憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

戦いの種類

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「随分と買っていただいた物ですね。」

翌朝、いつもと異なり出立前に狩猟者ギルドによれば、想像以上の準備が整えられていた。
樽二つに、多少の隙間はあるが、裏を返せば、その程度の隙間しかないほどに詰め込まれた大量の両手剣。加えてそのそばには、一目で体を悪くしている、そうわかる人々が十を超えるほど。入って来る時には、荷車もそれなりに用意されており、それを引くのだと分かる人員もいたのだ。そして、その護衛だろう。見た顔とシグルドなどは今外で話し込んでいる。

「これまでの成果を鑑みての事だ。」
「ならば、なるべく期待に応えねばなりませんね。こちらの方々は移動は共にとしましょうか。」
「助かる。」
「日当については、そうですね、得た魔石、そこから良いと思う量をギルドの方から。」

治療が間に合わなければ、当たり前だが後遺症が残る。それは異邦でも変わらない。そしてこちらでは、やはりそれを可能な限り切り捨ててはいないのだと、それが分かって少しオユキの心が軽くなる。
余裕がない世界だと分かっているからこそ、良くないことも考えはしたのだから。最も、その辺りもある程度選んではいると、それも理解はしているが。

「いいのか。」
「構いませんとも。私たちは望めば糧を得られるのですから。準備も頼んだわけですからね。」

さて、その言葉を傲慢と取るかどうかは、受け取り手に任せるしかないがと、こちらの様子を伺っている一団を見れば、曖昧に笑うものがほとんどだ。本当に、良い人々を選んでもらえたらしい。
ならば、今後の事を考えてもいいものだろう。後は回数を重ねながら、改めて人となり、動きを見ればいい。後遺症が残るほど、そういった怪我をするという事は、選別を抜けたという事は、そういう事でもある。
加えて、そういった背景を持ちながらも、新人の雑用を飲んでくれる、得難い人物であるのは、表面上はそうであるのだから。

「今後の話をすることもあるでしょうが。」
「こっちにもそういう下心はあるからな。分かってるみたいだが。」
「いえ、相応の手間はかけますから、今日も。」
「ま、頼んだのはこっちだ。受け入れの準備は整ってる。逐一こっちに、そうなるよな。それと、次があればまた言ってくれ。都度整える。剣は、どうせ安物だ。残ればそのまま持って行ってくれ。次の時も、同じだけ用意するさ。」

そう告げる職員に、オユキとしては有難い事だと思うのだが。

「いえ、今日ですべて使いつぶしますよ。」

トモエが実に穏やかにそう告げる。そう、何も3人だけではない。乱獲に参加するのは。樽一つにざっと30は入っているが、15人いるのだ。こちらは。一人四本。氾濫の時を思えば、半日と少し、それでほとんど駄目になるだろう。魔物を追い込む役は、それこそ十分すぎるのだから。

「まぁ、それならそれで構わないさ。確かに、あいつらにしても十分な成果を持ち帰っているわけだからな。」
「たまには、そういった経験も必要でしょう。溢れがあるのです。」
「ほどほどにな。それで怪我すりゃ本末転倒だ。」
「ご忠告、ありがとうございます。」

一応、昨晩の内にオユキから断っている。これから数日は行儀作法の時間が取れるか怪しいと。幸い進捗は予想よりもかなり良く、後は本番の衣装、それを着た上で見る事も必要だからと、それを待つ間は認められた。
向こうにしても、必要な事だと分かっているため、言い訳を要してくれたのだろうが。

「では、明日も同じことをします。勿論疲労の度合いによって、代わりもしますが。」
「全く、本当にありがたい限りだ。マリーア公爵領から来たのも、積極的に動いてくれてるしな。」
「元々予想はありましたから。では、こちらの事は。」
「おう。」

そうして別れて、用意された人員も連れ、勿論馬車は分かれているが、狩猟に向かう。そして、その時間で話すこともある。

「おー。でも、出来っかな。」
「グレイハウンドや灰兎を主体にしますから。問題ないと思いますよ。普段よりも門に近い場所となりますから。」

王都は広い。壁から近いといっても、その位置によって魔物の分布が違う。どうにもそのあたりの理屈は良く分からないが、騎士団の活動によるものだとトモエは無理やり納得している。
そして、普段の狩場は、トモエとオユキの狙いもあるし、鍛錬として、そこから少し離れた、鹿や虎、巨大なヘラジカといった物が視認できる位置で行っているのだ。

「でも、雑になるかもしれないです。」
「ええ、そればかりはそうなります。それを咎めはしません。ただ、こうして場を整えて頂けるのなら、反乱、その演習にもよいですから。」

理由があると、そう話せば緊張した様子で少年たちも頷く。前回は不参加ではあったが、次は彼らも参加を求められる。それだけの結果は既に残した。

「その、そんなに早く、次が。」
「魔物が増える、その言葉の意味を考えれば。」

そうオユキが言い切ってアベルを見れば、頷きが返ってくる。
魔物は淀みによって、そして、それが規定値を超えれば氾濫が。ならばこれまでの周期は当てにするべきではない。

「半年とまではいわないがな、年に一回、それくらいにはなるだろうな。」
「そっか。なら、練習は、やらなきゃだな。」
「シグルドは、良くそう簡単に割り切れるな。」
「いや、出来なきゃ、任されないぞ。出来るから、連れてってくれるんだ。」

そうシグルドが話せば、それを目の当たりにしたものたちは、ただ苦笑いを浮かべながら頷く。何やらすっかりと懐かしさを感じる出来事だ。

「何やら、心当たりがあるような。」
「ああ、まぁ。ま、聞きたきゃ後で話すさ。」
「いいさ。失敗談の類だろう。」
「まぁ、な。」

さて、そうして話をさせて緊張を解きたいものではあるが、他にはなすこともある。

「武器については、残念ながら駄目になります。用意していただいた物を使いましょう。初めて触ると思いますので、まずは、それに慣れるために。」
「ああ、分かった。それから、あっちの馬車に乗ってるのが、荷物拾ってくれるんだよな。」
「はい。なので、大まかに方向を決めて、そちらに移動しながら、そういった狩り方が求められます。魔物と戦っている場に、広いに来ていただくわけにもいきませんから。」

そして、このあたりの打ち合わせは、アベルとも必要だ。彼がやはり護衛の統括ではあるのだから。

「門の先、森側になるが、そっちから追い込む。だから進む方向もそっちだな。」
「ってことは、だんだん魔物が強くなるのか。」
「ああ。今回はこれまでと違って間引きもせずに、量を追い込む。」
「そういや、そっちで狩らないのか。なんか無駄が多い気もするけど。」
「そうなると、契約の問題がな。」

そう、彼らの雇用主は、あくまで公爵だ。一部はまた別だが。そして、そこで得た物は当然狩猟者ギルドにそのままそっくりというわけにはいかない。
シグルドにしても、それは理解しているようで頷きは返すが、やはり疑問は残るようだ。

「狩猟者から得た物が、商人ギルドに流れる、これが今の通常です。それは分かりますか。」
「えっと、はい。」

直ぐに返事が返ってきたのは、アドリアーナだけだ。

「魔物から得る糧、此処では食料に限定しましょう。私たち狩猟者は、狩猟者ギルドに、そこからそれぞれに、商人ギルドであったり、直接必要としている方々へ。そのようになっていると考えてください。」
「えっと、そうじゃない時は、施しになるか、傭兵の人たちとか。」
「そうですね。具体的な形は他にも色々ありますが、そうでない場合、そこでは通常とは異なる費用が発生します。以前も、話を聞きましたね。傭兵の方が得た物は、本来は雇い主の物だと。契約がある間は。」
「つまり、高くなるのか。」

パウが実に手短にまとめた。身もふたもないところではあるが、最も単純な理解はそれでも構わない。

「ええ、結果としてはそうなります。」
「そういえば、買った物をさらに高く売るのが商人って言ってましたよね。」
「そこには他にも需要と供給、そういった物も絡んできます。その辺りは、今はやめておきましょうか。」

話に辛うじてついてこれているのはファルコだけだ。そして、そのファルコにしてもそれを兄に投げているのだ。

「高くなると、予算。いえ、これも煩雑になりすぎますね。要は他の手を借りると、その分の費用が掛かるので、そうはならないこれまで通り、そうしたいのだと、今は考えておいてください。」
「あー、よく分からないけど、まぁ、今はそれで。」
「私は、聞いた覚えがある、その程度だ。よもやあの数字の話が、こちらにも。」

ファルコの呟きは、流石に聞き逃せないこともあり、オユキが釘を刺して置く。

「その数字は、貴方の領、そこで暮らす人々の生活の結果です。ただの数字ではありませんよ。」
「はい。」
「オユキさん。」
「失礼、少し語気が強くなりすぎましたね。」

オユキにしても、己の勘違いをこれまで何度も戒めてきたのだ。同僚と、互いに。大きくなった組織、数値で語る場面も出て来る。しかし、それはただの数字ではなく、同じ組織で働く者達、その結果、分かりやすくした結果、それなのだと。

「いや、こればかりはオユキが正しい。ファルコ、分かるな。」
「ええ。今は。」

そして、ファルコが大きくため息をつく。

「しかし、苦手なのです。」
「それを得意な人間に任せる、その判断は責めやしないさ。ただ軽んじる事だけは許されない。」
「兄上に感謝ですね。今後は私も行わなければいけないのでしょうが、そうであればなおの事、得意な物に支えて貰いたい。」
「その重さが分かってるならいいさ。得難い人材だぞ、それも。」
「内務の取り合いは、成程、それですか。異邦の者は基礎知識があると聞きましたが、オユキ殿は特に理解が深そうですね。」

そのファルコの視線、その意味は分かるがオユキの答えは決まっている。

「出来る事と得意は違いますよ。」

そもそも、トモエとオユキは同類なのだ。ファルコと。アイリスとアベルのため息が綺麗に揃う。そちらも同じ穴のムジナでしょうにと、オユキが見れば揃って目を逸らすあたり、まったく、武を好むものは度し難いと、そう思われるのも宜なるかな。オユキがため息を一つ落とすころには、馬車も門を抜けた様だ。
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