憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
338 / 1,235
10章 王都の祭り

料理のために

しおりを挟む
「あー、やっぱ、ダメになるよな。」

さて、すっかり恒例となっているが人が乗る馬車、それ以外の二つに乱獲した獲物を放り込み、今は一路狩猟者ギルドへと向かっている。

「それはそうよ。流石にそんな安物で。」
「でも、あんちゃんもオユキも今回は同じの使ってたし。」
「それは、比べる相手が悪いというか、剣で防いだのが失敗だな。」

馬車の中、少し顔を寄せれば刃毀れが分かる、そんな両手剣を眺めながらシグルドが呟けば、アイリスとアベルからそれぞれに声が上がる。

「シグルド、そもそも鉄の鎧を貫く角だ。 」
「でも、斬ってるしな、あんちゃんもオユキも。」

鹿の相手をアドリア―ナ以外がそれぞれに行い。それぞれ相応の怪我をしているが、少しの切り傷程度。応急処置も終わっており、元気に話している。

「あなた達では、まだ早いわよ。」
「ま、そりゃそうだ。」

揃って窘められて、シグルドも改めて武器の点検を終える。

「目指して頂けるのは有難い事ですが、まだまだ構えも中途。それで成程浅い物ではありません。」
「えっと、だいたいどれくらいかかるんですか。」
「最も早かったもの、記録も含めた異邦での事ですか、13年でしたか。」
「あ、思ったよりも早いんですね。」

そうして、トモエと少年たちが話す横で、オユキはオユキで子供たちと改めて話し合う。

「枠も足りませんし、皆さんについては。」
「はい。流石に自分達より強い人がいる中で、押しのけてとは思いません。」
「騎士を目指す、それには都合の良い場だとは思うのですが。」

そう、それを目指しているこちらの子供たちにとってみれば、実に都合の良い舞台にはなるのだが。

「その、今年だけという事ではないと聞いていますから。」

こちらはこちらで聞き分けのいい子たちで何よりだ。

「ええ、来年以降、開催の形も今年の結果を見てとなるでしょうから、勿論先々に機会はあるはずです。」

人が始めた事であるなら、問題があれば止める、そういった事もあるのだが。言い出したのは、発端を言えばアイリスだが、神からの指示なのだ。こちらの価値観であれば、止める事などありえない。

「ただ、騎士の剣というのは。」
「アベル様から、入団後に習うので問題ないって、聞いていますから。」

騎士を目指している彼らにとって、元とはいえ騎士団長、それも王都の。今ではすっかり懐いている。それこそ時折カルガモの親子のように、アベルの後ろについて歩く姿を、日々の生活で目撃する程度には。

「それに、先に覚えなきゃいけない事も、まだ。」

未だに行儀作法、それに合格点はもらえていない。

「それについては、良く習ってください、そうとしか言えませんね。私もまだまだですから。」

オユキにしても、労を願ったエリーザ助祭にあれこれと習っている最中なのだ。アイリスもともに。
恐らく意味はある、由来はあると分かってはいるのだが、直ぐに覚えきれるという物でもない。というよりも、一度に覚えなければいけないことが多すぎる、そうとしか言えない。
教会、神にまつわるあれこれを、王妃という最高権力者を交えて行ったのが、何やら遠い昔のように思えてしまう。晩餐の席では、オユキにしても流石に緊張をしながらとなったものだ。

どうにも、その場では王妃と公爵の間で、トモエとオユキ、それを使って得られるものに関して少々やり合いがあったのだが、口を挟む隙も無かった。どうやら公爵は公爵で、自領のために。今後の計画も朧気ながら立てているらしい、それに合わせて使いどころを決めている風ではあったのだ。勿論それに対して何か異議を差し挟んだりはしない、得られている恩恵は大きいのだから、特になんという事も無いのだが。身内という合扱いだからだろうか。以前話した人材の取り合い、その様子をもはや隠す気はないようではある。

「えっと、今日はこの後メルカドによるんでしたっけ。」
「はい。ようやくとなりますが、料理についても許可を頂けましたから。」

そもそもその場の担当者、責任者がいるのだ。彼らにしてみれば仕えるもの、その客人。その人物に仕事を肩代わりをさせるのはと、やはり難色を示すものだろう。
それに対する理解はトモエにもあり、分かっていない子供たちに向けて話して聞かせる場面もあった。しかし、そこは流石公爵家と言えばいいのか。ならば別の場を整えてしまえとばかりに、鍛錬に使う広場、その一角に煮炊きをするための場が用意された。僅かな日数で。
勿論、相応の物ではあるが、掘立小屋と言うほどでもない。こちらの貴族家というのは、以前の世界のそれよりも業務は広範囲で、権力を振りかざせる場面は少ない。しかし、だからこそそれが通る場面では、と言う事らしい。

「私たちは、その。」
「ええ、流石に普段よりも少ない量になりますし、用意いただいている物、それと同じというのは難しいでしょう。」

行儀作法の勉強。その建前がある以上、どうしても供されるのは正餐の形をとる。公爵夫人にしても、それとは別に、体が資本だからとそれ以外の食事も、勉強が終わった後に用意をしてくれてはいるが。彼らの馴染んだ味とはやはり離れた物が多い。
折に触れて、恋しくなる物だ。そういった味覚というのは。

「あまり多くはありませんから、量の加減はいりますが。」
「私たちも、良いんですか。」
「ええ、勿論ですとも。その辺りの配慮は頂けていますし、他の方にとっては、言葉は悪いですが、物珍しい物ではあります。」
「え。」

どうやらその想定はなかったようである。

「皆さんが美味しそうに、喜んで食べていれば、他の方も興味を持ちますよ、勿論。」

身内の気安さ、その空気はあるのだ。無論、同席することもあるだろう。何やら鍛錬場としている庭、その一角が順調に整えられてもいるのだから。

「ま、遠征になりゃ、一番の話の種にもなるからな。」
「でも。」
「そりゃ好みはあるが、それだけでどうこう言うもんでもない。一応毒見ぐらいはするがな。」

遠征、その中で行われる分業。そもそもいくら神の奇跡が有ろうが、食べねば使命を維持できないのだ。ならばそれも当然計画に組み込まれるだろう。

「輜重、補給であったりを専門とする方は。」
「ああ。異邦の話は聞いたし、それも検討されたが、結局魔物相手。結界から外れれば、どこからともなく湧くからな。」
「ああ、そうであれば機能するものではありませんか。」
「最低限がそうなる以上、持ち回りにするほうがやはり何かと楽でな。で、現地であれこれと採取したうえでとなれば、作る人間によって違いが出るもんだ。」

そう言いながら、アベルが何度か頷いている。騎士団、そこに在職していてはそれ以上の成長がない。そうなった人物だ。彼のいた第四騎士団が、魔物の討伐を主としていたという話も聞いている。ならば、その経験はかなり多いのだろう。

「えっと、私たちまだそんなに。」
「そりゃ、専門の料理人に比べてとなると、無理だろ。ま、切欠程度だ。ちょっと口にして気に入れば、それこそそっちに頼んでと、そうなるさ。」
「なら、頑張ってみます。」
「その、分量は気を付けましょうね。流石に教会よりも人はかなり少ないですから。」

始まりの町にしても、子供たちだけで30人以上いると言っていたのだ。さらに大きな町、その分教会も多いのだろうが、そこにいる数というのは、相応の物だろう。以前、今となっては随分と昔に思えてしまうが、ともるとなった時に食事を頂いた、その折には、随分と大きな広間で100を超える人数でとなっていたのだ。

「えっと。そういえば、そうですよね。これまでと同じって言うわけでは無いですよね。」
「始まりの町では、どのように。」
「その、寝泊まりは別の家でしたけど、食事などは。」

相応の稼ぎも収穫もあったのだ。対価としてそれらを納めた上で、そうであったからこそ一緒に食事としていたのだろう。しかしそうであるならなおの事。分量には注意がいるものだろう。それを食べる人数は著しく減るのだから。

「私達の方でも、難しいでしょうが異邦で親しんだもの等、用意が出来れば話として盛り上がるでしょう。」

生憎今いる土地は西洋、それも特定の国を基軸とはしている。アイリスのいた国、獣人が多いのは、それらが治める国は方角としては北西にあったはずだが。そちらにしても世界的に有名な島国二つを混ぜて、なかなか愉快な様相を呈していた。
生憎と神殿は存在しないため、今後直ぐに観光に行くことも無いだろうが。

「異邦の料理ですか。」
「ええ。流石に文化圏は大きく違いますから、難しくはありますが。」

凡その物については、こちらに既に存在している、そんな気配はある。しかし家庭料理となれば、やはり話は違う。万人に広く受けいられる、そうでは無くて小さなコミュニティで愛される料理、それが本質なのだから。

「やはり、心休まる場面、それは必要ですからね。」
「その。」
「そう生まれた方にしても、案外と気を抜く、そういった時間を持たれていますよ。」

騎士を目指すからこそ、常にその理想を追いかけようとする子供たちに、アベルとファルコを視線で示す。後者ともかく、前者はなんと言えばいいのか。

「真面目な話、お行儀いいのは外だけだぞ。宿舎、身内だけになりゃそれなりに騒ぐしな。」
「そうなんですか。」
「弓の弦と同じだ。ずっと張ってりゃ直ぐに切れる。ダメになる。緩めていいとこで緩めなきゃならん。それを状況に合わせて上手くできる、それだけだ。」
「そうなんですね。そういえば広場で訓練って。」

以前の席、トモエが城を見学したいといったときに、そんな話が上がっていた。

「あー、流石にもう少し先ならいいが。今は祭りまでの日がないからな。」

警護の責任者となるのだ。祭りにケチがつけばその責任の一端を担う者達。その緊張感がきっちりと存在しているらしい。ならば、部外者は暫く近づくべきではないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...