憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

慣れた相手

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そうしてあれこれと話していれば、程々に時間も立つ。教会に向かった人員、それが返事を携えて戻って来るのに十分な。特にロザリア、この町の司教については、以前御言葉の小箱を得た時にも、事前に準備をしていたような人物だ。どちらがと言うのは、それこそ神に仕える者達、それ以外にわかるわけもないが。

「お待たせしてしまいましたか。」
「いや、距離を考えれば、かなり早いだろうな。」
「巫女様方は。」
「暫くは、安静にとの事です。」
「暫く、では無く、回復した、そう判断できるまでですよ。少なくともアイリスさんで数日、オユキさんで半月以上。」

オユキがぼんやりとした答えを返せば、カナリアから鋭い声が割って入りオユキは肩を竦めて見せる。

「魔術師で、癒しの奇跡を行使できる方のお言葉です。勿論、私も従う事に異議はありません。」

既にシェリアには一先ずとして、アイリスとカナリア両名の部屋、そちらを整える事を頼んでいる。そして、追加の護衛、慣れた相手で指揮や計画が行える人員として、イマノルもこの後こちらに回されることになるらしい。
アベルはどうした所で傭兵ギルドの長、その立場もある。他にも、行うべき、行わなければならない事が多い為、護衛として張り付くわけにもいかないのだから。

「畏まりました、司教様からもこの度の一連で、暫くは動けないだろうからと人員をお借りしております。」
「やはり、ご存知ですか。」
「最古の町、その司教様ですから。」
「有難い事ですね。ご挨拶にだけは伺いますので。」

恐らく、少年達、そちらも既に屋敷の外で待機しているのだろう。以前聞いた話が確かなら、教会にて勤めを行う人物は10人。魔物と戦う、そういった風ではなかった以上、身体能力はそこまで期待できるものではない。
力仕事を頼むにも、一連に巻き込まれた経験としても、適任という物だ。

「リヒャルト様と、ファルコ様は。」
「今回は、どうするかな。どっちでもいいぞ。」

要は対外的に、どちらがより大きな功績を積んだと見せるかという事なのだが。まぁ、それを気にする貴族が多い町でもない。結局、ここで何が鹿が起きたところで、マリーア公爵の寄子と麾下によるものだ。身内が関わっていると、落としどころとしてはそうできる。

「ファルコ君の練習の機会としては。」
「先導するにも、鎧が無いからな。流石に第二は正式装備だ、見栄えが悪い。」
「成程。しかし、かねてからの一連です。ここで彼だけ外すというのも。」
「ま、それもそうだな。」

オユキが今後この町にいる事となる以上、そういった観点から分配を考えている間に、トモエが話しを纏める。確かにせっかく芽生えた仲間意識、それを育むにも、顔見世と言う意味でも、楽にはなりそうだと。ただ、オユキには別の懸念もあり、そちらを口に出す。

「ファルコ様は、参加されるとしたらメイ様側では。」
「兄弟で二人来てるんだ。分ければいいだろ。今後の役割も別けるしな。」
「全く、尽く都合よく配される物ですね。」

天の配剤、その掌から出るのは本当に難しい事であるらしい。だからこそ、予定を前倒しさせたオユキとトモエ、その評価が高くなっているのだろうが。

「では、そのように。流石に私たちも支度が要りますか。リオール様。」
「そうですね。巫女として、神より下賜された物を、公式にとなりますから。シェリア様、ラズリア様。教会の誂えた物では無く、彼の神より頂いた物を。」

仕事着、とでも言えばいいのか。オユキとアイリスはそれぞれに二種類巫女としての衣装がある。そして今回は、闘技大会で着て以来袖を通していない物を、使うという事らしい。
衣装も併せて一度神殿にと、オユキはそう願い出た物だが、戦と武技、武器だけで十分すぎるという事になった。王都にいる間に改めて国王立ち合いの元教会に納め、そこから神殿に運ぶための隊列を、トモエとアイリスと並んで見送ったものだ。
本来であれば、オユキ達もその中に荷物として積まれる、そう見せかける予定だったのだと、そんな事を考えながら。残念ながら他の者達は、遠くからそれを見ると、そうせざるを得なかったが。

「その、申し訳ございませんが。」

しかし、頼まれたラズリアが頭を下げる。

「流石に、着付けに癖がありますからね。」
「まぁ、こちらにはない物ね。私は自分で出来るけれど。」
「私も最低限は。」

これで帯まである和装であれば、オユキが出来るものなど角帯結びしかないため、どうしようもないのだが。袴であれば、見た目だけはどうにでもできると、そう気軽に口にする。

「あの、オユキさん。神事で使う物は、道場の物とは。それに前で結ぶだけではなく。」

そして、直ぐにトモエに訂正される。

「まぁ、オユキは着させられている間も、なされるがままだったものね。」
「おや、そうだったのですか。」

言われたところで、そうされている間は髪に化粧にと、オユキは着付けに迄気が回っていなかった。どころか、あまりに慣れない状況と、近すぎる見慣れぬ人員に、ただ神経をすり減らしただけなのだが。

「まぁ、私ができるから、構わないでしょ。部族の装束や、他の物ほど複雑でもないし。」
「申し訳ございません、アイリス様。」
「良いわよ。なんだかんだと、私もこの二人に返せるものが有れば、悪くは無いでしょうから。」

そして、では早速とばかりに、アイリスが立ち上がればオユキはシェリアに抱えられ、そのまま部屋から出ていくことになる。事前に告知をしないとはいえ、まぁ、騒ぎにはなる類の事であり、何より隠せぬものが大きいために、否応なしに目立つとういう物だ。

「ま、俺らの方も一先ず身支度だな。リオール殿、運搬の手配は。」
「はい、こちらで間違いなく。」
「後は、オユキは無理だが、トモエも来てくれ。第二の方に正式に要請がいる。ファルコとリヒャルトは、俺が走るか。ついでにイマノルとクララもだな。」
「お手数をかけます。私の方は、どうしましょうか。今回ご用意いただいた物が、いくつかありますが。」
「城の見学の時ので、いいだろ。お前の方にも、侍女がいるんだが。」

生憎と今いる近衛、そちらは巫女に付けられた物で、優先順位がある。

「仕方の無い事ですから。公爵様からは、追ってよこすと。オユキさんはクララさんが見習いとしてと、そう聞いていますが。」
「クララは、数カ月先だな。」

アベル、元上司の溜息は深い。

「席次があるから、ちゃんと教育を受けている方を先にという訳にもいかん。」
「その、クララさんは、それほど。子女としての教育はあったかと。」
「どうにも、向いてないという事らしくてな。最低限詰め込んだのが、騎士やってる間に抜けたらしい。」
「それは、何とも。」

イマノルを迎えた上で、その腹積もりがあったのなら許されないのではと、そんな疑念がトモエの視線に乗る。ただそれにはアベルの虚ろな笑顔が返ってくるだけだ。
確かに食事、立ち居振る舞い、それ自体は洗練されているが、あくまで騎士として。公の場でのアベル、普段のイマノルと共通、そういった物だ。夫人や、彼女の妹と比べてしまえば、確かにと、そう思うものではある。
そして、恐らくはこれまでの障害が無くなった結果として、新たに大きく立ちはだかっている事だろう。

「教師役の方は、それこそ後送されているものと同時でしょうから。」
「今頃、ファルコが引っ張ってきた嬢ちゃんに、色々言われてるだろうよ。」
「先は長そうですね。」
「年内に片がつきゃいい、そんな感じだな。そんだけ真面目に騎士やってくれたと、そうも言えるんだが。」

嬉しさ半分、困惑半分。そこに少しの申し訳なさ。アベルとしては、そういった塩梅であるらしい。表情がどうした所で複雑だ。

「領の移動、安定、それを考えればどのみちもう少し遅れそうなものですが。」
「イマノルが移って、それからあいつも領主としての教育がいるからな。」
「ああ。」
「クララがこっちに見習いとして入る時は、あいつも家宰見習いだな。」
「なかなか、大変ですね。そう言えば、アベルさんはその辺りは。」
「出来るから、団の長も、ギルドの長も出来るんだよ。」

そうして、また一度ため息をついて、話を変える。

「そういや、衣装だがオユキと揃いのを誂えるって話だったか。」
「そうですね。領都で懐かしい、異邦でという意味ですが、それを見かけましたので。」
「成程な。既に用意があるなら、そっちでもいいかとも思ったが、似てるんだろ。」
「シェリア様とも話して、刺繍などもお願いしましたから。一枚は先にご用意いただきますが。」
「王都には送るのか。」

言われて、トモエが首をかしげる。何故そちらにと。

「今回の事も含めて、礼品の手配もいる。お前らが気に入った衣装があるなら、それこそ王妃様も下賜しやすい。」
「ああ。私個人としては、鎧を考えていたりもしたのですが。」
「ほう。」

トモエからアベルに話したことは無かったかと、改めて気が付く。

「素肌物相手、その術ではありますが、やはり身に着けてみたいとは思いますから。」
「そういう手合いも多いが、流石にお前にはまだ早いぞ。」

アベルの考える全身鎧、流石にそれを着込んではトモエも十全には動けまいと、そう告げられる。

「まぁ、そうでしょう。異邦にも伝統的なものが有りましたし、一領は用意したいものです。」
「こっちからも、そういう要望があったと伝えておくさ。オユキは、まぁ、無理だろうが。」
「そうですね、オユキさんも今の動きに鎧は合わぬと、そう考えていますから。」
「王家からの下賜となると、そっちの様式じゃなくなるが。それは構わないか。」
「家も頂けましたし、美術品、そちらでも喜んで。」

そう、オユキが色々と、トモエもそうだが骨を折った結果として、自分が好きにできる空間と言うのも手に入った。オユキは興味を持ってはいないが、トモエは刀を飾ることとて好むのだ。

「一室を武具の為としたいのですが。」
「手入れを任せられられる人員と、客を招く場が流石に先だろうがな。にしても、オユキは興味が無いといった口ぶりだったが。」
「オユキさんと私では、やはり好は違いますから。」
「ま、お前がそれで喜ぶなら、陛下も公爵も、色々と気が楽だろうよ。」
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