憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
147 / 1,235
四章 領都

聡い子供たち

しおりを挟む
「で、難しい話してたけど、結局問題ないのか。」

馬車に乗り、ここすっかりいつもの顔ぶれと、そうなったときに、開口一番シグルドがそう切り出す。

「おや、気が付いていましたか。ですが、それでもここではなく、別の場所で話すのが正解ですよ。」
「やっぱ、まずいのか。」
「いえ、そういう事ではありません。彼女から切り出したでしょう、教会に用があると。
 そこでの用事は、私達の信頼を得るためのものになるでしょうから。」
「それがわかってて、なんで警戒してたんだ。」

どうやらオユキとトモエの態度で、アマリーアとカレンそのどちらもを警戒していたことは読み取れたようだ。
後は、同意するように頷いているアナを除けば、他の子たちは何の話か分かっていない風ではあるが。
つまり、カップを口を付けずに、カップをすぐに横に動かしたのは、彼なりの警戒ではあったのだろう。

「そればかりは、習慣と言いますか。まぁ、現時点で信用できていないから、それに尽きますね。」
「そんな胡散臭いところがあったか。」
「ええ。昨日の夜から今朝までの間に、ホセさんに待ち合わせ場所を返させた、それだけとってもおかしい事ですから。」
「高い商品だから、えらい人間がってわけじゃないんだよな。」
「はい。ホセさんの販売先は商業ギルドです。そうであれば彼女たちは、わざわざ交渉しなくとも物自体は手に入ります。つまり、それ以外の理由があるとそういう事です。
 欲しがっている人がいて、競売では手に入るか分からない、だから事前に直接、そういう方がいるのでしょう。
 町に持ち込むときに目立ちましたからね、気が付く方、耳の早い方はおられるでしょう。」

オユキがそう話せば、シグルドが非常に渋い顔をする。

「面倒だと、そう思う気持ちはわかりますとも。
 それが嫌でしたら、狩猟者ギルドに持ち込み、全て売り、後は知らぬと、そうするのが良いですよ。」
「俺たちだけなら、そうするかな。」
「それが良いでしょうね。慣れないうちは、特に。
 ただ、先方も悪意があるわけではなさそうですよ。」

トモエがそう言えば、シグルドは再び首を捻る。

「こちらにヒントを出していましたし、譲歩の意思も見せてくれましたから。」
「ややこしいな。こう、すっとやれないもんか。」
「やれない相手からの、横やりなのでしょうね。
 西方のお菓子と言っていましたから、西の方に原因があるのかもしれませんが。
 領都の西には、何があるのでしょうか。」

トモエがそう話せば、シグルドはげんなりした顔をして、頭を左右に振る。

「頭が痛くなってきた。」

他の少年たちも、ただ表情を固めて、それに頷いている。
その様子を見ながら、オユキはさて、西と、そう考える。
他国というには、あまりに手が早いようにも思う。
外交としてたまたま来ていた人間が色気を出す。それにしてはあまりに間が良すぎる。

「王都は北にあるはずですから、別の領主。いえ、町の位置関係で考えれば、この領の領主である公爵様、もしくは行政に関わるどなたか。
 正直情報が足りないので、見当もつきませんね。
 ただ、商業ギルド、その中でも高位の人物に直接、それも急な要件でも話を持ち込める、そういった人物ではあります。」
「成程。で、こっちに厄介が来そうなのか。」
「話の内容次第、といったところでしょうか。
 横紙破りをしたうえで、相場よりも低い価格とはならないでしょうが、全てをもとめられてしまえば、そもそもの目的が達成できなくなりますから。」
「ああ、まぁ、そうだな。」
「ですので、こちらとして譲れない、いえ譲っても構わないのですが、その場合は目的を達成する、その部分の補填をお願いしなければなりません。」

オユキがそう話せば、シグルドはそれに頷いて答える。

「まぁ、そうだな。物が売れて、欲しかった武器が手に入る。
 うん、それがここまで来た目的だ。それが叶えばいいわけだ。」
「はい、その通りです。それ以上であったり、気に入らないからと、そこで対立する必要はありません。
 私たちは私たちの目的があって、ここまで来ました。」
「ああ、そうだな、目的が達成できれば、後は面倒だし、そういうのが好きなのに任せよう。」

そういってシグルドが頷けば、他の子たちも納得がいったようで、シグルドに合わせて頷く。
その様子を確認して、トモエが馬車の外、御者が座っているだろう位置に声をかける。

「という事で、カレンさん。こちらの要望は以上です。
 後の事はお任せいたしますが、事情の説明だけは頂けますよね。」

それに少年たちが、一斉にトモエが声をかけた方を振り返る。

「話が早くて結構です。ええ、説明は教会で、神々の前で行わせていただきます。
 そこに嘘が一切存在しないよう。」
「子供たちの勉強は十分ですから、あまり試すようなことはもうやめてあげてくださいね。
 一度に詰め込むのは、私の教育方針には反していますから。」

そのトモエの言葉にシグルドが首をかしげるが、オユキが、まずは姿勢、そして素振り、そうしているでしょうと、そう声をかければ納得したように頷いている。

「あと、今の言葉ですが、嘘のない説明が、十分に正しい説明では無い、それを暗に言っています。」
「違いがわかんねー。」

シグルドが、馬車の座席、そこにもたれるようにして体から力を抜く。

「今の言では、嘘をつかない、そう言っているだけで、十分な説明をするとは言っていません。
 発言の内容に、確かに嘘はありませんが、情報はこちらに誤解を与えるように伏せる、そういう話し方です。」
「なぁ、オユキもあんちゃんも、いっつもそんなこと考えて人と話してんのか。」
「いえ、流石にそれでは疲れますから。今回のように露骨に怪しい時だけですよ。」
「このようなことをして、怪しむなというのは無理があると、そう理解はしますが、そこまではっきり言われてしまうと、流石に傷つきますね。」

御者席の方向、もう隠さなくてもいいと、そう判断したのか、進行方向を中から確認するためか、換気のためか、小さな窓からこちらを振り返って、カレンが話しかけて来る。
これまでは、そこからは外が見えるだけであったのだが。

「それは申し訳ありません。ですが、子供をそういったつまらないやり取りに巻き込んだ、その意趣返しと受け入れて貰う他ありませんね。」
「それに関しては、後程改めて謝罪を。君たちも、ごめんなさいね。面倒に巻き込んで。」
「いや、いいさ。こういうこともある。わかってれば備えられる。そうだよな。」
「ええ。そうです。皆さんも、残念ではありますが、ここに来た時に見たでしょう。
 気づ付けるのは魔物だけではありません。」

トモエがそう言えば、シグルドたちがしぶしぶとそういう表情で頷く。
オユキにしても、あの楽しかった、ただ素晴らしい世界を満喫しようと、そういった人間で溢れていた世界で、こうしてかつて現実にあったような面倒に巻き込まれると、どうにも心に疲労を感じてしまう。
違うと分かっていても、そうだからこそ、残っていてほしい、変わらないでほしいと、そう思うところはどうしても出てきてしまう。
それを、懐古主義と笑う人もいるのだろうけれど。

「それにしても、君たちに気が付かれるとは思いませんでした。
 その、何を怪しんだか、聞いてもいいですか。」
「俺は、何となく、かな。あんちゃんの気配が少し硬かったし。」
「私は、トモエさんが、アマリーアさんとかカレンさんがしてくれたことを、厚意って言わなかったから。
 普段ならそれにお礼をって、シスターみたいに言うのに、今日はそう言わなかったから、ああ違うんだって。」
「本当に、君たちはいい子ですね。」

そう言うとカレンが声を上げて笑う。
そしてその笑いが収まるころには、馬車の揺れも収まる。

「さて、お待たせしました。本教会に到着です。
 後は中で、領都マリーア商人ギルド本部本部長アマリーアから説明させましょう。」

それから、謝罪もね。カレンがそういってほほ笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...