憧れの世界でもう一度

五味

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8章 王都

城へ

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「流石に緊張するわ。」

馬車の中アイリスがそのような事を口にする。

「なんだ、珍しく殊勝だな。」

そしてそれをアベルが茶化す。
馬車を分ける、それは予想からあまりずれない形となってはいたが、予想外だったのがこのアベル。始まりの町の傭兵ギルド、その長にしてイマノルの言葉が正しければ元王都の第四騎士団、その団長迄を勤め上げた人物だ。

「朝早くから、申し訳ありません。昼を過ぎてからと、そう思っていたのですが。」
「いや、実際の面会はそうなるぞ。色々と手間がかかる。」
「公爵様も、ですか。」
「だからこそ、だな。邪推を避けるために手間をかけなきゃならん。」
「ああ、私たちへの気遣い、その結果ですか。」

トモエがアベルと話すのを聞きながら、オユキはオユキで頭の中で以前教会で行った事、始まりの町での振る舞いを思い返す。
今回は間隔があいているため、流石にその程度はしなければいけない。

「アイリスさんは。」
「正直昨晩もう一度確かめた程度ね。私は習ったわけではなく、横から見ていただけだから。
 司教様が居られると聞いているから、先に練習させてくれるかしら。」
「形式として、司教様に届けるとそうなるのであれば難しいでしょうね。一応は王城に納めて、それをとはなるのでしょうが、それでも受け取る側であることには変わりませんから。」
「まったく。今後もありそうだから、一度本格的にお願いしておこうかしら。」
「頻繁でなければ、やはり忘れる物でしょうから。」
「私は、頻繁になりそうだ、そういったつもりよ。」
「分かっていますが、目をそらしたいことくらい私にもありますから。」

オユキはアイリスとそんな話をする。
荷物の中、まぎれる様になどという事はしていないが、公爵、伯爵、それぞれからの今回へのお祝い、そうして詰まれた荷物、そちらに四人で揺られている。
内側は布で仕切られ、外を外しただけでは荷物しか見えないようになっている。無論一目ですぐに分かるものでしかないが、用はオユキ達の顔を必要以上に見た物がいない、その状況を作るためだけの物であろう。
いる事、それ自体は伝えざるを得ないのだから。
勿論荷物が主体となる馬車であるため、窓などは無く、今どのあたりかも分からない。
中を照らす明かりとして、ランタンは与えられているが本来であれば幌を解くだけで良い物なのだから、当然後から用意したものになる。

「それにしても、アベルさんは良かったのですか。」
「ま、俺が正面からとなると、それこそもっと面倒が多いからな。
 今回は、まぁ、護衛とちょっとした事だ。」
「経験者として、ダンジョンについては、色々聞きやすい立場ではありますからね。」
「そういう事だ。」

そういう事にしておけと、アベルからそう言われてオユキもそこで言葉を止める。
傭兵ギルド、始まりの町でも領都でも、騎士の数、明らかにそうと分る訓練を受けた物を見たのは、用は出向先として存在しているからであった。
遠征などは騎士でも行いはするが、あくまで所属する団の存在する都市、その防衛が主任務となっている。
つまり簡単に頭打ちになるのだ。それを避けるには、当然だが遠征を行い、より強い魔物を求めなければならない。
そして、騎士として、守るべき立場の人間がそうもたびたび都市を離れるわけにもいかない。
結果として、別の組織が用意され、護衛の本分も果たせる、更に各地の情報も得られる。無論、そういった裏側をわざわざ語りはしないが、そうなっているらしい。
そして、国内すべての傭兵ギルド、その長は王都の騎士団、そこと係わりのあるものが務める事になっているのだと。
つまり、彼らの組織、そこもダンジョンの出現によって変化を求められる。加護が得られるのか、そこについての判断は未だ確定していないが、そうであるのならわざわざ出向する、その理由の一つが無くなるのだから。

「そろそろつくな。いいか、基本的に全て事前に段取りはされている。」
「ええ、確認があっても何もしない。そういう事ですね。」
「物分かりが良くて何よりだ。必要なら俺がやる。それか責任者に合図をこっちで送るからな。」
「到着後については、何も聞いていませんが。」
「それこそ、既に離宮の使用人が待機しているさ。そこからはそいつらに従ってくれればいい。
 俺も流石に、そっちの方は範疇外だからな。」
「伯爵さまと、あの子たちは、別ですね。」

さて、何故馬車がこう別れたのか。公爵の馬車にメイが乗ったのか。その理由はあるのだろう。

「流石に人数が人数だ、王城なら謁見の間があるが、離宮だからな。まずはこっちで話して、それから向こうだな。いや、王妃様が向かうかもしれんが。」
「手間をかけていますね。」
「ま、分かってるならいいだろう。にしても、そういった部分があると、こっちとしても注意だけはしなきゃいけないんだよなぁ。お前らが善人だってのは分かるんだが。」

そうして言われたとしても、オユキにとっては習い性と、そう言うしかない。
散々ミズキリに言われ、学ばされたものなのだから。分けて話を聞く、そこで確かめたいこと。それくらいは簡単に想像ができるものではあるのだから。
心配なのは今も借りた屋敷に残っている子供たちくらいだが。

「今日は向こうに戻れるといいのですが。」
「そうですね、置いて来ている子供たちも気になりますから。」
「一応、そっちはそっちで人がついてるから、ま、大丈夫だろうよ。それに、あいつらも今日は移動だ。お前らの荷物も持ってな。」
「ああ、やはりそういう屋敷ですか。」

ゲラルドが含ませたもの、つまり伯爵とも公爵ともかかわりのない、預かっている立場の者、余所に主人がいる物が主体であるようだ。
とすると身内が休むかもと考えていたが、完全に他者へ貸すための物であったらしいと、オユキは納得する。
一先ずはと、若しくは改めて値踏みをという事であったのだろうが、今回のあれこれで、それも出来なくなったという事なのだろう。

「今後、王都の外に出るのも大変そうですね。」
「だから、俺とあと一人だな、護衛が増える。アイリスについては、そっちで引き取ってくれ。面倒見切れん。」
「まぁ、そうなるわよね。戻ったら手続きするわ。」

アイリスについても、そうなるらしい。
確かに護衛対象よりも下手をすれば守らなければいけない人間、そんな人間が傭兵などおかしな話だろう。

「ただあれだ、先に大まかな希望だけは聞いておきたいんだが。」

そうしてアベルに聞かれて、王都での用向き、やってみたいと思う事をトモエとオユキでそれぞれに述べる。
彼が今回の護衛の責任者となるのだろうから。
それを話している間に、馬車が止まり、二重の布、その一つが空けられて異常なしと、そんな声が聞こえる。
たった一晩の間に、よくもとも思うが、前例のある事なのだろう。こうして恙なく手配が行えるほどに。
そして離宮。いくつあるかは分からないが、もし現国王夫妻と王太子夫妻で分けられていないのであれば、厳戒態勢そう聞いている中に踏み込んでいくこととなる。
神授の品とは言え、短剣を携えて。
アベルが側に置かれているのも、素手でこの三人をどうとでもできる、その信頼あればこそではあるのだが。

「正直なところを話しますと。」
「おう。今更どうした。」
「今後も何度か、こうなる気がするんですよね。」
「ああ、オユキさんもですか。」
「あなた達、改める気は無いのね。」

そうため息をつくアイリスに、ただオユキは生暖かい目を向ける。
そしてそれに気が付いたのだろう。彼女とて、いや、むしろこちらの世界についてはオユキ達よりも詳しいのだ。
そうして話している間に、また馬車が進み始める。

「私も、なのね。」
「ま、そうなるわな。実際の所、お前らトロフィーについても心当たりがあるんだろ。領都で聞かれた時には惚けていたらしいが。」
「いえ、二回尋ねられましたが、その時は断定していませんでしたよ。シグルド君の言葉もあり、改めて観察と思考を行い、それなりに正解だろうと、そんな予測はありますが。」
「ま、アイリスのこともあるからな。御言葉として、戦と武技の神から頂けるだろうが。」
「ええ、一つは。私たちが得られるその理由としては。
 他はこれまで同様でしょう。明確な線引きは分かりませんが加護が薄くとも魔物を打倒する事。そして一定数の魔物を打倒する事、一先ずこの二つがあるでしょうね。」

後は、そう、加護、その質の違いもある。
均等ではない、つまり他のゲームで言うところの熟練度のような物、それとして加護がある。
マスクデータとして、複雑に絡み合うような、そういった仕組みが。

「そうか。たまに得る、そっちはそういう事か。」
「数えてみるとよいでしょう。おそらく初回と次回、その差は徐々に開いていくでしょうが。
 ただ、このあたりは私以外の異邦人はすぐに気が付きそうなものですが。」
「色々残っちゃいるが、再現性のないことが多くてな。」
「そうなりましたか。」

さて、それは伝言ゲームによるものか。それとも。それを考えようとして今はとやめて置く。
流石に一人で考えるのも難しい。それに少ない情報でよりも。

「そちら、文献として残っているものですか。」
「ああ、有名な異邦人は残してるぞ。アイリスの所にも残ってるだろ。」

そう、言われてみればアイリスもそのような事は言っていたのだ。
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