憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

さて、巫女よ

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その時のオユキの心境はまさに、迂闊であった、その言葉以上に表せるものなどなかったであろう。

ミズキリやルーリエラとその後も食事のついでにとあれこれと話、特にルーリエラには今回のお礼にと森の案内を名乗り出て貰えと、宿のフラウやフローラにも大いに喜ばれた果物。
それはまさしく散ったとはいえ、みずみずしい華を十二分に添えてくれた。
後は部屋に戻って、創造神にねだられたものでもあるからと採って来たものを使い、空き瓶に仕込む。
砂糖はあまりに高額であることも有り、蜂蜜種を購入し、それに果実を漬け込むことで作ることとした。

「氷砂糖ばかりと思っていましたが。」
「成分としてはグラニュー糖と変わりませんし、純度が違う程度ですから、やれないこともないのですが。」
「試すにはあまりに高額でしたからね。しかしこういった方法もあるのですね。」
「サングリア、それと方法としては同じですから。」
「ああ。」

そう言えば、トモエにも思い当たるものが有ったようだ。
元の世界でも、蒸留酒ばかりでなく、ワインに果実を漬け込む御酒というのは、ちょうどこのあたりに存在する製法なのだから。

「それならこちらでも見そうなものですが。簡単に作れますし。美味しい物ですから。」
「確か、そのまま飲むのにはちょっとと、そのようなワインをそれでも無駄にしないようにと、そんな工夫からだったはずです。こちらの様に生産力に難を抱えている状態であれば、高級な嗜好品にわざわざ手を加えてと、そんな発想が無いのかもしれません。」
「他の異邦からの方は。」
「ああ、そちらはありそうですね。」

言われてみれば、そもそもワインとて元の世界の地名、それになぞらえて作られていたりもするのだ。どこかに存在する可能性は十分にあるだろう。
日持ちのしない果物は輸送に向かないため、それでも条件は絞られるだろうが。

「さて、こちらでは法律等もないですから漬け込んでも問題はなさそうですが。」

どの程度で供えるのがいいだろうかと、そんな事をトモエとオユキ二人でのんびりと話して眠りについた、そう思ったときには再び夢の中で目が覚めると、そんな感覚を味わっていた。

そう、巫女に好みを伝えた。そう確かにアナとセシリアが口にして、今この場には、過去にそうした相手が、巫女と、そう呼んだ人間がいるのだから。

「さて、こうしてこの場を設けたのは他でもない。」
「は。何なりと。」

トモエも当たり前のように巻き込まれ、膝を付き、横目にしか見えはしないが綺麗な黄金色の毛並みも見える。
二人いるのだから、それはそうなるだろう。

「我らが母、その希望を記憶に留め置き、用意を行う。その心は実に素晴らしいものである。」
「お褒めの言葉、有難く。」
「しかしながら巫女たちよ、であるなら、我もと。そう望む相手が他にも出てきてしまう。特に今その方らがいる場所は、我が姉の目が隅々まで届く故にな。」

以前のただ白い空間ではなく、星のない、それでも明るく幻想的な複数の月が浮かぶ空間、その原因はそれかと思い至る。確かアナに言われて桃をいくつか、彼の神の前に備えたはずだ。

「うむ。その考えは正しい。」
「その、お手間を。」
「まぁ、力関係ばかりはな。特にあの怖い姉は、信仰を広く集めておる故、母に続く力を持っておる。」

戦と武技の神が冗談めかしてそう言えば、新しい声がこの空間に増える。

「悲しいわ。やんちゃだけれど可愛い弟に、怖いだなんて。ああ、この悲しみを埋める、そのような供え物が欲しいわ。」
「我が領域を己の色で染め上げて、何をか弱い振りをしておる。」
「私が手弱女であることと、あなたがそんな私程度に敵わないことは別だもの。ああ、それにしてもかわいい弟の言葉が、日々この世界を生きるいとし子たちのためにと見守っている私の心を容赦なく抉るの。悲しいわ。」

目の前で繰り広げられているのは、まさに茶番と、そう呼ぶしかない物ではあるのだが、それに只人3人が物申せるはずもない。

「ま、このあたりで良いかしら。あまり時間を使ってもいけないもの。さ、お立ちなさい。」

そう声をかけられれば、相変わらず何ともわからぬ力で体を起こされる。
そして、改めて正面を見れば、そこには戦と武技の神、月と安息の女神、その二柱の姿がある。

「それでなんだけれどね。好きな子、多いのよ。」
「我は、甘すぎる故好まぬがな。しかし、まぁ、姉が代表と、そうなる程度には好むものが多いのだ。」
「直ぐにご用意させていただきたくは思いますが。」

流石に果実の量にも、漬け込む為の道具にも限界がある。

「うむ。我らとて無理を言うつもりはない。そのはずだ。」
「ええ。量はあれば嬉しいけれど、少しでもいいのよ。ただ、一人にだけ、それだと、ね。」
「町の側、そこで材料は揃えられましょう。この度改めて好む品と、そう伝えさせていただきます。」

確かワインも特産だと、そんな話があったのだ。ならばガラス瓶は難しいが、それこそ樽に付けてとそう言った方法もとれるだろう。また人がそれぞれこれがよいと、そう思う組み合わせを探せば多様性も増す。サングリアというのはそう言う楽しみ方もできるものなのだから。

「その、私は今御身が望まれる品に心当たりがありませんが、既に過去存在した物でしょうか。」
「うむ。供えられることも有る。しかしその場に我らの声が聞こえるものがいる、そうとも限らないのでな。
 それこそ巫女に使命と、そう嘯いてわざわざそれを探させに行くのも、憚られる。
 なればこそ、こうして都合よく、そう言った場面で伝えるのだ。」

戦と武技の神からの言葉に彼女も覚えていたのだろう、果実酒程度ならそこかしこに、そんな疑問が見て取れる。
どうやら、そう言った物は既に存在しているらしいが、そのあたりはアナの言葉を思い返せば理由がわかる。
加工したもの、それは備えにくいのだ。

「うむ。どうにも加工された物については、我々の好みもまた代わり、素材には興味を示さずとも、そう手が加えられたならと、そういう物もおる。故にあまりに複雑になりすぎる故皆我慢をしているのだが。」

その言葉に、今回はオユキとトモエの手によってそのような物が用意されたことを理解したアイリスから、じっとりとした視線が送られる。
ただ、これに関しては、トモエも、オユキも、あまりに想定外だ。
まさかサングリアもどき程度で、ここまでの事態になるなど想像できるわけもないのだから。

「安心せよ、ついででもある。ダンジョン、その感謝の祭りだ。」

その言葉に、どうやら真っ当な要件があったようだと、そうオユキがほっと一息を着こうとしたのも束の間。

「アレについては、関わっている者が多い。故に特定のどの神とそうせぬのがよいであろう。
 そこでだ。そこの姉が皆を纏めてな。行うというのであれば、こうしてほしい、そのような祭りの形を決めたのだ。詳細については、それこそ当事者に聞かせるのがよいであろうから、我らの母、その言葉を前と同じく用意しておる。」
「ご高配、有難く。」
「それと、関連はしておるのだがな。その方らの想像通りだ。我らの雑さ、それが此度は悪い方向に働いた。
 そしてその不安をこの姉がくみ取り、方々に話したところ悲しむものも多くてな。少し変更を加えることになった。その話も入っておる。」

成程。神の配慮、それがすぐそばにある。日々感謝と祈りを捧げ、こうして手を取り合えば、確かな恩恵がそこに在る世界。それを実感できることではあるのだが、また仕事が増えると、オユキとしてはその懸念もある。
ここでオユキに伝えるという事は、つまり。

「うむ。試練を与えるものである、そこは変えられぬ故な。難度も少し上げざるを得ぬ。王都へは巫女たちが確かに届けるようにな。ついでと言っては何であるが、他にもいくつかある。それらも併せて預け置く故。」
「は。ご下命承りました。」
「出立は2週の後と、そうせよ。」

今回はさらに期限もつく様だ。つまり予定より早く王太子妃の出産があるとそういう事でもあるのだが。
いや、不安もあるから予定取りも遅く周囲に伝えているのか。最悪、代わり、それを用いる必要もあるのだろうからと。

「さて、用件はこれで終わりだ。」

そうであるならと、懐かしい感触が変わらず手元にある頼もしさを感じたところに、もう一柱から止められる。

「終わりじゃないでしょう。私の要件がまだ終わっていない物。お供え物。果物と、蜂蜜、その香りと甘さが十分に味わえる、あの素敵なお供えよ。」

そう言えば、その件を忘れていたと、一同がそう思い出せば、ため息とともにそちらも回答が与えられる。

「一先ず、母様と私、水と癒し、華と恋、秋と豊饒にそれぞれよ。」

そうため息とともに伝えられれば、オユキがそれに頷きを持って応える。
さて、どのように分けるか、どう備えるかはそれこそ教会で聞けばいいのだろうし。
ただ、此処で一つ問題となるのは、漬け込み期間でもある。

「元々、半日でも十分な物でしょう。あまり長いとまた発酵が進むもの。そうなると飲めなくなる子もいるから。」
「では、明日、朝直ぐにでも。」
「お願いね。」

そして、残念なことに馴染んだ感触、それは使う時間が与えられることなく、トモエとオユキは目を覚ますこととなった。
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