憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

夢にて見ゆ

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始まりの町、そこで面会が希望された際判断が行える人員。そういった相手の紹介などを受ければ、食事も終わる。暗に示された予定などもあったが、それについても流動的でしかない。少年たちにはまだ伝える事の無い、領地間の通信機能、それを用いた上で、随時更新も行われるだろう。
そして、与えられた屋敷に戻り、一息ついた後に就寝とそうなれば。見覚えのある場所で意識が覚醒するものだ。見覚えのある風景とは言い難いのだが。
白い空間、そこを夜空に輝く月が照らしているが、周囲には水が満ちている。そして、苦渋という物を題材に彫刻を作ればこうなるだろう、そのような相手と微笑ましい取っ組み合いを行う二柱。

「微笑ましいでは無く、見苦しいというのだ、巫女よ。」
「あら、それが常のあなたに言われたくない物だわ。」
「全くです。こうして己の座もろくに飾らぬ、それだから美を求める私たちの心も分からない粗忽もの、そう呼んでいるというのに。」

戦と武技の言葉に、組み合う二柱からの攻撃が向くが、言われた相手は肩を竦めるだけだ。

「お聞きだったのでしょうが、マリーア公爵より同じとは参りませんが、同格の物は。そのように言葉を預かっております。」
「ええ、聞いていたわ。問題は。」
「そうですね、色で言えば、この度の流れを考えれば。領都、そこで主体としているのは私の教会、そうでしょう。」

正直、オユキとトモエはその辺りの理屈は分からない。マリーア公爵。掲げる紋章は盾の位置に月が入っている。それでも本教会と言われているのは、水と癒しだ。

「この度は名を戴いている月と安息、その柱をとのことでしたが。」

どうにもならぬとばかりに、トモエが告げられたことを事実として語る。そして、それは悪意による行いではない。神が咎める事の出来ぬ、自由な人の意思で決まったことだ。
明暗分かれる結果が、そこには発生する。要は、勝ち誇る月と安息、悔しがる水と癒しといった形で。そしてその様子に、オユキはただ納得する。加工が行われれば、好みが変わる。それを伝えなかったのは、こういった理由があったからであるらしい。

「その予想は正しい。他にも求める物はおる。」

実に頭の痛い話ではある。

「生憎と、我らが物を作るわけにはいかんのでな。」
「それは、以前お伺いした。」
「他に理由がないでもない。しかし今はそれだけを。」

人、その歩みにまつわる事ではあろう。貴族、国の維持。その辺りの判断は、やはり神とて関わっているのだろうから。であれば、確かにダンジョン、その祭り。実に良い機会であったのだろう。それにしても迂遠であると、そう感じる物ではあるが、そうせざるを得なかった理由についても、既にある程度聞いている。
予想を先に進める情報、それが与えられる程度に、情報収集、それが進んでいるらしい。そんな事をオユキはつらつらと考える。

「まぁ、そこまでにしておきなさい、今は。オユキ、あなたをこちらに連れてくる時期、それを決めた相手に色々と聞けばいいでしょう。最もあの者も話せない事は未だに多いから、その辺りは考えて、ね。」
「どうしても話したくない、それがあればミズキリの方で、流れを変えるでしょう。」
「ええ、そうでしょうね。それに、他の手もある物。」

要は、これまでと同じように直接手が入るという事らしい。それに甘えるつもりはないが、ある程度ギリギリまで情報が引き出せることだろう。むしろそれをしろと言う事でもあるらしい。なんにせよ、ミズキリには当初の予定、その確認をせねばならないだろう。今後も大いにそれを変える事になるのだろうが、着地点、そのすり合わせは必須だ。思えば、使命として与えられたと言っている事、そこにあるはずのミズキリの意思。それすらも確認していない。新人の育成、それに対して大きく歩を進めたのは、ミズキリであるにも関わらず。

「さて、こうして改めて場を設けたのは、まぁ大きな理由は決着を見たが。褒美、その話だな。」
「お心遣いは有難く。」
「思いつかぬ、その理解は我にもある。だが、まぁ、我らの母の言葉もある。そして、その方も感づいている今後の予定、それであるな。それにも係わりがある。」
「ええ、まぁ、そうね。ロザリアには話してあるわ。降臨祭、それにあなたも巫女として。」

さて、オユキの方はまた何やら忙しない日々を得そうではあるが。

「そこまで難しい物では無いわよ。」
「畏まりました。そちらについては、確かにロザリア司教に伺います。」
「それと、アイリス、その方もだな。我の印を与える。その方らにおける降臨は祖霊の物ではあるが、それも恙なく執り行え。」
「ご下命、確かに。」

これ自体、どういった意味があるかはまだ分からないが。やはりそれを行う理由があるのだろう。アイリス、祖霊、恐らく神なる獣。そちらにまで用があるとなると。
流石に知識が足りぬと、トモエに何か思い当たることがと視線を向ければ、頷かれる。ならば、そちらは後で確認をすればいいだろう。

「相変わらず、この子に似つかわしくない位に色々考える物ね。」
「ええ。是非改めてこの子の巫女として、他の方々にもそれを伝えてね。」
「考える、それも大事ではあるが戦場においては、それすら隙となる。そのような物だ。」

言わんとしていることは、オユキにも大いに理解できる。トモエは深く頷いているし、アイリスの方もそうなる迄型をまず繰り返す、それが始まりなのだから。最も今は実感と言うよりも、己の行動の反省、その形で受け取っている。彼の流派の流れを汲むというのに、打ち込みが足りていない、その証拠だと。トモエとオユキは揃って判断を下す。

「それと、オユキ、あなたに私からもお願いもあるのよ。」
「は、何なりと。」
「始まりの町。これまで大きく変える事の無かった、最古の町。あそこに大きく手を加えたでしょう。」

そう、聞けば水源として川を引き込んだと聞いている。

「あそこの教会は一つだけ。それは今後も変えられないけれど、流れる水、無理に引いたあれが馴染むまでは、やっぱり私の力も必要なのよ。これまで以上に。」

こちらで今まで雨の一つも降ったことは無いが、言わんとすることはオユキの理解が及ぶものだ。古来、為政者にとって治水と言うのは重要な課題だ。そして、こちらでも人という生き物として、水が生活に必須であることも変わらない。

「そうなのよ。まだしばらくは私も大きく力を使えないから、私が直接世界全体の水量を増やせないの。そして、あの大河、あれの水量が減っても困るのよ。」

さて、それを叶えるというのであれば、引き入れた量、出ていく量が同じである。そのような無理を行わなければいけない。どういった形で引かれた川かは分からないが、少なくとも新たに発生した支流。それを満たした体積と同程度も補填がいる。

「今後は川も増やすことになったでしょうし、計画通りの物ではあるのだけど。」

つまり前倒しにした弊害があるという事らしい。ミズキリがその辺りの補填を忘れる事もないと思うのだが。

「忘れてはいないわ。そもそも知らないんだもの。」
「それは。」
「あの子も全てを知っている、そんなわけでは無いのよ。えっと、話を戻すのだけれど、引き込んだところね、貴女も知っている河沿いの小さな拠点、そこに置いてほしいもの、それを用意しておくから。」

既に用意はあるらしい。ならば否やはない。予定の調整、それはどうしたところで必須にはなるが。

「いえ、戻る前に、よ。」

どうやら、そういう事であるらしい。

「始まりの町からは、私を好んでくれる子は動かせないもの。だから、今の場所から。」
「成程。ご下命、確かに。」

教会、それが存在しない拠点もあるが、河沿いの町、あそこにはこれから作られるのだろう。どうにも今後もこうして移動のたびに、何かはありそうな気もするが、それこそ都合のいい相手、そういう事だろう。同時に、そういった細々としたことを頼まれ、達成するからこそ、纏めて何か大きな物を、ということもあるのだろう。それにしても、今回は一体どうなるのか。予想がつきそうではあるが、判然としない。
オユキ達個人としては、既に得た大きなものが有る。勿論、他にも還元されるものだが、それにしても些末だ。輸送能力は改善する。だが、今はそれを行うための資源をため込むと、そういった話をしている最中だ。相互に都合する場面はあるだろうが、それは商人といった、この世界に多くいる人に向けた物では無い。起動にどの程度の魔石がいるのか、それにもよるのだが、下手をすればむしろ物価が上がる。そういう物だ。

「ああ。なる程。」

そこで思いつくことは一つ。あちらこちらを移動する予定を持っている、そんな都合のいい相手。そして今回の頼まれごと。ならば、それらしきものは一つある。そして、それを正式に任として得たのならば、オユキとトモエの道行きを止めるのは難しくなる。そう言った物が。ただそうなると、旅路の苛酷さが増すものだが。

「生憎、易々とそれを簡単な物に変える、そのような我らでは無いのだ。」
「その中でも出来る事はある、それをするといいでしょう。思いつくことはあるようですから。」

急ぐ、その為に人を頼む。そしてそこから存分に広めよ。そういう事であるらしい。

「私以外にもある程度、そう思うものではありますが。」
「知っておるだろう。」

そう言われてしまえば二の句はない。
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