憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

狩猟者ギルドは困ってる

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狩猟者ギルドに今日の成果を大量に卸し、肉については用途があるからと相応の量を回収すると、そんな話をする。ただ、やはり先方としても求める物ではあるらしい。

「祭りって言っても、そりゃいつもより食べるけどさ。」
「ああ。始まりの町でもあるかと思いますが、遠方から来られる方もおられるでしょうから。」
「あー、そっか。王都だもんね。一杯来るよね。」

さて、何故難色を示すのかと、その様子に首をかしげる少年たちにオユキが声をかける。

「ええ、そうなんです。それに今回は神々のお言葉も頂けるとのことですから、例年以上の人出が予想されていまして。」

その言葉に、オユキはそれを思考から外していた、それに気が付く。

「いや、でも俺らが持って帰る量だけじゃ。」
「それはそうなんですけどね。」
「騎士団、出たりしないのか。」
「いや、生誕祭だからな、そっちは振る舞いに使う事になる。」
「あー、そういや代官様も色々出してたよな。」

つまり需要と供給が大いに乱れる時期であるらしい。加えてこの受付は分からないが、ギルドの長についてはその後に控えている者も聞かされているだろう。ならば求める量はかなりの物であるはずだ。

「その割に、あまり外で同業者の姿を見ませんね。」
「中級以上の方は戻られていないので。それに気の早い方も多いですから。」
「まぁ、当初の予定より随分と早くなったわけですから、そういうこともありますか。」

さて、そうした話を聞けば、事情を知っている子供たちの視線も気になるものだ。無論、王都、そこにさらに増える人口を支えるだけの食料など、早晩どうにかなるものでもないのだが。

「微力ながら、お手伝いはしましょうか。しかし。」

ただ、それを行うとすれば求めたいこともありますよ、そうオユキが目線で話せば、話し合いの席がもたれる事となる。こちらで乱獲した際、公爵にも労を願っているのだ。無碍にされるわけもない。
聞きとした受付の女性が早速とばかりに人を呼び、そのまま案内された先には、以前も見た顔がある。

「さて、本当に構わないのかね。」
「ええ、その辺りは流石に許可を求める物でもありません。無論、ギルドからも一筆頂きたくは思いますが。」

一応は上司。明確な雇用契約や、具体的な業務はまだ詰めていないが、流石に報告だけは行うものだ。いくら日々の事の延長とはいえ。あくまで公爵と縁のある狩猟者、その立場である以上はギルドの問題に手を貸すこと自体に問題はない。公爵にしても理解は示すものだろう。

「ああ、それはこちらで間違いなく。さて、何か求める物がという事であったが。」
「単純な話ですが、乱獲となれば武器が相応に痛みますので。後は荷運びですね。」
「ふむ、確かにな。」

ただ数をとなれば、少年たちにしても子供たちにしても、鍛錬とは別にそれを目的とすることとなる。普段の予定、それが終わった後に行いはするだろうが、そうすれば皆の手が埋まる。加えて、普段と別にとなる以上は荷が増える。そして、拾い集める労も。

「祭り前だし、小遣い欲しい連中は多いんじゃないか。」
「ああ、だがそういった連中に外はまだ早い。特にお前らにつけるとなると勘違いを助長しそうでな。」
「あー。」

そう、そういった子供たちを連れ回すとなれば、見た目が全く変わらない、そんな者たちが大立ち回りするところを見る事になるのだ。それこそ始まりの町、その門番が抱えた懸念が現実になるだろう。あの町よりもこの王都の方が最低ラインが高いというのに。

「だからオユキちゃん、私たちに教会って言わなかったんだ。」
「ええ、流石にそれが問題を起こすのは分かっていましたから。ただ既に祭りの空気に浸っている方が多いのであれば、こちらでも難しそうですね。」

王都の狩猟者、その日常への理解はない。しかし常日頃文字通り命がけ、そんな職務に励んでいるものが、羽を伸ばそうと決めているのを遮るというのは、流石に気が引ける。

「武器については、こちらで用意しよう。当然安物にはなるが。それで問題ないという事だろう。」
「はい。申し訳ありませんが使い捨て、そのつもりです。」
「荷運びようの台車も馬車もある、問題は一つだけだな。」
「ファルコは、なんか思いつくか。」

普段なら解決策を出す役割の人物がお手上げ、そうであるらしいとシグルドがファルコに水を向ける。何やら口にしたいことが、有る様子は見せていた。

「ああ。学舎で募ってはどうだろうか。生憎私は既に籍を抜いているが。」
「それも考えないではありませんが、方針として避けていると聞いた覚えがあります。」
「それも理解している。しかし、変わりやすいのは我々ではないか、そうも思うのだ。勿論、判断は任せるしかないのだが。ただ、王都とは言え、そこで満足に楽しめぬ祭り。その解決だけは何としても、その思いは共有できるだろう。」

ファルコの言葉に、流石に判断できぬとアベルを見る。ただ、彼にしてもすぐにとはいかない問題であるらしい。

「祭りまでは日もありません、今日の明日というのも難しいでしょう。しかし。」

正直そこで問題を起こさない、そんな人間の手は埋まっている。ダビとマルタから傭兵ギルドの現状も聞いているが、やはり祭りの警備の人員として、大いに駆り出されるものであるらしい。そして伝手を頼ろうにも大きい物はまさに渦中の人々。むしろ手を借りたいことが山積みだろう。

「それしかありませんか。ただ、監督も困難ですね。」
「そこは教師に頼るしかないだろう。人員の選定もある。」
「ご学友に機会を、その気持ちはわかります。私たちでとなると後10人が限度でしょうね。」

さて、随分と熱を込めて話すファルコ、その思いの由来については流石にわかる。本人にしても隠す気はないようで、トモエがそう話せば、ただ恥ずかしげに笑うだけだ。

「校外学習というには物騒ですが、そうですね、ファルコ君。まずは先にあなたの友人に。」

トモエがそう話すが、流石にそれはオユキが止める。

「トモエさん。そればかりは公爵様に話を通すのが先です。」
「ああ、彼の友人であれば、それぞれ家がありますか。失念していましたね。」

そう。そもそも制限を頼んでいるのはこちらだ。それで頭を悩ませている相手に対して、そこを飛び越えるのはあまりに不義理となる。加えて、ここは領都ではない。

「しがらみのない者たちもいますが。」
「あなたの他の友人は、彼らを優先した、それについてどう思うでしょうか。」
「確かに、いい気はしませんか。雑事ではあっても。」
「そればかりは。話を聞いている限り、得難い機会でもあるようですから。」

簡単に懸念を伝えれば理解は得られたようである。シグルド達への接し方から、彼がそういった事を気にしない交友関係を持っているのは分かっているのだが。彼がそうである事と、他がそうである事は違う。

「そちらは持ち帰って相談ですね。ファルコ様も筆を執って頂きましょう。事前に、ご学友への物は用意しておいてください。」
「その判断は待たないのですね。」
「無駄になれば、捨てる事になりますが。どのみち余剰を放出する形で対応する期間があります。結果として必要になりますから。」

結局足りない物は、これまで貯めた物で賄うしかないのだ。オユキがそう話せば、重たいため息が二つほど。

「あー、まぁ、出来る事はやるさ。」
「有難い限りだな。子供に負担を押し付ける、まったく情けのない事だ。」
「今回については、流れが悪かった、そう言うしかないのでしょうね。」

そう、出産の予定、これについても正確な時期を伝えていなかった。そして贈り物を探そうとしている者達は、その日程を基に動いた。因果応報、まさにそれとしか言いようがない。

「否定はでないでしょうが、形は考える必要がありますね。後で少し話しましょうか。ギルドの方からは。」
「こちらでも声はかけて置こう。引退せざるを得なかった者たちもいるからな。」

外周区、そちらは相変わらず寄り付いてはいないが、まぁこういった職業があるのだ。無論そこにはそれ相応の結果という物もあるだろう。少年たちにしてみれば、改めて学ぶこともあるだろう。
それとも、オユキ等よりも遥かによく知っているか。教会、最後のよりどころで暮らしていたのだから。

「さて、それでは明日出る前に、一度こちらによる事としましょう。」
「有難い事だ。」
「さて、流石に私たちも当日は祭りを楽しむつもりではありますから。」
「流石にそれは止めぬとも。存分に王都の祭りを楽しんでくれ。」

決まったことは少なく、持ち帰りの仕事ばかりが増えてしまったものだ。オユキとしては実に懐かしい日々、その気配を感じる物である。

「しかし私たちだと、肉ばかりとなりますが。」
「えっと、でも森は無理ですよね。」
「頂いた資料を見れば、方角を選べばというところでしょうか。ですが、時間が流石に。」

領都よりも遥かに広いのだ。流石にそればかりはどうにもならない。

「中央通っても、反対に行くなら4時間はかかるな。」
「げ。」
「そちらについては、他の方に任せるしかないでしょう。採取者の方は。」

そう言えばあまり係わりがないが、どうなっているのかとオユキが話しを振れば、ただ首を左右に振られる。どうやら似たような状況であるらしい。いや、むしろ酷いのかもしれない。

「さて、一先ず戻って報告と、そうしましょうか。」

ここ数日は公爵も別邸で過ごしている。リース伯爵も一緒に。話し合いの場は持てる事だろう。

「そうですね。ですがその前に。」
「ええ。日々の楽しみは必要ですから。」

ギルドの連絡が先に付く、その時間は必要でもあるのだから。
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