憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

二度目の成果

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「まぁ、昨日よりは良かったな。」

朝方、日々の柔軟を終えて朝食の席、しっかり揃って公爵夫人から釘を刺されれば。いつものようにのんびりと時間を使う事も無く、直ぐに行動を開始することとなる。
少々顔ぶれが足りなかったことに、素仕儀そうな顔をする少年達ではあった。しかし、何やら疲れた顔で馬車に乗り込んできたアベルを見て、色々と察したようでもある。
そこで、何やら視線が寄せられる当たり、信頼という物の意味をトモエとオユキは考えさせられたものだ。
事今回に関しては、発端も向こうではあるのだから。
そして、そんな移動を終えれば狩猟者ギルドにより、昨日よりも多く用意されていた武器や人足、荷台などを引き連れて狩場に。
以前、領都での騒動に触れたときは、魔物を狩れば減ったものだが、恐らくこちらではこれが通常の状只という事なのだろう。狩った直後は確かに減っていたのだが。

「うん。良かったとは思うけど。」

そして、そんな状況に対応しきった少年達。生憎と今日は色々と急がねばならないということもあるのだが、そこはそれ。収穫物の回収と荷運びを任せた上で、昨日と同じように車座になっている。
昼食にはまだ早い時間であるため、少し抑えめの量、それをしっかり食べた後は、こうして反省会となっている。

「ええ、良くなっていましたよ。注意したこと、それを意識した上での振る舞いも多かったわけですから。」
「あー、うん。まぁ、な。」
「でも、これって。確かに勘違いしそうですよね。」

どうにも歯切れが悪い理由は簡単だ。これまで以上に旺盛な食欲、加護の定着に必要なそれを発揮した。つまり、そういう事だ。
そして、強化された、明確なそれが余裕を作る。たった一日、昨日と今日で、見違えるほどの差があったのだから。

「何より、それに振り回されなかった、それは間違いなくいい事でしょう。きちんと、事前に体を動かして気が付けていたわけですから。」
「認めて貰えたのも嬉しいし、こう、実際有難いけど。確かに、あんちゃん達が加護を抑える指輪が必要って、それもなんかわかったよ。」
「うん、甘えるつもりはないけど、やっぱりもう少し練習したかったかも。」

確かに彼らが感じていた課題、それは実に単純に解消されてしまいはしたが、それが問題という訳でも無い。

「ま、それこそこんな状況じゃなきゃ、都度狩場を変えれば済む問題だからな。
 トモエも話したが、それを実感して油断が無かった、まずはこれが褒める点だな。勿論、それに甘えて無造作に動けば、何なら昨日よりも酷い状況になったろうからな。」

そうアベルからも声がかかる。

「トモエにしても、お前らにしても。かなりの加護、そう思ってるかもしれないが。」

そうして改めて一同を見回すアベル、続く言葉の想定は実に容易い。

「まぁ、比べたら、本当にまだまだだよなぁ。」
「ああ。」

そう、高々一日二日乱獲をしたところで、アベルには遠く及ばない。見て分かるほどに、能力が身につくほどに、そこにある差が途方もないと気が付くだけだ。

「つか、あっちの荷車牽いてくれてる人より。」
「うん。怪我はあるから、ちょっとくらいはかもだけど。」

そう。既に魔物と戦わない、その選択をしたいと人ですら、今の彼らより強いのだ。だからと言って彼らが戦えるのか、魔物の狩猟に身を投じれるのかと言えば、また違うのだが。過去の慣れ、そう言った物が実に大きく足を引っ張るだろう。治らぬ傷を庇うための動きが、残りに負担もかけるだろう。恐らく、ここらの魔物程度であれば確かに問題はないだろう。だが、彼らがこれまで戦場としていた場所、そこに行くことは既に難しいのだ。
ならばいっそのこと、そう言った折り合いもありだろう。
そんな事を考えていたが、昨日の公爵の言葉もある。何やらそう扱う、その理由もありそうだが。
文化背景を考えれば、少々楽しくない事も思い至りはするのだが。では、それをこちらの実行力を持った神々が許すのか、そう考えれば腑に落ちない。
これについては、また別途考える必要が、それこそ気分を害さないように本人たちに尋ねる必要があるなと、オユキはそう思考を止める。

「あなたは、まぁ、昨日の様子を考えれば。」
「ええ、やはりまだ引き摺ています。それもあって負担をかけたかと思いますが。」
「私は途中で抜けたけれど、あの後にも何かあったのかしら。」
「いえ、何事も。直ぐに解散となって、残られた方に、簡単に説明をした程度です。」

オユキはオユキで、切り替えてはいる、表面的には。しかし、いつもよりも空事を考える時間が増えている。それについては、まぁ、周囲の補助が有難いことに得られる。しかし、少年たちにまで、何処か心配げな目で見られてしまうと、苦笑いをするしかない。

「どうにも、色々と急に分かったこともあります。数日は精彩を欠くでしょう。」
「数日で思い出したけれど、あなた達、祭りの間はどうするのかしら。」
「狩りには、出ないと思いますよ。」

トモエとアベルが、子供たちを誉めた後はと。昨日と同じようにあれこれと注意される中、オユキとアイリスは別で話をする。正直日々に追われるばかりで、なかなか予定が建てられていないのだ。

「私たちはこちらのお祭りは初めてですから、色々見て回りたくは思います。」

そう、お祭り。国ごとに、場所ごとに、祝うもの次第で本当に多種多様なそれ。観光の目的にも成程なのだ。それ自体を目的としているオユキとしては、是非トモエと楽しみたい。
子供たちにしても、その空気を目にし、触れるのも、実に喜ぶことだろう。一日は一緒に、もう一日は別にというのもいいだろう。やはり子供たち、年相応の興味関心なのだ。喜びあちこちに。それに手を引かれて歩いて回るのも悪くはないが、トモエと二人でゆっくりと歩くのも悪くはない。
それこそ、今は子供たちにしても頼めばいくらでも面倒を見てくれる人はいるのだから。

「何というか、本当にそれが目的なのよね、あなた達。」
「ええ。そうですとも。」
「ただ、先に助祭に聞いたほうが良いのかしら。」
「流石に、今回の事は関係がないのでは。」

アイリスからそのように言われるが、オユキとしては首をかしげる。直ぐにそれと思い当たる練習などもしていない。もう日が無いのだ。そこで何か行うべき事が有るのなら、既に練習が行われている物だろう。

「いえ、ね。昨日のこともある物。」
「しかし、それは先の事でしょう。」
「私もこちらの種族の振る舞いには詳しくないけれど、生まれた子供への祝祷くらいはするものでは無いのかしら。今後、5歳からと言っていたかしら、体を鍛える事が義務と言っていた事もあるでしょうし。」
「そちらは、それこそ司教様や司祭様の務めでは。」
「さぁ、どうかしら。都合よくいるのだからと、そうならないとは。」

そう言われれば、オユキとしてもただあり得ると、そう項垂れるしかない。憂さ晴らしという訳でも無いだろう、それがないとも言わないが。昨日、切欠があったのだ。そして明確な忠告がなされたのだ。
ならばと、そう考えても不思議ではない。いや、朝早く、それこそ王妃があまりに突然に参加すると決まった。

「あら、どうかしたの。」
「いえ、思い当たることが。王妃様が本日、足をお運びくださるとか。」
「昨夜の事の確認だけ、ではなさそうね。」
「ええ、失念していました。私どもの下に、また何か、それを警戒されたのだとばかり。」

そう、急なその要望について、オユキは毎度のごとく神から何か与えられたのではないか、その確認のためというのが比重として大きかろうと考えていたのだが。
後は、民への施しという部分。オユキ達意外にも、公爵の手によって既に領都からの狩猟者、傭兵が動いている。狩場は違うのだが、彼らについては祭りだろうが関係ない。そこまで含めての仕事となっているのだろうから。
その事について、今は偶然を装っているそれへの感謝あたりかと考えていたものだ。
実務としては、今頃既に議題にあげられ、大いに話し合われているだろうが。それこそ追認される事が有れば、公爵経由でお褒めの言葉と、いくばくかの金銭が対価として少年たちに与えられるだろう。
そう言った物の、事前準備と考えていたものだが。確かにアイリスの言う事にも一理ある。そして昨日の今日だ。練習など事前に計画できるはずも無い。

「困ったわね。」
「その、何か。」
「一応、部族の物もあるのよ。こちらとあまりに違えばどうした物かしらと。」
「ああ。其処は尋ねるしかないでしょう。同族として私が行えば済む物ですし。」
「流石に、押し付けるのは違うと思うけれど。」
「文化の違いというのは、ご理解頂けると思いますよ。」

あまりそういった事に頓着しないアイリスが、そうしてわざわざ口に出すほどに、習慣として違うだろうと予想しているのだ。そればかりは、それこそ確認して折り合いをつけるしかない。
そして、それを行うのは何もアイリスだけという訳でも無い。

「さて、お祭りを楽しむ、その時間は確保しなければいけませんね。」
「あら、調子が戻ったわね。」
「ええ、トモエさんの楽しみにかかわる事ですから。」

そう、オユキにとって最も高い優先順位、それを害する可能性が出てきた。
ならば己に出来る事で、それを排するのみだ。方法、相手を納得させる理屈というのは存在する。ならば後はそれを盾としつつ、相手の望み、譲れない部分を引き出し、それこそ折り合いをつけるだけだ。
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