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7章 ダンジョンアタック
パーティー募集
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「何が足りないのかしら。」
アイリスと10度ほど試合を行い、さんざん打ちのめした後、宿に戻って食事となれば、そこは賑やかな席になった。特に種族は違えど、獣人の女性二人が席に座ると、人にはないその部位が思いのほか場所を取るのだなと、改めて思い知らされる。
「強いて言えば、時間でしょうか。トモエさんからは。」
「そうですね、攻めの剣ですから、こちらの手管事切り捨てる、そこまでを突き詰めることになるでしょう。
それを目指し始めたばかり、たいして、私達はこれまでがありますから。」
「ま、そうなるのよね。」
戦と武技の神から与えられた指輪をしっかりしたうえで、アイリスとやり合ってみれば、元の種族として、やはり筋力などの差は感じるが、それはどうにかなる、その範囲でしかなかった。加護を頼むと、案外元の能力が伸びにくいのではないだろうかと、そんなことも考えてしまう。
だとすれば、加算か乗算でまた大きく成果に差は出そうだなとも。そうであるなら、魔物の討伐、その功績を得ずに、お遊び程度とはいえ鍛えていたあの少年たちの伸び、そのあたりも要因はありそうだ。
そんなことを考えながら、実際に対峙した立場として、オユキからアイリスに何点か伝える。
「後は、その、種族差でしょうか。」
「身体能力なら、こっちが上だろ。」
「いえ、意識の向いてる方向に、耳が向きますし、呼吸というか、タイミングを計るのにしっぽが動くので、間合いを計りやすいんですよね。」
「まじかよ。」
オユキの感想に、イリアが驚き、アイリスの耳が垂れる。
「それは、意識してどうにかしないといけないわね。」
「尻尾はバランスをとる役割もあったりと、そういう話も聞いていますので、動き出しの時に特に。」
「ああ、そういう見切りでしたか。」
「ええ、途中、そうですね3戦目以降はそれに気が付いたので。」
「途端にやりにくくなったと思ったら。」
「そこで伝えようとも考えたのですが。」
そうオユキが言えば、イリアは首を横に振る。
「言われたら、動きがぎこちなくなったでしょうから。」
「ええ、そう思って伏せました。やはり無自覚ですか。」
「それは、そうよ。意図的に動かすこともできるけれど。」
そうして、アイリスは耳を立てて、軽く左右に回して見せる。
「全く。試合はこちらに合わせる形で、付き合ってもらって、本当に落ち込むわ。」
「あの、誤解があるようですが、私は元々の得意で行っていますよ。」
「あら、普段は、全然違うけれど。」
「新しい道を模索しているところです、お恥ずかしい。」
そういってオユキが照れたそぶりを見せると、アイリスからはあきれたと言わんばかりの視線が飛んでくる。
「トモエとも、構えが違うようだけれど。」
「私は、アレが得意ですし、流派としての技、それをすべて使うならああなりますが、オユキさんは全てを納めたわけではありませんから。」
「つまり、それが差という事ね。頭が痛いわ。」
そういってアイリスは、ジョッキを呷る。
同じテーブルにはトラノスケやミズキリ、加えてカナリアも座っている。
感想戦がそこで終わりと、これまで酒に口を付けなかったアイリスが飲み始めたことを、その合図と受け取ったのだろう。各々に料理に手を伸ばし始め、場が各々での話、そうなる前にとオユキが切り出す。
「河沿いの町に向かうつもりですが、皆さんもどうですか。」
「アタシは一緒に行くよ。」
イリアの返答は早い。ただ、オユキとしてもトラノスケとミズキリに向けての話もある。
「新人の方たちも、そろそろ丸兎では物足りないでしょう。」
「まぁ、そうだがな、大所帯になりすぎやしないか。あの町、そこまで人が入れるか。
俺たち以外の人出も、増えているだろうからな。」
「ああ、それがありますか。」
「ま、宿が無理なら、それこそ狩りで食料取って、野営でいいんじゃないかい。」
「野営は、私は体力が持つか。」
前回のことも有り、オユキはその提案には直ぐに頷くことができない。
「そのあたり、ちぐはぐよね。見た目通りの体力だもの。」
「ええと、走り込みなども考えてはいますが。」
「ま、そのあたりは、後回しだな。そうだな。ギルドに相談して、それから決めるか。」
「俺もカングレホは食べたいしな。」
「カナリア、あんたはどうする。」
「行きますよ。私も、魚は好きですから。お土産のお礼もあります。持ち帰りは、任せてくださいね。」
そうして、以前の顔ぶれに少し追加があるし、いない者もいる、そんな中アイリスは首をかしげている。
「魚って。」
「アイリスさんは、このあたりの土地勘は。」
「ないわね。」
アイリスがそう応えれば、同じ、獣人としてイリアがあれこれと説明すると、尻尾に感情が現れる。彼女もついてくるだろう。
そうと決まれば、後はいつになるかだが、少なくともリース伯爵、そちらが戻って来る前には、戻らねばなるまい。
ミズキリの相談は、そこで得る予定の魔石、それに関しても含まれているだろうから、そちらについては任せてしまうのがよいだろうと、オユキはそこで思考を止め、他に気になったことをカナリアに尋ねる。
「その、以前教えていただいた短杖の使い方ですが、樽や馬車といったものには。」
「樽には使えますよ。」
「おや、馬車は難しいのですか。」
その返答にトモエも興味をひかれたのか、話に入ってくる。
「その、馬車は魔道具として全体がすでに加工されていますので、干渉するんです。」
「魔道具が取り付けられている、というわけではなかったのですか。」
「昔は、そちらが主流だったのですが、今は一体型になっていますね。
その、振動、風、重量軽減、耐久力の増加、行うべきことが多く、魔道具を分けてしまうと。」
「それはそれで、利がある様に思えますが。」
「いえ、それぞれが全体に影響を与えようとするので、そのあたりの調整などが本当に大変でして。
もちろん細かい調整が効くので、全体として性能は高くなりますけど。」
「費用対効果ですか。」
「はい、なので馬車の客室、荷台、それを一つの魔道具としてしまう、それが今では主流となっています。」
そうして、トモエとカナリアが話す、その言葉の中に、オユキ、ミズキリとトラノスケもか、聞き逃せない単語があった。
「重量軽減、ですか。」
「あるのか。」
そんなオユキとミズキリの呟きに、ルーリエラが、応える。
「ありますよ。有翼種の方は確かに元々体は軽いですけど、それだけでは、飛べませんもの。」
「成程。いや、言われてみればそうか。その辺り物理を無視しているかと思えば、守っていたりと本当にややこしいな。」
「なまじ説得力があるので、言われてみればそれもそうだと、そうなるのですが、魔術という言い訳が先にあるあたり、本当にひねくれていますね。」
少々の恨み節が混じってしまうが、ルーリエラはそれをあっさりと流す。
「お二人とも研究者といわけでもなかったのでしょう。」
そう言われてしまえば、特に戦いにばかりにかまけていたオユキとしては、二の句が継げない。
ただ、ゲーム中で見つかっていれば、色々と諦めなくてもよかった素材が、そんなことを思ってしまう。
加えて、今更ではあるが、あれだけの金属や功績を放り込んだ馬車が、何の問題もなく移動できた、それを見て何故考えなかったのかとも、考えてしまう。
これは、いよいよ魔術文字とやらも真剣に学ばねばなるまいと、オユキは考えを改める。魔術の使用はともかく、魔道具としての製作は出来る様なのだから。
「何やら、あまり良くない顔をしているな。」
「勉学の重要性を、再確認しただけです。」
「まぁ、いい。時間はかかると、そんな感じだからな。」
ミズキリにそうして棘を刺されはするものの、やめる気はない。
やはり、こちらの生活、それに楽しさはあるが、不便を感じることも有るのだ。
そして、ふと、オユキとしての、再度この場に訪れた、元プレイヤー、その身として、一つの事を思いつく。
あの進捗度らしき数字、アレを少しは進めてみたいと、そんなことを。
アイリスと10度ほど試合を行い、さんざん打ちのめした後、宿に戻って食事となれば、そこは賑やかな席になった。特に種族は違えど、獣人の女性二人が席に座ると、人にはないその部位が思いのほか場所を取るのだなと、改めて思い知らされる。
「強いて言えば、時間でしょうか。トモエさんからは。」
「そうですね、攻めの剣ですから、こちらの手管事切り捨てる、そこまでを突き詰めることになるでしょう。
それを目指し始めたばかり、たいして、私達はこれまでがありますから。」
「ま、そうなるのよね。」
戦と武技の神から与えられた指輪をしっかりしたうえで、アイリスとやり合ってみれば、元の種族として、やはり筋力などの差は感じるが、それはどうにかなる、その範囲でしかなかった。加護を頼むと、案外元の能力が伸びにくいのではないだろうかと、そんなことも考えてしまう。
だとすれば、加算か乗算でまた大きく成果に差は出そうだなとも。そうであるなら、魔物の討伐、その功績を得ずに、お遊び程度とはいえ鍛えていたあの少年たちの伸び、そのあたりも要因はありそうだ。
そんなことを考えながら、実際に対峙した立場として、オユキからアイリスに何点か伝える。
「後は、その、種族差でしょうか。」
「身体能力なら、こっちが上だろ。」
「いえ、意識の向いてる方向に、耳が向きますし、呼吸というか、タイミングを計るのにしっぽが動くので、間合いを計りやすいんですよね。」
「まじかよ。」
オユキの感想に、イリアが驚き、アイリスの耳が垂れる。
「それは、意識してどうにかしないといけないわね。」
「尻尾はバランスをとる役割もあったりと、そういう話も聞いていますので、動き出しの時に特に。」
「ああ、そういう見切りでしたか。」
「ええ、途中、そうですね3戦目以降はそれに気が付いたので。」
「途端にやりにくくなったと思ったら。」
「そこで伝えようとも考えたのですが。」
そうオユキが言えば、イリアは首を横に振る。
「言われたら、動きがぎこちなくなったでしょうから。」
「ええ、そう思って伏せました。やはり無自覚ですか。」
「それは、そうよ。意図的に動かすこともできるけれど。」
そうして、アイリスは耳を立てて、軽く左右に回して見せる。
「全く。試合はこちらに合わせる形で、付き合ってもらって、本当に落ち込むわ。」
「あの、誤解があるようですが、私は元々の得意で行っていますよ。」
「あら、普段は、全然違うけれど。」
「新しい道を模索しているところです、お恥ずかしい。」
そういってオユキが照れたそぶりを見せると、アイリスからはあきれたと言わんばかりの視線が飛んでくる。
「トモエとも、構えが違うようだけれど。」
「私は、アレが得意ですし、流派としての技、それをすべて使うならああなりますが、オユキさんは全てを納めたわけではありませんから。」
「つまり、それが差という事ね。頭が痛いわ。」
そういってアイリスは、ジョッキを呷る。
同じテーブルにはトラノスケやミズキリ、加えてカナリアも座っている。
感想戦がそこで終わりと、これまで酒に口を付けなかったアイリスが飲み始めたことを、その合図と受け取ったのだろう。各々に料理に手を伸ばし始め、場が各々での話、そうなる前にとオユキが切り出す。
「河沿いの町に向かうつもりですが、皆さんもどうですか。」
「アタシは一緒に行くよ。」
イリアの返答は早い。ただ、オユキとしてもトラノスケとミズキリに向けての話もある。
「新人の方たちも、そろそろ丸兎では物足りないでしょう。」
「まぁ、そうだがな、大所帯になりすぎやしないか。あの町、そこまで人が入れるか。
俺たち以外の人出も、増えているだろうからな。」
「ああ、それがありますか。」
「ま、宿が無理なら、それこそ狩りで食料取って、野営でいいんじゃないかい。」
「野営は、私は体力が持つか。」
前回のことも有り、オユキはその提案には直ぐに頷くことができない。
「そのあたり、ちぐはぐよね。見た目通りの体力だもの。」
「ええと、走り込みなども考えてはいますが。」
「ま、そのあたりは、後回しだな。そうだな。ギルドに相談して、それから決めるか。」
「俺もカングレホは食べたいしな。」
「カナリア、あんたはどうする。」
「行きますよ。私も、魚は好きですから。お土産のお礼もあります。持ち帰りは、任せてくださいね。」
そうして、以前の顔ぶれに少し追加があるし、いない者もいる、そんな中アイリスは首をかしげている。
「魚って。」
「アイリスさんは、このあたりの土地勘は。」
「ないわね。」
アイリスがそう応えれば、同じ、獣人としてイリアがあれこれと説明すると、尻尾に感情が現れる。彼女もついてくるだろう。
そうと決まれば、後はいつになるかだが、少なくともリース伯爵、そちらが戻って来る前には、戻らねばなるまい。
ミズキリの相談は、そこで得る予定の魔石、それに関しても含まれているだろうから、そちらについては任せてしまうのがよいだろうと、オユキはそこで思考を止め、他に気になったことをカナリアに尋ねる。
「その、以前教えていただいた短杖の使い方ですが、樽や馬車といったものには。」
「樽には使えますよ。」
「おや、馬車は難しいのですか。」
その返答にトモエも興味をひかれたのか、話に入ってくる。
「その、馬車は魔道具として全体がすでに加工されていますので、干渉するんです。」
「魔道具が取り付けられている、というわけではなかったのですか。」
「昔は、そちらが主流だったのですが、今は一体型になっていますね。
その、振動、風、重量軽減、耐久力の増加、行うべきことが多く、魔道具を分けてしまうと。」
「それはそれで、利がある様に思えますが。」
「いえ、それぞれが全体に影響を与えようとするので、そのあたりの調整などが本当に大変でして。
もちろん細かい調整が効くので、全体として性能は高くなりますけど。」
「費用対効果ですか。」
「はい、なので馬車の客室、荷台、それを一つの魔道具としてしまう、それが今では主流となっています。」
そうして、トモエとカナリアが話す、その言葉の中に、オユキ、ミズキリとトラノスケもか、聞き逃せない単語があった。
「重量軽減、ですか。」
「あるのか。」
そんなオユキとミズキリの呟きに、ルーリエラが、応える。
「ありますよ。有翼種の方は確かに元々体は軽いですけど、それだけでは、飛べませんもの。」
「成程。いや、言われてみればそうか。その辺り物理を無視しているかと思えば、守っていたりと本当にややこしいな。」
「なまじ説得力があるので、言われてみればそれもそうだと、そうなるのですが、魔術という言い訳が先にあるあたり、本当にひねくれていますね。」
少々の恨み節が混じってしまうが、ルーリエラはそれをあっさりと流す。
「お二人とも研究者といわけでもなかったのでしょう。」
そう言われてしまえば、特に戦いにばかりにかまけていたオユキとしては、二の句が継げない。
ただ、ゲーム中で見つかっていれば、色々と諦めなくてもよかった素材が、そんなことを思ってしまう。
加えて、今更ではあるが、あれだけの金属や功績を放り込んだ馬車が、何の問題もなく移動できた、それを見て何故考えなかったのかとも、考えてしまう。
これは、いよいよ魔術文字とやらも真剣に学ばねばなるまいと、オユキは考えを改める。魔術の使用はともかく、魔道具としての製作は出来る様なのだから。
「何やら、あまり良くない顔をしているな。」
「勉学の重要性を、再確認しただけです。」
「まぁ、いい。時間はかかると、そんな感じだからな。」
ミズキリにそうして棘を刺されはするものの、やめる気はない。
やはり、こちらの生活、それに楽しさはあるが、不便を感じることも有るのだ。
そして、ふと、オユキとしての、再度この場に訪れた、元プレイヤー、その身として、一つの事を思いつく。
あの進捗度らしき数字、アレを少しは進めてみたいと、そんなことを。
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