憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

難しい話は御終い

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「にしても、良いワインだよな。」

そういってルイスが話しを切り替えれば、ミズキリもそれに乗る。まだまだ言い足りないことはあるんだぞ、そうオユキに目で訴えるあたり、ミズキリはミズキリで何事かの腹案があったのかもしれない。
手紙がたまに来る、そんな殊勝な団員ではないため、何か必要な知らせを送る様に伝えていたのだろうが、今度は領主、団を作るつもりなら、そうならざるを得ないのだろうが、それにかかわる事だろう。
オユキとしては、そうであるならインスタントダンジョン、その機能を内心では一番喜んでいるだろうにと、そんなことを考えてしまうが、それは表に出さない。

「リオハ領、だったか。俺たちのところと同じ名前を付けるあたり、こだわったのだろうな。」
「ああ、過去の異邦人が関わっているそうですよ。」
「花開いたのは19世紀以降、それと同じ流れをこちらでもやったのか。」
「さて、私はそこまでワインには。」
「まぁ、お前は口にするものはそこまでこだわっていなかったものな。」

そうミズキリにからかわれるが、オユキとしては、ミズキリの拘りの方こそ過剰に思えたものだ。ただ、そのせいでトモエに我慢をさせていなかったのか、そのような反省はあるため、口には出さないが。

「ミズキリは、相変わらずですか。」
「まぁ、な。珍しい、美味い、それ以上に楽しいことはないさ。」
「同意はしますが、度の過ぎない程度で。」

そうオユキは言いながらも、ようやく堅苦しい話も終わったからと、ワインを少し口にする。元々あまり口にしなかったことも有るが、今となっては前よりも、渋みを強く感じてしまう。
嫌いというほどでもないが、やはり以前のように単独で味を楽しむよりもと、持ち帰ったチーズ、その中でも甘味が強いものに手が伸びてしまう。

「流石にそのあたりは。ルーもワインが好きだし、まぁ、それなりだな。」
「花精、ですか。」

そのルーリエラは、果物が元であるからか、ことのほかワインと土産のチーズが気に入ったようで、黙々と、オユキからすると信じがたい量を消費している。
それでいて、一切酔ったそぶりを見せないあたり、本当に人とは違うのだと、そう見える。

「ああ、俺よりも強いぞ。」
「流石に、人と比べるのはな。何だったか、果実が発酵したら酒になるからだとか、そんなよくわからない理屈を聞いた気もするが。」

ルイスのその言葉が耳に入ったのか、ルーリエラが話に乗ってくる。

「あら、難しい話は終わりですか。ええ、私達にとっては、お酒は当たり前の物ですもの。それでどうこうなったりはしませんよ。」
「だからと言って、飲みすぎるなよ。」
「お土産ですもの、一人で過剰に頂いたりはしませんよ。」

そこで、改めてオユキは気になったことをルーリエラんい尋ねてみる。

「その、別途銀の酒杯を選びましたが。」

そう言えば、苦い顔を浮かべる彼女は、どうやらそれが苦手な部類であるらしい。

「では、ミズキリが使ってください。」
「ああ。有難い。」
「その、ごめんなさいね。大丈夫な子もいるのだけれど。」
「いえ、お店の方からも、そうと伺っていますから。他で気に入っていただけるものがあったなら、構いませんとも。」
「ええ、御覧の通り、楽しませてもらっているわ。」

そうして彼女は、片手にジョッキ、片手に薄く硬いパン、それに塗ったチーズを掲げて見せる。

「レンネットは子牛とばかり考えていましたが。」
「動物性は、そうだな。植物性だと、アザミ、イチジク、パイナップルなんかだな。」
「おや、思ったよりも種類があるのですね。」
「欠点として苦みが出るがな。」
「あら、程よい物ですよ。」

どうやらルーリエラにしてみれば、トモエとオユキがそうであるように、その独特の苦みも楽しんでいるらしい。花の香りと言っていたから、感じ方が異なるのかもしれないが。

「俺は、どうにもこっちの方に慣れているからな。」

そう言いながら、ミズキリはハムで軽く巻かれたチーズを口に運ぶ。

「私も嫌いではないけれど、少し塩気がきついわね。特に葡萄酒と合わせるときには。」
「こっちだと、その方が会うなんて言われたもんだが、ところ変われば品が変わるもんだよなぁ。」
「にしても、リオハ領か。いった事はなかったが。」
「おや、そうなのですか。」
「ああ、河があるだろ、それの上流、王都よりもさらに北だな、そっちにあるからな。」
「河、水源ですか。」

オユキとしても、今後この町でどう確保する気か気になりはするが、それ以上にこちらに来て、一度使ってしまえば欲しくなるものもある。

「こちらでも、浴槽、どうにかならないでしょうか。」
「ああ、かなり気に入ってたからな。」

ルイスがそうしみじみと頷く。朝と夜にそれぞれと、トモエと実に頻繁に利用したものだ。

「魔術でどうにか、そうも考えてしまいますが。」

そういって、トモエとブルーノ、イリアやミリアムといった面々と何やら話し込んでいたカナリアに視線を送ると、交差した腕で返される。どうやらトモエの方でもそういった話をしていたようだ。

「難しそうですか。」
「ま、そこは新しい領主様に期待だな。」
「んー。どうなのでしょうか。恐らく対策は何か持ってきていただけるとは思いますが。土地が元に戻る、そんな作用があるなら支流を作るのも困難でしょうし。」
「まぁ、そのあたりはやりようもある。」
「おや、そうなのですか。」

ミズキリが、そう口にしたため、オユキは興味をひかれる。

「町全体は難しいが、個人用程度ならどうとでもな。」
「ああ、そういう。」

つまり、個人としてであれば、魔術なり魔道具なりでどうにでもなるとそういう事なのだろう。
とはいえ、増加見込みの人口なども考えれば、用水路はいるだろうと、オユキとしては考えてしまうものだが、そのあたりは教会が改めて奇跡を願うのだろうか。ただ、こちらの教会の責任者は月と安息の神、その神とでもあるため、さてと、どうしても悩んでしまう。

「放っておくと、またぞろ過剰なテコ入れをしそうだから言っておくが、領主の方で、どうにか出来る。お前は拠点に碌に顔を出さなかったから、覚えてないだろうがな。」
「お。面倒見のいいほうだと思っていたが。」
「それも間違いではないが、自分の目的があるときは、そちらを優先するからな。」
「流石に、移動に時間がかかりすぎますから。」

それこそ世界の果てを見に行こう。平面の大地、そこで流れる水が、どうなるのか。
それに興味を持ったものたちと、どうにかそこまでたどり着いたものだが、それこそ移動だけで年単位の時間がかかったものだ。途中からは人里など望むべくもなく、簡易の結界を生成する魔道具に頼りながら、どうにかたどり着いて、その光景に圧倒され、では確かめるかと、めいめいにその断崖に飛び込み、死に戻りをしたのはゲーム内ではほとんど伝説の愚行として語られていた。
ただ、それにしても、プレイヤーによって、戻されるタイミング違っていた当たり、何か突破の手段があったのかもしれないが。

「それだよなぁ。情報の伝達はどうにかなるんだが、そればっかりはな。」
「そのあたり、あの数字もありますし、研究されている方はいなかったのでしょうか。」
「いや、居るにはいたが、そもそもヒントがな。」
「魔物素材にしてもそうですし。案外数が集まっても、そう言いたくなりますね。」
「それこそ集まって何かすれば違ったのかもしれないが、何より情報が足りない。」
「私は初めから投げ出しましたが、ミズキリもですか。」

その言いようは、オユキにとっては少々意外な物だった。
団の管理、領地の管理といったものもあったが、彼は基本的にひとところから動かなかった。
そして集めた情報、ゲームとして存在する種々の情報に触れていただろうに。

「正直アレは訳が分からん。新しい大陸、それを見つけたときに増えたのは小数点以下だぞ。」
「ああ、その程度だったのですか。そういえば、ルイスさん、こちら他の大陸の調査はどの程度。」
「んん。全く進んでないぞ。一応九つあるとは言われているが、それにしたって確かめた者もいないしな。」

ただ、その言葉にミズキリが机に突っ伏する。
40年、それ以上の時間をかけて、数十億のプレイヤー、それが見つけた大陸は二つだけだというのに、その三倍はすでに存在が認識されているらしい。
数学的に、平面だとして、中央らしき大樹、その位置から考えれば、その数値は妥当だなどと、そんな言葉もあったものだが。

「ええと、世界を支える大樹は。」
「ああ、5本あると言われてるな。中央に一本、それから四方に一本づつだ。
 とはいっても、創世神話にある程度で、確認したものはいないが。」

どうやら前提から間違っていたらしい。さて、そうなってしまえば地球の表面積、その20倍程度と言われていたその数値ですら怪しくなってくる。

「ミズキリ、当時神話のあたりは。」
「プレイヤーは知る由もなかったよ。神職に就けた物は一人もいなかったからな。」
「ねだれば、話してくれそうなものですが。」
「纏められてたぞ。どうやら大きく違いが、というよりも、神を主体とした物だけしか習えなかったようだが。」
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