憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

神の権威

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「まさか、こうしてあなた達のために骨を折った者に。私たちの頼みを快く聞き届けた者たちに。報いることは無い、そんな事は当然ないと、私はそう思っているのだけれど。」
「神殿との兼ね合いもありますれば。」
「あら、私の愛しい子供たち、その中でも特に私を大事する子たちは、勿論何時でも構わない、そう言っていたわよ。」

さて、こうなってしまっては。
今まさに王太子が、それよりも上位の存在に追い詰められているが、助けられるものなどいない。いや、助けを求めるように公爵に視線を送っているのだが。

「あら、応えてくれないの。悲しいわ。私の流す涙、それは確かにこちらへ現れるかもしれない。そしてその結果に私はまた、涙を流すのでしょうね。」
「我が子のお披露目、それが終わり5日後に、必ず。」

暗に早くしろ、そう言った言葉は聞こえていたため、かなり早い日程だ。オユキはどうにも今回は難しいのではないかと、そんな事を言っていたものだが。
そして、神の前で断言した以上、その日程が違えられることは無いだろう。

「ええ、ではその時に。あなた達も気になることが、知りたい事が有るのでしょう。ゆっくりと話を聞けるよう、私からも改めて伝えておくわ。それが今回、労を担ったあなた達への私から。」
「ご厚情、真に有難く。」

トモエとしては、叶えたい目的、それに力添えがもらえる事には感謝しかない。
それでかかる苦労については、まぁ、こちらの世界のためにと、今後もあれこれやることにはなるのだ。その将来の労に比べれば、何ほどでもない。そう納得してもらう事にする。
実際の所、オユキが先になると、そう考えるほどには、忙しいようではあるのだから。生憎と、それがどの程度か分かるほどの知識がトモエには無い。

「まぁ、なんというかな。我らにとって都合が良いのだ、その二人は。先にも話したようにな。」
「ええ、オユキさん、もう大丈夫ですか。本当はもう少し、余裕が出来たときにと考えていたんですけど。」
「ああ、いえ。思ってもいなかった事、と言いましょうか。諦めていたつもりだったといいましょうか。自身の触れていた技術の危険性に、改めてと言いましょうか。」

創造神が少し不安げにはするが、今となってはオユキもすっかり落ち着いた。恐慌状態に陥り、もうしばらく思考が空転するかと思えば、それが波のように引いたのを思えば、手助けがあったのだろう。
水と癒し、それを司る神もいるのだ。魂、それが明確に存在すると断言されている以上、精神というのも範疇ではあろう。それに作用ができるというのは、名前、それもあって理解している。

「ええ、ならよかった。ですから、私としても改めて巡って欲しいんです、この世界を。その、合間合間に、お供えに欲しいものは、あるんですけど。」
「普段は我に痛飲は避けよというのに、まったく。姉上も。」
「甘いお酒は少ないですから。嗜好品は今の所どうしても。」

人口が少なく、勿論余裕を持てる者も少ない。そうであるなら、富裕層、加えてそれなりに年を重ねた者たちが、それを嗜むことになる。
そうであるなら、何かを食べながら、酒席を用意して酒だけという事も無い。そういった場面で、甘く、それ単体で成立する品というのは、やはり扱いが難しい。結果として、持ち込まれるのも稀という事なのだろう。

「それについては、公爵様にも手をお借りしたく。」
「ええ、勿論です。その、是非色々な組み合わせで。」
「ご下命承りました。我が領を上げて、必ずや。」
「あ、でも、あんまり負担にならない程度にはしてくださいね。無理をして欲しいわけじゃないのだから。」
「は。御身のお言葉、確かに守らせていただきます。」

さて、それだけであれば、折に触れて。そうはならないだろう。であるならこの甘味を求める神の、若しくは神々の要望も分かる。

「他の甘味という事でしたら、過去の同胞が納めていそうなものですが。私にも知識はそれなりにあるとはいえ。」
「えっと、異邦の子だといっても、こうして私が気軽に、そうできるとは限らないの。」
「ああ。そういう事ですか。であれば、この場で用意できるもの、この地にある物であれば。」
「ええ、仰せとあらば、必ずや。」
「ええと、それでは。」

さて、創造神、その名を冠するのであれば、そう言った物も自在に作れそうなものだが。あれこれと告げられる菓子類の名前を聞き流しながら、オユキがそんな事を考えていると、戦と武技の神の笑い声が響く。
何事だろうかとそちらを見れば、声に反して表情は渋い。

「以前、その存在を知った時に我らの母が加減なく作った事が有ってな。」
「ああ。」
「以来、作らぬと、そう決めておるのだ。加えて、我らが最も簡単に愛し子たちと、触れ合える機会でもある。」

いくらでも作れるからと、実際にそうすれば、まぁ、色々と障りもある物だろう。その結果として、決まりごとがあるようである。神々にしても、それぞれに役割というのを明確に持っていると、そう示していることもある。まぁ、何かそういった事があったのだろう。
ただ、実に楽し気にあれこれと、創造神に加えて水と癒しの女神までもが、名称を告げている。
さて、果たしてこの二人だけで済む物か。
ただ、こちらの人々にとって喜ぶべきこととしては、今後加わる祭り、そこで用意する手を加えた品、その分かりやすい一つの指針になる物でもある。
その辺りも考えての事とは思うのだが。いや、オユキとしてはそう思いたいのだが。

「さて、生憎と時間が無くなる。どれ。」

そう戦と武技の神が呟けば、王太子と呼ばれたはいいが何もしゃべることのなかったアイリスがその姿を消す。
元居た場所に戻されたのだろう。
最もアイリスが呼ばれたのは、滞在時間を増やす、そのためだろうが。
一度アイリスにマナなりなんなりの消耗があるか、確認しておいたほうが良いのかもしれない。もしそれも無いのであれば、他に使われている何かがあるのだから。

「まぁ、疑いたいとそう思う気持ちも分からないでもない。特にここしばらく、これまで数十年に一度あるかないか、その程度だったものが、毎月のようになっているのだ。」
「ええ。その、本当は前から機会があればやったんですけど、先にも言ったように、都合のいい異邦人というのが。あなた達は知っているのでしょうけど、巫女でも言葉までですから、今は。」
「うむ。そういった由である。我の巫女だ、くれぐれも無意味に疑ってくれるなよ。」

どうやら、本当にこちらを心配しての事であったらしい。またぞろ何かあるかと思えば、ひとまずそれで終わりと姿が消えていく。
その後は少しの間、特に会話が無く、二人ほどから長く息を吐く音が聞こえたものだが。

「オユキさん、本当に。」
「ええ、今は。お騒がせしました。」

問われることに、オユキはそう返す。今となっては、問題がない。それについて考えたところで、先ほどのようになることも無い。

「何か作用を頂いたようですから。」
「なら、いいのですけど。」

さて、二人でそう話していれば、ようやく落ち着いたのか、残った二人から当然声を掛けられる。

「全く、つくづく色々ある事だ。」
「先の御言葉にもありましたが、それはこの世界そのものです。」
「で、たまたま色々と融通が利くお前らに、か。」
「そういう事、だそうですよ。」

勿論、ならばなぜ今、この時期だったか。要はこの時期にそういった存在が必要だったと、それもあるのだろうが。
随分と気安いものに感じていたが、そうでなかった理由も、一応分かりはしたのだ。ただ、伝えた以上、今後も加減が無いとそういう事なのだろうが。

「我は、明日の朝から登城か。」

公爵がため息とともにそう言うが、そうしなければ迎えが来るだけだろう。

「にしても、さっきのオユキの様子は。」
「ああ、恐らく私の両親、それに関してでしょうね。トモエさんが戦と武技の神に殊更気に入られている、その理由も予想が正しいと、そう考えてもよさそうです。」
「やはり、そうですか。」

オユキでも気が付くのだ。トモエがそれに気が付かないわけがない。

「なんだ、話せない事か。使命の中にはそういったのもあると聞いちゃいるが、お前ら、さっき今の所無いって言われたようなもんだろうが。」
「いえ、全てをとなると面倒と言いますか、時間が必要と言いますか。」

そう、本当にすべて話すとなれば、時間がかなり必要になる。そしてこちらの人々に話していないだろう、この世界の基となったゲーム、その仕組みの話まで少しはしなければいけない。

「かいつまんでというも難しいので、結論だけとしましょうか。」
「まぁ、そうする理由があるんだろうな。」

そして、アベルに顎で促されれば、オユキも簡単に告げる。

「どうにも、私の両親が、使徒としてこちらに来ていたようで。」

そう、それがいつかは分からないが。異邦の想念、それで出来た世界とは聞いているが。そうであるなら、もっと多くの人を熱狂させたものなどいくらでもある。より長い期間。そもそもそういった物からも、この世界はモチーフを借りているのだ。つまり、決定的な、この形に収まった理由はあのゲームで間違いない。しかし生まれた、そうとしか言っていない。元があり、形が与えられた。例えば彫刻のように。それでも作品が生まれたと、そう呼んでも間違いではない。相も変わらず、受け取り方が多様になる、そう言った話し方をする。

「それは、真か。」
「騙って、ただで済む物では無いでしょう。」

そして、残響のように、その場に響く。正解ですと、創造神の声が。

「成程、だから都合がいいわけか。」
「私の方でも、調べるべきことが増えました。」

そして、そうであるなら製作者が7人という話も疑う必要が出て来る。

「で、トモエの方は。」
「トモエさんの師、義父ですね。戦と武技の神、その武を構成する一部として。」

そう話せば、いよいよアベルも公爵も言葉がないようだ。
それにしても、製作者が7人、これが正しかったとして関係者、それも表に出ていない。表に出る事を望まなかった、そう言った物もいたのであろうし。最もとオユキの両親については、別の要因だろう。こちらに来て、オユキの事を思い出したのか。それとも。

「なんにせよ、日々の事はありますから。」

そう、いくら考えるべきことが増えたところで、明日の予定も決まっている。祭りの日程も動かせはしない。
そして、魔術が有ろうと人は時間を自由にできない。
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