憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

商談後

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「さて、シグルド君から同意は得られたけれど、さて、次はあなた達。」

アマリーアはそこで言葉を切ると、ただため息をつく。
それから気を取り直したようにして、話し出す。

「こちらの内情は、だいたい伝わっているようだけれど、さて、何をお望みかしら。
 正直、今日の話は広まるわ。それに、そういった腹積もりもあって、祭事に参加する、その側面もあるのでしょう。そうなれば、あなた達の不興を買えば、私達は神敵の如き扱いを受けることになるでしょうね。
 頂いたお言葉の内容は、それほどですもの。」
「あの、そちらに関しては、そのようなつもりはありません。
 これは神の前でも、宣言できますよ。祭事への協力、それはこちらにお導き下さった神への感謝、それによるものですから。」

そう言うと、アマリーアはわずかに肩から力を抜く。

「その、誤解なきよう。この場であれば、嘘が通じない、そう聞いていますので言葉を重ねますが。
 私たちは、そもそも不要に力を振るい、誰かに威を示す、そのような真似を好みません。
 今回の事については、この子たちを軽んじる、損な振る舞いに対して、それに対する保護者としての措置、それ以上の意図はありませんとも。」

オユキの言葉にアマリーアがレーナに視線を向ければ、彼女はただ頷く。
奇跡の類か、魔術の類か、嘘を看破する、そのような物があるのかもしれない。

「そうであれば、こちらからは感謝の言葉しかありませんわね。
 寛大なお心に、改めて感謝を。」
「ですから、私達からは、先にカレンさんに伝えたこと以上に望むものはありません。
 ただ、後程狩猟者ギルドでホセさんを交えて改めて話す、その際に手間を省く、それくらいはそちらにお願いしたいと、そうは思いますが。」
「ええ、こちらの落ち度ですもの、それくらいは当然です。いいですねカレン。」
「はい。その、この度は。」
「いえ、商人であればこそ、断りにくい、断れない、そのような話もあるでしょう。」
「その調整を行える、だから商いの仲介を行っているのですけれどね。」

アマリーアがカレンを見てチクリと棘を刺すのを、オユキが笑って止める。

「それこそ、年季が足りないでしょう。カレンさんは人以外の特徴が見受けられませんから。」
「あら、それは私が年をかなり取っていると。」
「人とは違う時の流れの方である以上、私達と比べて年長であることは、間違いないのでしょう。」

オユキとアマリーアが互いに笑顔を浮かべてやり合い始めると、少年たちが居心地悪そうにし、それを伝えるようにトモエがオユキの肩を軽くたたく。

「失礼しました。見目の事はお互い様ですね。
 それと、今この場で求めたいのは、私達が目的としたもの、それが得られるだけの素材については、手出し無用。それだけです。全てと、そう望む方が話を持ってきたのでしょう。」
「ええ、そちらについては、こちらで間違いなく。」
「では、話はここまでで。私達はそちらに対して隔意はありません。
 今後も良い取引相手であってほしい、そう望んでいます。」
「ええ、私どもも日々の商品その多くは狩猟者の手によるものです。勿論そこに隔意等ありません。今後も良き取引相手であることを願っています。」

そう互いに言えば、オユキが手を差し出し、アマリーアがそれを握る。

「それでは、ホセさん、お手間をかけますが、なるべく早くに狩猟者ギルドへ一緒に。」
「そちらの都合が良ければ、明日の朝にでも。流石に今日は私も疲れましたから。」
「アマリーア様は、準備が間に合いますか。」
「ええ。カレン。あなたが同行して説明を。」
「畏まりました。」
「全く、これに懲りたら、あまり見た目で判断してはいけませんよ。それこそ狩猟者の方は見た目以上の力を持っているのが常なのですから。」

そうして、話が終わり緊張感が霧散した場で、オユキはのんびりとお茶に口を付ける。
そんな中、シグルドとしてはやはり多くの事が気になるのだろう。
他に口を開くものがいないからか、質問をオユキにし始める。

「で、結局、あっちのねーちゃんがなんか悪いことしたのか。謝ってたけど。」
「そうとも言えますし、違うとも言えます。」
「ん-、何を話してるかもよくわかんなかったし。後で聞いたほうが良いのか。」
「私は構いませんが、そのカレンさんの恥になる事ですから。」
「ああ、そうだよな。謝ったんだ、それを目の前で追及するのは、駄目なことだ。
 その、悪い。そんなつもりじゃなかったんだ。」

そういってシグルドが頭を下げると、カレンは自嘲を顔いっぱいに浮かべ、力なく腕を垂らして俯く。

「シグルド君は本当にまっすぐな気性ですね。司教様の教えのすばらしさが分かるようです。」
「あれ、司祭のばーさんは、ばーさんの知り合いなのか。」
「もう、言葉に気を付けなさいって、いつも言ってるでしょ。」

シグルドの言葉にアナがすぐさま噛みつき、その頭を掴んで下げさせる。

「ジーク、手紙を持ってきたでしょう。」
「ああ、そりゃそうだ、それなら知り合いだな。」

セシリアがそう言うとシグルドはすぐに頷く。
その様子を楽しげに見ていたレーナが笑い声をおさめながら、話始める。

「良いのですよ、持祭アナ、私がそう呼ばれるほどに年を重ねているのは事実ですから。
 ただ司教様は、私が教会に勤め始めたときから、見た目が変わっていませんからね。」
「え。」

そのレーナの言葉にアナが驚いた表情を浮かべる。


「噂では、かれこれ4百年はあの町で司教をお勤めだとか。
 ただ、事実はその長さを超えると、もっぱらの噂ではありますが。」
「えー。」
「それにしてもアマリーア様、今回の事は、私がお伺いしても。
 当事者のお二人は、ある程度分かっておられる様子ではありますが、私もいくらか説明を頂きたく。」

そうレーナがアマリーアに話を振れば、少し考える時間を作って、それから簡単に説明を始める。

「つまり貴族の権力争いが背景です。
 王太子妃様、その出産を祝うための贈り物を、今多くの貴族が探しています。
 そういったパワーゲームの道具を求めて動きがあった、それだけです。」
「成程。それはそれは。」
「残り二つの、御言葉の小箱、レーナ様は想像がついているのでしょう。」
「神の恩恵が薄くなる、そこを狙うものがいる、そういう事でしょう。」

アマリーアとレーナの言葉、そこに含まれるものに、オユキはわずかに警戒すべきと、そう意識する。
その気配を感じたのか、レーナがすぐにオユキに向けて補足する。

「ご安心を。その対策が、あの中に。」
「レーナ様は、御言葉の小箱の中身が。
 そういえば、順番にあける、そう仰られていましたが。」
「ええ、見る物が見れば、分かるようになっていますから。
 その、神職ではない方には。」
「いえ、方法をお伺いするつもりはありませんから。
 ああ、それでいくつかお伺いしたいことが。」

オユキは、ひとまずアマリーアとの話は終わりとして、レーナと話を続ける。
恐らく今夜、ホセと改めて食事を行い、その場で彼からの謝罪と状況の説明もあるだろう。
ならば今聞くべきは、教会側の今後であるのだから。

「その、私達はこちらに武器を求めて訪れています。
 その作製にも時間がかかりますから、先にその話を進めておきたいのです。」
「畏まりました。先に申し上げたように祭事は、早く共4日は先ですから。」
「ありがとうございます。その、当日までに準備するもの、衣装であったりは。」
「勿論、こちらでご用意させていただきます。
 持祭アナ、あなた方はお勤めの装束は。」
「ごめんなさい、司祭様。こんなことになるとは思っていなかったので。」
「旅の荷物を減らすのは、正しい工夫です。どうかそんな顔をしないでください。
 そうですね、では皆様の分もご用意しましょう。
 水と癒しの神、その意匠を施したものになりますが。」
「はい。どの神様にも等しく感謝を、他の神様のお祭りのときに、自分の好きな神様を主張するのは、場を乱す行いですから。」

そうして、当日までに必要な道具は教会で用意することが決まるが、事前にサイズを合わせたり、簡単な進行、そこで行ってほしい事、そういった物を説明し、実際に動きに慣れるため、2日程は見込んでほしい、そのようなことを言われて、教会を後にする。
カレンの操る馬車が、宿に着くころには既に日が沈もうと、そんな気配を示していた。
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