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5章 祭りと鉱山
衣装制作の話し合いと
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「さて、細かな要望はお伺いしましたし、布地はどうしましょうか。」
「そうですね、色でご要望に合うものは、このあたりかと。」
そういって、布地を取り扱う者がいくつかの片手大の布地をいくつか取り出す。
「こちら、手に取ってみても。」
「勿論ですとも。」
そう言われて、トモエが早速手を伸ばす。
オユキもよくわからないながらも、同じ色合いで、それぞれ数種類が並べられたものを手に取ってみる。
「こちらは、少し手触りが荒く感じますね、肌に触れるとして、どうなのでしょうか。」
「あら、麻布ですね。裏地を付けるので、肌触りは気になりませんわ。」
「そうなのですか、しかし夏が近いと聞いていますが。」
「私としたことが、そちらを忘れていましたね。新しい服ですから、早速と。
でしたら、こちらは如何でしょう。」
そうしてトモエと布地の職人、メイが早速とばかりにあれこれ布を手にしながら盛り上がる。
もともと頓着する性質でもなく、トモエに任せてばかりだったため、こだわりのないオユキとしては、そこに混ざる事ができず、あれこれと、やはりこちらにも色々あるのだと、そう手に取っていると、一つ白い布地で、やけに馴染みのある、それこそ以前仕事中に当たり前のように来ていた、そんな感触を持つ布地を見つける。
「おや、これは。」
スーツ姿の時に散々来た、むしろ私服よりも、休日にしか着ないそんな服よりも数が増えていたYシャツ。
それによく似た手触りの布地を見つけて、思わず声が出る。
「あら。風綿ですね。そちらも夏に向いた、良い布地ですよ。」
どうやらそのような名前らしい。改めて持ってみれば、他の布よりも軽く、薄い。
「ええ、こちらが少し気になりまして。夏向きというのは。」
「よく風を通してくれますから。ただ。」
そういってメイが少し口ごもる。
「何か問題があるのでしょうか。」
「流通の量が少ない事はさておきまして、透けるんです。水、衣服なので汗ですが、それで。」
「ああ。」
それは問題だろう。
もともとの、オユキに馴染みがあるものにしてもそういう問題はつきものであったわけではある。
加えて色が白となれば、それは結果の見えていた事ではあるが。
「こちらにサマーセーターのようなものは、ありますか。」
オユキとメイで難色を示していると、トモエからそう声がかかる。
「初めて聞きますが、どのような物でしょう。」
「下に服を着たうえで、わざと荒い布地、編んだ糸の場合もありますが、その上から着るものです。」
トモエがそういって、このようなと、簡単な図案を書き示す。
「ん、始めてみますが、これは少々煽情的では。下に着るものを薄手にすると、肌が見えすぎます。」
「ああ、こちらでは、そう取られますか。ではブレザーのように、こう上から着る物であれば。」
「あら、こちらはいいですね。少々殿方向けの物に衣装が近いようにも思いますが、乗馬服であれば、このような物もありますし。」
「そちらは裾の長いものではなく。」
「殿方の後ろに乗せて頂く場合は、その様に。自分で乗る場合は、こういった物です。」
そういってメイも紙にいくつかの衣装を簡単に書く。
どちらも見事に特徴を捉えて書くものだと、オユキは少し離れて、その様子を眺める。
「乗馬用ですか、街歩きには。」
「いえ、問題ありません。お持ちの靴もブーツだけのようですし、そうですねこちらで一つ誂えましょうか。」
それからも暫くトモエとメイが主導となり、布地を扱う者、デザインを担当するものを交えて熱心に議論する。
オユキはそれを聞きながら、ただ時に好みを答えたりと、そんな風に過ごした。
そうして、それなりの時間を使い、結局3着ほどの衣装が決まると、トモエとオユキはそれぞれ採寸され、簡単に布をかけられて、仮止めをした布を制作するものが持ち帰ることとなった。
「異邦の服の話も聞けましたし、良い時間でした。」
「こちらも、長くお時間を頂きました。」
「短いほうですよ。こだわる方など、本当に丸一日布地を選びますもの。」
「それは、また。」
トモエとメイがすっかり仲良く話しているのを横目に、オユキはそろそろ帰る段取りと、預ける物を用意する。
そうして衣装にもそこまで積極的でなかったためか、メイからチクリと棘を刺される。
「オユキさん。淑女なのですから、少しは流行、衣装にも興味を持たなければいけませんよ。」
「分かってはいるのですが、長くトモエさんに任せきりにしてしまって。それで不都合がありませんでしたから。」
「今後はあるかもしれないのですから。たまには初めて着る服を、事前に伝えずに用意して驚かせるのも、楽しい事ですよ。」
「成程。そうですね、そのような小さな驚きがあってもいいかもしれませんね。」
「まぁ、気のない返事。」
そういう事もないのですが、オユキが苦笑いをしながら、持ってきた幾つかの物。
太刀と長刀、特別にと頼んだものは、あくまでこちらで思いつくままに作ったもので、トモエとオユキの手に馴染んだものとは違うため、除いてある。それらを机の上に置く。
今朝がた枕元に置かれていた短剣は、別に手に持ってはいるが。
「こちらが公爵様とお約束させていただいた物です。」
「こちらが。思ったよりも大きなものですね。銘はありますか。」
「いえ、あくまで実用、恐らく一年も持たない物ですから、種類としての名はこちらが太刀、こちらが長刀と。」
「分かりました。そのようにお伝えさせていただきます。
それと、そちらは。」
オユキが手に持つ短剣にメイが視線を向けたため、鞘を持ったまま彼女にもよく見えるようにと、少し差し出す。
「昨夜公爵様からの頂き物を、皆で楽しんでいる時に、それをことのほか喜んだ方がおられまして。
お礼にとのことです。元をたどれば公爵様の配剤によるものですし、私達は短剣を使いませんから。」
「お礼に短剣ですか、少々変わったお方ですね。柄頭は、あら、戦と武技の神の。
その割にあまりに造りが武骨ですが。分かりました、こちらもお届けさせていただきます。」
そうして彼女は不審がる様子を見せるが、それはあくまで礼品として、それだけであり、それ以上のものは無かった。
ここで送り主を告げてしまえば、受け取る受け取らないで一悶着ありそうなので、好都合だとオユキは微笑む。
「生憎、武器を飾ることも難しい身の上ですから、どうぞお納めくださいと。」
「確かに、伝えさせていただきます。」
どうやら、神職にあるものは、始まりの町その薬師のマルコと同様に、何かオユキ達には見えていないものが見えているのだろう。
これまで、功績の証を一目で見破ったのだから。
「こちらは、お持ちになれそうですか。」
「いえ、共の者がいますから。そちらも部屋に入れても。」
「ええ、どうぞ。」
断りに、トモエがそう返せば部屋の扉が空けられ、護衛として立っていたルイスとアイリスの姿も見える。
そして、メイ、公爵家の侍女、相応に高位の貴族の子女なのだろうから当然だが、彼女の護衛もそこにいた様だ。
「これを馬車迄運んでおいてね。」
「分かりました。そちらは。」
護衛が短剣をかなり訝しげな眼で見る。
遠くからはアイリスが信じられない物を見る様な、口を開け目を見開き、それでも足りぬと耳も普段は柔らかそうに曲線を描いているが、今はまっすぐと伸びトモエとオユキに向けられている。
「公爵様からのワインを分けた方から、お礼にとのことらしいわ。
礼品ですから、私から執事に渡します。」
「成程。」
「それとこちらの武器ですが、明日の朝には他の者が返しに来ます。
宿の者に預ければいいですか。」
「はい。その様に。」
「では、私共はこれで失礼します。服は、そうですね。またはっきりと完成の目途が立てばその時にお手紙で。」
「分かりました、本日はわざわざありがとうございました。」
宿の出口までと申し出たが、此処でと言われたため、そのままメイとその一団を見送る。
その中で、錆びたような動きでただ首を動かすアイリスに首をかしげながら、メイが帰っていく。
そして、暫くして、護衛の二人が入って来るなり、アイリスがオユキを持ち上げて振り回す。
「あなた、あれは。」
「はい、昨夜のワインのお礼にと。ですから頂いた方へ届けて頂きました。」
「正気なの。」
「勿論です。私たちには必要のない物ですし、旅で持ち歩くものでもありませんから。
ならば大事にしてくれそうな方の下へ。」
「正気なのね、なおのこと悪いわ。」
そう言うとアイリスがその場に崩れ落ち、オユキも解放された。
「そうですね、色でご要望に合うものは、このあたりかと。」
そういって、布地を取り扱う者がいくつかの片手大の布地をいくつか取り出す。
「こちら、手に取ってみても。」
「勿論ですとも。」
そう言われて、トモエが早速手を伸ばす。
オユキもよくわからないながらも、同じ色合いで、それぞれ数種類が並べられたものを手に取ってみる。
「こちらは、少し手触りが荒く感じますね、肌に触れるとして、どうなのでしょうか。」
「あら、麻布ですね。裏地を付けるので、肌触りは気になりませんわ。」
「そうなのですか、しかし夏が近いと聞いていますが。」
「私としたことが、そちらを忘れていましたね。新しい服ですから、早速と。
でしたら、こちらは如何でしょう。」
そうしてトモエと布地の職人、メイが早速とばかりにあれこれ布を手にしながら盛り上がる。
もともと頓着する性質でもなく、トモエに任せてばかりだったため、こだわりのないオユキとしては、そこに混ざる事ができず、あれこれと、やはりこちらにも色々あるのだと、そう手に取っていると、一つ白い布地で、やけに馴染みのある、それこそ以前仕事中に当たり前のように来ていた、そんな感触を持つ布地を見つける。
「おや、これは。」
スーツ姿の時に散々来た、むしろ私服よりも、休日にしか着ないそんな服よりも数が増えていたYシャツ。
それによく似た手触りの布地を見つけて、思わず声が出る。
「あら。風綿ですね。そちらも夏に向いた、良い布地ですよ。」
どうやらそのような名前らしい。改めて持ってみれば、他の布よりも軽く、薄い。
「ええ、こちらが少し気になりまして。夏向きというのは。」
「よく風を通してくれますから。ただ。」
そういってメイが少し口ごもる。
「何か問題があるのでしょうか。」
「流通の量が少ない事はさておきまして、透けるんです。水、衣服なので汗ですが、それで。」
「ああ。」
それは問題だろう。
もともとの、オユキに馴染みがあるものにしてもそういう問題はつきものであったわけではある。
加えて色が白となれば、それは結果の見えていた事ではあるが。
「こちらにサマーセーターのようなものは、ありますか。」
オユキとメイで難色を示していると、トモエからそう声がかかる。
「初めて聞きますが、どのような物でしょう。」
「下に服を着たうえで、わざと荒い布地、編んだ糸の場合もありますが、その上から着るものです。」
トモエがそういって、このようなと、簡単な図案を書き示す。
「ん、始めてみますが、これは少々煽情的では。下に着るものを薄手にすると、肌が見えすぎます。」
「ああ、こちらでは、そう取られますか。ではブレザーのように、こう上から着る物であれば。」
「あら、こちらはいいですね。少々殿方向けの物に衣装が近いようにも思いますが、乗馬服であれば、このような物もありますし。」
「そちらは裾の長いものではなく。」
「殿方の後ろに乗せて頂く場合は、その様に。自分で乗る場合は、こういった物です。」
そういってメイも紙にいくつかの衣装を簡単に書く。
どちらも見事に特徴を捉えて書くものだと、オユキは少し離れて、その様子を眺める。
「乗馬用ですか、街歩きには。」
「いえ、問題ありません。お持ちの靴もブーツだけのようですし、そうですねこちらで一つ誂えましょうか。」
それからも暫くトモエとメイが主導となり、布地を扱う者、デザインを担当するものを交えて熱心に議論する。
オユキはそれを聞きながら、ただ時に好みを答えたりと、そんな風に過ごした。
そうして、それなりの時間を使い、結局3着ほどの衣装が決まると、トモエとオユキはそれぞれ採寸され、簡単に布をかけられて、仮止めをした布を制作するものが持ち帰ることとなった。
「異邦の服の話も聞けましたし、良い時間でした。」
「こちらも、長くお時間を頂きました。」
「短いほうですよ。こだわる方など、本当に丸一日布地を選びますもの。」
「それは、また。」
トモエとメイがすっかり仲良く話しているのを横目に、オユキはそろそろ帰る段取りと、預ける物を用意する。
そうして衣装にもそこまで積極的でなかったためか、メイからチクリと棘を刺される。
「オユキさん。淑女なのですから、少しは流行、衣装にも興味を持たなければいけませんよ。」
「分かってはいるのですが、長くトモエさんに任せきりにしてしまって。それで不都合がありませんでしたから。」
「今後はあるかもしれないのですから。たまには初めて着る服を、事前に伝えずに用意して驚かせるのも、楽しい事ですよ。」
「成程。そうですね、そのような小さな驚きがあってもいいかもしれませんね。」
「まぁ、気のない返事。」
そういう事もないのですが、オユキが苦笑いをしながら、持ってきた幾つかの物。
太刀と長刀、特別にと頼んだものは、あくまでこちらで思いつくままに作ったもので、トモエとオユキの手に馴染んだものとは違うため、除いてある。それらを机の上に置く。
今朝がた枕元に置かれていた短剣は、別に手に持ってはいるが。
「こちらが公爵様とお約束させていただいた物です。」
「こちらが。思ったよりも大きなものですね。銘はありますか。」
「いえ、あくまで実用、恐らく一年も持たない物ですから、種類としての名はこちらが太刀、こちらが長刀と。」
「分かりました。そのようにお伝えさせていただきます。
それと、そちらは。」
オユキが手に持つ短剣にメイが視線を向けたため、鞘を持ったまま彼女にもよく見えるようにと、少し差し出す。
「昨夜公爵様からの頂き物を、皆で楽しんでいる時に、それをことのほか喜んだ方がおられまして。
お礼にとのことです。元をたどれば公爵様の配剤によるものですし、私達は短剣を使いませんから。」
「お礼に短剣ですか、少々変わったお方ですね。柄頭は、あら、戦と武技の神の。
その割にあまりに造りが武骨ですが。分かりました、こちらもお届けさせていただきます。」
そうして彼女は不審がる様子を見せるが、それはあくまで礼品として、それだけであり、それ以上のものは無かった。
ここで送り主を告げてしまえば、受け取る受け取らないで一悶着ありそうなので、好都合だとオユキは微笑む。
「生憎、武器を飾ることも難しい身の上ですから、どうぞお納めくださいと。」
「確かに、伝えさせていただきます。」
どうやら、神職にあるものは、始まりの町その薬師のマルコと同様に、何かオユキ達には見えていないものが見えているのだろう。
これまで、功績の証を一目で見破ったのだから。
「こちらは、お持ちになれそうですか。」
「いえ、共の者がいますから。そちらも部屋に入れても。」
「ええ、どうぞ。」
断りに、トモエがそう返せば部屋の扉が空けられ、護衛として立っていたルイスとアイリスの姿も見える。
そして、メイ、公爵家の侍女、相応に高位の貴族の子女なのだろうから当然だが、彼女の護衛もそこにいた様だ。
「これを馬車迄運んでおいてね。」
「分かりました。そちらは。」
護衛が短剣をかなり訝しげな眼で見る。
遠くからはアイリスが信じられない物を見る様な、口を開け目を見開き、それでも足りぬと耳も普段は柔らかそうに曲線を描いているが、今はまっすぐと伸びトモエとオユキに向けられている。
「公爵様からのワインを分けた方から、お礼にとのことらしいわ。
礼品ですから、私から執事に渡します。」
「成程。」
「それとこちらの武器ですが、明日の朝には他の者が返しに来ます。
宿の者に預ければいいですか。」
「はい。その様に。」
「では、私共はこれで失礼します。服は、そうですね。またはっきりと完成の目途が立てばその時にお手紙で。」
「分かりました、本日はわざわざありがとうございました。」
宿の出口までと申し出たが、此処でと言われたため、そのままメイとその一団を見送る。
その中で、錆びたような動きでただ首を動かすアイリスに首をかしげながら、メイが帰っていく。
そして、暫くして、護衛の二人が入って来るなり、アイリスがオユキを持ち上げて振り回す。
「あなた、あれは。」
「はい、昨夜のワインのお礼にと。ですから頂いた方へ届けて頂きました。」
「正気なの。」
「勿論です。私たちには必要のない物ですし、旅で持ち歩くものでもありませんから。
ならば大事にしてくれそうな方の下へ。」
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