憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
194 / 1,235
5章 祭りと鉱山

南区の現状

しおりを挟む
その後はアイリスにトモエとオユキ揃って座って説教され、何があったのか気が付いたルイスにも呆れられ、そんな時間を過ごすと教会に迎えに行く。
昼前に公爵家の遣い、メイとあったはずだが、なんやかんやと時間がたっていたのだろう。
少年達と子供たちを迎えたときには既に日が沈みかけていたため、そのまま宿に戻り、教会での手伝いがどのような物だったか、アナがあの後、少年たちと修道女や助祭、司祭を交えて信仰について語り合ったりと、そんなことをしていてのだと、楽しげに話しながら夕食を食べ、そのまま一日を終える。

「今日は、そうですね。昨日の遣いの方から、今朝には武器を返して頂けると、そう伺ていますが。」
「丸一日ってのは、久しぶりだな。」
「ええ。しっかりと体を動かせるとは思うのですが、どうしましょうか。」

朝、身支度を整えれば、全員集まって朝食を取りながら、今日の予定に話が向かったときにトモエがそういって悩むそぶりを見せる。

「ああ、南区ですね。結界から離れるほど魔物が強くなるとすれば、門の外は少々手強いでしょうね。」
「そういや、そうなんだっけ。でも、方向でも違いが出るんだし。」
「油断は禁物ですよ。少なくとも判断をするための情報が何一つないのですから。」

そうトモエがシグルドを窘めると、ルイスがそれに口をはさむ。

「そのことなんだがな、一応話は聞いてる。
 南区の中にも、既に魔物が現れ始めてるらしいが、まぁそれはいい。
 今のところ魔物の種類そのものに変化はないそうだ。
 門から少し離れたところに、プラドティグレが現れるようになったくらいか。」
「そういえば、あくまで魔物は淀みによるものでしたか。結界が無くなっても早晩どうこうなるものでもありませんか。」
「いや、かなり数は増えているらしいからな。南に行くならそうだな、東区の結界が残ってる、その境目くらいに陣取ってくれ、これまで見たいに、南の門に近づくと流石に二人だと手が足りないかもしれないからな。」
「分かりました。一度、東の結界の中から様子を見ましょうか。」

そうして、午前中の予定が決まったところに、部屋の扉がノックされる。
トモエが入室の許可を出せば、アイリスが扉を開けに向かい、そこで荷物を受け取る。
想像以上に早い時間に公爵の手配があったようだ。
そして、受け取ったアイリスが、武器を一先ず離れた場所に置いて、呆れた顔で公爵からの便せんを振る。

「後で読みましょうか。」
「今読みなさい。」
「なんか、大事な手紙か。」
「いえ、私達の知識にある武器をご覧いただくために、お貸ししましたから、そのお礼が書いてあるのでしょう。」
「言葉が足りてないわよ。」

アイリスにチクチクと棘を刺されながら、目線が鋭いため、食事中ではあるもののトモエとオユキで手紙を開いて、中を確認する。
中には丁寧な時候の挨拶から始まり、珍しい形状の武器を見たことに対する驚きや、その形の合理性に対する彼の護衛からの称賛、欠点と思われる箇所、装飾が彼の目から見れば寂しい事などがつづられ、短剣についてはただ、改めて戦と武技の神へと、同じ酒を納めさせていただくとだけ書かれていた。

「装飾ですか。飾り紐や蒔絵などはありますが。」
「鞘に塗る漆をまず見つけない事には。」
「あるわよ、漆。森に少し入れば、生えているわ。」

そんな話をトモエとオユキでしていると、じっとりとした目でアイリスが話す。

「接着剤として、このあたりでもよく使われているはずよ。
 塗というのなら、私の国の特産ね。でも、手紙、それだけじゃないんでしょう。」
「いえ、こちらが本分ですね、末尾に改めてお酒を納めておくと、そう書かれていたくらいです。」
「全く。何も知らずに無造作に運んだあの子が可哀そうだわ。」
「案外、知らせていないかもしれませんよ。他の方も気が付いていないようでしたから。」
「そういう問題じゃないでしょうに。」
「よし、じゃれ合いはそこまでだ。さっさと食べちまえ。で、南の方に、位置的には南東か、そこに行くのでいいんだな。」
「はい。鉱山も考えはしますが、武器が揃ってから、やはりそう思いますから。」
「ま、その間にガキどもを鍛えればいいしな。良し、それじゃ俺は先に馬車の方に向かっておく。」

そうしてルイスが先に部屋を出る。
どうやら昨日で護衛期間も終わりかと思えば、まだ公爵から付けられた護衛は残っているらしい。
シグルドが少々手紙に興味を示し、その内容を改めて軽く説明しながら、食事をとって、少し休憩すれば、皆で馬車に乗って、南東に向かう。
そして、そこから見えた光景は少々懐かしさを覚える物だった。

「なんか、こっち来たばっかりの時に見たな、こんな状態。」
「相手に困らないとそういえばそうではありますが、あの時よりも多いように見えますね。」
「これは、例えば魔物に見つかった状態で結界の中に入ると、どうなりますか。」

トモエが、考えるようにして、そう尋ねればルイスからすぐに答えが返ってくる。

「分かっていないこともあるんだが、ある程度近いと追って来る。
 距離だけじゃなさそうだが、離れてれば、興味を失うというか、こちらに気が付いていない、そんな状態に戻る。」
「不思議な物ですね。それでこそ神の御業そういう事なのでしょうが。」

そうして、視線の先。
始めて南区に狩りに出た際に、あまりの魔物に驚いたが、その時と同じかそれ以上に魔物が存在する光景に、どうしたものかと悩む。
確かに目に入る魔物は、さして強くない、それこそ灰兎やグレイハウンドの群れではあるが、少し離れた場所には角が、黄色と黒の毛並みが見えたりもしている。

「退路は確保できていますし、向こうのは私達で対処するとすれば、大丈夫でしょう。」
「ま、そうだな。どうする。俺が纏めて数を減らしてもいいが。」

そういってルイスが自分の両手剣を軽く叩く。
ルイスは魔術を使うところは見たことが無いが、それこそ離れた相手もまとめて切り捨てるところは見てきた。
アイリスも炎の魔術が使えるわけだし、広域殲滅は心得ているのだろう。

「いえ、最近は2,3匹であれば危なげなく戦えていましたからね、むしろ好都合です。」
「お、おう。危なげなかったかな。こう、割と大変だったけど。」
「一度も攻撃を防いですらいませんからね、余裕があると、そういう事です。
 では、早速と行きたいのですが、一日空いてますから、まずは、それぞれ素振りからですね。」
「ああ、まぁ、やるけどさ。
 にしても、南って他から人を回したりしないんだな。」

シグルドが武器を鞘ごと構えて、姿勢を作れば、慣れた物で子供たちまでトモエの前に横一列に並んで、それぞれが構える。

「回しちゃいるが、町中が先だ。」
「そっか、もう門の向こうにも結界がないんだっけ。」
「ああ、魔物はそこまで強いわけじゃないが、町中は戦いにくいからな。」
「そうなのか。隠れる場所も多いし、盾に使えそうだけど。」
「それは、相手も同じってことだ。」
「ああ、こっちが使えるんだから、向こうも使えるよな。」

そうしてルイスとシグルドが市街戦についてあれこれ話始め、他の少年たちも、こうすれば、ああすればと、思い付きを言ってはルイスに諭されている。

「このあたりは経験者の談と、そう聞こえますね。」
「護衛が主ですからね、先日のように街中での捕り物もあるでしょうから。」
「それにしても、結界。離れた位置にも効果がある物なのですね。」
「そればかりは私もどういう理屈になっているのか、分かりませんね。」
「なんにせよ、相手に事欠かないのはいいことです。ここでしっかりと戦闘の経験を積んで、戻れば少し森にも入ってみたいですね。」
「森の中の警戒は、此処とは全く違うものになりますが、そうですね。戻ったら、そちらも目指してみましょうか。それにしても。」

少年たちの素振りを見ながら、オユキは身体を改めて伸ばす。

「昨日から少し動きにくそうですが、斬られた足に違和感でもありますか。」
「いえ、そういう訳でもないのですが、体が重いといいますか。空気が重いといいますか。」
「私は特にそう言った違和感を感じませんが。そうですね、少し気を付けましょう。何か異変があれば、改めて。」
「そうですね。さて、そろそろ彼らも動きが馴染んだようですし、今日も元気に狩りをしましょうか。」
「ええ。さて、行きますよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...