難くない。オユキも、その辺りを考えて先になる、そう考えているのだろう。

「では、一先ず、客を招かず、それを先としましょうか。」

ただ、オユキとトモエ、遠慮をする部分は違う。
色々と、負担を強いているメイに、殊更オユキは慮るものだが。

「ま、そうなるか。嬢ちゃんの方からは、そうだなゲラルドとリヒャルトを出せば、最低限は通るだろ。」
「リヒャルト殿は。」
「今は、嬢ちゃんが借りてる。対外的には、麾下として押し通せはするし、公爵への配慮もしたと、そう言えるからな。ただ、そうなると、嬢ちゃんを招くときの茶会を、少々派手にしなきゃならんが。」
「格式、それを考えればそうなるでしょう。」

トモエとしても、それはわかる。要は、言い訳、対外的に最低限のそれが必要になると、そう言う事だ。

「領都で手配している衣服が有ります。日程を考えれば、恐らくは。」
「あら。珍しいですね。」
「オユキさんはあまり気にしませんが、私はそれなりに好みますよ、飾るのも。」

そう、そして都合のいい物は一つある。異邦、それにちなんだ衣服を仕立てて貰っている。ならばそれのお披露目も兼ねて。つまり、トモエとオユキで見せたいものが有るからと、その機会を頂くためにと、そう配慮を頼んだ。そう言った形にすることができる。

「ただ、そうなると席の様式も合わせたいものですが。」
「異邦、お前らの所はテトラポダ、アイリスの国に近いんだったか。」
「近いというだけで、同じかは分かりませんが。」

それについては、トモエからすれば疑念が多い。細かい所作が違うのだ。地方、それを考慮したとしても違う流れ、そう思うほどに。
それを踏まえた上で、トモエから野点の概要を伝える。流石に茶を点てるというのは、難しい物で実現が叶う物では無いが、見た目という面では問題ない。庭、庭園として整えるのは先になるだろうが、道具の用意が必要であり、そう言った言い訳も用意できるという物だ。

「聞いたことが無い作法ですね。」
「北、武国の一部で伝わってるものに近いのか。」
「武国、ですか。実に興味をひかれる響きではありますが。」
「戦と武技、その神のお膝元ではある。ただ、まぁ。」

アベルが言葉を濁す。理由としては、非常に分かりやすい物だが。

「そちらは、今後とすればよいでしょう。用意、それについてですが。」
「直ぐに、というよりも不足があるものは、用意できない、その上で。木材、その用意はこの後向かうつもりでしたから、余分にとすればよいでしょうし。」
「バルニーズにしても、確か森にあったはずですから、問題ないでしょう。乾かすのに、それなりにかかると聞いてはいますが。」
「私も、塗りの知識は無いので、こちらの方に任せる事になるでしょうが。」

トモエがそう言えば、メイからゲラルドに。そして彼が頷けば、決まりという物だ。

「お手間をかけます。」
「それも事実ですが、得た物は、あまりに大きいのです。返せるならば。」
「そう言えば、オユキさんから事務が得意な方、私もお会いした事が有りますが、ミズキリさんの興した会社、商会ですか、その事務や会計を黎明期から支えた方が。」
「いいのか、それを話して。」
「はい。構わないでしょう。あの人にも選択肢は多いほうが良いでしょうし。」

それだけでは無く、トモエから見ても、補填が必要だとそう思う相手への配慮という物もある。
オユキの考え、それは既にトモエは聞いているが、こちらの体制、それを考えるとなるとゲラルドの上とはいかないのだ。であれば、結果として、ゲラルドを動かさない代わりに誰が動くかとなれば、そう言う話でもある。
オユキは自信なさげではあったが、トモエの見知った相手。同性ということもあり、何かとお互いに話す機会も多かったあの人物は、どうしようもなく好きなのだ。トモエが剣、それに執心するのと同じ、下手をすればそれ以上に。あの人物は、事務仕事、そこで出来る可能性、それに何かを見出していた。
何度か話は聞いたが、まるで分らぬ分野であるため、トモエは終ぞ理解は出来なかったが。それを語る熱量という物は、流石に伝わっていた。

「恐らく、一番やりがいが、どう言えばいいのでしょうか。」

そして、それを伝えるのは、及ばぬ理解では難しい。それでも、どうにかとトモエは言葉を作る。オユキであれば、それだけで十分理解は得られるのだろうが、それを他に迄求めるのは、甘えが過ぎるからと。

「忙しく、あの人が関わっている、動かしている。そう実感できる場を望みますよ。」
「そうなると、国は難しいから、まぁ嬢ちゃんだな。」
「ええ。過去の意趣返しも兼ねて、オユキさんとミズキリさん、その窓口に近い所望むでしょうね。」

それを楽しんでいた。そうだとしても、不満はやはり抱えていた。そして、こちらでは封建制、異邦よりも遥かに明確な身分という物が存在する。以前は難しかったことも、実にやりやすいという物だろう。

「だが、いいのか。」
「ええ、オユキさんはそういった事も楽しむでしょうし。」

どうした所で、オユキは仕事人間であり、それは今も変わっていない。根底にあるもの、それが有るため今更変わることは無い。本人とて、今の在り方を、長い時間を重ねて築いた己を気に入っていることもあるのだから。
実際の仕事として、手間が増えるのかと言えば、そうはならない。トモエにしても、その程度の信頼感は告げられた名前に有るのだから。互いに余裕を作り、その中で遊ぶ、そう言った関係なのだ。

「まぁ、私の方で抱え込める文官、それは有難いですね、正直。そこまでを含めて、今回は。」
「ありがとうございます。では、用意に動きましょうか。やはり、気落ちしているオユキさんは、見たくありませんから。」
「ま、分かりやすくて結構。一応、庭先で必要になる食材も確保できるしな。」
「では、ゲラルド、手配と、そうですね木材はこちらである程度求めても。」

言われた言葉に、少し考えてトモエは軽く応える。トモエ自身、現状で出来る最大限、その確認は必要なのだから。

「少し、派手にやる予定です。今の武器、これは駄目になるでしょうが。」

特別性、溢れの物は使わないが、数打ち、王都でとりあえず求めた物。それを使い潰した時に、現状のトモエが出来る事、それを確かめる事も目的に加えて動き出す。
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