憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

巡礼の旅について

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その後も暫く少年たち、それと教会の子供たちについて話をした後、オユキはふと気になっていたことを尋ねてみる。

「思えば、町中であまり子供たちを見ませんでしたが。」
「異邦の地では、町に子供が多かったのでしょうか。
 こちらではやはり、家の仕事を手伝うことが多いですからね。
 それから、余裕のある家庭では、領都や王都に学び舎がありますので、そちらに。」
「ああ、そうなのですね。」
「はい。そちらでは、職人として一つの事、というよりは広く浅くを学ぶことになります。
 算術、語学、他国、魔術、武術、他にもありますが、おおよそ一通りの知識を得る、それが目的となっています。
 学費そのものはかかりませんので、その日の宿のお金だけ稼げれば、どうにかなりますからね。
 それこそ、家業のある家でも、だいたいの子供が通っていますよ。」
「という事は、彼らも。」
「教会の子供は、少し事情が違いますから。」

少し悲し気な顔をするロザリアに、いくつかの理由をオユキとトモエも思いつく。
それを口に出させないようにと、話題を変えようとすれば、こちらが口を開くのを手で制して、ロザリアは話し始める。

「異邦の方と同様です。身の証を立てることが難しい。」

その言葉に、二人して、ただ頷く。
結局オユキとトモエの身分は、最初に協会が、次いで狩猟者ギルドが保証している。
教会の子供たちも、最初は協会が保証するだろうが、その後はやはりそこを離れる身だ。
加えて、子供に対して人手が少ない。
この町でも、これだけの数がいるのだ、では人も多いだろう、魔物も強いと分かっている、そんな場所ではどうなるか。
まだ、町の全域を歩いたわけでもないが、そういった地区もあるのかもしれない、ふとそんなことを考えてしまう。

「難しい問題ですよね。」

オユキが、それ以上を言うでもなく、そうとだけ口に出す。
ここで話しても、どうなる事でもない。そう考えてただ話題を変える。

「話は変わりますが、私達は神々のお膝元を巡ることを考えていまして。」

オユキがそう口にすれば、ロザリアもすぐに切り替えて、話に乗る。

「まぁ、そうですか。喜ばしい事です。
 ただ、お二人で、というのは難しいでしょうね。」
「そのあたりの事を、お伺いさせていただければと。
 ここから近いのは、月と安息の神の力が満ちる、常闇の領域だとは思うのですが。」
「はい、間違いありませんよ。」

そう言うと、ロザリアが少し考えるようにしながら言葉を続ける。

「この町からですと、神殿まではおよそ一月程でしょうか。」
「そんなにかかるのですか。」

ロザリアの言葉に、トモエが驚いたように返す。

「狩猟者のお二人であれば、もう少し早いかもしれません。
 私が、かの神殿に向かったときは、ただ守られて、自分の足でほとんど歩かず、そういった旅路でしたから。」
「成程。それは、私達で望める者でしょうか。」
「3年に一度、王都で神への務めを認められた者、神から直接功績を頂いた者ですね、その方々が望むのであれば、その神の神殿へと送られます。
 ただ、そちらの神殿でお勤めを3年することとなりますが。
 表向きは、望むのであれば、そう謳ってはいますが、やはり神職向け、もしくは行儀作法などの修身を目的とされる方へ向けた物ですね。」

その言葉に、トモエは苦笑いで応える。

「その、不敬を承知で申し上げれば、観光の側面が強く。」
「まぁ、そうでしょうね。不敬ではありませんよ。
 私が知るのは、月と安息の神の常夜神殿だけではありますが、数多の芸術の題材に選ばれるほどですから。
 そうでなければ、やはり長い旅です。信頼のおける護衛の方と、行かれるのがよろしいでしょう。」
「そうなりますか。」
「ええ、神は人に試練を。それは絶対の理ですから。その道行は簡単なものではありません。
 功績を持たぬものであれば、そもそも扉の中に入ることもできませんから。」

ロザリアの言葉に、さて、以前はそのような事があったかと考えるが、そもそもあまりゲームの背景、フレーバーテキストには執心していなかった性質だ、ロザリアに聞くほうが早いだろうと、記憶を探るのを早々と諦める。

「そうなのですか。その、功績というのは、このような。」

そういって、オユキが登録証と合わせて、本登録で金属のプレートになったからと、首からかけているそれを取り出そうとすると、トモエにその手を止められ、ロザリアにやんわりと窘められる。

「人前で、衣服の前を緩めるものではありませんよ。男性であろうが、女性であろうが、です。」
「その、申し訳ありません。」
「お二人が頂いた時には、私も側にいましたもの。覚えておりますとも。
 それが分かり易い一つではありますが、直接物として下賜されるのは、最上位の功績です。
 目に見えずとも、神々は常に私達を気にかけ、その為す所を評価してくださっております。」
「ああ、試しの門。そのようなものなのですね。」
「私たちは、ただ神殿の門と呼んでいますが、そうですね、その言葉通りのものです。」

その言葉に、トモエは一つ頷いて、考え込むそぶりを見せる。
月と安息の神、それに認められるのが何か、考えているのだろう。
同時に、そうであるなら、創造神や狩猟の神、その神殿を先にと、そう考えているのかもしれない。

「どうしましょうか。どのみち護衛が必須と、そうなるのでしたら、トモエさんが一番興味のある所から、それでも良いかと思いますが。」
「そうですね。ロザリア様、残りの9の神殿まではどれほど掛かるか、ご存知でしょうか。」
「ええ、もちろんですとも。この町から、となると私も詳しくはわかりませんので、王都から、それで構いませんか。」
「はい、お願いいたします。」

そして告げられた機関に、トモエが茫然として繰り返す。

「そうですか。最も遠いところですと、片道で一年ですか。」
「あくまで、私をはじめとした、戦う力のない者、それを連れて通れる道で、その条件でしたら。
 加えて、この国の治める領地にあるのは、月と安息の神、水と癒しの神の神殿だけです。
 国を超えるには、申し訳ありませんが、狩猟者の方はギルドでお話を聞いていただくこととなりますが。」
「いえ、細かくご説明いただきありがとうございます。」

ロザリアの話を聞きながら、オユキはそういえば、そうだったと、今更ながらに思い返す。
ゲームの時は、国から国への移動など、合ってないようなものであったし、道なき道を行き、魔物と戦う、それを目的にしていたのだ。
わざわざ、人が通るために整備された道を選ぶことなどしなかった。
ひょっとすれば、関所などというのも、合ったのかもしれないな、そんなことを考える。
一方のトモエは、オユキがそんなことをぼんやりと考えている間に考えをまとめたのだろう。はっきりとした口調で、改めてロザリアに話しかける。

「やはり、長旅というものも、一度経験しておこうと思います。
 それにしても、一番近い、月と安息の神の神殿へ、最初に赴こうと思います。
 その際、何か気を付けることなどありますか。」
「そうですか、喜ばしい事です。
 あまりたくさん申し上げても、直ぐの事でなければ、忘れることもあるでしょう。
 詳細は、出立が近づいたら、またお尋ねください。」

そう言うと、ロザリアは言葉を切って、困ったような表情を浮かべる。

「ところで、トモエさんはゴーストや、ゾンビは大丈夫かしら。」
「その、オユキから聞きましたが。」
「ええ、夜と安息、死者の眠りもその領分ですから。彼の神の領域では、魔物としてそのようなものが。」

その言葉に、トモエが天井を見上げて、しばらく黙り込む。
ただ、トモエだけでなく、オユキとしてもゲームの時代、五感にもフィードバックのある、あのゲーム。
ゾンビの悪臭に対する苦情の数々の中には、オユキが出したものもあった。
ただ、返答は嫌ならその地域に行くな、それを丁寧にしただけのものであったが。
それから、そういった魔物には、普通の武器はそこまで効果を発揮しないから、事前に必要な準備があると、そんな話を聞いて、教会をお暇することになった。
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