憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

加減とは

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オユキが相変わらず過小評価している、そう分かっていながらも修正できない事柄として、神々にまつわる事が有る。身の回り、近くにいる相手がいい加減、諦めと、呆れをもって接するからというのもある。そんな言い訳をついつい頭で作ってしまうのだが。

「何と言いますか、随分と。」
「それはそうよ。神々の功績を下賜した巫女、それが新しく神々の頼まれごとを持ち込んだんだもの。」
「それもあってですか。」

目を覚ませば、どう言えばいいのか。
御言葉の小箱を大きくしたもの、そう言ってもいい形状。どうやってこれを置いたのか、そう思う箱がベッドの脇に置かれていた。トモエとオユキは、これまでの事から枕元に、大量の勲章にしてもそうだったのだから、そこにあるだろうと思って目を覚ました。しかし、そこには何もなく、教会に取りに行くのかと思えば、ベッド脇。オユキの上半身どころか、トモエの上半身を超える大きさの箱が鎮座していた。
中身の分からぬそれではあるが、朝早くから申し訳ないと思いつつも、公爵への連絡を頼めばまた一騒動あったものだ。

「領の計画を見直すことになるな。いや、こちらをいっそ、レジス候に任せるのが良いか。」

本来であれば、領都で分かれるはずだった公爵なのだが、今は同じ馬車に乗っている。余裕のある日程、それ自体には変わらないが、こうして追加の行程が挟まり、それも一週間程度短くなった。そういった問題はあるが、それを問題と考える子供たちも喜んでいるのだから、まぁ良しとするしかないだろう。
大きな箱、要はその中身は新たに教会を作るための道具であるらしい。公爵にしても初めて見るそれを、水と癒しからの頼まれごとだからと教会に持ち込めば、こうして例のごとく一騒動という物だ。
別の馬車には、預けた箱と共に、司祭と巫女、助祭に修道女が乗り込んでいる。そして本領とでもいうのか、第二騎士団が実に張り切って護衛をしてくれている。それはもう、存分に。
重要だと、それはわかるのだがもう少し気勢を抑えなければ、それに慣れぬ同行者が疲れる物だが。

「メイ様が、自領の資源として計上していましたが。」
「元はそうであったが、流石に新規の教会、その管理までとなると手が回らぬだろう。加えて、あの町にも大幅に手を入れなければならん。それを現状の業務に加えろと、流石に我もそこまでの無体は出来ん。」

言われて、オユキとしても思い返してみれば。教会の置かれた街、それは確かに、どこもそれなりの規模を持っている。始まりの町にしても、その長閑さとは裏腹に、それなり以上に大きくしっかりとした壁もある。主要な施設にしてもすべて揃っているのだから。

「イマノルさんとクララさんに、ある程度見ていただく形が現状は無駄が無いのでしょうが。」
「それではラスト子爵を優先にと、そう見える故な。」
「それにすっかりアベルが予定にあの二人は組み込んでいる物。取り上げる形にしようと見えれば、流石に抵抗するでしょうね。」

そのアベルは、今もイマノルとクララを従えて護衛の統括を行っている。元ではあるし、団が違うとはいえ騎士の取りまとめ、その手腕は他の誰よりも確かだ。近衛にしても王族では無くとも、王妃の親戚。その人物の指示に意味もなく反発することが無い。
少年たちはメイの馬車に乗せられているし、子供たちは古巣の神職たちと同じ。ファルコはアベルの近侍扱いで指揮を習いと、各々もきっちりと配置されている。リヒャルトだけは公爵が動く必要が出たため、夫人とともに今は領都に残って業務に邁進している事だろう。

「教会でもお伝えしましたが。」
「うむ、始まりの町からはやはり動かせん。王都にも話が行く。そこから神殿に話が回れば、この教会を預かる司祭も回されてくるだろう。」
「その方も同行できれば、そうも思いますが。」
「ああ、その方は知らぬのも当然か。教会を預かる立場というのは、正式に神殿で任を得る必要がある。」

少々迂遠だと、そう考えたものだが理由はある物であるらしい。

「となると、その同行に。」
「うむ。レジス候に任せとなるだろうな。新たな教会、流石に降臨祭には間に合わぬが、新年祭は執り行わねばならん。」
「新しい物は、新しい物を祝う折に、ですか。」
「そのような物だ。第二の多くは暫くこちらに置かざるを得んか。オユキからも。」
「畏まりました。」

出立に合わせて、道中を頼んでもいる。確かにそれを変えるのであれば、オユキからも声を掛けねばなるまい。

「メイ様は、また頭を抱えそうですね。」

トモエがそう言えば、オユキとしてもただ頷く他ない。新しく教会を。そしてそれに合わせて、町にも大々的に手を入れる。そうなれば、現状メイがダンジョンから得た物資、その中で河沿いの町が必要とするものは、どうしたところで供出が求められる。

「我らとて、神より任を頂く身である。了見せよ、我からはそうとしか言えぬ。補填として、後送される武器、鍛冶の設備に必要な手配、それらは我が行いはするが。」

つまり、今頃リヒャルトがその手配に奔走しているという事でもある。

「教会の設置場所は。」
「それについては、司祭と巫女が分かるものだ。最も管理を任せる物が後から来る故、実際の物はまだいくらか先になるが。それまでの間は、今持ち出してもらった道具、それと共に祀って置くことになる。」
「ああ、それで護衛の手もいるという事ですか。」
「うむ。我の領で言えば、それこそ二代前、我が祖父の頃に新たな教会を頂いて以来であるからな。」

何とも、これはまた仰々しい事になりそうな話だ。

「後程書簡は用意する故、その方らから始まりの町の司教殿にも。」
「承りました。」

教会の運営、それそのものには人員の供出は出来なくとも。それ以外、作られたばかりの教会だ、それの手伝いと言うのは求める事が出来るだろう。
そうなると、少年たちも名乗りを上げそうなものではあるが。そればかりは話をして、彼らで決めてもらうしかない。資材が足りない、それを手に入れるための行いも手伝いであれば、実際に現地でと言うのもどちらも手伝いの形ではある。それこそ、彼らが思うように選択すればよいものだ。教える側の都合、それも多少はありはするが、彼らの選択に合わせたところで、今回はあまり問題が無い事もある。
どちらかと言えば、周囲に丸兎しかいない、そんな場所よりはまだ色々と学ぶべきところのある、そんな敵がいる河沿いの町、そちらの方が都合が良いともいえるのだが。
ダンジョン、それについては流石に毎日の事にはならないだろうから。少なくともオユキはそう考えている。トモエの方では、また、当然違う考えがあるだろうが。

「なんにせよ、やはり次迄はのんびりと。そうもいかない物ですね。」
「分かっておるのだろうが。」
「備蓄、そちらについては勿論尽くさせて頂きますとも。」
「いや、その方らを訪うものは、相応におるぞ。」

公爵に言われたところで、オユキは思わず首をかしげる。

「この状況で、そこまでの時間を使って、ですか。」
「この情勢であるからこそ、無理を押してと望むものだ。」

備蓄、今後に向けた備え。その必要性は貴族、為政者。それであれば嫌と言うほど理解しているのではないか、オユキはそう考えていたのだが。

「あのね。護衛として貸し出された者が、揃って神から頂いた功績を身に着けてるのよ。」
「それこそ、今後の己の研鑽で、そう考えていましたが。」
「あの騎士達が、それを既にしていないわけが無いでしょう。」

戦と武技、その神殿はこの国には無い。神の声を聴き、その意思を気軽に届ける、その役職を持った人間はいない。そして騎士、その行いは何処まで行っても戦と武技の神、それが認める物だ。詳しく聞けば、他にも居るのだろうが。

「民に安息を与える、そちらの方向では。」
「生憎と、前例が少ない。その方らも得ておらぬだろう、此度の大役を務めたというのに。」

公爵にそう言われてしまえば、オユキも次の言葉が直ぐに出ない。少しの間、何故そう考えていたのか、そう考えた上で次を口にする。

「いえ、既に戦と武技の神より任を頂いていますから。」
「ふむ。そう考えるか。しかし神々は普く我らの行いを評価してくださる。その方らとて、複数の神より既に功績を頂いておるだろう。先に下賜したものも、合わせた物となっておったしな。」
「それは、あくまでその役を頂いていない方への物ですから。」
「神殿に努める物は、特に複数の神より功績を頂いておる。」

どうやらそういう事であるらしい。
思い返せば、月と安息の神にしても、巫女が増えそうだ、そう言っていた。しかしそれにまつわる何かを用意したりしていない。
声を掛けはしたが、からかい交じりの苦言であった様だ。つまり神々、それの求める最低ライン、それが確かに存在するものであるらしい。トモエとオユキは、他の神々のそれを超えていないという事だろう。
気安く声をかけられる相手ではあるが、その振る舞いを名のもとに称える、それには足りないと。

「その方らでは、まずは所作、作法。そちらを修めるのが先であろうな。ちょうどいい練習相手は我が選ぶ。良く学ぶとよい。」
「月に一度、とまでは望みませんが。」
「まずは我が領内、そうなる故隔週で、その程度であろうな。トモエも。」
「流石に、一日で何を伝えられるという訳でもありませんが。」
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